Web-Suopei  生きているうちに 謝罪と賠償を!

戦後補償講座 法律編

第4回 『戦後補償裁判と時間の壁』 パート1 時効(2)

3 時効の援用の権利濫用・信義則違反

 このように、時効制度は、本来あるべき法律状態と異なる状態を認めるものですから、時効によって権利を取得したり、義務を免れることを正義としない徳義心のある人がいれば、その意思を尊重すべきです。
 そこで、法は、期間の経過により当然に時効の効果が生じるのではなく、時効の利益を受ける者が、時効の利益を受けることを宣言したときに初めて時効の効果が生じることとしました(145条)。この時効の利益を受ける宣言(意思表示)のことを「援用」といいます。
 そして、一定の場合に時効の「援用」を信義則に違反するないしは権利濫用であるとして認めないとする判例法理が確立しています。
 西松強制連行訴訟上告審の最高裁平成19年4月27日判決も、企業の安全配慮義務違反を認めて、時効の援用を権利濫用として排斥した原審広島高裁判決(平成16年7月9日)の判断を維持しました。
 広島高裁判決は、時効は、1986年2月に中華人民共和国公民出境入境管理法施行日以降、原告らが現実的な権利行使が可能となった日以降に進行すると起算日について判断した上で、@被害が重大であること、A原告らは経済的困窮、情報不足等のため、事実上権利行使が著しく困難な状況におかれていたことBこのような状況は被告企業による強制連行強制労働に起因するものとの面も否定できないことC被告企業が事業所報告書に虚偽の記載をし、関係者についての調査や資料の存否に関する調査を怠ってきたこと、D被告企業は、中国人労働者の受け入れにあたり国家補償金を取得するなど利益を上げていることE被告企業は、原告らとの補償交渉において態度を明確にしないまま結果として本件提訴を遅らせたこと等の事情をあげて、被告企業に消滅時効を援用して損害賠償義務を免れさせることは、著しく正義に反し、条理にも悖るものというべきである。したがって、消滅時効の援用は権利の濫用として許されないとしています。

 >>第5回へ進む

Copyright © 中国人戦争被害者の要求を実現するネットワーク All Rights Reserved.