くるみ割り人間。 佐久間學

(21/5/1-21/5/22)

Blog Version

5月22日

BEETHOVEN
The 9 Symphonies
Kate Royal(Sop), Christine Rice(MS)
Tuomas Katajala(Ten), Derek Welton(Bas)
Robert Trevino/
MSO Festival Chorus
Malmö Symphony Orchestra
ONDINE/ODE 1348-5Q(hybrid SACD)


こちらでバスク国立管弦楽団との最新録音のラヴェルを聴いていたトレヴィーノですが、それ以前にやはり首席指揮者を務めているマルメ交響楽団と録音していたのが、このベートーヴェンの交響曲全集です。このオーケストラは味噌屋ではありません(それは「マルコメ」)。これは、2019年10月に2週間に渡って行われた交響曲ツィクルスのコンサートを録音したものです。さらに、フォーマットはマルチトラック対応のSACD5枚組です。
その録音は期待通りの素晴らしさでした。弦楽器は、いかにも北欧のオーケストラ、という感じのクールな音色がとてもクリアに伝わってきます。木管楽器の響きも多少暗め、その中でソリストたちはそれぞれにしっかりした存在感を持って聴こえてきます。金管楽器は、かなりピリオドっぽい音に聴こえますが、実際はモダン楽器を使っているようです。ティンパニは紛れもないモダン楽器。柔らかい静かな音から、たっぷりした壮大な音まで、幅広い表現力を持った楽器が使われているようです。
そのオーケストラの音像は、かなり幅広くフロントに広がっています。「9番」で合唱が入った時には、完全にスピーカーの外側にまで広がって包み込むように聴こえてきます。そして、オーケストラがトゥッティで演奏しているときには、ホールの残響がサラウンドの成分でかなりくっきりと周りから聴こえてきます。それは、誰もいない空っぽな空間で演奏しているように感じられます。おそらく、ほとんどの部分はお客さんが入っていないリハーサルの時の録音が使われているのでしょう。いずれにしても、余計なノイズは全く聴こえませんから、音楽だけに没頭できるとてもクオリティの高い音に囲まれて、彼らのベートーヴェンを存分に楽しむことが出来ました。
まずは、ここで使われている楽譜のチェックです。なんせ、指揮者のトレヴィーノが生まれたのは1984年ということですから、物心がついたころには世の中にはしっかり原典版の楽譜があふれかえっていたはずです。ですから、もはやかつての怪しげな楽譜を使うはずはありません。一応必要なところを全部チェックしたのですが、古い楽譜の間違いはきちんと正しいものに直っています。さらに、「9番」の第4楽章のファゴットのオブリガートのリズムはベーレンライター版だけのものですから、基本的にはその楽譜を使っているのではないでしょうか。
その上で、彼は、あえて、古の指揮者たちが行っていたような変更を行っています。具体的には、まず、「5番」の第1楽章の、提示部ではホルンで演奏されていたフレーズを、再現部になって調が変わったらファゴットが演奏している、という個所で、再現部でもホルンが吹いています。さらに、「3番」の第1楽章のコーダで、トランペットがテーマの途中で突然低い音に変わってしまうところも、そのテーマをきちんと吹かせています。これらは、そもそもはピリオド楽器では演奏が難しいために行われた措置なので、本当はベートーヴェンはこうしたかったのだろう、という、きちんとした意思を持っての変更なのでしょう。
ただ、その「3番」の第4楽章で、弦楽器だけによる2つ目の変奏では、それぞれのパートがトゥッティではなく、「ソリ」で演奏しているのは、ベーレンライター版に忠実だというよりは、実際にこのように演奏していた彼の師のデイヴィッド・ジンマンからのサジェスチョンだったのではないでしょうか。同じように、「8番」の第3楽章のトリオでも、彼は「ジンマン流」を貫いていましたね。
そんな「小細工」をしなくても、この全集はとても心躍る素晴らしい演奏なのに、ちょっと残念です。「6番」の第2楽章の最後のフルート、オーボエ、クラリネットのカデンツァで、本当はオーボエの最後の音とクラリネットの最初の音は一緒にならなければいけないのに、そこを微妙にずらしているのは、彼自身のアイディアでしょう。

SACD Artwork © Ondine Oy


5月20日

IBERT
Fllute Concerto, Orchestral Works
Helen Dabringhaus(Fl)
Peter Gülke/
Brandenburger Symphoniker
MDG/901 2185-6(hybrid SACD)


