笹尾根
笹尾根とは奥多摩の三頭山と奥高尾の陣馬山をつなぐ稜線ののうち、おもに西原峠と浅間峠の間を言うらしい。地図によっては陣馬山手前の和田峠までを笹尾根としているものもあるが、笹尾根縦走といえば前記二者の峠をつなぐものが一般的のようだ。


三頭山から南東に派生した尾根は1,200メートルを切ったあたりから緩やかになり、槇寄山をわずかに起こしたのち峠道を越えさせる。ここが西原峠で、奥多摩の数馬側と上野原に続く鶴川側とを結んでいる。数馬側からの山道は上り下りいずれにもとったことがあるが、深くえぐれた暗い道だった。
この峠に登るのであれば鶴川側の郷原という集落から辿るのがよい。晩秋から初冬などは落ち葉混じりの道が南面の明るい日差しを浴びて稜線へと導いてくれる。初めて訪れたときはその落ち葉を集める地元のひとに出会い、なにをされているのかと聞けば堆肥とするためだという。この山が生きていることもわかろうというものだ。振り返るとすぐちかくに北都留の権現山が予想以上に大きな形で広がっている。北側の玄房尾根が手に取るように見える。あれを登って扇山まで出るというコースもよいことだろう。
堆肥用の落ち葉集め
堆肥用の落ち葉を集める地元のかた 
振り返り眺める権現山
振り返り眺める権現山 
稜線が近づくほどに葉の落ちた木々と落ち葉の原が広がっていき、そのなかに矮性の笹をみるようになると西原峠だった。ここから三頭山とは反対に歩き出すのが笹尾根縦走の開始となる。思いの外暗い尾根道を行くのかと思ったのもつかの間、左手が大きく開け、大岳山、御前山、手前の浅間尾根の眺望が広々と展開する。大岳山は鋸尾根と馬頭刈尾根を左右に広げ、その手前に御前山の湯久保尾根が被さる。右手には戸倉三山の向こうに五日市の町並みまで見晴るかす。
笹尾根から御前山(左)、大岳山
笹尾根から御前山(左)、大岳山を眺め渡す。手前は浅間尾根
静謐かと思った笹尾根だが、昼ちょうどに着いた途中の丸山というピークではバイクまで登ってきていて大いに興ざめだった。もうひとつの名のあるピークである土俵岳は静かなものだったが、北都留方面の眺めは開けているものの山頂自体は植林を背景にしたたんなる通過点のような場所だった。もっとも、その先で稜線の高度を落としてから振り返る土俵岳の姿は堂々としたものだった。反対方向に歩いていれば感激の度合いも異なるかもしれない。
笹尾根縦走開始時に出会った広闊な眺めは縦走後半ではあまり得られないが、左手には大岳山や御前山が何度も望める。少しずつ後方にまわっていくために山の形が徐々に変わるのが面白い。とくに大岳山がこれだけ長いこと間近に眺められるのはこの稜線が屈指ではないだろうか。これらの山好きにはここは楽しいところだろう。
斜光線の樹林
斜光線のなかの樹林
たいがいのハイカーは大きなあずまやがある浅間峠から奥多摩の秋川側に下っていく。その道はかつて生藤山に登るときに辿ったことがあり、くだれば数馬からの満員のバスに乗ることになるだろうから、今回は最初から鶴川方面に下ることに決めてきていた。暗い植林帯のなか、急斜面を電光型の山道で下ると沢音が聞こえてくる。そこにはかなり荒れた林道が終端していて、左手に流れの響きを聞きながら谷あいを下り、街道沿いの集落に出る。


着いたバス停には、ハイカーの姿はなかった。すぐ近くの学校から出てきた昼間の宿直担当の先生とおぼしき方と二人、ときおり車の通りすぎる街道沿いでバスを待った。山間には夕暮れの冷えた空気が漂い始めていた。
2003/12/21

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