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強制連行群馬訴訟 前橋地裁 判決に対する弁護団声明(1)現地弁護団の声明

2007年(平成19年)8月29日

弁護団声明

中国人強制連行・強制労働損害賠償等請求群馬事件
原告弁護団代表 弁護士 廣田 繁雄

1 本日,前橋地方裁判所民事第1部(小林敬子裁判長)は,提訴後5年余の審理を経て,中国人強制連行・強制労働損害賠償等請求群馬事件に関する被告国, 被告株式会社間組(現被告青山管財株式会社)及び被告鹿島建設株式会社に対する各請求について,原告らの請求をいずれも棄却する判決を言い渡した。

2 同判決は,中国人強制連行・強制労働について,事実認定をしたうえ,被告国と被告両企業が共同して,中国人労働者に対する強制連行と強制労働を行ったものであることを明確に認定したことは,高く評価することができる。

さらには,強制連行・強制労働の事実はなかったとする被告企業らの主張と強制連行・強制労働に加担することがなかったという(被告国の)主張を敢えて取り上げたうえ,これを証拠関係から明確に否定した事実は見過ごしてはならない。

被告国と被告両企業は,被告らが中国人労働者に対し共同して行った行為について,戦後62年余の歳月を経て,同裁判所より前記のとおり認定された事実を,何よりも重く受け止める必要がある。

同時に,群馬県民の全ては,この群馬の地において,中国人労働者が過酷な労働により尊い命を落とし,或いは大きく傷ついて,その運命を翻弄された事実の存在を改めて胸に刻むべきであると考える。

3 被告らが共同して行った本件強制連行・強制労働による加害と被害の事実を認定したにもかかわらず,同判決は,請求権の発生自体についてなんらの判断を 加えることなく,最高裁判所平成19年4月27日判決の論理をそのまま引用して,裁判上訴求することが出来ない権利であることを理由に原告らの請求をいず れも棄却した。被告らによる強制連行・強制労働の事実を認定しておきながら,不法行為の成否や安全配慮義務違反の事実についてなんら触れることもなく,簡 単に,原告らの請求をすべて棄却したことは,人権救済の砦としての裁判所の役割を放棄するものであり,極めて不当な判決と言わなければならない。

4 群馬事件についても,全国的な中国人強制連行・強制労働事件とともに,現在なお解決されるべき必要性があることに全く変わりがない。そのことは,不当 判決を言渡した後に,裁判長より「判決ではありませんが,裁判所としていささかの感想を申し上げます。」として述べられたとおりである。

すなわち,「原告らは,敵国日本に強制的に連行され,劣悪で過酷な労働により被った精神的・肉体的な苦痛は誠に甚大であった。原告らの請求は,日中共同声 明第5項に基づいて棄却せざるを得ないが,最高裁判決も述べるとおり,サンフランシスコ平和条約のもとでも原告らの請求に対して債務者側が任意に自発的に 対応をすることは妨げられないのであるから,被害者らの被害の救済に向け自発的な関係者による適切な救済が期待される。」と述べた。

前記最高裁判決と同様の所感を小林裁判長が述べたとおり,中国人強制連行強制・労働事件を審理する裁判所全体の流れは,国と企業による共同加害の事実を認めて,その最終解決を促す方向で定着しているとみることができる。

そうであるならば,本判決が明確に認定した本件原告らの被害事実に則り,被告らは,速やかに,本件原告らの救済に乗り出すべきである。本件強制連行・強制 労働に遭った原告らは,既に80歳を超える高齢に達しており,一日も早い解決が強く求められるところである。

5 被告国及び被告両企業は,正義と衡平の立場を何より尊重し,道義的・人道的責任を尽くし,速やかに,本件強制連行・強制労働事件の最終解決を図るべきである。

私たち群馬弁護団は,原告とその家族及び群馬訴訟を支援する県民の会をはじめとする本件を支援する多くの県民と連帯して,更に全国各地の中国人強制連行強 制労働事件の弁護団ならびに遠く中国における全被害者とこれを支える律師等その他の人達とも協力し,更に問題解決のために邁進する決意であることをここに 表明する。

以上

強制連行群馬訴訟 前橋地裁 判決に対する弁護団声明(2)全国弁護団の声明

2007年(平成19年)8月29日

弁護団声明

中国人戦争被害者賠償請求弁護団
   団長 弁護士 尾山 宏
   団長代行 弁護士 小野寺利孝
中国人強制連行・強制労働事件弁護団全国連絡会
   事務局長 弁護士 森田太三

1 本日、前橋地方裁判所(小林敬子裁判長)は、中国人強制連行・強制労働群馬訴訟事件において、国と企業である鹿島建設株式会社,株式会社間組(現青山管財株式会社)に対する損害賠償請求事件につき判決を言い渡した。

