夢の超特急
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私が子どものころ、「夢の超特急」という、東京〜大阪間を3時間で結ぶという、子供心をくすぐる超高速鉄道の工事が進められていた。現在の東海道新幹線だ。
そのころ東海道本線の最速特急「こだま号」という人気のビジネス特急列車で、東京〜大阪間を6時間50分かかっていたのが、それが新幹線では3時間になるというのだから、まさに「夢の超特急」である。
その夢の超特急は、高度経済成長の真っただ中、東京オリンピック開催にあわせて、1964年(昭和39年)10月1日、当時の国鉄が最新技術を結集して作り上げた、世界最速の「夢の超特急・東海道新幹線」が営業を開始した。
戦前からの弾丸列車構想が引き継がれたとはいえ、工事の着工から僅か5年半でのことであった。
開業当日、東京駅と新大阪駅で出発式が行われ、私はわくわくしてテレビで、新幹線超特急・ひかり号が走る白い雄姿を見ていた記憶がある。いわゆる初代の「0系新幹線」だ(現在は「リニア・鉄道館」に展示)。もう「ゆめ」の超特急ではなくなったのだ。
「ひかり1号」は世界最速をマークし、東京〜新大阪間515kmを4時間で無事に突っ走った。翌年には予定の時速210キロメートルに引き上げ、3時間10分に短縮された。
そして現在「のぞみ」では、2時間30分である。東京〜名古屋間は約1時間40分だ。何とも速くなったものだ!!
さらに新幹線誕生から四十数年たった現在では、東京駅を中心として、少しずつではあるが新幹線網が整備されつつある。
こうして新幹線が夢の超特急ではなくなって久しいが、現在の「夢の超特急」といえば、「リニアモーターカー」だろうか。 リニアモーターカーが走る路線の正式名称は「中央新幹線」というようであるが、ご存じのとおり、走行方式はこれまでの列車とは異なり、超電導による磁気浮上式「JRマグレブ式リニアモーターカー(JR東海が自社で開発している磁気浮上式鉄道)」で、最高設計速度は時速505キロメートルだそうだ。
「磁石の力で浮いて走る列車」と聞けば、鉄道ファンでなくとも興味がわいてくるのではないでしょうか?
もっとも、実際にはレールの上を車輪で走るのではなく、「ガイドウェイ」といわれる溝のような中を磁石の力で10センチほど浮いて走るので、これはもう「鉄道」といえないのかもしれない。

いずれにしても、リニアモーターカーが夢の乗り物であることには間違いない。
その夢の乗り物であるJR東海の「リニア中央新幹線計画」に、国がゴーサインを出したのだから、こちらもすでに夢の乗り物ではなくなりつつある。
実は、当時の国鉄(現JR)が、リニアモーターカーの研究を開始したのが 1962年(昭和37年)だそうであるから、東海道新幹線が開業する2年前には、すでに次期鉄道の研究が始められていたのだ。
研究が開始されて49年目の今年5月、JR東海の「リニア中央新幹線計画」に対して、国がゴーサインを出したことで、夢から営業運行に向けた現実的な一歩を踏み出した。
新聞によれば、2014年度に工事の着工、2027年に東京(品川駅)〜名古屋間が先行開業され、時速500キロで40分、その後延伸される東京〜大阪間は67分で結ばれるそうである。
現在はルートの地質調査が始まったところで、まだ具体的なルートや駅の位置の発表はされていないが、何と、名古屋から東京まで40分とはすごい!!どんな乗り心地なのだろう?走行音はどうなのか?景色はどうなのか?などなど、興味はつきない。
それにしても、東京〜名古屋間の完成目標が 2027年だ。うーん、私の年齢としては、乗れるかどうか微妙な年数だ。
ところで、私の子供のころの夢は「電車の運転士」だった。
しかし、中央新幹線のリニアモーターカーには運転台はない。列車のコントロールはコンピュータで遠隔制御されていて、運転士はもう必要ないのだ!!
時速500キロ以上の超高速で突っ走るリニアの列車が、遠隔操作されていると聞くと、少々怖い気もする。
また、そんなに速く走る列車では、食堂車なんて当然ないだろうし、車窓の景色を楽しむゆとりもないだろう。
まして、半分以上がトンネルになるようであるから、富士山だって見えないのかもしれない。
仮に見えたとしても、写真を撮る間もなければ手を合わせる間もないだろう。流れ星のようにあっという間に流れていってしまう。
次世代の「夢の超特急・リニアモーターカー」は、実現に向けて走り出しているが、ここまでくると「ゆめ」は開発者のものであって、利用客にとってはもう夢なんかではなく、速く移動する手段としての、最も現実的な乗り物にすぎない。そこには夢など乗せられないのだ。
そのように考えてみると、そんなに速く移動する必要がどれほどあるのだろうかと思えてくる。
さらに言うなら、乗務員が何人乗るのか分からないが、都市部の深い地下や南アルプスを長いトンネルで貫き、そこを超高速で多くの乗客を乗せて走るだけに、思わぬトラブルや事故への対応、耐震性と地震対応が気になる。
また、強い磁力によって、周囲の環境や人体に及ぼす影響は本当にないのだろうか。
幸いなことに、現在の新幹線が原因の人身事故は開業以来1件も起きていないそうであるが、これを書いているうちにも、中国の高速鉄道で大事故が起きてしまった。
日本のリニア新幹線も、スピードを追求するばかりに利権などあってはならないし、沿線を含めて、安心・安全性をおろそかになるようなことは絶対にあってはならない。
リニアと原子力発電を同じにすることはできないが、何かあってから「想定外」では困るのだ。