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4 Love Stories

『四つの愛の物語』

【5】

福原 哲郎




■目次

第1話 『13歳のカオリ〜私はどうしたらいいの?』
【1】 【2】 【3】 【4】
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第2話 『19歳のカオリ〜性を超える』
【6】
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第3話 『25歳のカオリ〜一人さまよう、世界の旅へ』
【7】
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第4話 『31歳のカオリ〜私の夫は天才だった』
【8】
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6 愛の駆け引き

 僕たちは術後の回復を待って、ベイルートからイスタンブールに戻った。
 そして、1ヶ月後にウシュキュダのホテルを引き払い、ヨーロッパサイドのタクシム広場の北側にアパートを借り、夫婦であることにして一緒に暮らしはじめた。トルコ人は日本人に親切で、僕たちの関係を怪しむ者は誰もいなかった。これが日本なら、僕たちの年齢が離れていることは誰の目にも明らかなので、夫婦であることを疑う者も出たに違いない。その意味でも、イスタンブールを居住地に選んだことは正解だった。アパートのトルコ人の住人たちが僕たちを見る目は優しかった。
 はじめの内は「私はカオリ。ナミコじゃないわ」と言い続けていたカオリも、次第にそれを言わなくなった。しかし、それだけでは僕の作戦が成功しているのかどうかはわからない。アタマのいいカオリに、別の作戦が芽生えている可能性だってあるからだ。何事も、慎重に。ここからは、良くも悪くも、僕とカオリとの間の騙し合いだ。僕はカオリに油断できない。愛情と実験を明確に区別すること。非情に区別することが、僕が自分の仕事を成功させるための鉄則だ。
 僕とカオリの脳は、すでにBMIネットワークの一部として、無線で繋がれている。読み取る技術に長けてくれば、原則、カオリは僕のどんな心の動きも察知し、見破ることが出来る。だから、僕は、カオリが自分はナミコだと思いこむ度合いを、少なくとも一定レベル以上に高める作業を急がなければならない。この作戦は、時間との勝負なのだ。その時間を過ぎてしまえば、僕のカオリへの誘導は見破られ、僕の努力は無効になってしまう。とにかく、急ごう。
 僕のカオリへの働きかけ方はいつも同じだった。それは徹底して「僕は君を愛してる!」と言い続けることだ。女には「愛」が一番の特効薬だ。これだけでいい。単純そのものだが、カオリの心の微妙な変化も含め、それらをすべて正確に読み取りながら対応していく必要があるのだ。

