含意の命題をあらわす論理記号 AB : トピック一覧  

 ・ AB」の読み
 ・ AB」の真理値表
 ・ AB」の歴史
 ・ AB」の言い換え表現
 ・ AB」の具体例
     「●●原発が安全であるならば、●●原発を再稼働する」
     x>2⇒x>1」
 ・ AB」と十分条件・必要条件
 ・ AB」の証明
 ・ AB」の関連事項


論理記号一覧 
総目次
 

AB」の読み

・論理記号「AB」は、
   含意の命題 
    「命題Aならば命題B」「 ABの十分条件 」「BAの必要条件」  
     " A only if B", " B if A " ," A implies B ","B is implied by A"
  を表す。

 ※記号「AB」の代わりに、「AB」を用いるテキストもある。
      [→岡田『経済学・経営学のための数学』]

AB」の真理値表

・含意の命題「命題Aならば命題B」(論理記号では「AB」)の真偽は、
  次の真理値表により、命題A,命題Bの真偽から、定められる。





【文献】
 ・中谷『論理』 2.1 条件文 (pp.29-32)
 ・杉浦『解析入門I』400
 ・中内『ろんりの練習帳』4.8(pp.43-47);「条件命題」
 ・本橋『新しい論理序説』44-56;
 ・神谷浦井『経済学のための数学入門』18-19;
 ・入谷久我『数理経済学入門』1.1.2(p.3)
 ・岡田『経済学・経営学のための数学』附録1(p.247);
 ・Chiang, Fundamental Methods of Mathematical Economics 759.


 ・井関『集合と論理』1.3(p.15);;
 
A
B
AB
 真/偽は、その命題が「成り立つ/たない」ぐらいにとる。

  ※真理値表をみるとわかるように、AB は、「 AならばB 」という語感と異なって、Aが成り立たないときは、いつでも、AB が成立する(真である)ように定義されている。
    つまり、「AB 」は、実は、( ¬A ) B 「Aが成り立たないまたはBがなりたつ」である。 
  ※背理法による証明は、このことを根拠とする。 [中内『ろんりの練習帳』65] 
  ※「いかなる集合Aに対しても、φ⊂A」は、このことを根拠とする。

AB」の歴史

 ・井関『集合と論理』(p.16:脚注1)によれば、このように「ならば」の定義を定式化したのは、米国のパース C.Peirce (1839-1914)。 
 ・中谷『論理』2.1 条件文 (2.2) (p.30)は、このような「ならば」の定義は、古代ギリシアのメガラ-ストア学派によって開拓されたと指摘。

含意の命題「AならばBABの言い換え

・下記の表現は、同じこと。互いに言い換え可。

 (表現1) 「AならばB」        論理記号で表すと 「 AB 」   
 (表現2) 「BでないならばAでない 」   論理記号で表すと 「 ¬B¬A 」 
 (表現3) 「AでないまたはB」       論理記号で表すと 「 ( ¬A ) B 」 
 (表現4) 「『AかつBでない》』ということはない」 論理記号で表すと 「 ¬ ( A (¬B) )」 

・どうして、(表現1)と(表現2)は言い換え可?  対偶だから。 

・どうして、(表現1)と(表現3)は言い換え可?

