計量実ベクトル空間に定義された内積の性質 : トピック一覧
・定理:零ベクトルとの内積、スカラー倍したベクトルのそれ自身との内積、シュヴァルツの不等式、三角不等式
※計量実ベクトル空間関連ページ:ノルム・ノルム空間の定義/内積・計量実ベクトル空間の定義/正規直交系・正規直交基底の定義/直交系・直交基底と内積/直交系・正規直交系の性質/正規直交基底の存在と構成/計量同型写像/直交補空間
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定理:零ベクトルとの内積は0
[砂田『行列と行列式』§7.1(a)定理7.9 (p.239);]
【舞台設定】
R:実数体R
V:実ベクトル空間
〈x,y〉:計量実ベクトル空間Vにおけるベクトルx,yの内積
【本題】
計量実ベクトル空間Vに属す任意のベクトルxと零ベクトルとの内積は0.
論理記号で表すと、∀x∈V( 〈x,〇〉=〈〇,x〉=0)
※活用→同じベクトルどおしの内積の平方根はノルムの定義を満たす。
※なぜ?
・任意のx,y∈Vと任意の実数aにたいして、〈x,ay〉=a〈x,y〉 …(1)
∵内積であるための要件2:線形性2
・(1)について、任意の実数aを0とおくと、任意のx,y∈Vにたいして、〈x,0y〉=0〈x,y〉 …(2)
・任意のx,y∈Vにたいして、〈x,0y〉=〈x,〇〉 …(3)
∵ベクトルのスカラー0倍
・0〈x,y〉=0 …(4)
・(3)(4)を(2)に代入して、
任意のx∈Vにたいして、〈x,〇〉=0
が得られる。ここから、内積であるための要件4:対称性を用いて、
任意のx∈Vにたいして、〈x,〇〉=〈〇,x〉=0
定理:線形性
[永田『理系のための線形代数の基礎』4.1問2(p.114);砂田『行列と行列式』§7.1(a)定理7.9 (pp.240-1);
志賀『ベクトル解析30講』第11講(p.79);]
【舞台設定】
R:実数体R
V:実ベクトル空間
〈x,y〉:計量実ベクトル空間Vにおけるベクトルx,yの内積
【本題】
計量実ベクトル空間Vに属す任意のベクトルxと任意の実数aに対して、

※活用→同じベクトルどおしの内積の平方根はノルムの定義を満たす。
※なぜ?
∵内積であるための要件2:線形性2
∵絶対値の性質
シュヴァルツの不等式:
[斎藤『線形代数入門』4章§6計量線形空間(p.120);永田『理系のための線形代数の基礎』4.1(p.114);
砂田『行列と行列式』§7.1(a)定理7.9 (pp.240-1)志賀『ベクトル解析30講』第11講(pp.78-9);
志賀『固有値問題30講』8講(p.61);]
【舞台設定】
R:実数体R
V:実ベクトル空間
〈x,y〉:計量実ベクトル空間Vにおけるベクトルx,yの内積
【本題】
計量実ベクトル空間Vに属す任意のベクトルx,yについて、次の不等式が成立する。
|〈x,y〉|≦
つまり、
ベクトルx,yの内積の絶対値は、「ベクトルxのノルム」と「ベクトルyのノルム」の積をこえない。
※なぜ? [永田『理系のための線形代数の基礎』4.1(p.114);砂田『行列と行列式』§7.1(a)定理7.9 (pp.240-1)]
・xが零ベクトルであるときは、両辺0で成立。∵零ベクトルとの内積、内積の要件3:正値性
・以下、xが零ベクトルでないケースを考える。 …(1)
・任意の実数cにたいして、〈cx+y, cx+y〉≧0 …(2)
∵内積の要件3:正値性
・〈cx+y, cx+y〉
=〈cx, cx+y〉+〈y, cx+y〉 ∵内積の要件1:線形性1
=〈cx, cx〉+〈cx,y〉+〈y, cx+y〉 ∵内積の要件1:線形性1
=〈cx, cx〉+〈cx,y〉+〈y, cx〉+〈y, y〉 ∵内積の要件1:線形性1
=〈cx, cx〉+2〈cx,y〉+〈y, y〉 ∵内積の要件4:対称性
=c〈x, cx〉+2〈cx,y〉+〈y, y〉 ∵内積の要件2:線形性2
=c2〈x, x〉+2〈cx,y〉+〈y, y〉 ∵内積の要件2:線形性2
=c2〈x, x〉+2c〈x,y〉+〈y, y〉 ∵内積の要件2:線形性2
…(3)
・ここまで、cは、任意の実数とされていたのだから、
c=−〈x,y〉/〈x,x〉 とおいたところで、(2)(3)に変更はない。
(3)に、c=−〈x,y〉/〈x,x〉 を代入すると、
〈cx+y, cx+y〉=〈x,y〉2 /〈x,x〉−2〈x,y〉2 /〈x,x〉+〈y, y〉
=(〈x,y〉2 −2〈x,y〉2)/〈x,x〉+〈y, y〉
=−〈x,y〉2/〈x,x〉+〈y, y〉
これに(2)を適用して、
−〈x,y〉2/〈x,x〉+〈y, y〉≧0
〈y, y〉≧〈x,y〉2/〈x,x〉 ∵両辺に〈x,y〉2/〈x,x〉を加える
〈x,x〉〈y, y〉≧〈x,y〉2 ∵両辺に〈x,x〉をかける
〈x,x〉〈y, y〉≧|〈x,y〉|2 ∵絶対値の性質
|〈x,y〉|2≦〈x,x〉〈y, y〉
定理:三角不等式
[斎藤『線形代数入門』4章§6計量線形空間(p.120);永田『理系のための線形代数の基礎』4.1(p.114)
砂田『行列と行列式』§7.1(a)定理7.9 (pp.240-1);志賀『ベクトル解析30講』第11講(p.79);
志賀『固有値問題30講』8講(p.63);.]
【舞台設定】
R:実数体R
V:実ベクトル空間
〈x,y〉:計量実ベクトル空間Vにおけるベクトルx,yの内積
【本題】
計量実ベクトル空間Vに属す任意のベクトルx,yについて、次の不等式が成立する。
*左辺の内積〈 , 〉内の+はベクトル和、右辺の+は実数の和。
つまり、
ベクトルx,yのベクトル和とそれ自身との内積の平方根は、
「ベクトルxとそれ自身のとの内積の平方根」と
「ベクトルyとそれ自身のとの内積の平方根」の和をこえない。
※活用→同じベクトルどおしの内積の平方根はノルムの定義を満たす。
※なぜ?
=〈x+y, x+y〉
=〈x, x+y〉+〈y, x+y〉 ∵内積の要件1:線形性1
=〈x, x〉+〈x,y〉+〈y, x+y〉 ∵内積の要件1:線形性1
=〈x, x〉+〈x,y〉+〈y, x〉+〈y, y〉 ∵内積の要件1:線形性1
=〈x, x〉+2〈x,y〉+〈y, y〉 ∵内積の要件4:対称性
≦〈x, x〉+2|〈x,y〉|+〈y, y〉 ∵絶対値の性質
≦〈x, x〉+2
+〈y, y〉 ∵シュヴァルツの不等式
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(reference)
線形代数のテキスト
ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年。
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、4.1内積(p.114);。
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§6ベクトル空間の公理化(p.117)。
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年。
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年。
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、4章§6計量線形空間(p.120)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§7.1-(a)内積 (pp.239-241).
解析学のテキスト
杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会、1987年、I章§4(pp.33-38)。
数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§3.2.3(p.124)。
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