*脊椎矯正の必然性


交感神経の分布(内臓と血管)

脊骨の治療は古代エジプトや中世ヨーロッパにも聖職としてあったと言われます。また、病気の人を救いたいと思うのは、「人間の本質(根源的心)から自然発生する慈愛のエネルギー」(ダライ・ラマ)であり、「共生の原理」に基づく自然な行為でもあります。脊椎矯正は、慈愛のエネルギーと共生の原理がもたらす法則により古くから受けつがれてきた、自然な医療行為かもしれません。

人間の体は、神経、感覚器、内分泌、消化器、循環器、呼吸器、等の総合的な働きにより生命が維持されています。これらの働きの中枢になるのが「神経」です。神経は脊髄神経、脳神経、自律神経が、お互い密接な関係を持ち、これらのシステムや身体のバランスを維持しています。つまり背骨を通る神経系の働きは良くも悪くもこうしたシステム全てに影響を与えます。

背骨のゆがみは脊髄神経や自律神経の神経伝達の流れを妨害し、更には脳神経にも影響を与え、体の機能に異常が起きると言われます。こうした状態は生体の自然治癒力を阻害し、その適応範囲が狭められるため、自然の法則に基づいた必然性を持った行為として、脊椎矯正という身体へのアプローチを用います。

 

*構造異常と機能異常

長生療院を訪れる患者さんの多くは概に整形外科的診断を終えています。「レントゲンで骨が減っているといわれた」「MRIで見ると軟骨が飛び出していた」「病院では何処も悪くないと言われたのに痛い」大半の患者さんが口にする言葉です。

病院で確認できる異常、それはレントゲンやCT、MRI、などの画像診断機器で定量的に特定できる背骨や関節の老化、損傷、組織変性といった「構造異常」です。こうした骨の変形は長生医学の治療対象とはしません。なぜならこうした構造異常は、多くの患者さんが訴える苦痛(急性あるいは慢性の腰、首、肩、背中、関節等の痛みやしびれ)とあまり密接な関係がないからです。

こうした苦痛にとって問題なのは、神経や血液やプラーナの流れが正常に機能していない部分です。それは画像診断では確認できない、骨や関節を支持する腱や筋肉(軟部組織)にあることが多く、骨が減っている部分や軟骨が飛び出ている部分とは一致しません。時には痛みが別の遠く離れた部位から飛んできている場合さえあります。

先ほど述べたように、人の体は無数の神経と血管が全身のネットワークを調節し病気に対処し体の恒常性を維持しています。しかしその中心となる神経はとてもデリケートで、十分な血液が供給されないと痛みや痺れといった異常感覚、運動障害、筋力低下などの神経機能障害を起こします。つまり何らかの原因(主として自律神経)が起こす部分的な血行障害が、脊骨を支持する筋肉を痙攣させ、神経を圧迫し苦痛という機能障害を引き起こすと思われます。これが検査機器に出ない「機能異常」です。

こうした血管、筋肉、神経の機能障害が引き起こす複合的異常を、私たちは脊椎の転位(捻転、彎曲、食い違い)として認識します。病院で満足な治療効果を得られないほとんどの患者さんがこの転位による機能異常に属するものと私は確信しています。痛みとは目に見えないもの。検査機器や血液検査で定量的に測定できるものではありません。

 

*脊椎矯正法


「脊椎矯正」とは、こうした病態の原因と判断した脊椎関節支持組織や筋と筋の間、もしくは筋と他の構成物との間や筋膜などに適正な圧力を加え、その機能的改善を図ることにより自然治癒力にアプローチする操作です。

患部への操作は患者の性別、病態、年齢、体力、精神状態等を総合的に判断し手技を決めます。手技は全ての種類を紹介するのが困難なほど多彩です。長生医学の教育機関で学んだ基本的な手技、臨床現場で経験豊かな施術者から習得した手技、公の場で定期的に公開される手技、施術者同士の情報交換で得た手技の他、施術者の多くは臨床の成果を取り入れ体系化した独自のテクニックを持ちます。

一般的に矯正法は、首を対象としたボキボキと音の出るテクニックというイメージから、危険というが印象強いようです。カイロプラクティックの症例報告では、こうしたスラストと呼ばれる頚椎の回転矯正で脳底動脈を損傷し死亡した症例も報告されており、長生医学会でも事態を重く見て、こうしたテクニックを行なわないよう通達が出された事もあります。しかし最近の研究では、こうした矯正による事故の頻度は、医療ミスの発生頻度に比べると取り上げるまでもないほど極めて低いことが統計的に証明されているそうです。そうした意味で脊椎矯正法は決して危険な治療法ではないといえます。

