『四つの愛の物語』私は、若き作家として帰国し、そして大学の講師になった。 6年ぶりの帰国。母は驚き、それでも泣いて喜び、迎えてくれた。カナコも9歳になっていた。私を見て、すぐに飛びついてきた。でも、私のことはあまり覚えていないみたい。私も、3歳の時のカナコとあまりにも違うので、最初は戸惑った。でも、すぐ慣れた。私たちは、少し変わった親子だけど、大丈夫、うまくやっていけると思う。何よりも、私はカナコを愛している。カナコも私を必要としている。新しい母娘のタイプとして出直していけばいいのだ。 ある日、私は、大阪に住んでいる友人の結婚式に行ったついでに、京都で降り、広隆寺に弥勒菩薩を見に行った。エルダムのお勧めだったから。日本に滞在していた時に見た仏像で感動したという。私は初めて弥勒菩薩を見たけど、感動した。まず、あんなに小さいとは想像していなかった。そして、かぎりなく平和な様子で坐っているのに驚いた。世界中で有名なんだって。さもありなんと思った。私は飽きずに弥勒菩薩を見続け、時計を見たら2時間が過ぎていた。 そして、観覧者たちのなかに、私と同じようにずっと帰らないで、弥勒菩薩の前に置かれた長テーブルに坐ったり遠くから立ったまま見たりしていた少年が一人いた。私はなぜか途中からこの少年が気になっていたが、彼もずっと帰らない 私が気になったのか、時々私の方を見ていた。それが、何と、私のクラスでこの少年にふたたび出会ったのだから、ほんとうに驚いた。 私が勤める大学には、ふつうの大学にはない国際文化交換学部という学部が創設され、常識に囚われず行動する若き才能たちが入ってくると聞いていた。私は「異文化交流」という授業を週3日受け持っていたが、たしかに私のクラスにも変わった個性をもつ生徒が多かった。外人の学生も多い。 そして、秋のある日、広隆寺で出会ったその少年が姿を見せたのだ。彼も私を覚えていたようだ。私も彼をつよく見つめたが、彼も私をつよく見つめた。彼のクラスでの一風変わった自己紹介によれば、彼は、最近悪夢から醒め、かろうじて高校を卒業し、私の大学に入学し、その日はじめて出席したという。 TOP HOME |