本判決は、中国人強制連行・強制労働事件に対して,加害と被害の事実を詳細に認定し,その違法性を厳しく指摘した上で,国及び企業による共同の強制連行, 強制労働の事実を認定した。しかし他方,原告の請求権は,日中共同声明5項によって裁判上訴求する権能を失ったとする本年4月27日の西松建設最高裁判決 を踏襲して,その他の法律論には触れず請求を棄却するという不当判決を言い渡した。

2 本件訴訟において,被告企業である鹿島建設株式会社,青山管財株式会社(旧間組)は事実そのものを全面的に争い,強制連行も強制労働もなかったと主張 してきた。しかしながら,本判決は,法廷に出された証拠を詳細に検討して,被告らの反論をことごとく否定して,国と企業の共同の強制連行,強制労働の事実 を全面的に認定した点は正当である。

その認定は明快であり,「被告国は,被告企業らを含む土木建築業界及びその他の産業界からの要望を受けて,・・・中国人労働者を日本国内に移入する内容の 政策を決定してこれを実行し,・・・原告ら等は・・・その意思を完全に無視される形で,一方的に日本国内に連行された。」「被告企業らは,・・・国の政策 の決定に関与しただけでなく,政策の実行面においても,現地に職員を派遣するなどして協力し,原告ら等の日本国内への連行を実現させた。」「被告らは共同 して原告ら等を日本国内へ強制連行したものといえる。」「原告ら等は,地理も言葉もわからない敵国において,常時監視され,・・・休みもほとんど与えられ ず,過酷な長時間労働に従事させられたものであって,・・・被告企業らの事業場における原告ら等の就労は強制労働にほかならない。」「被告国は,・・・軍 需部門の労働力不足の解消を国策に掲げ,・・・群や関係官庁とが一体となって,原告ら等の意に反する労働を強制したとの評価を免れない。」「被告らは共同 して,原告ら等に対し被告企業らの事業場での労働を強制したものといえる。」と判断した。

また,被告企業らの強制連行,強制労働の事実はなかった,あるいは強制連行には加担しなかったとの主張についても,外務省報告書,事業場報告書作成の経過 や内容,現地調査員の報告書,「華鮮労務対策委員会活動記録」,「間組百年史」(社史)などを子細に検討し,ことごとく排斥した。
中国人強制連行強制労働の国と企業の共同加害行為の事実あるいは共同不法行為の事実は,本判決によっても厳しく指摘され,司法の判断は今や揺るぎないもの である。強制連行強制労働の事実は,慰安婦問題とともに,ILO条約勧告適用専門家委員会で幾度も勧告されるなど,国際社会においても公知の事実であり, もはやこれを争うことはできない。

3 その上で,本件判決は,口頭ではあるが次のように付言した。
「原告らは,敵国日本に強制的に連行され,劣悪で過酷な労働により被った精神的,肉体的な苦痛は甚大であった。原告らの請求は,日中共同声明第5項に基づ いて棄却せざるを得ないが,最高裁判決も述べるとおり,サンフランシスコ平和条約のもとでも原告らの請求に対して債務者側が任意に自発的に対応することは 妨げられないのであるから,被害者らの被害の救済に向け自発的な関係者による適切な救済が期待される。」

西松建設最高裁判決が最後に「まとめ」として指摘し,また,本判決でも裁判所が付言したように,過去の犯罪的残虐行為に対して、その事実を真摯に認め、謝 罪し、賠償等の解決をすることは,中国をはじめアジア諸国との真の友好を築くことであり,日本国が国際社会において信頼を築く上での新しい出発点となる。

私たちは,すでに2004年3月,この全面解決を目指す「中国人強制労働補償基金」の提言を発表し,さらに本年4月の西松最高裁判決後もこの「補償基金」の設立を求め続けている。

この提言は,日本に連行された約4万人の中国人被害者の全体的な解決をめざすものであり,すでに中国の各界からも基本的な賛同を得られている。戦後すでに 62年余が経ち,多くの被害者がすでにこの世を去り生存者も残り少なくなっている中で,未だに事実を認めず,謝罪もせず,解決をいたずらに引き延ばすこと は被害者の反感と怒り,憎しみを高め,日中間の歴史認識の溝を深めるだけであり,絶対に避けなければならない。

残された被害者の命のあるうちに、被害の救済と人権の回復を図ることは国と企業の道義的、政治的な責任である。国と企業鹿島建設株式会社,青山管財株式会 社(旧間組)は、強制連行・強制労働の事実,その共同不法行為の事実を真摯に受け止め、中国人強制連行・強制労働の事実を認めて、被害者に対して謝罪し、 その解決のための今こそ勇気ある決断を行うべきである。

以上

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