副題は「トランプで学ぶ群」。「はじめに」から引用する。
本書は群論を初めて学ぶ人のために身近な素材を例に群を説明し,その重要性がよくわかるように工夫した群論の入門書である.
この本は、ある用語が定義なしに現れ、あとで定義が出てくるという箇所が複数ある。たとえば、pp.10-11 を見てみよう。
`1`から`2n`までの自然数の集合を `G_(2n)`とおく.その元 `x, y in G_(2n)` に対して自然数としての積 `xy` が `2n+1` 未満ならそのままにし, `2n+1` を超えたら `2n+1` で割った余りを `x*y` とおき,これを `G_(2n)` における積という.
`n=5` のとき `G_10={1,2,3,4,5,6,7,8,9,10}`で,ここでは積を普通に行うが 11 を超えたら 11 で割った余りで置き換える.たとえば次のようになる:
`3*2=6, 3*5=4, 5*6=8``G_(2n)` では掛け算ができるので 1.5 節で定義される半群になるのである.`2n+1` が素数なら `G_(2n)` は群になる.
1.5 節では次のように定義されている。p.14 から引用する。
群の定義において逆元の存在を仮定しない場合,これを半群(semigroup)という. 単位元のある半群をとくにモノイド(monoid)という.
ここで思ったのは、では `2n+1` が素数でない場合にどうなるのだろう、ということだ。たとえば `n=4` としてみよう。このとき `2n+1=9` だから、`2n+1` は素数ではない。
このときの `G_(2n)` で `3 * 3` は何になるのだろう。`xy` が `2n+1` 未満ならそのままにし,
`2n+1` を超えたら `2n+1` で割った余りを `x*y` とおき
ということは、`xy` が `2n+1` に等しかったらどうするかということについては何も言っていない。そこで、`n=4`について、`G_8` における積がどうなるか実験してみた。
x\y | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
2 | 2 | 4 | 6 | 8 | 1 | 3 | 5 | 9 |
3 | 3 | 6 | ? | 3 | 6 | ? | 3 | 6 |
4 | 4 | 8 | 3 | 7 | 2 | 6 | 1 | 5 |
5 | 5 | 1 | 6 | 2 | 7 | 3 | 8 | 4 |
6 | 6 | 3 | ? | 6 | 3 | ? | 6 | 3 |
7 | 7 | 5 | 3 | 1 | 8 | 6 | 4 | 2 |
8 | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
? を記したのは、9 で割った余りが 0 になる箇所である。では、`3*3` や `3*6`, `6*3`, `6*6` をどう定義すればいいのか。 半群であるためには、結合法則が成り立たなければいけない。だから、`6*6 = (3*2)*(2*3) = 3 * (2 * 2) * 3 = (3 * 4)*3 = 3*3`であることがわかる。また、 `3*6 = 3*(2*3) = (3*2)*3= 6*3` である。さて、`3*3` の値は `G_6` では何になるのか。かりに `3*3=1` としてみよう。すると、`6*3 = 3*6=3*3*2=1*2=2`だ。 さて、`6*6 = 2*(3*3)*2=2*1*2=4` となり、`6*6=3*3` と矛盾する。困った。頭を冷やそう。`3*3=a` としたときに、`6*6=a` と `6*6=2*a*2` が両立する `a` は、`a=3`か`a=6` だ。 このとき、`3*6=3*3*2` だから、`3*3=3` と決めれば`3*6=6*3=6`だ。一方、`3*3=6` とすれば`3*6=6*3=3` だ。どちらの場合も、これで矛盾はない。確かにこの場合は逆元はないから半群である。 今書いたことは本書にはないし、ここで調べたことも確証はない。それにしても、半群をここで登場させる必要性があったのだろうか。
数式表現は ASCIIMathML を、 数式表現はMathJax を用いている。
書名 | 群論、これはおもしろい |
著者 | 飯高茂 |
発行日 | 2013 年 1 月 25 日 初版 1 刷 |
発行元 | 共立出版 |
定価 | 1500 円 |
サイズ | 176ページ |
ISBN | 978-4-320-01996-6 |
NDC | 411.6 |
その他 | 川口市立図書館で借りて読む |
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