家なき子レミ 創作小説
約束
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ミリガン家主催の社交界は無事終わり、レミたちがロンドンに帰る日となった。
グランドホテルのロビーにてミリガン夫人がチェックアウトを済ませるのを待ってるレミとリカルドは見送りに来たマチアと話していた。
「パリではいろいろありがとな、リカルド」
「え、何のこと?」
「まぁいろいろだよ……」
レミが隣で聞いているのを気にしてか、マチアはリカルドに呟くように言った。そんなマチアにリカルドは思い出したように尋ねる。
「おいマチア、レジーヌに何か言われなかったか?」
「? いや何も聞いていないけど、お前達あの後何かあったのか?」
レジーヌとリカルドを、そう言えば二人きりにしてしまったことに今更気づいたマチアは問いかけた。
「いや、それなら良いんだ。レジーヌによろしくな」
あわててつくろうリカルドだったが、マチアはそれ以上追求しなかった。そして思いついたように、レミに聞こえないようリカルドに近づいて言った。
「イギリスでレミのこと、頼むな」
しかしその言葉を聞いたリカルドは今までの親しみのある表情から一瞬で真顔になって答えた。
「何言ってるんだよ! 絶っ対にイヤだからな!」
全く正反対の答えに目を丸くするマチアにリカルドはマチアの胸を拳で軽く叩く。
「はやく迎えに来いってこと。レミにはお前しか居ないってわかってんだろ」
「お前……言うようになったな」
少し呆然としてマチアは口を開いた。
「俺だっていつまでも他人の気持ちばかり考えて言葉を選ぶようなお人好しじゃないからな」
リカルドは真剣なまなざしだが、口調はいつものに戻りつつ、答えた。
「いやその辺の自覚がないのはやっぱり前のお前のままだけどな」
マチアはからかう様に微笑んだ。リカルドも同じように悪戯っぽく微笑みお互いに目を合わせる。
ふとマチアはずっと黙っていたレミに近づき優しく告げる。
「レミ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとうマチア」
少し頬を赤らめ、にっこりと笑ってマチアに告げた。
そこへ手続きを終えたミリガン夫人が近づいてきた。いつもと変わらない様子だ。マチアはミリガン夫人の元に駆け寄る。
「マチア、体に気をつけて、バイオリンの勉強を頑張ってね」
「ミリガン夫人、あの時の続きなんですけど、俺はレミのことを……」
「今、それを言って良いの?」
「え……」
全てを伝える覚悟があったマチアであったが、意外にもそれを遮られてしまったため、うろたえる。
「……もし、今レミがあなたにイギリスに来て欲しいと言ったら、あなたは来ることが出来るの?」
優しげな表情はいつのまにか消え、しかし穏やかな口調でミリガン夫人は告げた。
「……それは」
うろたえるマチアにふと、ミリガン夫人はいつも見せる優しい笑顔に戻った。
「ふふ、良いのよマチア、ごめんなさいね。困らせるような事を言って」
「……ありがとう。レミの事を一番に考えてくれて」
ミリガン夫人はあの時の会話を思い出していた。マチアにとっては侮辱とも取れる言葉であっただろう。だが、マチアは逆上することなく、それどころかレミの幸せの為なら身を引くとまで言った。マチアもまた、自分と同じようにレミの事を愛しているのだろう。
マチアは自分で将来を切り開いていく力を持っている。地位と財産を産まれた時から持っている自分達とは違う人間だ。レミも5年前まで過酷な人生を自分で切り開いてきた。
マチアとレミはお互い似ているのかもしれない。
そんな二人が惹かれ合うのは当然のことなのかもしれない。
「さっきの続きをちゃんと言えるようになった時……その時には私も覚悟を決めます」
「……」
「バイオリンの勉強頑張ってね。あなたは私達には持っていない力を持っているから……」
「はい、ありがとうございます」
マチアが世界に名をはす音楽家になるかもしれない。今回その考えがより現実的なものとしてミリガン夫人の胸に残った。
そしてそのことは、いつかレミがマチアと一緒になり、自分のもとを去ってしまうこと。その可能性を否定したくとも、確実に存在することを自分は認識していなければいけないと自身を説得した。
ただ、今はまだレミと一緒に暮らしていきたい。
愛するレミと離れ離れになること……。出来ればミリガン夫人にとってはおきて欲しくない未来図。
様々な葛藤を抱えたミリガン夫人であったが、今回の旅でいろいろなことが分かり、自分の気持ちも再認識できた。
ミリガン夫人たちはパリを後にしてイギリスに帰っていった。
結構長くなってしまった二次創作ですが、お付き合いいただきありがとうございました。
共感していただけたらとても嬉しいです。
オリジナルキャラのレジーヌは本編のリーズのような感覚でとっていただけたら良いなと思っています。どうしても、マチアのパリでの生活を説明する人物が必要だったので、、。
なるべく本編の雰囲気を、と思いつつ書きましたが、レミは弱々しくなってしまったりリカルドはからかっているだけだったり等イメージと違ってしまっていたらすみません。
細かい背景設定もかなり自己流なので、つっこまずにさらりと流していただければ幸いです。
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2013.8 りにゃ