このMDG(Musikproduktion Dabringhaus und Grimm)というレーベルは、昔からサラウンド録音に対して非常に熱心に取り組んでいました。そして、「2+2+2Recording」という、独自の再生方式を提唱していました。これは、左右に2つ、前後に2つ、そして上下に2つのスピーカーを設置する、という方式です。これは最新の「イマーシヴサウンド」のように、「高さ」を表現できるサラウンドなのですね。
ただ、それはSACDの規格では再生できませんから、結局普通の「5.1」に変換しているのでしょうね。まあ、それでも、サラウンドに対する熱意を持ち続け、SACDを出し続けているレーベルは貴重です。
ここで演奏しているブランデンブルク交響楽団は、1810年(!)にブランデンブルク劇場のオーケストラとして創設されたというとても由緒のあるオーケストラです。現在では、ほとんどその名は知られていないようですが、音を聴く限り、かなり腕の立つプレーヤーが集まった優秀なオーケストラのように感じられます。
2015年から2020年までは、音楽学者・指揮者のペーター・ギュルケが首席指揮者を務めていましたが、現在はオリヴィエ・タルディという1973年生まれのフランス人が、首席指揮者になったるでぃ
録音が行われたのは、まだギュルケが在任中の2020年の1月、その時点では彼は85歳でした。そんな指揮者とオーケストラが、今回はフランス近代の作曲家、ジャック・イベールの作品を全部で5曲録音しました。その中には、有名な「フルート協奏曲」も含まれていますから、おそらく世界初となるサラウンド録音のこの曲を聴いてみたいために、入手してみました。
曲目は、「フルート協奏曲」以外は「ルイヴィル協奏曲」、「交響組曲『パリ』」、「海の交響曲」、「交響組曲『寄港地』」です。
1曲目の「ルイヴィル協奏曲」は、アメリカのオーケストラのために作られた作品です。「協奏曲」というタイトルですが、これはバルトークの「オーケストラのための協奏曲」というのと同じ趣旨、各パートのメンバーのソロがあちこちにちりばめられているから、ということなのでしょう。これは、もう、シンコペーションやブルーノートといった「アメリカ」のモティーフが満載のとても楽しい曲です。
ほかのオーケストラ曲もとても楽しめました。意外なことに、みんなとても軽やかなフットワークで、しっかり「おフランス」になっているんですよ。
録音が行われたのは、彼らの「本拠地」のブランデンブルク劇場です。セッション録音でしょうから、観客は入っていない状態で、何かとても乾いた響きがします。サラウンド的には、誰のいない劇場の最前列に座って聴いている、という感じでしょうか。
そして、ちょうど真ん中に入っているのが、「フルート協奏曲」です。ソリストのダブリングハウスは、以前こちらで聴いた時にはとても上手な方だったような印象がありました。今回も、確かにテクニックはしっかりしていますし、音もなめらかで素晴らしいものがある、と、この協奏曲の出だしの難しいパッセージが続くあたりでは感じました。しかし、そのあと、ちょっと音楽が緩やかになったところで、バックのオーケストラがとてもエスプリ豊かな歌い方をしているのに、ソロがそれに見合っただけの存在感を出せていないな、という、ちょっとしたもどかしさを感じてしまいます。これまでのオーケストラ曲の中で時折聴こえてきた、このオーケストラのフルーティストの方が数段豊かな音楽性があるのでは、と思えてしまいました。
ですから、ゆったりした第2楽章では、彼女はとてもあっさりした音楽しか提供できていませんでしたし、3楽章になるとひとりで走り出したりして、ちょっとな、という感じでしたね。
フルートの音場はしっかりセンターに定位しています。それはあまりにクリアに聴こえてくるものですから、例えばブレスのタイミングでのちょっとした乱れなどが克明にわかってしまいます。辛いところですね。

SACD Artwork © Musikproduktion Dabringhaus und Grimm


5月18日

HALLÉN
Missa Solemnis
Pia-Karin Helsing(Sop), Maria Forsström(Alt)
Conny Thimander(Ten), Andreas E. Olsson(Bas)
Lars Nilsson(Pf), James Jenkins(Pf), Lars Sjöstedt(Cel)
Erik Westberg/
The Erik Westberg Vocal Ensemble
SWEDISH SOCIETY/SCD1178


