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戦後補償裁判で初めての学者証言が実現

(1)浅井基文教授

 731・南京虐殺損害賠償裁判で、本年6月17日、明治学院大学の浅井基文教授の証人尋問が実施されました。
 教授は、まず、日中共同声明並びに日中平和友好条約締結交渉を通じて、中国側が、個人の損害賠償請求権を放棄したことを裏付ける客観的証拠は何ひとつ存在しないこと明らかにしました。
 また、戦後日中平和友好条約締結に至るまで実に33年間の長きに亙り、日中間の国交正常化が図れなかったことの主な責任は、アメリカの対中国政策をそのまま受け入れ、一貫して戦争責任を認めようとしなかった日本にあることも明らかにしました。
 次いで、日中国交正常化以前はもちろん、その後においても、ごく最近に至るまで、原告らを含む一般の中国人は日本国を相手に戦争によって被った被害の賠償 を求めて日本で裁判を起こすことは、政治的側面、法的側面、海外渡航可能性という側面、経済的側面などあらゆる角度から見て、ごく最近にいたるまで不可能 であったことを、詳細な文献と先生ご自身が外交官として直接見聞された事実に基づいて証言されました。
 最後に、教授は、1995年以後、中国側の対日感情が急激に悪化した原因が、相変わらず戦争責任を認めようとせずに、中国をはじめとするアジアの人々に対 して無関心、無神経な態度をとり続ける日本側にあったことを指摘した上で、本件裁判が中国は勿論世界中の国々が強い関心を持って注目されていること、国際 社会の尊敬を受けるに足る日本国、日本人となるためには、裁判所が戦後の日本政府の誤りを厳しく正す判決を下すことがぜひとも必要であること、止むに止ま れぬ憤慨・怒りに突き動かされて本件提訴に立ち上がった中国人犠牲者及びその遺族に対し、形式的な法的議論で問題をすり替えるような判決を下すこと絶対に 許されないことを強調されて証言を終えられました。
 戦後日中関係の専門家として第一人者である浅井先生の証言は、圧倒的な迫力と反論の余地を残さない完璧な論証により、原告を含む中国人が、日本に対して戦 争賠償を求めて裁判を提起することがごく近年にいたるまで不可能であったことを裁判所の前で明らかにし、本件訴訟の最大の争点のひとつである時効除斥の障 害を突破するための重要な証言となりました。

弁護士 大江 京子(1998年8月25日)