 「僕は、君を、愛してる。いままでも。これからも」
 僕がそう言うと、カオリはいつも嬉しそうにする。僕に飛びついてくる。僕もカオリをしっかりと抱きしめる。しかし、そこからいつ終るとも知れないカオリの質問攻めが始まる。カオリも、それが儀式であるかのように、毎回同じセリフを繰り返す。僕も、同じセリフを繰り返す。
 「あなたが、私を愛してる?」
 「あぁ、そうだよ」
 「あなたが、私を愛してる。愛してるの? あなたが、私を? ホントに?」
 「あぁ、本当だよ」
 「でも、あなたが言う君って、誰のことかしら?」
 「君は君だよ」
 「私は、私?」
 「そう。君は君」
 「なぜなの? イスタンブールに戻ってきてから、あなたは私の名前を呼ばなくなった。いつも、君」
 「だって、君は君じゃないか」
 「最近は、いつも同じ答えね。でもいいわ。不思議なのよ。私も、何だか、時々、あなたを愛しているのかも、って思う」
 「本当に?」
 「多分ね」
 「多分?」
 「最初は、お父さんに似た人を探してだけだから、何とも思わなかったけど。あなたが私をこんなに愛してくれるのは、やっぱりお父さんに関係がある気がする」
 「僕も、なぜ君をこんなに愛することになったのか、実は正直わからない。予想外だ。ナミコとカオリの区別も、よくわかっていたのに、最近わからなくなってきた」
 「だから、私の名前を呼ばないで、君って言うのね?」
 「当面は、それしかないよね」
 「私はカオリ。ナミコじゃない。それはよくわかっているけど、でも、私も最近、少しおかしい。子供が欲しいと言ったナミコの気持ちが少しわかる」
 「子供が欲しいと言ったのは、カオリじゃなくて、ナミコだよ」
 「あなたが私に産ませたいなら、どっちでもいい。私が産むわ」
 「えっ、ほんとに?」
 「私もあなたの子供が欲しいのかも知れない」
 「それはいくら何でも早すぎる。君はまだ15歳だよ」
 「でも、それだと、ナミコに言ったセリフと同じじゃない? ダメよ。あなたがナミコにそんなこと言ったから、早く死んでしまったんでしょ?」
 「たぶん。そうだと思う」
 「あなたは女の判断に任せると言ったはず」
 「君が大丈夫ならいいけど」
 「私は大丈夫。その代わり、私はあなたをお父さんの生まれ変わりと思ってもいい?」
 「君がそう思いたいなら」
 「それなら嬉しい気がする」
 「でも、君は君で、お父さんにも会えるかも知れないよ。別に僕をムリにお父さんの再来にしなくても」
 「その時は、その時よ」
 何か、変だ。カオリの様子がおかしい。カオリが自分から僕を愛してるかも知れないと言い出すとは。それに、今日は子供を産みたいなんて、ナミコと同じ事を言い出した。これだと、僕たちのチームが書いたストーリーが、うまく行き過ぎる。カオリは、既にナミコになっている。そんなに簡単な事ではないはずだ。
 今のところ、カオリには意識障害の徴候は見られない。それは、カオリの意識の力がつよいからか? 或いは、カオリが途中から、意図的に、このレースから離脱したのか? 或いは、逆で、自分から積極的にレースに参加したのか? どちらの場合も、僕には内緒で。カオリは、何か別の事を考えている気がする。そうだとすれば、僕が混乱しない内に、早くカオリの実際の過程を知っておく必要がある。そうしなければ、僕の方がおかしくなるかも知れない。二人の脳は繋がっているわけだから、僕が弱みを持つと、それはカオリに見抜かれて、利用される可能性が出て来るのだ。僕がカオリに支配されるようになってしまえば、正に僕とカオリの立場は逆転だ。

