きっかけは書泉のカレーだった…
マリガトーニ―は1800年代中頃に東アジアにやって来て流行した英国仕込みのインド料理。タミルのミラグタンニ―ルが英国に渡って奇妙な英語読みのマリガトーニ―になって、胡椒と水で仕込むシンプルなスープが西洋スープの衣をかぶってインド、セイロンに戻ってきた。スープストックが加えられ、缶詰の羊肉が入り、カレー粉も入っておまけにスープの仕込みに時間をかけるようになった。カレーとどこが違うのかわからなくなったんだけど、要は貴族好み、資本家好みの高級がマリガトーニ―、並の庶民はカレー、という線引きがされた。このマリガトーニ―を香取さんから頂いた蛇瓜で作ってみようという試み。シンプルな料理だけど、2,3の調理の曲折を経てやわらかな蛇瓜のマリガトーニ―に仕上がる予定ですから、どうか抜かりなく。
ブログ界ではマリガトーニ―を華々しく紹介するサイトが滅法多くなって、世界中でマリガトーニ―をごった煮文化の中心において優劣の出来を競っていて、それはそれは絢爛なのですが、シャーロックホームズ家の家政を取り仕切るハドスンさん、いえ、ファニー・クラドックさんが指摘するところのサラおばさんの調理手順には、羊の首肉を頸椎からこそげ落としてスープに飾る、とあるのだから、パリ・オリンピック開会式のマリー打ち首演出みたいで壮観。だけど、おぞましいかも。
大御所ビートン夫人のレシピに戻って、マリガトーニ―にはオーストラリアのマトンの缶詰しか使っちゃダメ、具として入れるのそんだけ、ぐらいの当時の中流人の穏やかな気合がいいんじゃない?、とぶつぶつ独り言してたら、カレー屋書泉さんのレトルト・マリガトーニ―の箱にはスープの具はオーストラリア産の羊肉、なんてぬけぬけ材料名が印刷されているのを見てしまった。ビートン夫人のレシピ―を覗いていたから、この能書きがホントに渋いと読み取った。
でも、ビートン夫人のレシピ―にはオーストラリア産の缶詰羊肉とあって、書泉さんのにはオーストラリア産の羊肉とある。缶詰じゃない。ピシッと復古を決める書泉さんのレシピ―だから手を抜くはずはない。日本国当局が羊肉の缶詰輸入を禁じているから缶詰無いのかしら。日本に暮らす人は、あのすばらしいビートン夫人のマリガトーニ―を再現できないの? ワトソン君、とほ、とほほ。いやいや、それでいいのだ。シャーロックホームズ家のクラドックさんは頸椎の生肉をこそげ取ると言ってる。これぞ野蛮と言うなかれ。レミゼの自由の賛歌がパリの王宮から聞こえるじゃないか。流す血潮が潤すスープ。屍越えて拓け、マリガトーニ―。
いや、時代はビーガンだ。ピュアに徹底してビーガンになってベジの蛇瓜マリガトーニ―を目指して進んでいこう。屍なんか越えなくていいんだ、ビーガン・マリガトーニ―。
香取さんの蛇瓜、今年はホント、出来がいい。日本は熱帯になった。日本はもはや極東のスリランカ。国は荒れてもやさしく行こうじゃないか。極東で偉そうな顔しているけど、スリランカに金貸しているけど、借金のかたに港なんて取るなよ。日本だって借金国家だし。
マリガトーニ―は南インド、タミル民族の料理。私はシンハラ料理を突き詰めようとしたのでタミル料理は筋違いなのだけど、インド、スリランカの英国植民地時代の匂いを濃厚に残しているマリガトーニ―には食指が動く。
TOMOCAの時代、まだ、私の体が動くころ、カンディの外れにメリおばさんを訪ねてムリグッタンを作ってとねだったのはシンプルなままのスリランカ料理としての、ということはなんも進化しないってことだけど、その原点に触れたかったから。「南の島のカレーライス」にムリグッタンの項を入れたのはカレーの頂点はここにあるんじゃない?って感じたから。メリおばさんのムリグッタンは書泉という絶品カレー屋さんの、あれ?本屋さんだったかしら、ともかく兎に角、書泉マリガトーニ―は絶品でメリおばさんのムリグッタンの記憶を呼び起こしてくれた。うれしかった、メリおばさんのマリガトーニ―のシンプルで穏やかな味と香りを書泉マリガトーニ―が上書きしてくれた。原材料から見ればメリおばさんの古代天然マリガトーニ―。書泉マリガトーニ―がなせる業は現代食品化学組成の最先端。落差が大きくてまったく近くないけど。いいんだよ、味と香りの結果が食品化学の実像を感じさせずに欧州産業革命時の東アジアのノスタルジーを呼び起こす。すごい。
