フォーレ:組曲「ドリー」、および他の連弾曲

作成日:1999-06-19
最終更新日:

1. フランスの連弾・デュオ系列

フランス近代の作曲家のピアノ連弾作品は、 他の時代・国のものより親しまれているようだ。 たとえば、ドビュッシーの「小組曲」、 ラヴェルの「マ・メール・ロワ」、 ビゼーの「子供の遊び」が代表だろう。 フォーレの組曲「ドリー」もこの系列で親しまれている。

2. 組曲「ドリー」

組曲「ドリー」(Op.56) は、1893年から1897年にかけて作曲された。全6曲からなる。 ドリーという名前は、フォーレが当時おつきあいしていたバルダック家の娘、エレーヌの愛称である。

第1曲は「子守歌」ホ長調、2/4拍子。あのヴァイオリンで有名な「子守歌」とは違うが、 子守唄特有のくり返されるリズムは守られている。 1893年作曲。日本でも、各種のコマーシャルで使われることがある。

第2曲は「ミ・ア・ウー」ヘ長調、3/4拍子。私はネコの泣き声かと思ったが、それは違うらしい。 こんな背景がある。 ドリーは、兄ラウルをどうしてもうまく呼べない。 ムッシュー・ラウルと呼ぶべきところ、メッシュー・アウルになってしまう。 フォーレはそこで「ムッシュー・アウル」という名前でこの曲を作ったのだが、 楽譜出版者の意図で擬音語に替えられてしまったのだ。 快速かつ楽しいワルツにときどきヘミオラが入る。

第3曲は「ドリーの庭」ホ長調、3/4拍子。第5曲と似ている。こちらのほうが流れる感じが強い。

第4曲は「キティ・ワルツ」変ホ長調、3/4拍子。第2曲と同じワルツ。こちらのほうが優雅だ。 もとの名前は「ケティ・ワルツ」。ケティは前述のラウルが飼っていた犬の名前。 ヘミオラが中間部で多用されている。

第5曲は「優しさ」変ニ長調、3/4拍子。一番地味な曲。 一拍ずつ和音を確かめつつ、転調で彩りながら進んでいく。 中間部は典型的なカノン。下に楽譜を示す。ヘミオラの味があること、 繰り返しがリディア旋法になっていることがおもしろい。

第6曲は「スペイン舞曲」ヘ長調、3/8拍子。フォーレにしては賑やかな作品。 ただしアルベニスの作品を想定すると大はずれで、あくは強くない。 手の交差があるので、 男女でこれを弾くのであればよく考慮すべきだろう。

全体を通して、フォーレにしてはやさしい書法で書かれている。 Primoはほぼオクターブですむし、Secondaも難しい箇所はほとんどない。 また彼独自の予想外の転調もマイルドである。 奇数番の曲はゆっくりで、カノンをうまく歌うように心がけるとよい。 偶数番の曲は急速なので、ヘミオラの効果を意識するといいだろう。

さて、このドリーを駄曲という人がいた。 その方はフォーレの他の作品をけっこう買っていたところからすると、 この曲集に感じられる、どこか微温的なところが気に食わなかったのだろう、 と今となっては想像する。 私はこの意見に与するものではないが、 ではこの曲集を全面的に賛美するのかというと、そうともいえない。 もちろん、フォーレの資質はこの曲でも十分感じることはできるけれど、 さらに奥の深い世界があるのだ、ということは付け加えておきたい。 たとえば、第2曲から第5曲は 3 拍子だが、この 3 拍子を生かした世界にヴァルス・カプリスや さらには複合拍子に発展させた舟歌がある。

3. 他の連弾作品

フォーレの連弾作品はドリー以外にもある。

3.1 バイロイトの思い出

これは フォーレの友人であるメサジェとフォーレとの共作である。 そのためか、フォーレ独自の個性は感じられない。 ごく軽い、内輪向けの音楽である。 「バイロイト」とは、もちろんワーグナーのお膝元。 曲名からわかるように、ワーグナーの曲を いくつか取り入れているのだけれど、 私はワグネリアンではないので、引用されている曲は 「ワルキューレ」しかわからなかった。

3.2 交響的アレグロ

こちらはもともとオーケストラを予定して 書かれたものであるためか、ピアノ曲としての香気に欠ける。

3.3 マスクとベルガマスク

オーケストラ曲のピアノリダクション版で、フォーレ自身の編曲でもある。 曲目については管弦楽曲のページをどうぞ。

4. 「ドリー」に対する個人的体験

私たち夫婦の披露宴で、自分たちで何か芸をしないと、というので選んだのが、 この「ドリー」の「優しさ」だった。 フォーレを選んだのは私の意思である。スカルラッティは連弾曲としてはどうもいいのがない。 他の連弾曲(バイロイトの思い出)もあるけれど、あれはメサジェとの合作だし、 まだ手に入れていない、 ということでドリーを選択した。どの曲を弾くべきかと考えて、 フォーレの特徴が最もよく出ている (とどこかに書いてあったような気がする)第5曲を選ぶことにした。 実際、他は難しいか、物足りないのだ。 いざ合方であるつれあいと練習していみると、なかなかまとまらない。 本番はよろけながらもなんとか弾き通すことができた。

ちなみに、私は学生時代けっこう連弾をしてきたが、 女性と本格的に練習して披露したのはこれが初めてであった(練習なしでぶっつけ本番で女性と連弾をしたことは一度あった)。

5. 演奏について

この有名な作品は、オリジナルのピアノ連弾版だけでなく、 アンリ・ラボーによるオーケストラ版や、 アルフレッド・コルトーによるピアノ独奏版でも知られている。

アンリ・ラボーは、 フォーレの後を継いでパリ音楽院の院長となった作曲家である。 アルフレッド・コルトーは、フランスの有名なピアニストである。

5.1 ピアノ連弾版

私が所持しているのは下記5枚である。

ロベール・カサドシュ、ギャビー・カサドシュ

カサドシュ夫婦の演奏は、 バランスより流れを重視した演奏である。

ピエール=アラン・ヴォロンダ、パトリック・ドゥ・オージュ

私が想像しているテンポとは合わない。

キャスリン・ストット、マーチン・ロスコー

音は美しいが、妙に鋭すぎる解釈が気になる。

ジャン=フィリップ・コラール、ブルーノ・リグット

この演奏が一番安心して聴ける。締まりの程度が私好みだ。

ジェルメーヌ・ティッサン=ヴァランタン,アンリエット・ピュイグ=ロジェ

音が割れていて音質の面では最悪だが、音楽の呼吸のしかたがいい。第2曲と第6曲は高速だ。

他に、次のCDがある。筆者はまだ聞いていない。

5.2 オーケストラ版

ボド指揮

ピアノ連弾版より遅めのテンポで、楽器の特色がよく出ている演奏だ。

5.3 その他

村治佳織によるギター版がある。

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MARUYAMA Satosi