心と体の対話
Dialogue with heart and body

第2話 『肩こりとその心』

「肩こりは、心掛け次第で治りますよ」
そう言われたら、あなたはどう思いますか?

(どうせ、姿勢を良くしなさいとか、運動しなさい、ストレッチしなさいって、いう事でしょう?
それだけじゃ治らないし、運動なんて続かないしね・・・
あ~このだるいの、痛いの、なんとか簡単に直せる方法は、ないのかしら?)
そんな心の声が、聞こえてきそうです。


今日は、肩こりとその原因、なかでも心との関りについて、お話してみたいと思います。

肩こりの原因を調べて見ると、

  • 整形学的には「1.筋肉の緊張と、2.血行不良」と言われています。

具体的には、

  • 首や背中が緊張するような姿勢での作業、姿勢の良くない人、なで肩、頚椎の異常、連続して長時間同じ姿勢をとる事、ショルダーバックの使用。
  • 運動不足、冷やしすぎ、精神的なストレス と上げられています。
  • 東洋医学では「冷えからくる気のめぐりの悪さ」、「血行不良」等の説明が多く見られます。
    そして、昔から「“肩こりには、鍼灸が効果的”と言われています。」と補足が書いてあったりします。
  • その他の原因としては、「高血圧、狭心症、自律神経失調症、うつ病、視力障害、眼精疲労、慢性副鼻腔炎(俗称 蓄膿)歯周病、歯のかみ合わせ」等

ずいぶんいろんな原因から、肩こりは起こるようです。
おもしろかったのは、ためしてガッテンで放映されていた、“まぶたのたるみ、から肩こりが起こる。”というものでした。まぶたを上げる筋肉を使いすぎるために、それに連なる筋肉が緊張して、肩がこる事があるそうです。


こうして見てみると「肩こり」の原因を見極めるのは、なかなか容易ではなさそうです。
しかし、心と体はつながっているんだから、「心が体に影響し、体が心に影響するはず。」
そう考えて自分を見なおしてみると、肩こりを解消するヒントが見えて来ると思います。


Aさんの事例を通して考えて見ましょう。

Aさんは、企業に勤めるOLです。仕事は、事務作業が中心です。

この春から急に右肩が凝りだし、しまいには頭痛がしてきました。
頭痛は市販薬で対応し、肩こりには湿布や、入浴、休憩時間に肩こりのストレッチをやってみました。その時は良くなるような気がするのですが、やっぱりすぐに凝ってしまい、まったくどうしたものかと悩んでいました。
なんだか気分全体が落ち込んできて、肩こりがひどくなるからと好きだった読書もしなくなり、朝起きるのも億劫になってきました。頭痛もひどくてなんだか眠れないようになりました。

“このままでは仕事に差し支える”と病院へ行くと、「“気分の落ち込み、興味の減退、午前中の気分の落ち込み、不眠”完全な“うつ病”ですね」と言われ、抗うつ剤を処方されました。
肩こりとばかり思っていたのに、“うつ”なんて・・・とショックを受けたAさんですが、とにかく眠れないのは困ると思い、お薬を飲み始めました。
すると、一週間もすると、なんと肩こりの症状が軽くなっていったのです。


やっぱり私はうつだったのか、とAさんは驚きました。
仕事の内容も、生活習慣も以前と変わっていないのに、急に肩が凝るのは、整形学的なもの以外に原因があったのかな、と思いました。
肩こりが起こり始めたのはこの春から。春に何かあったかしら?そういえば、春に入ってきた新入社員の後輩と、関係が上手く行っていなかったわ。と思い当たりました。
右隣の席の彼女と話すのがストレスで、ついそちらの側に向きたくない気持ちが、体の変な緊張を作り出していたんだわ。肩こりからうつになったと思っていたけど、原因は後輩との人間関係にあったのかな、と思いました。

肩こりはお薬でとれたし、夜も眠れるようになった。あとは後輩との人間関係をなんとかしないと、いつまでもこのお薬と離れられないわ。そう考えたAさんは、後輩との関係を良くする為に、カウンセリングで相談してみる事にしました。
カウンセリングを受けて、自分が後輩と話しをしていない事に気がつきました。「まず話しをする事を心掛けて見よう」と思い、ちょっと声を掛けるようにしてみると、後輩も慣れない社会人生活で、いろいろと悩んでいる事が分かり、お互いに話しやすい関係になりました。
いつのまにか、お薬を飲まなくても眠れるようになり、肩こりも感じなくなりました。


Aさんの肩こりは、整形学的には、肩周辺の筋肉の変な緊張から引き起こされていました。そしてその変な緊張は、日頃の生活習慣や姿勢から来たのではなかったので、整形学的な処方は一時的で、なかなか治りませんでした。
それは、後輩との人間関係からくるストレスが引き起こしていたからです。
肩こりの症状そのものには、抗うつ薬が効きました。後輩との関係は変わっていないのに、不思議に思いませんか?

抗うつ剤は、疼痛を引き起こす神経系にも効果的に作用し、鎮痛効果を発揮するからです。それは医学的にも多くの論文で証明されています。
しかし、根本的に直すためには、後輩との人間関係を良くする必要がありました。
そのためにAさんは、カウンセリングを受け、後輩と話す事を心掛けました。
Aさんは、「肩こり」という体からのサインに対処していくうちに、心のストレスという「サイン」に気が付きました。そしてちょっとした心掛けによって、根本的に解決する事ができました。

「肩こり」それは、体からの異常を訴える「サイン」なのです。
生活を振り返り、整形学的にどうなのか、体に異常はないのか、心のストレスは大丈夫なのか、いろんな所に目を向けていく事が解決につながります。
そして最後はやっぱり、「体のサインを読みとっていこう」「それに対処していこう」という“心掛けがあるかどうか”と言えるかもしれませんね。