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社会的影響力 [社会心理学講座] Social Power


担当:今井芳昭

影響力尺度 説明

《社会的影響力尺度の説明》

(1) 社会的影響力尺度の開発(信頼性と妥当性)
 社会的影響力を測定するにはどのようにしたらよいのでしょうか。いちばん確かな方法は、ある与え手と受け手とを選び、両者の間に生じるいくつもの働きかけのエピソードを観察し、どのような内容のことを与え手が働きかけ、受け手がどのように反応したのかを観察し、受け手になぜ従ったのか、あるいは、従わなかったのか、その理由を尋ねていくことでしょう。そして、その観察結果、回答結果から受け手に対する与え手のもつ社会的影響力の種類およびその大きさを推測していくことになります。しかし、その働きかけにおいて両者のプライバシーに関わることも生じてくるでしょうから、この方法は倫理的に問題になる可能性があり、また、実施コストが高くなると予測されます。
 次善の策として、種々の与え手(上司、配偶者、友人、親、子など)が受け手に対してもっていると思われる社会的影響の種類と程度を質問紙に回答してもらう方法が考えられます。その際、2つの質問紙のパタンが考えられます。1つは、両者の対人関係ごと(上司−部下、配偶者同士、親−子、医師−看護師、教員−学生など)にそれぞれの対人関係で生じやすい働きかけのエピソードに基づいて質問項目を作り、回答してもらうことが考えられます。しかし、この方法では、各対人関係に即した具体的な異質問項目を設定することができますが、対人関係間の比較は(質問項目が異なることになりますので)、難しいと言えます。そこで、2つ目の方法として、どの対人関係にも用いることができるような、汎用性のある質問項目を作成することも考えられます。それが以下に紹介する社会的影響力尺度です。ただし、この方法にも短所はあり、汎用性を求めるあまり、個々の質問項目は抽象的にならざるを得ないということです。しかし、第1の方法で不可能であった、対人関係間の比較は可能となります。

(2)社会的影響力尺度
(PSPS: Perceived Social Power Scale; Imai, 1993)

 上記の議論に基づいて、受け手の視点から与え手の社会的影響力を測定するための尺度を作成しました。つまり、ある人(与え手)が自分(受け手、回答者)に対してどのような影響力をもっていると思うかを回答者に答えてもらうという形で測定することにしました。
 最終的に、それぞれの影響力を測定するために4つの質問文を使うことにしました(ただし、正当影響力の場合は3項目)。「社会的影響力認知尺度」として使用することにした質問文は、以下に示したようなものです。それぞれの質問文のアンダーラインの部分には、与え手となる特定の人物(例えば、父親、母親、配偶者、友人、上司、教員など)を入れるようになっています。

@信頼性
 こうした心理学的な尺度を作成する際には、尺度の信頼性と妥当性を確認することが必要です。信頼性とは、尺度の測定値における一貫性や安定性です。何回測定を繰り返してもほぼ同じ結果が得られれば、その尺度は一貫した結果を提供する、測定結果が安定しているということができます。そのため、信頼できる尺度であると判断できます。逆に、測定するたびに測定結果が異なっていると、どれが正しい値のかわからず、信頼できない尺度であるということになります。
 尺度の信頼性を判断するには2つの基準があります。1つは再検査法であり、1つの尺度を2週間ほどの期間をおいて、同じ回答者に回答してもらい、その2つの結果の相関を計算する方法です。尺度が安定していれば、1回目と2回目の測定値はほぼ同じ値であるはずです。通常、1回目と2回目の測定値の相関が.80以上であればよいとされています。
 2番目の判断基準は、尺度内の質問項目間の関連性です。尺度はある測定対象を測定するために複数の質問項目が集められているはずですから、その尺度は相互に関連し合っているはずです。もし異質な項目が含まれていれば、他の測定対象も測定していることになりますから、信頼できない尺度であると判断できます。
 尺度内の質問項目間の関連性を示す指標としてCronbach(1951)のα係数(信頼性係数)があります。0から1までの値を取り、関連性が高ければ1に近い値になり、通常.80以上の値であることが望まれています。ただ、質問項目数が多くなるとα係数も大きくなることには注意する必要があります。
 社会的勢力認知尺度の各下位尺度のα係数は以下のような結果になっています(Imai,
1993)。各社会的影響力につき4つのα係数を示しましたが、それぞれ、父親(n=183)、母親(n=190)、友人(n=182)、先輩(n=183)を対象とした場合の数値です。
  賞影響力   = .85, .85, .85, .85
  罰影響力   = .68, .74, .73, .81
  正当影響力 = .63, .66, .53, .65
  専門影響力 = .68, .70, .62, .74
  参照影響力 = .85, .84, .83, .86
  魅力影響力 = .91, .84, .81, .88
 正当影響力のα係数が少々低いようですが、それ以外の社会的影響力は基準をほぼ満たしているということができます。また、対象人物によって多少値の異なることもこの結果から知ることができます。

