鶴島西区から夕暮れの鶴島御前山鶴島御前山

10月下旬の日曜日、先週末に仕事で徹夜したのをまだ引きずっていたのか、かなり日が高くなってから目が覚めた。奥多摩の山に登る計画を立てていたが家を出るには遅すぎる。しかし今日は秋晴れ、ここで山道のひとつも歩かないでいると翌週の調子が上がらないことは目に見えている。ぜひ静かな山に登ってお茶を飲んできたい、昼から出ても帰れそうな山はないだろうか。
こうして中央本線上野原駅から登る鶴島御前山を再訪しようと思い立った。往復2時間程度で、2時から歩き出してもこの時期でも日が暮れる前に下れるだろう。以前にこの山から高柄山へとつなげて歩いたことがあったが、鶴鉱泉へと下って起点の上野原駅に戻ってくることはしていない。今日はこちらを辿ってみよう。


高尾駅に着いたときはすでに1時を回っていた。さすがに下りの中央本線は登山者の姿が少ない。上野原駅でも同様で、駅舎を出て南口に向かうとハイカーに出会うが、すでに本日の予定を終了して帰宅するところなのだった。桂川を渡って小学校の脇を過ぎ、鶴島駒門の集落のなかを歩いていくと、「これから登るのかね?」と庭先から作業着姿の男性に問いかけられる。本日は御前山だけです、もうこんな時間ですし。
初めて来たときはすぐに登ってしまったような記憶があるが、山道にかかってからの急登は半時ほどだったとはいえ長く感じられた。風邪気味で体調が思わしくなかったせいもあるだろう。前回からそうだったか、あちこちにロープが下がっている。急だが滑りはしないので脚力だけで登っていたが、そのうち疲れてきたので意地を張らずに腕力も動員する。
祠の佇む山頂
祠の佇む山頂
山頂だが、直下で22名の団体をやり過ごし、着いてみると10名以上の高校生が立ったまま休憩していた。平らな場所はそう広くなく、座ることさえできない。しかたなく高柄山方面に進んで山道脇に腰を下ろせる場所を見つけ、持参のサンドイッチを食べて時間をつぶす。15分ほどで戻ってみると高校生たちの姿はなかった。ザックを下ろし、グラウンドシートを広げる。もちろん眺めのよい場所に。


蛇行する桂川がつくった河岸段丘の上には上野原の町が広がって白く光っている。市街地の上に横たわる山並みは、以前に来たときはあまり気に留めなかったが、今日はお茶を飲みながら地図と照らし合わせて名前を特定してみる。やや右手にひときわ高いのは生藤山付近の山々だ。そのあたりで1,000メートルを抜く茅丸が小さく尖って目を惹く。これらの左手に一段下がるのが浅間峠、そこからやや低く、しかし長く見えるのが笹尾根だ。土俵岳、丸山が指呼できる。さらに左、北都留の権現山の尾根に隠れるように頭を出しているのは三頭山だろうか。
生藤山山塊の大きな山屏風の前には、かなり低い山並みが控えめに伸びている。三つ子のように並ぶ山々があり、いちばん高い奥のものが能岳だろう。その向こうには、これも低いがドーム形のどっしりした山がある。聖武連山だ。地図には踏み跡表記がなく山頂は木々に覆われていて眺めがなさそうだが、いったん目にとまったからには登りたくなる姿形をしている。これからの季節、葉が落ちたころに踏み跡を探しに行けばわりと楽に登れるだろう。
山頂から生藤山、茅丸等を望む。手前は能岳に連なる山々
山頂から生藤山、茅丸等を望む
足下には中央自動車道とJR東日本の中央本線が川に沿って左右に伸びている。これがまた騒がしい音を周囲に反響させている。山に囲まれた地形のため必要以上に大きく聞こえる。しかしかすかな風にも鳴り始める葉擦れの音色をかき消すことはできない。さやさやさやさやと頭上で囁き続け、ふと気づいて見上げても鳴り止むことはない。
いつのまにか、少しは残っていた日向が消え去って、山頂はまったくの日影になっていた。二杯目のお茶を飲みきり、身の回りのものをザックに詰め込んで下山にかかった。すでに4時になろうとしていた。


頂稜から急降下して高柄山に続く稜線に出る。すぐに鶴鉱泉および上野原駅へを指示する道標が出てきて、植林のなかを下り出す。だが素直に真っ直ぐ下るわけではなく、山腹を絡んで上り下りを繰り返しながら幾度か支尾根を回り込む。右手に砂防ダムでせき止められた湖が見え、その手前に林道が近く見下ろせてそろそろ終わりかと思わせるが、なかなか終わらない。高柄山から来たならば、多少苛々するかもしれない。しかも踏み跡は無理矢理付けたものなので崩れやすいところや滑りやすいところがあって気が抜けない。二度ばかり実際に転びもした。
山頂から半時と少々でうち捨てられたような林道に出たが、かなり長く歩いた気がした。体調が悪く、脚の踏ん張りが効かなかったことも一因かもしれない。そこからはのんびりと鶴島西区の集落のなかを通り抜けていく。以前から気になっている鶴鉱泉は、日帰り入浴は予約要と聞いていたので、玄関を眺めるだけにした。小学校の脇で往路に合流し、桂川を渡る。橋上からは夕焼けに霞む扇山が望め、逆光になった鶴島御前山が川面に影を落としていた。
夕暮れの桂川
夕暮れの桂川
左手前は四方津御前山、右奥は扇山
 
2004/10/17

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