また、現在私たちが臨床で用いる手技のほとんどが音の出ないテクニックです。

 

*音によるプラシーボ効果

しかし、この矯正音は劇的な症状改善をもたらす事が多く、患者さんに大きなプラシーボ効果をもたらすと思われます。プラシーボ効果とは一般的に、治療や薬を信ずる心の働きが、本当に体の症状を改善してしまう生理反応をいい、その有効率は30%とも70%とも言われます。

私の経験では、音を認識出来ない聾唖者にこうした音の出るテクニックを使っても健常者ほど症状改善が認められないケースの多いことから、患者さんが矯正音を認識することはプラシーボ効果を高め、患者さんの利益として「一刻も早い症状改善」に有効な場合が多いと推測出来ます。しかしこの音を不快に感じる患者さんは、音による内的ストレスを外的ストレスと判断し、施術後、自律神経症状を訴えるケースもあり、患者さんの精神状態を把握し慎重に手技を選択する必要があると思われます。

こうした生理反応を悪用し誇大広告で患者を誘い、偽の治療や商品で不当な利益を得ようとする個人や団体も少なくありません。つまりインチキ治療や偽の薬であっても、信じれば少なくとも10人に3人は症状の改善が望めるのです。しかしプラシーボ効果は生体の自然治癒力に基づく「自然の技」であり、患者さん本人の根源的力です。これは施術者の利益のためでなく、患者さんの利益のため適切に活用するのが臨床家の務めと思います。ヒポクラテスの「自ら患者を勧誘しない」という誓いを医療に携わるものは再認識する必要があるのではないでしょうか。

 

*科学的考察

こうして緊張し硬直した筋繊維組織を伸張し、関節の可動域を広げ血液の循環を改善することにより、筋膜の癒着を和らげ、筋肉の痙攣を緩和し、虚血による疼痛や痺れが解消され、組織が修復されます。その結果背骨の転位が矯正され、身体は本来の自然治癒力を取り戻します。その副産物として多くの患者は解剖学的構造バランスの改善を自覚します。

しかし残念ながら、この治療効果は科学的に立証されたものではなく仮説にすぎません。たとえどれだけ成功例を並べそれを主張しても、正式な調査で立証されたものでない限り単なる症例報告にすぎないことは、代替医療における過去の歴史とその評価を検証すれば、誰もが実感できる事です。

しかし、近藤雅雄博士は「十数年前は非科学的だったものが、今は科学的に証明されつつある。脳内の神経ネットワーク、免疫の仕組みなどの解明は、長生医学の理論(脊椎矯正、プラーナ、精神療法)にすべて合致している」と述べています。

 

*脊椎矯正の限界

脊椎矯正による治療効果が自然治癒力にあることは言うまでもありません。しかしこの無限ともいわれる潜在エネルギーを、術者が背骨という肉体レベルへのアプローチだけでコントロールする事は不可能です。脊椎矯正は生体の自然な流れに生じた目詰まりをほんの少し取り除くだけです。治療者は「治療の成功はあくまで患者さんの自然治癒力がもたらしてくれたもの」という謙虚な態度が必要と思われます。人はこの法則なしでは生きていけません。長生医学もまた同じです。

多くの患者さんは、長生療術を行なう術者に「脊椎の直し屋さん」というイメージを持っています。また施術者自身にも優れた治療師は卓越した矯正テクニックを有する技術者という先入観があることは否めません。それは過去に長生医学の基礎を築いた職人肌的臨床家たちの伝説的活躍と独自の理論展開による影響と思われます。

しかし長生医学における脊椎矯正法は、自然治癒力を高める一環としてその存在価値の認められるもので、脊椎マニピュレーションを主体とする多くの代替医療家が主張するように、脊椎へのアプローチだけで患者さんを救済できるとは主張していません。 病院で治らない病気を短時間の手技で治癒に導く事が出来るのは、脊椎の構造異常や物理的筋力低下へのアプローチの結果だけでないことは、三位一体を不変の定義とする長生医学の基本的概念がすでに示しています。「肉体救済ばかりを繰り返しても患者の完全な救済にはならない」(1953年)と断言する長生上人の言葉に、長生医学の独自性と脊椎矯正に依存した治療の限界を感じます。

 


T.CONCEPT  II.RELIGION  III.THERAPIES  IV.DIAGNOSTIC

V.SPINAL MANIPULATION  VI.PRANA  VII.PSYCHOTHERAPY

△ このページのトップへ