 「君も、僕に、何かしてるの? 昨日も僕の脳マップを見てたよね?」
 「気がついた?」
 カオリが、少し笑った気がする。何か、危ない。
 「変だと思ってたけど。最近、僕の記憶系も微妙に混乱してるから」
 「でも、私は、あなたのように意識的にやってるわけじゃない。だから安心していいのよ。あなたの方法は私に教えてくれないんでしょ?」
 「それは最高機密の一つだからね。僕の一存ではどうにもならない」
 「それがあなたの言い訳ね」
 「君は、僕に何をしてるの?」
 「あなたと愛し合う時に、できるだけ、正確に、お父さんのことを想い出しているだけ。あなたが私のからだの中にいる時に、ずっとお父さんのことを考えているの。単純でしょ?」
 「でも、結局、その方法が一番効果があるのかも知れない」
 「効果が出てる?」
 僕も、正直なところ、認めざるを得ない事がある。特に、最近、それが増えている。
 「最近、僕が知らない男の夢がよく出てくるからね。その男が君のお父さんに違いないと感じる。それは、君の影響だよね?」
 これは、本当の事だ。カオリに言わない方がいいのか? しかし、言わなければ、カオリが心の内面をさらけ出すことはない。全て、言ってしまい、カオリの反応を見て、真相を探るしかない。最大の注意点は、僕自身がどうなっているかについて冷静に判断できる事だが。
 「ホント? 嬉しいわ」
 「この間も、本屋に行った時、オルハン・パムクの本を必死で探している自分に気づいてびっくりしたよ。僕は小説は読まなかったからね。オルハンは君が言っていたお父さんが好きな作家だった」
 「有難う! 覚えていてくれたのね。オルハンはお父さんのお気に入りで、イスタンブールの話しもよくしてくれたわ。政治のことは私には難しくてわからなかったけど」
 「それで君はイスタンブールのことを知っていたのか」
 「実はそう」
 「来たこともあったの?」
 「もちろんお話しだけで、来たのははじめてよ。お父さんが好きなイスタンブールは私も好き。だから私がいまイスタンブールに住んでるなんて夢みたい」
 「ノーベル賞もとった作家で、日本でも有名だからね。とにかく、オルハンのこともそうだけど、最近自分の食べ物の趣向なんかも含めて変化してる気がする。何か自分の中に知らない人間が住んでいる感覚だ。それほど気持ちが悪いわけではない。まぁ、この感覚が僕たちが研究している感覚のわけだけど。まさか僕が君からこんなにつよい影響を受けるとは」
 「私も、最近あなたを見ていると、本当にお父さんのそばにいるように感じる。変ね。私は死者の甦りなんて信じてないけどね。でも私には、あなたがお父さんとの合体のように見えてきた。お父さんの匂いがするの。あなたの匂いと混じってる。とても懐かしいわ」
 こういう話しが進展してしまうと、カオリはただ自然に振舞っているだけなのか、やはり何か僕には秘密の作戦を行使しているのか、相当にわからない事になってくる。とにかく、今は、僕も自分の感情を言い、カオリの変化と自分の変化を同時に検証していくしかないだろう。
 「僕にも、君は、ナミコとカオリのミックスだ」
 「私も、カオリにこだわらなければ、得するのかも知れない。その方があなたがもっと私を愛してくれるから」
 「自分にこだわらないなんて、そんなことできる?」
 「わからないけど。そうして欲しいの?」
 「もちろん。すごいことになる」
 「やってみるわ」
 僕が、今、自分がどんな顔をしているか、鏡で見たら、一番驚くのは自分かも知れない。僕は、当然だが、カオリに対して、僕たちのチームが立てた作戦に従って行動している。それに、カオリに対する愛の感情が少し混じってきた為、多少混乱しているだけだ。そんな僕が、カオリの場合について、自然に振舞っていて僕への愛の感情を持ち始めただけなのか、それとも僕たちの意図を見抜いて別の作戦を行使しているのか、それについて詮索している。ややこしいのは、こんな僕の内面が、僕がカオリに対して隠せず、全部脳ネットワークを通じてカオリに筒抜けになっているという事だ。カオリは、僕のこんな状態を、どこまで読み取っているのだろうか?