1846年にスウェーデンのイェテボリで生まれ、1925年に同じくスウェーデンのストックホルムで亡くなったアンドレーアス・ハッレーンという作曲家は、子供のころから音楽の才能を開花させ、1866年、19歳の時にはドイツに留学します。ドイツでは、まずライプツィヒでライネッケに作曲を、ミュンヘンでラインベルガーに指揮法を学び、さらにドレスデンではリーツに作曲を学びました。作曲に関しては、彼はこの時期はメンデルスゾーンやシューマンといった伝統的なロマン派の音楽を学びます。
ドイツでの勉強を終えて、彼は1872年に故郷のイェテボリのに帰ります。そこで、様々な音楽活動を展開させるのですが、いかんせん、このスウェーデン第2の都市にはプロのオーケストラすらありませんでしたから(イェテボリ交響楽団が設立されるのは1905年)彼はこの地での活動に限界を感じてしまいます。そこで、1879年には再度ドイツへ赴き、ベルリンで5年間過ごします。
その間に、彼はワーグナーの音楽に大きな影響を受けました。そして、最初のオペラ「ヴァイキングの王ハーラル」を作ります。そのころは、フランツ・リストとの知己を得ていたので、このオペラは彼の推薦によって1881年にライプツィヒで上演されました。そこには、「無限旋律」や「ライトモティーフ」といったワーグナーの技法が使われていました。しかしやがて、彼自身はワーグナーの物まねには終わらない彼独自の作風をめざします。
1884年にはスウェーデンに戻り王立音学アカデミーの作曲科の教授となり、さらにはストックホルムの王立歌劇場の第2指揮者として、ワーグナーの「ワルキューレ」を初演したり、別の音楽団体では、バッハの「マタイ受難曲」や、シュッツ、パレストリーナ、ラッススの作品などを取り上げるなど、各方面で活躍しています。
作曲家としては、4つのオペラの他にいくつかの劇音楽、リストの影響による多くの交響詩を作っています。さらに、彼は合唱曲も数多く作っていて、オーケストラと合唱の曲もあります。ただ、彼自身は合唱の指揮者としても活躍していたのですが、オーケストラを含んだ合唱曲を演奏する時には、オーケストラをまとめたり、コストがかかったりするので、苦労が多いと語っています。
ですから、彼の最晩年、1922年に完成したこの「ミサ・ソレムニス」は、4人のソリストと混声合唱という大規模の作品ですが、伴奏はオルガンとピアノ(またはハープ)とチェレスタしか使われていません。
ラテン語によるミサ曲のテキストをフルに使ったこの作品は、演奏時間も1時間以上と、かなり長くなっています。とは言っても、それは、ワーグナーを体験したことによる豊かなハーモニー感と、晩年の穏やかな作風がうまい具合に交じり合って、とても上質なロマン派のテイストを持った作品に仕上がっています。もしかしたら、そこにはブルックナーの合唱曲との共通点も見いだせるかもしれません。どの楽章にも登場するキャッチーなメロディ、それは期待をほんの少し裏切るような展開を見せつつ、あくまで優雅に漂い続けます。たとえばリストの「愛の夢」に現れる「A♭→Fm→C」のように、平行短調を介して長三度上昇するといういかにもなロマン派的なコード進行がたびたび出てくるのも素敵。これが世界初録音となりますが、新たなレパートリーとして見逃せませんよ。
録音は、ソリストが入る楽章(Gloria, Credo, Agnus Dei)と合唱だけの楽章(Kyrie, Sanctus)とが別々に行われています。その間隔が4か月半も空いていたために、その間に合唱団のメンバーがかなり入れ替わっています。そのために、特にテナーパートのクオリティが、ソリストが入った楽章では明らかに落ちていたのが、残念です。
それと、ここでは伴奏はピアノでしたが、これはハープの方がオルガンとは融和していたのではないかという気がします。ほんの一瞬聴こえてくるチェレスタは、非常にインパクトがありました。

CD Artwork © Swedish Society


5月15日

MOZART
Symphonies "Jupiter" and "No.39"
Gordan Nikolić/
Netherlands Chamber Orchestra
TACET/S 259(hybrid SACD)


これまで「リアル・サラウンド」でモーツァルトの作品を録音してきたニコリッチとオランダ室内管弦楽団との新しいアルバムです。これまでに何枚かのサラウンドSACDをリリースしてきましたが、それらは2017年のセッションで録音されたものでした。しかし、今回は2019年のセッションということで、いくらかの「進歩」が見られることを期待したいものです。
録音会場は2017年と同じ場所、録音のスタイルも一緒です。メインマイクを真ん中において、その周りを演奏家が丸く囲んで演奏します。指揮者はいませんが、コンサートマスターのニコリッチがニコリとほほ笑む顔を全員が見ることができるので、アンサンブルは問題なく行われるはずです。
ただ、今回の写真を見てみると、そのメインマイクの様子が違っているようです。
以前は、このように真ん中に2本のメインマイクを立て、その周りにサラウンド用におそらく4本のマイクを、演奏者の高さぐらいに設置していたのですが、今回は、そのメインマイクがかなり高いところ(3メートル以上の高さ)に置かれているようなのです。
同じような「リアル・サラウンド」での録音を行っている2Lレーベルでは、やはりマイク群を2段の高さに設置しています。
ですから、おそらく今回のマイクのセッティングは、同じサラウンドでもハイト(高さ)の要素まで再現させる、「ドルビー・アトモス」のようないわゆる「イマーシヴ・サウンド」を目指したものなのではないでしょうか。
ただ、このレーベルが採用しているSACDでは、そのフォーマットは「5.1」で、サラウンド用のスピーカーは5つまでしか使えません。それ以上スピーカーが必要なイマーシヴには対応していないのですよ。これを再生できるのは、2Lでも採用しているBD-Aなのです。ということは、このTACETレーベルでも、将来はBD-Aでのリリースを考えているのでしょうか。
ただ、5.1で聴いてみても、以前の録音とはその定位感がずいぶん変わったような気がします。以前は少しあいまいなところもあったのですが、今回はもうしっかりと、楽器の位置が固定されているように聴こえます。
さらに、定位とは別に、弦楽器などはかなり細かいところまではっきり聴こえるようになり、以前は少し控えめだったものが、しっかりした存在感が備わっているように変わったのではないでしょうか。
ですから、オーケストラ全体のバランスも改善されたようで、以前はやかましいほどだった金管楽器も、適正なあるべき姿で存在しているようになっています。今回のプログラム、モーツァルトの「ジュピター」と「39番」では、特に金管が活躍しますから、これはありがたいことです。
その金管は、ホルンもトランペットも、写真を見るとバルブ(ピストン)の付いていないナチュラル楽器が使われています。木管はモダン楽器ですが、フルートもやはり写真では木管の楽器が使われているようですね。
そのような、「ピリオド・アプローチ」の布陣なのですが、弦楽器ではごく普通にビブラートがかけられた「モダン」な演奏でした。さらに、表現もかなりロマンティック、遅めのテンポでこってりと歌うというやり方ですから、ちょっと全体的には様式感がバラバラだという感は免れません。というか、そもそもファースト・ヴァイオリンなどは、パート内でバラバラな演奏をしているのが、この緻密な録音で分かってしまっています。
とは言っても、目をつぶれば、前方には弦楽器がずらりと並び、後ろの耳元ではフルートとオーボエ(あるいはクラリネット)、そして、少し離れた後ろの左からはホルン、右からはトランペットが聴こえてきます。それは、あたかも円陣を組んで演奏しているオーケストラの真ん中に座っているようなバーチャルな体験です。これは、40人もの演奏家が自分一人のためだけに演奏してくれているのでは、という妄想に浸るには十分なシチュエーション、こんな贅沢な気分を味わえるのなら、演奏のクオリティなどは問題ではありません。

