1 2006年3月29日、福岡地方裁判所は、中国人強制連行・強制労働事件福岡第2陣訴訟に関し、被告国及び被告三井鉱山,三菱マテリアルに対する請求について、原告らの請求を棄却する判決を言い渡した。
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判決は、強制連行・強制労働を一連の行為として,被告国と被告各企業との共同不法行為を明確に認定した。すでに全国の多くの裁判所が認めている中国人強制
連行、強制労働という歴史的事実を,本判決もまた,加害行為と被害にわたって認定した。この点は,国と加害企業の犯した犯罪事実を日本の司法が繰り返し繰
り返し認定したものとして重みを持つものである。
しかしながら,本判決は,被告らの法的責任を一切否定した。しかもその法理論は,国家無答責,安全配慮義務,除斥期間のすべてについて現在までの一番古く
て悪い判例理論をそのまま適用したもので極めて不当なものである。本件事件においては,これまでに請求を認容した判例もあり,また結果的には請求を棄却し
ながらも新しい法理論の可能性を提起した判例も多く生み出してきた。しかし,本判決には,事実認定と法的判断の間に一貫性がなく,これまで各地の裁判所が
積み上げてきた法理論を真剣に検討した形跡が見られず,司法の使命を放棄したものである。
3 私たちは裁判の結果に深い失望を禁じ得ない。それは単に請求を棄却したからではない。一方で国家と加害企業の悪質な犯罪行為を認定しながら,何故,そ
の被害に真摯に向き合い,事実に即した法理論を作り上げようとしないのか。その努力と勇気のない裁判所に対する失望である。この判決は,日本の心ある人々
ばかりでなく,この問題の解決を願っている多くの中国国民に日本の司法への深い失望と不信を招くであろう。
4 しかし,本判決が認定した加害事実とその責任は,時が経てば消滅するものではない。被告国及び各企業は、本判決の認定した加害事実と被害の重みを真摯
に受け止めるべきである。そして、政治的,道義的責任において、裁判の最終結果を待つことなく、原告らに対する謝罪と補償の実現に向かって取り組むべきで
ある。
私たちは、原告らを含む連行された中国人すべてに対する謝罪と補償のための「強制労働補償基金」を政府及び連行企業が共同で実現するよう要求する。また,
企業に対し,政府の解決を待つことなく,自ら「個別企業補償基金」を設立して被害の回復を図ることを強く訴える。
既に多くの被害者が亡くなり、時間的な余裕はない。解決を先延ばしにすることは,日中関係の改善を妨げるばかりでなく,両国民の感情的悪化を増幅しかねな
い。また,企業の中国内での経済活動にも悪影響を及ぼすであろう。この現実を直視して、被告国及び企業は、本問題について全面解決の道筋をつけるべきであ
る。
われわれは、日中の心ある人々と手を携え、本問題の全面解決のために闘うことをここに声明する。
2006年3月29日
中国人戦争被害賠償請求事件弁護団
団 長 弁護士 尾山 宏
団長代行 弁護士 小野寺 利孝
中国人強制連行・強制労働事件弁護団全国連絡会
事務局長 弁護士 森田 太三