  真理値表を書くと(→右表)、    

  (表現1)と(表現3)の真偽が一致するとわかるので。      
A
B
AB ¬A ( ¬A ) B

・どうして、(表現3)と(表現4)は言い換え可?  ¬(AB) と (¬A)∨(¬B) とは言い換え可能 より。




・(表現1)と(表現2)の言い換えについて言及している文献
   ・中内『ろんりの練習帳』定理1.9.2(p.48);1.11(2)(p.65)
   ・中谷『論理』2.1条件文-B.逆裏対偶 (2.4) (p.33):真理値表をつくればすぐ分かると指摘。
   ・井関『集合と論理』1.4恒真式 例2(1) (p.21):真理値表をつかった説明。式の変形をつかった説明。
・(表現1)と(表現3)の言い換えについて言及している文献
   ・中内『ろんりの練習帳』定義1.8.1(p.43):(表現3)(表現4)を(表現1)の定義としている。
   ・中谷『論理』2.1条件文-A.条件文の意味 (2.2) (p.30):(表現3)を(表現1)の定義としている。
   ・井関『集合と論理』1.4恒真式 (4.3) (p.18) 
   ・野矢『論理学』問題17(1) (p.44)
・(表現1)と(表現4)の言い換えについて言及している文献
   ・中内『ろんりの練習帳』定義1.8.1(p.43):(表現3)(表現4)を(表現1)の定義としている。
   ・中谷『論理』 2.1 条件文-A.条件文の意味(2.1)(p.29):(表現4)を(表現1)の定義としている。
   ・井関『集合と論理』1.4恒真式 (4.3) (p.18)
    
・(表現3)と(表現4)の言い換えについて言及している文献
   ・中谷『論理』 2.1 条件文-A.条件文の意味(2.1)(pp.29-30):二重否定とモルガン則を使うと指摘。








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含意の命題「AならばBABの具体例

【例】 20xx年某国で原発事故発生、不安にかられた某国国民の世論に押されて、某国政府は国内すべての原発の稼働停止に追い込まれた。
   1年後、某国首相は、「●●原発が安全であるならば●●原発を再稼働する」と宣言、
   数週間後、某国首相は、実際に●●原発再稼働を実行した。
   ところが…
   「●●原発が安全」ではないことが、最悪のかたちで露呈!
   「安全でないのに再稼働しただろ! この嘘つき! デマ野郎!」と罵る世論。
   これに対し、首相は、胸を張って断言。「ワタクシは嘘をついておりません。」

   [問1] 首相は嘘をついたのだろうか?
   [問2] 首相が「●●原発が安全であるならば●●原発を再稼働する」という宣言に背いたと言えるのは、いかなる行動を首相がとった場合だろうか?
   [問3] 「●●原発が安全であるならば●●原発を再稼働する」という宣言を他の表現に言い換えたら、どうなるだろうか?

   [答1] 首相は嘘をついていない。

     「●●原発が安全であるならば●●原発を再稼働する」の真理値表を書き出してみよう。 

 
●●原発が安全である ●●原発を再稼働する ●●原発が安全であるならば●●原発を再稼働する」
←1行目
←2行目
←3行目
←4行目
  

     ・真理値表から明らかなように、
      「●●原発が安全」でない場合、「●●原発を再稼働」しても、「●●原発が安全であるならば●●原発を再稼働する」は真。
      だから、
      首相が「●●原発が安全」でない場合に、「●●原発を再稼働」したところで、自らの宣言に背いたことにはならない。
     ・ちなみに、「●●原発が安全」でない場合に、「●●原発を再稼働」しないとしても、「●●原発が安全であるならば●●原発を再稼働する」は真。
     ・そもそも、「●●原発が安全であるならば●●原発を再稼働する」という宣言は、
         「●●原発が安全」でない場合の「●●原発再稼働」の有無について、何ら言及するものでないのだ。

   [問2]
     ・真理値表をみると、「●●原発が安全であるならば●●原発を再稼働する」という宣言が偽になりうるのは、
       「●●原発が安全」であるのに、「●●原発を再稼働」しないケースだけ。
     ・だから、首相が、「●●原発が安全であるならば●●原発を再稼働する」という宣言に背いたといえるのは、
          「●●原発が安全」であるのに、「●●原発を再稼働」しなかった場合だけである。
     ・つまり、「●●原発が安全であるならば●●原発を再稼働する」という宣言は、
          「●●原発が安全であるのに、●●原発を再稼働しない」という選択の否定を表明したただけだ
      ということになる。

   [問3]  「●●原発が安全であるならば●●原発を再稼働する」の言い換え
          (表現4) 「『《●●原発は安全》かつ●●原発を再稼働しない》』ということはない」  
                    つまり、「●●原発が安全であるのに、●●原発を再稼働しない」という選択肢を否定。
          (表現2) 「●●原発を再稼働しないならば●●原発は安全でない 」   
          (表現3) 「●●原発は安全でないまたは●●原発を再稼働する」
                 つまり、 ●●原発は、安全でない、再稼働するか、のいずれか一方、あるいは、その両方に該当する。  

