*自然治癒力


医学の父
ヒポクラテス

人間の体はあらゆる病気に対処し体の恒常性を維持するシステムが備わっています。このホメオスタシスと呼ばれる身体の主体性は、大脳辺縁系と脳幹脊髄系にあるとも、免疫系を含めた身体そのものにあるともいわれます。紀元前5世紀前後、医学の父ヒポクラテスは、こうした生理学的特性と、その源をなすと思われるエネルギーを「自然治癒力」という概念で捉え、病人をそれまでの呪術や原始的宗教形態であるアニミズムを基盤とした医療概念から論証的に解放しました。ヒポクラテスは病気を、健康を脅かす力と自然治癒力の戦いと位置付け、医者の役割は、病気と戦う生体を助ける事と唱えました。

こうした考え方は17世紀の書物にも見られ、シデナムもまた「発熱も自然が与えてくれた外敵に打ち勝つためのエンジン」と自然治癒力の存在を説いています。高度なハイテク技術に象徴される現代においても、ホメオスタシスの提唱者であるキャノンやA・ワイルなど、自然治癒力を賦活化させることの重要性を唱える医師は少なくありません。こうして自然治癒力の概念は2500年以上もの間医師や医療に携わるものにとって、科学でまだ解明されない領域でありながら普遍的認識として伝えられてきたようです。古代から伝わる多くの伝統医療やナチュロパシーなど、こうした考え方をその治療法の核とする民間医療も少なくありません。


*長生医学の治療

長生医学の目的は、疾病の制圧や生命維持ではなく身体を自然な健康状態に導く事です。治療に薬物や器具類を使用しないのも、その全てを自然治癒力に託しているからです。病気はこの普遍的能力が妨げられた状態とみなし、病因を「身体」「心」「エネルギー」の中に見いだそうとします。「脊椎矯正」「プラーナ」「精神療法」はそうした要因に直接働きかける具体的手段として、臨床の成果をたえず取り入れ構築されてきました。

中国医学では自然治癒力を「気」という概念で認識し、経絡をその通り道と考えています。解剖学のなかった伝統的東洋医学に神経という概念がないのは当然ですが、脊椎の配列を重視する長生医学では、自然治癒力の通り道を経絡でなく神経と認識しているようです。長生医学のこうした方法論は、良い意味でも悪い意味でも、仏教の教義に基づく東洋的宇宙論と伝統的西洋医学の要素還元的物質論が混在しているように思えます。

 

*自然治癒力の源

多くの医師はこうした概念を非科学的ヘルスケアと位置付けています。また多くの現代人も科学という人間の作り出した力に身を委ね、自然治癒力という人間が本来持つ力に身を任せることに不安を感じています。しかし現代医療も含めあらゆる癒し(治癒)の根本が自然治癒力にあることは疑いのない事実です。

長生上人はそれを「私が治すのではない。仏が治すのだ」と表現しました。すなわち自然治癒力の源は、ダライ・ラマの言葉を借りると「大脳の働きによって生まれている心の奥にある深く細やかな心」「内なる神」であることを示唆する言葉と思われます。この潜在的ポテンシャルの中には、三つの特性を持つ無限のエネルギーがあるといわれ、自然治癒力はそのエネルギーが有する特性のひとつといえるようです。そこに導くものは、自然と一体化し本来の自分へ帰結しようとする宇宙の法則なのかもしれません。

 


T.CONCEPT  II.RELIGION  III.THERAPIES  IV.DIAGNOSTIC

V.SPINAL MANIPULATION  VI.PRANA  VII.PSYCHOTHERAPY

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