A妥当性
 次に、妥当性とは、尺度が妥当(正しい)かどうかを示す概念です。測定すべき対象を正しく測定しているかどうかということです。したがって、尺度の妥当性が低く、測定すべき対象を測定できていなければ、いくら信頼性が高くても意味のないことになりますので、信頼性よりも妥当性の方が重要であることがわかります。
 妥当性を判断する基準は、他の基準を基に判断することになります。他の基準には、実際の行動パタン、他の心理尺度、専門家の判断などがあります。そのような外的基準と尺度値との相関を算出することによって妥当性を推定することができます。妥当性を判断するために、以下のような種類の妥当性が考えられています。

a. 構成概念妥当性 (construct validity)
 村上(2006)によれば、「項目の内容的な適切性や代表性と、理論的に予測される外部基準との関連性も包含した、より広範囲な妥当性概念」(p. 55)です。つまり、以下の基準関連妥当性と内容的妥当性を含むものとして捉えられています。そして、村上(2006)は、構成概念妥当性の要件として、当該の尺度と外的基準との相関を示す予測力(基準関連妥当性に相当)、同じ構成概念を測定する既存の尺度との相関(同じく、基準関連妥当性)、種々の集団への適合性を示す妥当性の一般化、質問項目間の類似性を示す内容適切性、質問項目間の内的整合性(信頼性)、因子分析による内容適切性の判断、既存の尺度との弁別、実験的介入による尺度値の変化、共分散構造分析やパス解析を利用した、構成概念を用いたモデルの適合性の判断を挙げています。

b. 基準関連妥当性 (criterion-related validity)
 当該の尺度と関係のあることが理論的に予測される尺度や変数(外的基準)との関連性(相関係数)を算出することによって確認されます。外的基準との相関が高ければ、基準関連妥当性が高いと判断されます。この基準関連妥当性には、2種類あります。予測的妥当性と併存的妥当性です。いずれの場合も、外的基準の妥当性が既に確認されている必要があります。
 *予測的妥当性 (predictive validity)
  当該の尺度がどの程度正確にそれと関連する事象を予測できるかを示すものです。
 *併存的妥当性 (concurrent validity)
  尺度Aと尺度Bの相関を算出することによって妥当性を推定します。

c. 内容妥当性 (content validity)
 測定すべき対象の内容を質問項目が適切に表現しているかどうかという観点です。例えば、測定対象の一部分だけしか測定できなければ、それは測定対象を測定したことにはならないという考え方に基づくものです。測定対象の主要な側面を網羅しているかどうかは、例えば、専門家の判断を参考にすることが考えられ、専門家間の一致率が高ければ、内容的妥当性が高いと推定されます。
 この内容的妥当性は、質問項目の内容にだけ注目し、回答者の回答パタンには関係なく判断されるので、妥当性としての基準となりうるか、Messic(1975)のように疑問を投げ掛ける研究者もいます。
 社会的勢力認知尺度は、内容妥当性を確認するために、社会心理学を専攻とする大学院生に各質問項目がどの社会的影響を表現したものであるかを評定させ、その一致率を算出しています(Imai, 1989)。
  賞影響力=.84, 罰影響力=.97, 正当影響力=.94, 専門影響力=.84, 参照影響力=.91
 社会的勢力認知尺度の内容的妥当性はある程度高いと言えますが、基準関連妥当性についてはさらにデータを取り、外的基準との関連性を明確にしておく必要があります。