       
【例】 Ax >2」 Bx >1」

  ※真理値表:真/偽は、その命題が「成り立つ/たない」ぐらいにとる。
          | A | B | A⇒B | 
          ├───┼───┼─────┤ 
      2 <x | 真 | 真 |  真  | ←1行目 
          | 真 | 偽 |  偽  | ←2行目
    1 <x ≦2 | 偽 | 真 |  真  | ←3行目
      x ≦1 | 偽 | 偽 |  真  | ←4行目

  「A:x >2 ⇒ B: x >1」が偽となる2行目はありえないので、
  「A:x >2 ⇒ B: x >1」は常に真と判断できる。 
  Aが偽である場合(x≦2)のBの真偽は、
  「A:x >2 ⇒ B: x >1」の真偽に影響を与えていないことに注意。



      


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AB」と十分条件・必要条件との関連
 「A ⇒ B」という命題が成り立っている(真である)と仮定するならば、
 その仮定のもとでは、
 「A ⇒ B」が偽となる、真理値表2行目のケースは、そもそもありえないので、  
 真理表2行目は削除して考えて良いことになる。

 つまり、
 「A ⇒ B」という命題が成り立っている(真である)
 との仮定のもとでの真理値表は、

A
B
AB
 ←1行目 
 ←2行目
 ←3行目
 ←4行目
  

 

A
B
AB
 ←1行目 
 ←3行目
 ←4行目
  

 同じことをベン図でも考えてみよう。
   
 「A ⇒ B」という命題が成立しないのは、上のベン図のグレーの部分(真理値表2行目)、
 「A ⇒ B」という命題が成立するのは、それ以外のすべての領域(真理値表1・3・4行目)である。
 だから、
 「A ⇒ B」という命題が成り立っている(真である) (真理値表1・3・4行目)と仮定するならば、
 その仮定のもとでは、
 上のベン図のグレーの部分(真理値表2行目)はそもそもありえないということになるので、
 グレーの部分を削除したベン図で考えるのが妥当となる。
 グレーの部分が存在しえないようにベン図を書きなおすと、
 「Aが成立するケース」「Bが成立するケース」とせざるをえないので、
 教科書等でよく見かける下の図になる。
   
 以上からわかるように、
 「A ⇒ B」という命題が成り立っている(真である)との仮定のもとでは、
 Aが成り立つ(真である)ならば、つねに、Bも成り立つが(真理値表1行目)、
 Bが成り立つ(真である)からといって、Aがなりたつとも限らない(真理値表2-3行目)
 ということになる。
 「A ⇒ B」という命題が成り立っている(真である)ならば、
 AをBの「十分条件」、BをAの「必要条件」と呼ぶのは、
 このような意味においてである。


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AB」の証明

中学以来おぼえさせられてきた「A ⇒ B」が成立する(真である)ことの証明方法は、
なぜ妥当性をもつのか。

(1) Aの真偽の仮定から出発して、その仮定下でのBの真偽を確認して、「A⇒B」の真偽をテストする証明方法

Aが成立する(真である)という仮定のもとで、Bが成立する(真である)かどうかの検討はするが、
Aが成立しない(偽である)という仮定のもとで、Bが成立する(真である)や否やの検討はそもそもやらない。
なぜだろう?
これは、「A ⇒ B」という命題の真偽を、上の真理値表で定義したことによる。
つまり、
Aが偽である場合、つまり、真理値表の3〜4行目に当る場合は
「A ⇒ B」という命題はつねに真とされるから、このケースの検討は不要であるが、
       | A | B | A⇒B | 
       ├───┼───┼─────┤ 
       | 偽 | 真 |  真  | ←3行目
       | 偽 | 偽 |  真  | ←4行目
Aが真である場合、つまり、真理値表の1・2行目のどちらかにあたる場合は、
そのどちらかに当るかによって、「A ⇒ B」という命題の真偽が変わってくるゆえ、
このケースでの検討が不可欠となる。
       | A | B | A⇒B | 
       ├───┼───┼─────┤ 
       | 真 | 真 |  真  | ←1行目 
       | 真 | 偽 |  偽  | ←2行目
ここで、Aが真であると仮定すると常にBが真(1行目のケース)とならざるをえず、
Bが偽である2行目のケースがありえないことを示せれば、
「A ⇒ B」が成立する(真である)と証明できたことになる。