7 私は思う

 あの男は、結局何をしたかったんだろう?
 最近、それが私にもわかってきた。最初の内は男の説明を真に受けてたけど、しばらくすると「これが私の考え」というものが湧いてきた。男の解釈では、私たちがやっていたのは脳に介入した新しい医学的実験だけど、果たしてそうだろうか?
   私には結局、私の体験も、私の成長も、それが脳の改造やBMIの効果なのかどうか、未だによくわからない。要するに、新しい装置を使った洗脳ごっこだよ。洗脳ごっこなら、人間は昔からお互い同士毎日やってきたことだ。その意味で、別に新しい実験じゃない。使ってる装置が新しいだけ。効果があったからと言って、それがほんとうに脳改造のおかげなのかも、まだ何の保証もない。そんなことをしなくても、私たちが愛し合っただけで、同じ効果が起きたかもしれないからだ。だから、私はこの実験には本当の関心がもてない。私たちの実験が成功していたのか、不成功に終わったのか、どっちでもいい気がする。
 そんな実験よりも、私には、男というものが少しわかった事が面白かった。男って、根っからのロマンチストなのか? 何で、男は、いつも何か新しいものをつくりたがる動物なのだろう? 私は、死んだおばあちゃんを思い出した。お父さんのお母さん。おばあちゃんの口ぐせは、「男の言う新しいことは、古いこと。後始末をするのは、いつも女」だ。お父さんもおばあちゃんにはかなわなかったみたいで、「お前も、新らしがりを気取ってるけど、古い男と同じ」と言われる度に、苦笑していた。たしかに、実験をするのは男で、その結果を生活の中で試すのは女なのかも知れない。今度だって、結局整理するのは私じゃないか。まだ、たった13才の女子が、だよ。
 それにしても、お父さんなら、いまの私を見て何と言うだろう。いい冒険をしたと、褒めてくれるだろうか? 私は褒めて欲しい。それとも、失敗だったと言うだろうか? あぁ、私はお父さんに会いたいよ。そして、お父さんの考えを聞きたいよ。
 男が私をナミコにしたかったように、私も男を私のお父さんにしたかったのかも知れない。男の影響力と私の影響力。どっちがつよかったのかしら? 男が私から逃げ出したとすると、私の方がつよかったのかも知れない。いまでも私たちの脳がつながっているなら、私たちの勝負はまだ続いているの? 不利になったので、装置もはずし、私から身を隠したの?
   たしかに私は変わったわ。私はつよくなったと思う。世界への好奇心は、もっと増えた。世界について、私はもっともっと知りたくてたまらない。
 私が一番楽しかったのは、男が私を真剣に愛してくれたこと。少なくても、私にはそう見えたこと。私も真剣に男を愛し始めた。自分で子供が欲しいと思ったなんて、いまでも自分を信じられない。私にとってはまさに青天の霹靂だ。私は男と暮している時、とにかく毎日が楽しかった。実際に、イスタンブールという、憧れの新しい世界に存在していたし、毎日、男に愛され、男の知恵を盗み、お父さんに繋がりたいと思っていた。幸福な毎日だった。お父さんが何をしていたのか、もっと知りたかった。そして、男もほんとうにお父さんに似ているなら、男とずっと一緒にいたかった。私は男を愛した。だから男の子供が欲しいと思った。

