数学のもっとも抽象化されたものの1つが関数解析学である。本書はこの関数解析学の基礎の部分を解説する。
この本は薄い。全部で 168 ページしかない。実際には、この本の内容が理解できれば、関数解析の初歩はマスターできるものと考える。
他書と比べて、比較的演習問題の解答が丁寧だ。
ただ、内積を (,) で表しているため、関数の引数や直積と間違いやすい。自分でノートを取って考えるときは、 内積には〈〉記号を使っている。
p.74 の練習問題 3-2 では、`A` をヒルベルト空間 `H` の部分集合としたときの各種の性質の証明を求めている。 そのうちの (vii) では \( \overline { \mathcal L (A)} \) `= (A^(_|_))^_|_` という式が出てくる。 筆記体の \( \mathcal{L} \) はどういう意味なのだろうか。
何度読んでもわからずあきらめていた。そしてある日、このほんを最初から読み直したら、こんな記述があった。
以下,`V` を係数体 `K` 上の線形空間とする.`x^((1)), cdots, x^((m))` を `V` の `m` 個のベクトルとし, `k_1, k_2, cdots, k_m` を `K` の元とするとき,
`k_1x^((1)) + k_2x^((2)) + cdots + k_mx^((m))`
を `x^((1)), x^((2)), cdots, x^((m))` の1次結合(線形結合)という. また,`x^((1)), cdots, x^((m))` の1次結合全体からなる集合を \( \mathcal L \) `{x^((1)), cdots, x^((m))}` で表すことにする.すなわち,
\( \mathcal L \) `{x^((1)), cdots, x^((m))} = {k_1x^((1)) + cdots + k_mx^((m)) | k_1, cdots, k_m in K}`
ここまではわかったが、\( \mathcal{L} \) の引数は、複数のベクトルではなくて、`A` そのものである。これはどう解釈すべきか。
p.82 によると、また,この正規直交系は
\( \overline { \mathcal{L}\{e_1, e_2, \cdots, e_n, \cdots\} } = \overline {\mathcal{L} \{B\} }= H \)
を満たすので完全である.
という表現がある。\( \mathcal L \) の後に単に集合しか書いていないならば、そこからベクトルを見つけ出せ、
という意味だろう。
また、p.151 の練習問題2-4 (3) の解答で、`x = b/a` とおけば
とあるが、正しくは`x = beta/alpha` とおけば
である。
数式記述は ASCIIMathML を、 数式表現はMathJax を用いている。
書名 | 関数解析学の基礎・基本 |
著者 | 樋口 禎一、芹澤 久光、神保 敏弥 |
発行日 | 2015 年 4 月 5 日 初版第 3 刷発行 |
発行元 | 牧野書店 |
定価 | 1990 円(税別) |
サイズ | |
ISBN | 978-4-7952-0141-5 |
NDC |
まりんきょ学問所 > 関数解析 > 樋口 禎一、芹澤 久光、神保 敏弥:関数解析学の基礎・基本