SACD Artwork © TACET


5月13日

BEETHOVEN,KUHLAU,DOPPLER
Variations on Folk Songs
Anna Besson (Fl)
Olga Pashchenko (Fortepoano)
ALPHA /ALPHA 639


有名なドップラーの「ハンガリー田園幻想曲」をピリオド楽器で演奏しているCDということだったので、どんなものかと思って聴き始めました。そうしたら、もう驚くことばかり、完全にこの二人の虜になってしまいましたよ。
ここで2種類の19世紀のマルチキーのフルート演奏しているアンナ・ベッソンは、パリの高等音楽院を卒業後、オペラ座のオーケストラのゲストフルーティストなどのモダン・フルート奏者と並行して、ピリオド・フルートのジャンルでも多くの有名なアンサンブルのメンバーとして大活躍しています。
そして、ピアノフォルテのオレガ・パシチェンコは、ロシアではアレクセイ・リュビモフの指導を受けていますが、今ではフランスを中心にピリオド・キーボード奏者として超売れっ子になっていて、このALPHAレーベルからは何枚ものアルバムをリリースしています。
そんな、まさに現代のピリオド・シーンの最前線を引っ張っている二人によるアルバムは、「民謡による変奏曲」というタイトルでした。その最初に演奏されたのが、「ハンガリー田園幻想曲」だったのです。
これはもう、耳にタコができるほど聴いてきましたし、自分で演奏もしてきました。ですから、その解釈のヴァリエーションも数多く体験してきたはずなのですが、ここにはそんな蓄積などはあざ笑うかのような新鮮なアイディアが満載だったのです。まずは、冒頭のフルートの低音「A」のロングトーン。その深い音色と、不規則なビブラートからは、モダン・フルートとはまったく別種の楽器であることがはっきりと知らされます。それは、ほとんど日本の「尺八」のようなキャラクターを持っていたのです。そうなれば、この、いかにも東洋的な雰囲気を持つ部分は、まさに尺八の「小節(こぶし)」のような雰囲気をムンムンと放つことになります。
それらのフレーズは、とてもゴツゴツとした手触りを持っていました。これまで、なめらかに演奏することが必須だと思われていたスケールやアルペジオを、彼女は思いがけないところで間を取ったりして、なんとも不器用に処理しています。しかし、それがなぜかとても心に響くのですよ。
最初の部分がワンランクダイナミクスを落とした形で現れた時に、伴奏のフォルテピアノがストップを使って音色を変えていることに気づきました。ここでパシチェンコが演奏しているのは、ベートーヴェンも愛したというコンラート・グラーフのオリジナルです。その数あるペダルでは、例えばフェルトのようなもので弦を覆って音色を変えるストップも操れるはずです。そんな巧みなレジストレーションとともに、彼女の伴奏が、ただの伴奏ではないことにも気づかされます。そう、これまで、ドップラーのピアノ・パートは、ありきたりでなんと退屈なのだろうと思っていたことが、完全に覆されてしまったのです。彼女は、フルートの呼吸とぴったりシンクロして呼吸をしていますし、ピアノだけになった時の存在感は、目を見張るものがありました。
ドップラーではもう1曲「エア・ヴァラック(ヴァラキアの歌)」も演奏されています。ホームレスの歌(それは「家・バラック」)ではありません)。これは、もしかしたら楽器が変わったのでしょうか(ブックレットではベッソンは2種類の楽器のどちらでどの曲を吹いているのかというクレジットはありません)。ここではフルートの高音がちょっと出しにくそうなのですが、彼女はそれを逆手にとって、終楽章ではピアニシモでとても美しいテーマの、とても難しい高音をとてもはかなげに吹いています。その情緒がまた刺さるんですね。
この曲の、コーダでは、フォルテピアノはさらに「ビーン・ビーン」というドローンのストップを使って華やかに迫ります。
ここでは、ベートーヴェンの、フルートとピアノのための民謡による変奏曲が全部で6曲演奏されています。そのピアノ・パートも、パシチェンコにかかれば、まさにベートーヴェンならではの圧倒的なピアニズムが炸裂しています。ほんとに、よいものを聴きました。

