*ガイドライン

診察は治療室に入室する患者さん、治療を待つ患者さんの観察から始まります。問診、視診に基づき臨床的病態をどのように把握し、検査の計画を立てるかの思考過程は非常に重要です。必要に応じ、神経学的検査、運動機能の検査、知覚障害の検査、深部反射、病的反射、各関節の検査を用います。基本的に検査器具は使用しません。医学教育で得た診断学の知識と臨床で得た経験を駆使し病態を推定しますが、大半の術者は個々の指先の感覚を重視します。

基本的には、脊椎棘突起の先天的及び後天的不整列から、ある種の定義づけられた疾病パターンを導き出します。また、脊椎周囲の軟部組織(筋肉、筋膜、靭帯)の硬結や機能障害、筋痛、圧痛、皮膚の弾力、温度差、特殊感覚や波動、等、触診により得られる指先からの情報に重点を置き、それらを総合的に分析し治療方針を決めます。

 

*理論的背景

この脊椎の配列に関する診断法と、それに基づく診断結果はいつもほぼ同じになることが予言可能な正確さで再現することが出来ます。こうした概念は、長生上人が病人の脊椎を比較対照しパターン化したデータの集積に、1880年代に登場したオステオパシーや1890年代のカイロプラクティックといった、長生医学より長い歴史を持つ脊椎操作を主体とする代替医療を手本として構築された理論であることが、その時代背景から容易に推測出来ます。

カイロプラクティックやオステオパシーの臨床家は、長生医学の臨床家よりも意欲的に臨床的調査を進め、科学的論証で脊椎構造異常に関する理論の正当性を主張しようとしています。こうした熱意は、志を同じくするものとして大変心強く敬慕すべきものです。しかしながら私の聞き及ぶ限り、こうした一連の論文は残念ながらごく一部を除き医学的に信頼し得る妥当性を持つものとは見なされていないようです。

しかし訓練を受けた施術者は、背骨に触れ、そのゆがみや周囲の筋肉、腱や筋膜の状態を知ることにより、患者さんの持つ病気や苦痛、過去の病気やこれから起きるであろう病気、更には患者の抱える苦悩や精神的状態、遺伝的素因に基づく家族の病歴まで予測がつきます。これは背骨が、自然による必然性を持った部位といえるからではないでしょうか。

 

*問題点

こうした触診により施術者は、背骨のゆがみと病気には特有の因果関係があると実感しますが、こうした診断は、数値として測定出来るような機械的客観性があるとは言えません。術者の直感、個々の力量、経験、体調、集中力、感情移入、思い込み、など人間であるが故の主観的要素に左右される事は否めず、それは、同一のモデルに対し複数の術者の判定が各々違うといった形で表われます。私自身、患者さんの状態が手に取るように把握出来、まるで神が宿ったかのように思える日もあれば、同じ患者さんが盲目的に診えなくなる日もあることは認めざるを得ません。

こうしたバラツキによる誤差は治療効果において歴然と現れますが、誤った診断による不適切な治療が重篤な問題に発展する可能性は皆無に等しいと思われます。なぜならそれは物理的に自然治癒を妨害する行為とはなり得ないからです。

 

*潜在エネルギー

こうした現象を左右する一要素として、個々が潜在的に有するといわれる内的エネルギー(例えばプラーナ)の存在が考えられます。科学的根拠はありませんが経験的に検査の精度を高めるため不可欠な要素と思われます。長生医学の教則本には「施術者が信心を持って患者を観察し、よく患部の苦しみを聞いてやる。そこに患者の心理状態や治療方法などが純粋に知らされてくる。それがプラーナである」と書かれています。

つまり診断にプラーナの力を活用させるには、精神的に安定した術者の心が必要とされるのですが、脊椎の構造異常という概念自体疑問視するメディカル・ドクターが大半を占める現在、脊柱触診の正当性を証明することは極めて困難と思われます。またこうした理論を証明する有力な科学的根拠も既存の論文同様、まだありません。

 

*適応しない疾患

私たちが診断を行なう上で最も大切な事は、長生医学で治療出来ない病気を鑑別する事です。長生医学はどんな病気でも治せるという万能医学ではありません。悪性腫瘍、脊髄疾患、筋萎縮疾患、中毒、急性膵炎、子宮外妊娠、動脈瘤破裂、虚血性心疾患、脳血管障害など放っておけば生命に関わる多くの危険な疾患を見逃さないことに私たちは細心の注意を払い治療の適応を決めます。

先に述べたように長生医学の治療は患者さんの生命を守る対処的医療ではありません。こうした重大疾患には現代医学のハイテク治療が驚異的威力を発揮することは言うまでもありません。癌や重大疾患まで治せると主張し、患者さんを手遅れにする治療師は長生医学会には存在しません。

 


T.CONCEPT  II.RELIGION  III.THERAPIES  IV.DIAGNOSTIC

V.SPINAL MANIPULATION  VI.PRANA  VII.PSYCHOTHERAPY

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