ようし、それならこちらは「カレー味の蛇瓜スープ」の料理名にマリガトーニ―とルビ振って、新しいノスタルジーを作ってやれ。シンプルで混じり気けなしの、ド・ビーガンな東アジア料理の迫力。あきれちゃうね、TOMOCAのシン・スリランカ料理一品が2024年に生まれちゃうんだ。
ポルキリと胡椒とライム。コリアンダーとクミン少々。蛇瓜は小口に切って土器で炊く、って、土器の代わりにストウブの重い鉄鍋で炊く。メリおばさん、酸味料はシーアンバラよ、ゴラカは駄目よって民族文化に几帳面でうるさく言ってたけど、まあ、ここは日本式ダイバーシティだ。コストコのライムで間にあわそう。東北上山のコストコでは今、ライムが滅法安いし。上山コストコはここから近いし。ボレロで山登ってトンネル越えたらもうコストコだし。ターメリック無くなってたか、これはアマゾンで大津屋だな。注文したら明日届くって。じゃ、ビーガン蛇瓜マリガトーニ―(今、考えた料理名です)は明日、調理だね。
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蛇瓜のマリガトーニー/食材
写真上から、 ケーキ用ファイン・ココナツ ターメリック パトーラ(蛇瓜) スパイス(胡椒・コリアンダー・クミン) 赤玉ねぎ *塩少々
※写真から外れている食材/ エバポレイテッド・ミルク |
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シン復刻
TOMOCAの料理
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カレー味の蛇瓜スープ
材料
香取さんのパトーラ(蛇瓜) 筒切り。スープの飾りの2,3切れ以外はスープに溶かし込んじゃう。
ポルキリ(極薄のココナツミルク) 鉢に入れたパトーラが隠れるぐらいの量。蛇瓜を炊く。
胡椒英名マリガトーニ―のマリガはタミル語でミラグ、タミル語源で胡椒のこと。トーニーはタンニール(水)の訛化。ミラグ・タンニ―ルはシンハラがムリグッタンと端折る。
胡椒以外のスパイス 適当、少量。ターメリック微量をベースにしてコリアンダー、クミンなど。クローブ、シナモンは匂いが強く舌を刺激するので避けること。
メリおばさんはシンハラと英国人の間に生まれた子だった。でもタミル料理を踏まえている。ミラグ・タンニ―ルとマリガトーニ―とムリグッタンとが複合する。メリおばさんが「酸味はシーアンバラで作るのよ、ゴラカじゃないのよ」とくぎを刺すのはスープの酸味に甘い柔らかさを求めるからだと思う。
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酸味も甘みも淡く、淡く、と呪文を唱えてスパイスを入れたポルキリ(ココナツ・ミルク)の汁にパトーラ(蛇瓜)を加えてタンバナワ(炊く)する。に上がればそのまま食卓に供していいのだけど、好みに応じてエバポレイテッド・ミルクを加えて風味の柔らかさを調整します。何につけ、個々の食材が出しゃばらないように。
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TOMOCAがこだわったのは
シンプルでスマートなこと。それは時が流れて気象が狂っても、資本主義がおかしくなって政治経済がめちゃめちゃになっても同じ。
シンプルでスマートって、そのままのこと。これがなかなか、できない。
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