CD Artwork © Alpha Classics / Outhere Music


5月11日

BRAHMS
Symphony No. 2
Herbert Blomstedt/
Gewandhausorchester Leipzig
PENTATONE/ PTC 5186 851


指揮者は、楽器の演奏家と違って、かなり高齢になっても現役として活躍できます。当然、収入も確保されます(減益にはなりません)。いや、指揮者の場合は、高齢になるほどその音楽性には得も言われぬ磨きがかかり、やがて「巨匠」と呼ばれて誰からもあがめられるようになるのです。健康さえ許せば、生涯現役として、亡くなる直前まで指揮をしている人も珍しくはありません。
おそらく、これまでの歴史の中で最高年齢だと思われるのは、95歳で亡くなるまで指揮をしていたレオポルド・ストコフスキーなのではないでしょうか。日本人の朝比奈隆翁も、お亡くなりになったのは93歳でしたね。そんな人たちに比べれば、86歳で亡くなったカール・ベームなどは、まだまだ「お若い」部類に入ります。
現在の時点で最高齢の指揮者と言えば、間違いなくヘルベルト・ブロムシュテットでしょう。1927年7月11日にお生まれになったのだそうですから、もう少しで94歳になりますね。ということは、おそらく間違いなくストコフスキーを超える年齢まで指揮を続けられることになるのではないでしょうか。
それにしても、晩年のストコフスキーは、年相応のまるでゾンビのような風貌になっていましたが、ブロムシュテットはそんなことは全くなく、いたって涼しげな外見を保っているのは驚異的です。
ブロムシュテットは、その長いキャリアの中で多くの有名オーケストラの首席指揮者を務めてきましたが、現在はそれらのオーケストラの名誉(桂冠)指揮者として指揮活動を行っていますし、ポストこそありませんが、ベルリン・フィルやウィーン・フィルなどにも定期的に客演しています。
その間に、ETERNA(BERLIN)、EMI、DECCA、QUERSTANDなどのレーベルに数多くの録音を行っています。ベートーヴェン、シューベルト、ニルセン、シベリウス、ブルックナーでは交響曲全集を完成させていました。
ただ、ブラームスの交響曲に関しては、まだ同じオーケストラによる「全集」は作ってはいないはずです。それが、ここにきて、これまで縁のなかったPENTATONEレーベルから古巣のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団を指揮した「1番」と「2番」を続けざまにリリースしてきました。ここまでくれば、もう全集完成は間違いないのではないでしょうか。
そこで、最新リリースの「2番」を聴いてみました。まずはエンジニアのチェックですが、このレーベルのほぼ専属の録音チームだったPOLYHYMNIAのスタッフではなく、TELDEX STUDIOSのルネ・メラーだったのは驚きです。しかし、実際に聴こえてくる音は、限りなくPOLYHYMNIAのサウンドに近いものでした。その上で、メラーがHARMONIA MUNDIなどで聴かせてくれている明晰な部分も持ち合わせているという、とても素晴らしい音となっています。ゲヴァントハウスのブラームスで最近の録音だとDECCAのシャイー盤になるのでしょうが、あのような雑な録音とは全くの別物です。
ブロムシュテットの指揮ぶりは、いつもながらの流れを大切にしたとてもなめらかなものでした。音楽は極力インテンポで進み、普通の演奏ではちょっとした「タメ」を作ってフレーズを切ってしまうようなところでも、何事もないようにスルーします。そして、本当に大切な音楽の切れ目だけに、ほんの少しの「間」を設ける、というやり方が徹底されています。その結果、一つのフレーズはとても長く感じられるようになり、聴くものはその中に安心して身をゆだねられるようになるのです。
管楽器と弦楽器とのバランスも絶妙です。木管などは、決して個人芸をひけらかすことはなく、あくまでアンサンブルの一部としての役割に徹しています。
そんな演奏の中からは、とても自然な「ドラマ」が音楽として語られていることを感じることができます。その淡々とした語り口は、「激高」や「切迫」といった不健康なものとは全く無縁です。それは、指揮者同様、聴く者も健康で長生きできるのではないか、と思えるほどの安らぎに満ちています。

CD Artwork © Pentatone Music B.V.


5月8日

冨田勲
源氏物語幻想交響絵巻(2014年改訂版)
坂田美子(朗読・琵琶), 久保田晶子(琵琶), 滝田美智子(二十五絃筝)
西川浩平(龍笛・篠笛), 稲葉明徳(篳篥), 西原祐二(篳篥・笙), 氏家克典(Syn)
藤岡幸夫/
関西フィルハーモニー管弦楽団
RME PREMIUM RECORDINGS/RME-0015(CD BD-A)