(2)内池慶四郎教授

 1998年6月17日、東京地方裁判所最大の第一○三号法廷では、百人を超える傍聴人の静かに耳を傾ける中で、午後三時頃、慶應義塾大学法学部教授を退官 された直後の、内池慶四郎慶応大学名誉教授の物静かな、穏やかな、しかし、かなり頑固なともいうべき教授独自の陳述が為されていた。この重要な法廷での教 授の陳述は、時効・除斥制度の本質的な内容についての考え抜かれた貴重な解説に始まり、教授の四十年をも超えんとする学者生活の成果である民法制定の歴史 的沿革・民法解釈学の歴史的な変遷論・解釈の基本的な方法論をしっかりと踏まえた上での、民法七二四条論、特にその後段の法意論を説いて余す所のないもの でありました。
 この中国人戦争被害者損害賠償請求意見のすべてにおいて、「時効・除斥に関する原告の主張」の是非をめぐっての闘いは、「最後の闘い」であります。弁護団 としては、「主たる若き精鋭先頭隊として、明晰にして説得力のある合理的な論理を大胆に提示される国際公法の阿部浩巳神奈川大学助教授を、そして中核とな る実戦部隊として、国際私法において鋭い論法で容赦のない優れた論理を展開される北海道大学の奥田安弘教授、そして、人間性と強烈な情熱に裏打ちされた理 性の人明治学院大学の浅井基文教授らの部隊が、仮に撤退を余儀なくされた時、最後に、雌雄を決するのが、わが温厚にして厳しい紳士内池教授の本隊である」 と考えております。
 ところで、この舞台での内池先生の陳述のハイライトは、本件事件の時効・除斥問題に明るい希望を投げかけるような平成十年六月十二日の最高裁判所第二小法廷判決についての学者としての「初めての解説と批評」でありました。
 この判決について、内池先生は、次のような傾聴すべき趣旨の証言をされました。「この判決は、『不法行為の被害者が、不法行為の時から二十年を経過する前 六カ月内において右不法行為を原因として心身喪失の状況に在るのに法廷代理人を有しなかった場合においてその後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就 職した者がその時から六カ月以内に右損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法一五八条の法意に照らし、同法七二四条後段の効果は生じな いものと解するのが相当である』と判示したが、この判決は、更に、次のように評価することができる」とされました。即ち、「本判決は、従来の学説が一般的 に肯定している時効停止事由の除斥期間への類推という手法を更に一歩進めて、信義則ないし権利濫用の法理から停止事由を類推せざるをえない論拠を引き出し ているわけであり、このことは一面においては時効停止事由を広く類推していることに歯止めをかけた様にも見えるが、その歯止めに基準は、援用権の信義則違 反・権利濫用の禁止という一般条項的判断に復帰していると見ざるをえない。このような意味で、本判決の理由付けは、形式的には、平成元年判決(編集部注: 鹿児島の砲弾爆発事件についての判決)との論理的整合性を保つもののように装いつつも、実質的には、一歩踏み込んだ内容をはらんでいる。本判決は、実質的 には、河合裁判官の少数意見が指摘するように、平成元年判決の主張を内容的に覆している点で、実は判例変更の場合になるように思われる。私見は、本判決の 論理を平成元年の形式論を実質的に乗り越えようとする除斥期間説の新たな展開として積極的に評価するものではあるが同じに除斥期間説の論理的限界と実務上 の困難を端的に露呈するものに他ならないと感ずる。私見は、河合少数意見の説く不法行為責任の制度的意味合いと共に、その不法行為責任の期間による制度法 である民法七二四条の元来の立法趣旨からして、本条後段の二十年期間が、時効期間であることを正面から肯定し、その援用が信義則違反・権利濫用となるもの か、否かをストレートに判定すべきものであったと考える」と。
 平成元年六月十二日判決についての、これほど明晰にして要を得た理解と批評が、内池教授を措いて何人に期待できるでありましょうか。時の流れと具体的な事 件の事実関係は必ずや平成元年判決を見事に正面から、名実ともに変更するそのような判決を生み出すに違いありません。
 わが弁護団の要請に応えて、堂々たるそして素晴らしい内容の証言をされた内池教授に、衷心より、深く感謝の念を捧げたいと存じます。

弁護士 兵藤 進(1998年8月25日)

(3)阿部浩巳助教授

 七月二十二日午後一時三十分東京地裁一0三号法廷で国際公法学者阿部浩巳神奈川大学助教授の証人尋問が行われました。阿部教授は若手ながら日本の国際人権 法の権威です。国連で法律補佐官という実務経験も積んでおられます。今回の証人尋問はカナダでの在外研究を直前にした極めて多忙な時期に行われました。
 教授の証言の趣旨はハーグ条約三条の解釈として個人の国際法主体性を認めることができるとすることにありました。
証言に先立つ教授の意見書の骨子は以下の通りです。


 1.国際法と日本の裁判実務
   1.個人の国際法主体性
   2.自動執行性または直接適用可能性
 2.国内法としての国際法
   1.国際法の国内法的効力
   2.国際法の国内適用
 3.ハーグ条約三条の検討
   1.前提的知識
   2.条文の解釈
     1.通常の意味
     2.準備作業
     3.事後の実行
   3.適用可能性
 4.免責事由の有無
 5.結び
   1.(国際法と日本の裁判実務)で国際法が国内法化する要件について、国側の主張するような主観的要件、客観的要件の充足は不要であること。国側の主張は現実の裁判実務に則していないことを証言されました。
   2.(国内法としての国際法)で日本は国際法をそのまま国内法に受け入れる「一般受容体制」をとっており、国際法を裁判の場で援用できるかどうかは、当該国際 法が司法審査基準足りえぬほど不明確かどうかによって決定されるべきものであり、田の国内法と何ら変わらないことを証言されました。
   3.(ハーグ条約三条の検討)で、一九八○年代以降カルスホーベン教授などの努力によって展開されてきた条約の解釈についての国際的な潮流を証言されました。

弁護士 山森 良一(1998年8月25日)

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