 でも、楽しかったのに、男は去った。
 結局、私たちが出会ってからちょうど1年後に。そう言えば、あの男もこの実験には1年位が必要と言っていた。
 その朝、目覚めたら、私の隣に寝ているはずの男がいなかった。荷物はそのまま。夜になっても帰ってこなかった。こんなことは一度もなかった。事故? いや、あんな慎重な男が事故に遭うなんて考えられない。それなら事件? 危険な仕事だと言っていたから、さらわれて、殺されたの? 私は、心配で、その日は何も手がつかなかった。夜も、朝まで眠れなかった。まさか。男はもう死んでるのかも知れないのだ。
 次の日になって、はじめて私は残された男の荷物を調べた。荷物を残していくなんて、絶対におかしい。名前は本当だった。篠原ヒロシだった。平凡な名前だ。それなら日本人? でも国籍は日本とトルコの二重国籍。日本とトルコの二つのパスポートを持っていたからだ。でも、それもおかしいかも知れない。日本人なら二重国籍は持てないと聞いたことがあるからだ。日本人じゃない? 職業も貿易商ではなく、脳科学者と書いてある。脳科学者? 所属はアメリカの研究所になっている。専門家だったのだ。
 その日の夕方、私のホテルに、ベイルート大学の医師と名乗る男から電話があった。私が初めて聞く声だった。脳に埋め込んだ装置をはずす必要があると言う。イスタンブールとベイルートの往復チケットをホテル宛てに送ったので、それでベイルートの病院に来るように言った。私が、あの男のことを急いで聞いたら、男は昨日その手術を一人で受けたという。詳しいことはわからないとその医者は言ったが、手術後にヒロシの態度が変わったという。態度が変わった? 何があったの? どう変わったの? 私にはすごく重要な事だ。でも、その医者は何も詳しい事を話してくれない。ただ、男の身は安全だと言った。その事実だけを私に話すように、ヒロシが頼んだそうだ。私は、何があったのか、一体どういう事だったのか、全部知りたかった。でも、これでヒロシの失踪が突然であることがわかった。誘拐されたのでも、殺されたのでもないらしい。よかった。私の目から、知らない内に涙が零れていた。私は、少し安心して、泣いた。
 とにかく、仕方ないので、私も指定された日に飛行機に乗ってベイルートの病院に行き、手術を受けた。帰りに、男から預かっているという白い大きな封筒を渡された。控え室で開けて見たら、日本へのチケットと、100万円のお金が入っていた。あの医者に男の行き先を聞くと、何も聞いていないと言われた。
 ヒロシは、もう私を愛していないの? あんなに熱心だったのに。あの医者は変わったって言ったけど、一体何が? まさか、精神のバランスを崩して、発狂しちゃったとか。もし精神のバランスを崩したとしたら、ヒロシの方が私より先に整理できなくなったということ? ヒロシが想定していた女よりも、私はもっとつよくて、未知だったのか? 或いは、途中で私の「作戦」に気づいいて、怖れをなしたのかも知れない。私の「作戦」なんて、ヒロシにも言った通り、ただもっと愛される為のものだったから、ヒロシにとって邪魔にならないはずなのに。
 でも、私は、これから、どこへ行けばいいの? どうすればいいの?
 そう思うと、私は、突然息苦しくなった。愛する者を失ったことをやっと自覚したのだ。
 私は、また一人じゃないか。辛いよ。寂しいよ。ヒロシに会いたいよ。私は、この冒険で、一体何を得たことになるのだろう? もしかしたら、この男は本当に宇宙人だったのかも知れない? 私を捨てたのではなく、何か正当な理由があって宇宙に帰っただけのかも知れない。宇宙人なので私に説明できなかったのだ。とすれば、どこかにその理由がわかる痕跡が残されているはずだ。よし、探してみよう。
 そんな風に思うしかなかった。そうでなければ、私はとても耐えられない。男を失ったことの重みに耐えられない。私は悲しかった。
 帰国してから、私は、いままで見なかったような場所に、あちこち目をやるようになった。お母さんや友達には、「カオリは目つきが変わった」と言われた。男が残した痕跡が重要だからだ。私の最初の男。私はヒロシのからだのすみずみまでよく覚えている。私は彼の痕跡を探さなければならない。
 私は、愛を知ってしまった。でも、私が知ったのは本当に愛なのだろうか? 愛って何だろう? 考えてみるとわからない。私が愛していたのは、ヒロシではなく、結局、お父さんだったのかも知れないし。
 唯一の救いは、帰国して、しばらくしてから、自分の部屋に籠もり、よくよく考えてみて、私の心自体には傷がついていないことを発見できたことだ。私は、自分の心を、何日も何日も、他には何もしないで、ただ胸に手を当てて、感じてみた。すると、私の心が健康なことがわかった。かえって、一人で落ち込んでいた一年前に比べたら、はるかに健康で、もっと快活になっていることが実感できた。嬉しい。私は大丈夫なのだ。あの男は去ったけど、私には捨てられたという感覚がない。もし、捨てられていたなら、私は確実に、深く、傷ついていただろう。そうではなく、 かえって、あの男の方が、あの男と私が居た場所から出て行っただけなのだ。だから、もちろん私があの男を捨てたわけじゃないけど、私は捨てられてはいない。 それで、私の心は少しも傷ついていない。私は、心が傷つくことだけは恐れていたから、本当によかった。
 そう思ったら、急に、ヒロシの痕跡を私の周囲に探す必要がないこともわかった。私はあの男に捨てられたのではなく、ただ宇宙人だったから私のもとを去っただけだと思いたかったから、宇宙人としての痕跡を私の周囲に発見する必要があった。でも、私の心は傷ついていないし、ただあの男が出て行っただけだから、もう私には男を宇宙人に仕立てる必要はない。痕跡探しも不要になった。あの男が宇宙人であってもなくても、私には関係ない。だから、私は探すのを止めた。
 ただ、私は、こうしてあの男からは解放されたのかも知れないけど、これから、愛について、本気で考えなければいけないのかも知れない。


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