冨田勲と言えば、今ではシンセサイザーの大家というイメージが強くなっていますが、かつてあの坂本龍一はこんなことを言っていました。
「私としては、『新日本紀行』の音楽を作った作曲家として、冨田にはより魅力を感じる。シンセサイザー版のドビュッシーは、センスが悪い」
さすがは坂本龍一、というべきでしょう、彼の冨田観は、本質を的確に言い当てているのではないでしょうか。その「新日本紀行」の中で聴こえてくる拍子木のサウンドは、見事に日本の原風景を表現していましたね。
ですから、冨田はなによりも「作曲家」として、職人的なスキルを持っていたのです。彼が作った映画音楽やテーマ曲は、膨大な数に上っていますからね。
そして、シンセサイザーとの関わりがある程度の成果をみた後には、冨田は新たなサウンドの追及を始めます。それは、日本の楽器と西洋のオーケストラとの融合です。その成果が、1998年に作られた「源氏物語幻想交響絵巻」です。ここでの主役は琵琶、筝、龍笛、篠笛、篳篥、笙といった、古くから日本で使われていた楽器です。そのバックに、フル・オーケストラと、シンセサイザーによる演奏が加わり、まさに「源氏物語」の時代の雅な平安絵巻が眼前に広がる音楽が奏でられます。
これは1998年の11月にNHKホールで初演され、さらに翌年にはLAとロンドンでの公演も行われます。そして、その年の10月には、ロンドンのスタジオで、ロンドン・フィルを冨田自身が指揮をして、DENONレーベルのためのレコーディングが行われました。そして、2000年にCDがリリースされます。
この録音は、もともとサラウンドのフォーマットでのものだったので、2004年には5.1サラウンドのDVDオーディオとして、新たにミックスが行われたものがリリースされました。
さらに富田は、2011年に「完全版」と銘打って、1998年のバージョンを大幅に改訂した新しいバージョンでの録音を行いました。ここでの最大の変更は、「源氏物語」の現代語訳、それも、「京ことば」で語られたナレーションが加わったことです。その「京都弁」の柔らかな言葉が、さらに「源氏物語」の世界を広げることになりました。もちろん、これはハイブリッドSACDでリリースされましたから、サラウンド再生も可能になっています。
その後、2014年にさらに改訂が行われ、ライブも何度か行われました。そのうちの2015年4月3日に、大阪のいずみホールで行われた公演をサラウンドでライブ収録したものが、このアルバムです。ここでは、CDのほかに、BD-Aによって、24bit/192kHzの5.1サラウンドのほかに、ドルビー・アトモスとオーロ3Dという、サラウンドの進化系である「イマーシヴ・サウンド」までも再生可能になっています。
ブックレットには、その時のマイクアレンジや、詳細なレコーディングの方法が紹介されていますから、オーディオ的にも読みごたえが十分です。
ただ、実際に聴いてみると、それほどのものではありませんでした。ライブ録音なので、マイクの設置場所に制約があったこともあるのでしょうが、例えば2Lレーベルで聴くことができる同じフォーマットのBD-Aに比べると、圧倒的に音がしょぼいんですね。特にオーケストラのつややかさが全く感じられないのには失望させられます。和楽器も、龍笛などは明らかにレベルがオーバーしていて音がひずんでいます。
この作品を最後まで聴いたのは初めてですが、その最後の曲のナレーションで
「やがて世は移ろい、源氏物語から平家物語へ。まことに人の世ははかなく、無常というものでございます」
と語られた後に、冨田が1972年の大河ドラマのために作った「新平家物語」のテーマが流れます。え、なにそれ、と、のけぞってしまいましたよ。その「源氏」じゃないでしょう(言質をとってます)。

CD, BD Artwork © MI Seven Inc.


5月6日

EÖTVÖS/Alhambra (Violin Concerto no. 3)
STRAVINSKY/Le Sacre du printemps
Isabelle Faust(Vn)
Pablo Heras-Casado/
Orchestre de Paris
HARMONIA MUNDI/HMM 902655


