事件と裁判 追悼

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裁判の記録

平成8年2月20日宣告
平成7年 第1295号 業務上過失致死被告事件

主文

被告人を禁錮一年に処する。
この裁判の確定した日から3年間
右刑の執行を猶予する

理由

(罪となるべき事実)
被告人は、平成7年10月25日午後5時50分ころ、業務として普通乗用自動車を運転し、千歳市北信濃770番地付近を道路を長都駅前方面から自由ヶ丘方面に向かい時速約40キロメートルで進行するに当たり、前方左右を注視し、進路の安全を確認しつつ進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、車内設置のカーラジオに視線を移して脇見をし、前方注視を欠いたまま漫然前記速度で進行した過失により、進路前方左側端の車道上を同方向に歩行中の前田千尋(当時17歳)に気付かないまま同人に自車左前部を衝突させて同人を路上に転倒させ、よって、同人に頚椎骨折等の傷害を負わせ、同日午後6時43分、千歳市東雲町1丁目8番地医療法人同仁会千歳第一病院において、同人を右傷害により死亡させたものである。
(証拠の標目)
被告人の当公判廷における供述
被告人の検察官調書及び警察官調書
(現場通行人)の警察官調書
警察官作成の(1)実況見分調書(2)検視調書
医師○○作成の死亡診断書
(法令の適用)
罰   条     刑法211条前段
刑種選択     禁錮刑選択
刑の執行猶予  刑法25条1項
(量刑の理由)
本件は、被告人が前方注視を欠き、脇見をしたことにより、前方を同方向に歩行中の被害者に気付かず、被害者に自車を衝突させて死亡させたという事案である。前方注視という基本的な注意義務を怠った点で過失の内容が悪いこと、本件事故により被害者はほぼ即死に近い状態で17歳という若さでその尊い生命を奪われており、本人の無念さはもとより、これまで慈しみ育ててきた被害者の両親及び親族の気持ちを思うとき、本件によってもたらされた悲しみは筆舌に尽くしがたく、被害者遺族の被害感情が厳しく被告人に対して実刑を望む心情も十分理解できるのであって、結果が極めて重大であることなどに照らすと、本件の犯情は芳しくなく、被告人の刑事責任は相当に重いというべきである。
しかし、本件現場は歩車道の区別のない道路で、普段であれば歩行者は道路脇の草地を歩くところ当時降雨で被害者が車道左を歩いていたと言う不幸が重なったこと、被害者の遺族との間に示談が未成立ではあるものの、被告人の夫が20万円の香典を出損している上、被告人側において示談に向けて誠意をもって対応しており、また被告人車両は人身無制限の任意保険に加入していて、近い将来示談の成立等により解決が期待されること、被告人が本件後たびたび被害者遺族を訪れ謝罪をし、今後は車を運転しない旨述べるなど本件を深く反省していること、小学生二人を抱えた家庭の事情、被告人には前科がないことなどの諸事情が認められ、これらの事情を総合考慮すると、被告人に対しては、今回に限り、被害者の冥福を祈らせつつ、社会内において自力による更正の機会を与えるのが相当であると認められる。よって、主文のとおり判決する。

[検察官谷口照夫、弁護人(私選)○○各出席]
[求刑禁錮1年]

平成8年2月20日札幌地方裁判所刑事第三部一係
裁判官  長島孝太郎

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