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戦後補償講座 法律編

第5回 『戦後補償裁判と時間の壁』 パート1 時効(3)

4 戦後補償裁判と時効

 強制連行・強制労働事件裁判で、企業は時効を援用して自らの責任を免れようとしますが、上記の広島高裁が判断したように、被告企業の時効の援用は信義則に反して許されないというべきです。最初に触れたように時効制度は、もともと個人と個人の通常の社会生活上の関係を念頭に作られた制度であり、戦後補償裁判のような事案を念頭においたものではありません。強制連行強制労働という重大な人権侵害行為、非人道的行為を行って莫大な利益を上げた企業が、原告が訴えるのが遅かったとして時効の利益で保護されるのは、正義にも条理にも反することは明らかです。
 にもかかわらず、多くの判決では、企業の時効援用は権利濫用に当たらないとして原告らの損害賠償請求権は原告らが帰国した昭和20年末ないし21年頃から10年の経過(安全配慮義務)ないし3年の経過(不法行為)で時効により消滅したと判断されています。そこに共通している論理は、被告企業が原告らの権利行使(提訴)を妨害したわけではない。原告らが権利行使できなかったのは、中国側の国内事情その他被告とはなんら関係ない原告側の事情によるものだからというものです。これらの判決は、重大な人権侵害があったかどうか、被害が重大かどうかは時効を認めるかどうかの判断とは無関係とする点でも共通しています。
 被告に提訴妨害がないかぎり時効の援用は信義則に反しないとするこのような判断は、最高裁判例にも違反するものです。裁判所が、何故これほどまでに「時間の壁」を楯にして、国や企業の責任を認めたがらないのかについては、法律上の問題以外にも理由があると思わざるをえませんが、法解釈としては明らかに無理があり、説得力を欠くといわざるをえません。最高裁4月27日判決が前述のように西松高裁判決を維持したことを受けて、今後の下級審の判断が注目されるところです。

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