このCDは、いまや、世界中からの注目の的となったヘラス=カサドを指揮者に迎え、1944年生まれのハンガリーの作曲家、ペーテル・エトヴェシュのヴァイオリン協奏曲第3番「アルハンブラ」のフランス初演が行われた2019年9月11日にパリのフィルハーモニーで行われたパリ管弦楽団のコンサートに前後して、同じ場所で、その曲と、一緒に演奏されていたストラヴィンスキーの「春の祭典」を録音しものです。
このエトヴェシュの新曲は、ヘラス=カサドと、ここでもソロを演奏していたイザベル・ファウストのために作られました。世界初演は、この二人とマーラー・チェンバー・オーケストラによって、グラナダでこの年の7月12日に行われています。タイトルの「アルハンブラ」は、そのグラナダにある有名な観光名所ですね。
エトヴェシュは、そのアルハンブラの「A-L-H-A-M-B-R-A」を音名読みにしてメイン・テーマを作ったと言っていますが、それがどんなものなのかは、あいにく聴いただけでは分かりませんでした。しかし、微妙なハーモニーや、時には踊りだしたくなるような規則的なリズムの中からは、スペインとアラビアの文化が混ざり合ったテイストが醸し出されています。バックのオーケストラは12型の弦楽器と2管編成の管楽器という小さなものですが、そこに多彩な打楽器とハープ、さらにはチェレスタとマンドリンが加わって異国情緒も高まります。
とは言っても、なんせエトヴェシュのことですから、正直その音楽は難解で、親しみやすさはほとんど感じられませんでした。ファウストのヴァイオリンの醸し出すとても色彩的な音色には魅了されます。
カップリングは「春の祭典」、いきなり16型、5管編成に拡大されます。パリ管ほどのオーケストラでも、この曲では大勢のエキストラが必要なことが、ブックレットのメンバー表で分かります。エトヴェシュでのマンドリン、チェレスタ、サックスもあわせると、それは33人にもなっていましたね。
エトヴェシュでは録音が素晴らしく、それぞれの楽器がしっかり聴こえてきましたが、それは、この巨大な作品でもさらに強く感じられます。どんな楽器でも埋もれることはなく、それぞれのフレーズがきっちり伝わってきます。
この指揮者は、これまで何度か聴いた中では、ことさらエモーショナルに迫るのではなく、あくまで淡々と音楽を仕上げる、というイメージがありました。ですから、冒頭で聴こえてくるファゴットのソロに思いっきり歌わせているのには、ちょっと驚きました。それに絡む他の管楽器も、ことさらにオーバーアクションに感じられるのは、フランスのオーケストラだからなのかもしれません。ただ、この曲では、ここまでの表現は正直やり過ぎかな、という気はします。続く、弦楽器のパルスが続く「春のきざし」も、なにか重々しく感じられます。
それが、次の「誘拐」になると、これまでの流れからは予想できないような急激な暴れ方を見せます。なにか、全体を通しての一貫性が見えてこないような、ちょっとした不安が募ります。確かに、これまで幾度となくこの曲を聴いてきて、そのような先の見えないところがあることは重々承知している上での、さらなる意外性がここにはあるものですから。
後半の変拍子の嵐が出現する「選ばれし生贄への賛美」では、その暴走ぶりはさらに顕著になります。エネルギーだけで勝負、と言ったところでしょうか、オーケストラはほとんど崩壊しているのでは、という印象さえ感じられてしまいます。
それが、最後近くの「祖先の儀式」になると、冒頭のように必要以上の粘っこさが出てきます。それに付き合わされるアルトフルートは、なんだかとても吹きにくそうでしたね。
この「春の祭典」、個人的な感想で採点させていただけば100点満点の65点ぐらいでしょうか。でも、ご安心ください。「レコード芸術」では間違いなく「特選盤」になるはずですから。

CD Artwork © harmonia mundi musique s.a.s.


5月4日

ICONS 2
Eric Lamb(Fl)
ORLANDO/OR 0043


国内の代理店でこのORLANDOというレーベルを扱っているところはないようなので、サブスクのNMLで聴くことにしました。そうしたら、ちょっと気になっていたこのタイトルの「ICONS 2」の前の「ICONS 1」というアルバムも以前に出ていることが分かりました。いずれも、アメリカ出身のエリック・ラムのフルートだけによる無伴奏のフルート・ソロの曲を集めたものです。
「1」では、それこそドビュッシーの「シリンクス」とかオネゲルの「めやぎの踊り」(顔を洗わない人の踊りではありません・・・それは「めやにの踊り」)などといった超有名な曲とともに、誰も聴いたことのないような現代曲も演奏していました。今回もそんな路線は踏襲しているようで、時代や技法の異なるたくさんの作品が演奏されています。
1曲目は、NMLのタイトルでは「J.S.バッハ」とあったのですが、彼の「無伴奏パルティータ」はすでに「1」に収録されているのでなんだろうと思ったら、C.P.E.バッハの「無伴奏ソナタ」でした(相変わらずNMLはいい加減ですね)。演奏はとても神経の行き届いた素晴らしいものでした。ラムはジャケットのように木管の楽器を使っていますが、これもサンキョウ製なのだそうです。録音のせいでしょうか、あまり木管という感じはしませんね。
そして、その次にいきなり200年の時を経て、ベリオの「セクエンツァT」が始まります。しかし、ラムのアプローチはC.P.E.バッハとは全く変わらず、楽譜に書かれた作曲家の思いを、的確に音に変えることに全精力を集中しているようでした。このような丁寧な演奏からは、なぜこの曲があまたの「現代曲」の中で生き延びてきたかが分かってくるような気がします。
次は、最近ちょっと気になっているケックランの「ネクテールの歌」です。無伴奏のソロ・フルートのための小品を96曲も集めたという、ものすごい曲集、それが32曲ずつ3巻に分かれて、それぞれ作品番号が198、199、200と付けられています。ここでは、第1巻から6曲が演奏されています。いずれも2分足らずの、様々な情景が目に浮かぶエスプリに満ちた曲です。
NMLでは、その後に韓国の作曲家で、ドイツの作曲家クラウス・フーバーと結婚したヨンギー・パク=パーン(朴-琶案 泳?)の「Dreisam-Nore(ドライサム川の歌)」という、初めて聴く曲が演奏されることになっていました。ところが、聴こえてきたのは、紛れもない武満トーン、実は、もっと先に彼の「巡り」が演奏されるトラックがあったのですが、それがここと入れ替わっていたのですね。レーベルのサイトで見つけたブックレットでは、ここはきちんと武満の曲になっていたので、NMLはタイトルだけを入れ替えるという不思議なミスを犯していたのでした。
ですから、武満に続いて、スロヴァキアの1979年生まれの若い作曲家、イヴァン・ブッファのバスフルートのための、重量感のあるおどろおどろしい曲と、普通のフルートのためのやたら忙しい曲のあとに、そのパク=パーンのかなり若いころの、確かに深い情感の漂う作品が聴けることになります。
そして、最後に控えるのが、世のフルーティストたちがこぞって挑戦している、まさにプロとしての資質が問われることになる難曲、ブライアン・ファーニホーが1970年に作った「カサンドラの夢の歌」です。この楽譜は、一応記譜はされていますが、特殊奏法ばかりでノーマルな吹き方の音はほとんどありません。2枚の厚めの紙に印刷されていて、1枚目は「1」から「6」までの6つのフレーズが並んでおり、この順序に演奏します。2枚目には、「A」から「E」までの5つのフレーズが、1枚目の各々のフレーズの間に好きなものを選んで、重複しないように演奏することになっています。つまり、5×5で、25通りの演奏が可能になるわけですね。ここでのラムはB→A→D→C→Eという順序で演奏しています。まるで、アマチュアがこの曲に挑戦することをあざ笑うかのような、それは見事な演奏でした。

