沈黙の宗教―儒教

加地伸行 (筑摩書房、1994)

 

儒教というと、私も含めてふつうの日本人にはせいぜい歴史の教科書程度の知識しかなく、また戦前の忠君愛国、天皇制ナショナリズムと結びついた負のイメージがつきまといます。あるいは現代社会になお根強く残る父権性や近代的個人主義と対立する家族主義・集団主義を支える思想として、しばしば槍玉に挙げられます。

一方、すでに大多数の日本人は無宗教だといわれながらも、葬儀を仏式で行うだけでなく、毎年お盆に帰省して先祖供養をし、春と秋のお彼岸にお墓参りをする人は、決して少数派ではありません。日本人の心性には今でも仏教的な死生観がしっかりと根付いているのでしょうか。しかしこれらの風習は、実は仏教とは関係ありません。

著者によると、日本人の宗教感情は、仏教の教義と儒教的死生観が合体し、それに神道的アニミズムが付加されたもの。しかし、儒教には明確な教義体系がなく、教団も宣伝組織もない。いわば「沈黙の宗教」です。だから、ふだん私たちは儒教の存在を意識することがないのです。

本書は優れた儒教入門書であると同時に、優れた日本文化論でもあります。内容の詳細と私の感想は、こちらをご覧ください。

 

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