(2) Bの真偽の仮定から出発して、その仮定下でのAの真偽を確認して、「A⇒B」の真偽をテストする証明方法

対偶¬B⇒¬A 」が成り立つ(真である)ことを示すことで、「A ⇒ B」の成立を示す証明法もやらされたが、
あのやり方が妥当であるのも、「A ⇒ B」という命題の真偽を、上の真理値表で定義したことによる。
まず、Bが成り立つ(真である)という仮定から出発したのでは、意味がない。
Bが成り立つ(真である)という仮定をおくことは、真理値表の1行目と3行目だけを考えるということになるが、
このときは、Aの真偽(成立/不成立)に関わりなく、「A ⇒ B」はどうせ真とされるから、
このような検討をわざわざ行う必要はない。
       | A | B | A⇒B | 
       ├───┼───┼─────┤ 
       | 真 | 真 |  真  | ←1行目 
       | 偽 | 真 |  真  | ←3行目
しかし、Bが成り立たない(偽である)との仮定のもとでのAの真偽(成立/不成立)の検討は、
「A ⇒ B」の真偽のテストにおいて決定的である。
Bが成り立たない(偽である)との仮定のもとで検討するということは、  
真理値表の2行目と4行目のみを見ていることになる。
Bが成り立たない(偽である)との仮定のもとでのAの真偽(成立/不成立)は、
「A ⇒ B」という命題の偽真を分けている。 
       | A | B | A⇒B | 
       ├───┼───┼─────┤ 
       | 真 | 偽 |  偽  | ←2行目
       | 偽 | 偽 |  真  | ←4行目
ここで、
Bが成り立たない(偽である)と仮定すれば、Aも偽とならざるをえず(4行目のケース)、Aが真となる2行目のケースがありえない
ということを示せれば、
「A ⇒ B」が成立する(真である)と証明できたことになる。
※ 
「A ⇒ B」が唯一偽となる2行目が決定的であるゆえ、
(1)の証明でも(2)の証明でも、必ずここをからめて検討している。

(3) 背理法  

「A ⇒ B」は、
  「Aが成り立たないまたは、Bが成り立つ」
   論理記号で書くと、「( ¬A ) B」   
であった。   
「Aが成り立たないまたは、Bが成り立つ」( ¬A ) B   
は、   
「Aが成り立たないまたは、『Bが成り立たない』が成り立たない
 ( ¬A ) (¬(¬B) )   
と言いかえられ、 (∵2重否定)   
「Aが成り立たないまたは、『Bが成り立たない』が成り立たない
 ( ¬A ) (¬(¬B) )   
は、   
「『Aが成り立ち、かつ、Bが成り立たない』が成り立たない
 ¬ ( A (¬B) )   
と言いかえられる()   
だから、結局、「A ⇒ B」は、
「『Aが成り立ち、かつ、Bが成り立たない』が成り立たない
    ¬ ( A (¬B) ) 
である。
背理法は、この 
「『Aが成り立ち、かつ、Bが成り立たない』が成り立たない
    ¬ ( A (¬B) ) 
なる命題が成り立つことを示すのが、背理法である。

※背理法を認めない流派もある(直観主義)。
トピック一覧:論理記号
総目次
 
[文献]
中内『ろんりの練習帳』64-66;
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

関連事項

 ・「ならば」の否定 ¬(⇒)
 ・「ならば」を繰り返す命題「ならば」の全称/存在命題 
 ・命題関数P(x)Q(x)の真理集合/述語・命題関数の普遍量化 ∀x (P(x)Q(x))の集合表現 


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