CD Artwork © Paladino Media GmbH


5月1日

増補改訂版 クラシック音楽を始めよう。
マガジンハウスムック
株式会社マガジンハウス刊
ISBN978-4-8387-5481-6


去年の6月に発行された「ブルータス」で特集されていたクラシック音楽のページが、装いも新たにムック化されて刊行となりました。雑誌の場合は、他の記事と、おびただしい広告が入った全132ページの中の66ページだったものが、全100ページのムックになっています。細かいことを言うと、その100ページのうちの2ページは表紙と裏表紙、1ページは奥付、そして広告が3ページ入っていますから、本体は94ページ、雑誌から28ページも増えています。なお、価格は雑誌が700円、ムックが980円です。
その、増加分のコンテンツの大部分を占めるのが、NHK-FMとAM(ラジオ第1)で放送された「ROCK to the CLASSIC」という2019年8月5、6、7日に最初の3回が放送され、そのあとは同じ年の年末に1回、そして2020年の年末に3回と、現在までに断続的に7回放送されている50分の番組をすべて再現したものです。雑誌でのように、ライターさんに新たに原稿を依頼するというのではなく、同じ「ブルータス」の山下達郎特集のように、別の媒体で公開されたものをそのまま転用するという安直な発想ですね。
そこに登場するのは、milet+蔦谷好位置、ちゃんMARI+江ア文武、緑黄色社会、成田ハネダ、岸田繁、津野米咲、椎名林檎+ヒイズミマサユ機+鳥越啓介という7組のアーティストでした。その中でしっかり名前だけで認識できたのは、milet、蔦谷好位置、緑黄色社会、椎名林檎の4人(4組)だけでした。いかに最近のロック界に精通していないかが痛感されます。
かろうじて知っていたmiletは、このコーナーのトップで見開きのプロフィールになっていました。そこでは、彼女がフルートを持って、レコーディングスタジオのコンソールの前でポーズをとっていましたが、そのコメントでは「3台目のフルートを手に持って」とありましたよ。この楽器を「1台、2台」と数えるのを初めて目にしました。もしかしたら、彼女は「3代目」と言っていたのかもしれませんね。
彼女は、Superflyのアレンジャーとして知っていた蔦谷好位置との対談で、それぞれのルーツとしてのクラシックを語っていましたね。その他のアーティストたちも、きっちりクラシックの洗礼を受けていたことが分かります。それも、かつてのような教条的な聴き方ではなく、もっと自由なスタンスで聴いているのには好感が持てます。
そのような新しい企画ではなく、雑誌のコーナーを少し水増しして増量を図っているところも見られます。個人的なテーマで3曲選んでもらうという「みんなのMYクラシックピースガイド」では、アンケートの対象が27人から34人に増員されていました。
さらに、「レコードやCD以外で聴くのって邪道?」という、雑誌では1ページだったものも、こちらではさらに5ページ増えて、「クラシックYouTuberの実力は?」と、「ストリーミングでクラシックをいい音で聴くには?」という2本が新たに加わりました。後者では、とかく音に関しては評判の悪いストリーミングでの、音質改善に関する最新の情報が提供されています。とは言っても、まだまだハイレゾには程遠い「CD並み」というのが主流のようですが、それでも、このが進んでくると、もはやCDの存在価値がなくなってしまうのは自明、ということになるのでしょうね。
その他にも、いくらかの新しい部分が見られます。その中にマックス・リヒターによる「寝るためのクラシックコンサート」というものが実際に行われたという記事には驚きました。まあ、ほとんどのクラシックコンサートは「寝るために」行くようなものですから、こんなのがあっても全然不思議ではありませんけど。
雑誌掲載分は、例えばベートーヴェンの「生誕250周年」というような文字はなくなっていますが、それ以外は全く同じ版下がそのまま使われているようです。その結果、以前に指摘したベルリンのフィルハーモニーの写真の間違いも、そのままになっています。

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おとといのおやぢに会える、か。



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