新井仁之 : 有理型関数

作成日 : 2024-03-21
最終更新日 :

概要

「序文」から引用する。

本書は数学のかんどころ 36 『正則関数』に続くもので,有理型関数のよく知られた基礎事項を解説する. 有理型関数とは,極と呼ばれる特異点を除いて正則な関数のことで,非常に応用に富む関数である.

問題と解答

本書は本文中に問題があり、巻末には問題解答がついているのだが、一部略されている解答がある。次がその一つだ。p.39 から引用する。

問題 3.3 `int_-oo^oo cosx/(x^2+1) dx` を求めよ.(ヒント:`e^(iz)/(z^2+1)` と図 3-1 の積分路に留数原理を適用)

仕方がないので、本書 p.37 の例題の解説や他の本を参考に自分で解答してみた。

まず被積分関数を複素関数に拡張して考える。すなわち`f(z) = e^(iz)/(z^2+1)` とおく。`f(z) = e^(iz)/((z+i)(z-i))` より `f(x)` は `i` と `-i` に 1 位の極をもっている。 `R gt 1` とし、`C_R` を図のようなジョルダン閉曲線とすると、これに囲まれる領域に含まれる極は `i` である。ゆえに留数の原理より

`int_(C_R) f(z)dz = 2pii "Res"(f;i)`
である。ここで、
`"Res"(f;i) = lim_(z->i)(z-i) e^(iz)/((z-i)(z+i))= 1/(2ei)`。
一方、積分は
`int_(C_R) f(z)dz = int_-R^R e^(ix)/(x^2+1)dx + int_(gamma_R) e^(iz)/(z^2+1)dz`
となっている。ここで、ある正の数 `A` と `R_0` で `abs(1+z^2) ge Aabs(z)^2 (abs(z) ge R_0)` をみたすものが存在することに注意する。ゆえに `R ge R_0` ならば
`int_(gamma_R) e^(iz)/(z^2+1)dz le 1/A int_(gamma_R) 1 / abs(z)^2 abs(dz) = A (piR)/(R^2) = (Api) / R -> 0 (R -> +oo)`
が成り立っている。ゆえに、
`2pii"Res"(f;i) = lim_(R->+oo) int_(C_n) f(z)dz = lim_(R->oo) int_-R^R e^(ix) / (1+x^2) dx = int_-oo^oo cosx / (1+x^2) dx + i int_-oo^oo sinx / (1+x^2) dx`
である。ここで `sinx/(1+x^2)` は奇関数であるから第2項は0である。以上のことをまとめると、
`int_-oo^oo cosx / (1+x^2) dx = pi/e`
が得られる。(証明終わり)

なお、上記を一般化して `int_-oo^oo cos{:px:}/(x^2+1) dx = pie^(-p)` が得られる(`p` は実数)。

ハーディ空間

p.123 にネヴァンリンナ空間に続いて、ハーディ空間が説明されている。

このほか,次に定義するハーディ空間はこの方面の分野では重要な関数空間である.`0 gt p gt oo` の場合,`D` 上の正則関数 `f` である。ここで

`underset(0 lt r lt 1)("sup") int_0^(2pi) abs(f(re^(it)))^p dt lt + oo`
をみたすもの全体のなす族を `H^p(D)` で表わす.また,`D` 上の有界な正則関数全体のなす族を `H^oo(D)` と表す.`H^p(D) (0 lt p le oo) ` を総称してハーディ空間という.

「この方面の分野」は何を指すのか、前後を見たけれどわからなかった。 ところで、このハーディ空間というのは、職場で近くの同僚が`H^oo` 制御というのを検討していたときに聞いた。`H^oo` の H はハーディから来ているのだという。懐かしかった。

数学のかんどころ

数式記述

ASCIIMathを用いている。

書誌情報

書名 有理型関数
著者 新井仁之
発行日 2018 年 12 月 25 日 初版 1 刷発行
発行元 共立出版
定価 1900 円(本体)
サイズ A5版 184 ページ
ISBN 978-4-320-11390-9
NBC 413.52
その他 川口市立図書館にて借りて読む

まりんきょ学問所数学の部屋数学の本 > 新井仁之 : 有理型関数


MARUYAMA Satosi