映画「星守る犬」を見て

近藤 貞二

映画「星守る犬」を見てきました。
「大人が泣ける」と評判になった、村上たかし原作の人気マンガを映画化したものだそうで、それなら泣かせてもらおうかと思って映画館へ行きました。
という理由もありましたが、「視覚障碍者の情報環境を考える会(ボイス・ケイン)」によるシーンボイス(音声によるシーンのガイド)が付けられるという案内をいただいたからです。それも一般の映画館で、新作の映画がシーンガイド付きで見られるというのもうれしい情報でした。

会場である「ピカデリー」に入ると、すでに大勢のお客で、ほぼ満席のようでした。
私たちは、隅っこでしたが最前列に空き席を見つけ、そこに座りました。
なによりうれしかったのは、リコタンの声を久しぶりに聞けたことでした。

「リコタン」といってもご存じない方もおられるかもしれませんが、私が中学生のころ、東海ラジオの深夜放送で、「ミッドナイト東海」という大人気の番組がありました。
その「ミッドナイト東海」の初代のパーソナリティーの一人が「リコタン(岡本典子・よりこ)」でした。
他にはアマチン(天野鎮雄)、レオ(森本レオ)を含めた3人が、月曜から土曜まで週2回ずつ担当していた番組でした。

この3人、当時の中学生・高校生・大学生にほんとに人気があって、私も3人のブロマイドを持っていました。もしかしたら、今もどこかを探せば若い3人の写真が出てくるかもしれませんね。

で、そのリコタンが「ボイス・ケイン」の代表者で、当日挨拶をされたのでした。
もうすっかり声も忘れてしまっていましたが、中学生のころの昔を思い出した瞬間でした。

さて映画「星守る犬」ですが、シーンガイドのおかげで、スクリーンが見えなくても、2時間ほどの映画の中に没頭できました。

映画は、北海道の山の中に止めた車の中から、身元不明の白骨死体と犬の死体が見つかるところからドラマは始まります。

事件性はないが、死んだ男(西田敏行・お父さん)は死後半年くらい、犬は死んでから間もないことが判明。
若い市役所の福祉課の職員、奥津京介(玉山鉄二)は現場を確認すると、何かに引かれるように、死んだ男が持っていたと思われるレシート2枚と、リサイクルショップの買い取り書1枚だけを手がかりに、偶然出会った少女、有希(川島海荷)とともに、死んだ男と犬の足取りを追う旅を始める。

奥津京介は幼いときに両親を亡くし、祖父母に育てられた。やがて祖父母も亡くなり、飼っていた犬も死んで独りぼっち。本だけが友達、「希望は持つだけ無駄」みたいな気分をかかえて生きているような青年でした。

有希もまた、家庭に不満をかかえ、芸能プロダクションのオーディションにも落ちて後ろ向きになっていました。

奥津京介と有希は、旅を進めるにつれ、その死んだ男・お父さんが病気を患い、リストラ、離婚、一家離散、そして家を失い総てを失って、唯一愛犬・ハッピーと共に車で旅に出たことが明らかになっていくという内容でした。

その間、泣けるシーンは何カ所かたしかにありましたが、冷静に考えてみれば、車中で死んだこのお父さん・西田敏行、前向きに生きようとするものはなく、現実逃避ですよ。
唯一の救いは、奥津京介と有希の二人が、この旅をとおして前向きな何かを見つけたことでしょうか。

なお、この映画のロケ地になった何カ所かは、その後の東北地方太平洋沖地震により、大きな被害をうけたそうです。おそらく、景色も大きく変わってしまったのでしょうね。

また、この「星守る犬」はサピエ図書館に、点字データ・音声デイジー、どちらも登録されていますので、サピエの会員の方は、よろしければダウンロードして読んでみてください。

映画のタイトルになっている「星守る犬」については、本をどうぞ。