フォーレの管弦楽曲は主に劇の付随音楽という形をとっている。ここで有名なものを紹介してみよう。
「ペレアスとメリザンド」とはメーテルランクによる戯曲である。 この戯曲を題材として、一流の作曲家が曲を作っている。 以下列挙する。カッコ内は作曲年である。
残念なことに、私はフォーレ以外のペレアスとメリザンドを聞いたことがない。 シェーンベルクのそれは、一部分だけをテレビで聞いただけである。 まだシェーンベルクが12音技法を確立する前であり、調性ははっきりしている。 けっこううるさい。
さて、フォーレの「ペレアスとメリザンド」であるが、 彼の管弦楽曲の中でもっとも有名な組曲であり、次の4曲からなっている。
「前奏曲」は精妙な和声で作られている。 どこかで聞いたことがあるようでないような、非常に落ち着いた曲である。
「糸を紡ぐ女」では、細かな弦の動きに乗って歌われるオーボエの息の長い旋律が印象的だ。 このような作りの音楽を、フォーレはオペラ「ペネロペ」の中でも試みている。 この「糸を紡ぐ女」はヴァイオリン独奏曲への編曲も有名である。
間違えて楽器をフルートと書いてしまったので修正しました。 御指摘下さったザラキーマさんに感謝します。(2003-04-25)
「シシリエンヌ」はフォーレの曲の中で有名な曲の一つ。 もとはチェロとピアノのための曲であったが、 曲のもつ雰囲気がこの劇伴に相応しいとフォーレが考えたのだろう、 この劇付随音楽でも使っている。 ハープの分散和音にのって、フルートが昔の旋法に基づいた旋律を歌う。
「メリザンドの死」は、荘重な付点音符によって悲しみがあらわされる。
重い雰囲気が漂うがフォーレ独特の転調により過度になることはない。
組曲版は以上だが、他に「メリザンドの歌」が「メリザンドの死」の前に挿入されることもある。
彼のイヴの歌を思わせる出だしは、この世とは別の遠くの世界に誘っているかのようだ。
この曲は、まれに演奏会で取り上げられる。 私は、マレク・ヤノフスキーが手下の管弦楽団を連れて初めて来日したときに誘われて聞きに行った。 もう息を呑むようなすばらしさであった。ところがいっしょに聞きに行った人は、 曲を知らないので眠っちゃったとおっしゃった。 もったいないと思ったが、気持ち良く眠れたのならばそれはそれでよかったのだろうと思い直した。
その後、世田谷フィルハーモニー管弦楽団第19回定期演奏会(1999 4/24)で聞くことができた。 プロでも取り上げないフォーレの管弦楽曲をよくぞ取り上げたと敬意をもって聞いていた。 出だしはなかなか雰囲気が出ていて、なかなかやるわい、と感心していた。 全体的に少し軽めの感じがあり(特に「糸を紡ぐ女」)、 もう少し質感があってもいいのではないかと思った。 また、フォーレの管弦楽書法である弦による息の長いメロディーをどのように続けるかには 考えさせられた。 演奏は立派であったのだが、聴衆からの受けが今一つだったようで、 これが演奏されない原因なのかとも思った。楽団員の中では評判が良かったようだ。
日本フォーレ協会で、「ペレアスとメリザンド」が奏された(2005-06-30)。 作曲者自身が指揮者として用いた1898年初演時のスコアに基づいた版である。 全5幕で、場や幕の合間に音楽が奏でられる。 私は遅刻して、第2幕から聴くことになった。 音楽は全部で12曲ある。私が聞いたところではこんな感じだ。
語りについては、よくわからない。フランス語に聞こえたが、美しいフランス語かどうかを判断する耳がない。 ただ、ある役の方の語りが妙に音楽的だった。つまり、節とリズムをつけて語っているように聞こえた。 ちょっとこれが耳についたというだけの話である。ちなみに、 私が唯一聞き取れるフランス語、Je suis fatigué. は台詞にはなかった。
音楽と演奏については、もう何もいうことはない。なぜなら、今回のオーケストラ「東京現代音楽アンサンブルCOmeT」 には、ヴィオラに甲斐史子氏が参加しているからである。私は甲斐氏のファンであるから、 音楽には褒めことばしかないに決まっている。とはいいながら、曲によっては弦の人数がもう少しいればよかったのに、 とも思うのだった。(以上、2005-07-03)
1919年に作曲された晩年の作品(Op.112)だが、非常に明るく、軽い。 序曲とガヴォットのネタは若い頃のものではないかという人もいる。組曲としては次の4曲からなる。
序曲はモーツァルトを連想させる。終わり方がしまらないのがおかしい。
メヌエットもわざとかどうか、古風な書き方をしている。
一部、彼のピアノ曲である前奏曲集第4番から拝借している。
ガヴォットは元気な楽章。トリオが印象的。
パストラールはこの曲の白眉。天から降りてくるような全音音階の味付けが絶妙である。
なお、劇場版としては他に4曲が付け加えられ、次の順序になっている。
リンクをクリックすると原曲についての解説がある。
「ヴェニスの商人」をもとにした台本への付随音楽(Op.57)。次の6曲からなる。
シャンソンは明るい、軽い歌。
幕間の音楽は行進曲。パンパカパーンという感じの気持ちがいい音楽である。
マドリガルも明るい、恋の歌。
祝婚曲では緩やかな始まりから徐々に気分が高まっていく。
夜想曲はフォーレの全作品の中でも傑出した小品。 弦楽だけで奏される。 のびやかな旋律が絶妙な和声にのって変貌してゆくさまはすばらしい。ネクトゥーは「G線上のアリア」に優るとも劣らない、といっている。至言である。 3小節めの旋律は、「叙情的な旋律」の典型である。
終曲は浮かれた気分で始まり、まじめになったり、不機嫌になったりする、フォーレにしては気まぐれな曲。色彩感に溢れており、最後を締めくくるのにふさわしい。
個人的なことだが、この「幕間の音楽」を、妻と私との披露宴の入場に使った。 ありきたりの披露宴にしたくなかったためだったが、自分たちの主張を通したのはここだけであった。
パヴァーヌ(パバーヌ)Op.50 は、フォーレの曲の中でも有名であり、人気が高い。 パヴァーヌに関する独立した項を設けたので、参照されたい。
フォーレ最初の舞台作品曲である(Op.52)。原作は、デュマ(父)による。 次の曲からなる。
ファンファーレはフォーレにしては珍しい、しかしファンファーレとしてはごく普通のトランペットから始まる。 その後の行進曲は、付点リズムが強調されているが、滑らかで優しい。 ときどきの合唱は、雰囲気をよく伝えている。 「舞曲調」は、いかにもダンス(というよりバレエか)の雰囲気を伝えている。 フルートの独奏が活躍する。(2005-11-27)
私が持っているのは2種類ある。
ミシェル・プラッソン指揮、トゥールーズ・カピトール国立管弦楽団 フォーレ 管弦楽全集 EMI TOCE9371-72(2枚組)
ほとんどすべての管弦楽曲(+編曲版ドリー)が入っていてお得である。 ただし、曲によっては、ひどいのもある(シシリエンヌは、冒頭からフルートとハープがずれているなど)。 どちらかというとすっきり系だ。
エルネスト・アンセルメ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団 フォーレ&ドビュッシー・コンサート LONDON KICC 9349/50(2枚組)
ペレアスとメリザンドのみ所収。こちらはこってり系であり、古き良き時代のフォーレという感じがたまらない。