フォーレ:パヴァーヌ

作成日:2005-11-17
最終更新日:

1. パヴァーヌ

フォーレのパヴァーヌ

パヴァーヌ(パバーヌ)Op.50 は、フォーレの曲の中でも有名であり、人気が高い。

パヴァーヌとは、16世紀前半にヨーロッパで流行したスペイン起源の舞曲である。 テンポの遅い2拍子系の曲で、「くじゃく舞」とも訳される。

フォーレは、昔の舞曲形式をパヴァーヌだけ取り出して、昔の気分を甦らせた。

このパヴァーヌは最初オーケストラ用に作曲された。その後、グレッフュル伯爵夫人というパトロンの勧めで、 合唱が付加された。 作曲されたのは 1887 年、オーケストラのみの初演は 1888年11月25日、 合唱つきの初演は 1888年 4 月28日とある。 実際に聴く機会が一番多いのは合唱なしのオーケストラで、その次にピアノ独奏だろうか。 実際には、合唱つきの演奏はオーケストラ伴奏、ピアノ伴奏いずれもごく少ない。

詞はロベール・ド=モンテスキューの詩に基づく。この詩の作者のいとこがグレッフュル伯爵夫人である。 この伯爵夫人は、合唱つきのパヴァーヌをバレーとして上演させた。 これはフォーレの希望でもあったという。

嬰ヘ短調のこの曲は、独特のもの憂い気分が横溢し、 一度聴くと忘れられないメロディーとなっている。 ポピュラー音楽としての人気もあるのは当然といえるだろう。 パヴァーヌは、ピアノ独奏版、ピアノと合唱版、管弦楽と合唱版などがあるが、 これらはフォーレ自身が編曲したものである。 ピアノ連弾版は、他者の手による。その他については、 フォーレの作品の編曲を参照してほしい。

オーケストラ版では、弦のピチカートにのって、最初にフルートが旋律を奏する。 フルートにしては音域が低い(事実最低音のCまで要求している)ためか、 暗く、もの悲しい気分が流れる。その後、他の木管も入り、豊かな音楽となる。 中間部はオクターブの跳躍のあと、リディア旋法による下降音階と上昇音階の組合せで発展する。 そのうち、開始部が再現され、ためらいがちなコーダを導いて終る。

この曲は人気があり、また他の作曲家からも評されてきている。 しかし面白いことに、フォーレ自身はこの曲に対して「取り立ててこだわりのない」作品と評している。 また、「丹念に書き上げたものです。(……)ですが、それ以外に意図する作品ではありません」とも言っている。

このパヴァーヌは、劇場版マスクとベルガマスクOp.112 の最後を飾る曲として転用されている。 ただし、組曲には含まれない。

1.2 パヴァーヌ今昔

パヴァーヌが生まれた16世紀当時は、 テンポの速い3拍子系の曲である「ガイヤルド」と組み合わされた 「パヴァーヌとガイヤルド」の形で多く作られた。 ウィリアム・バード、オーランド・ギボンズなどの作曲家の作品が知られている。

その後、フォーレがパヴァーヌをよみがえらせたのは先に述べた通りである。 さて、フォーレのパヴァーヌの評判はどうだったか。

フォーレをライバル視していたドビュッシーもこの曲を賛美している。 それどころか、この曲に触発されて、ドビュッシーはある曲を作った。 それは、ベルガマスク組曲の「パスピエ」とされている。 ドビュッシーのパスピエはフォーレのパヴァーヌと比べ快速だが、 調性が嬰ヘ短調で同じであること、伴奏形が分散和音であることから フォーレの作品が手本となったのではないかと推測されている。

また、フォーレの弟子のラヴェルは、「亡き王女のためのパヴァーヌ」を作曲している。 後の研究家は、ラヴェルのパヴァーヌの形式はフォーレに由来しているとみている。(2005-11-27) ラヴェルはまた、連弾曲「マ・メール・ロア」の第1曲に「眠れる森の美女のパヴァーヌ」という題名をつけている。

さらに、同じくフォーレの弟子であるカゼッラは、作品1としてパヴァーヌを作曲している。 このパヴァーヌはフォーレのパヴァーヌはもちろん、先に述べたドビュッシーやラヴェルの曲の雰囲気を色濃く残している。 このカゼッラのパヴァーヌについては、夏井睦氏の Casella Pavane Op.1(www.wound-treatment.jp) に詳しい。 なお、カゼッラのパヴァーヌの楽譜は現在カワイ楽譜から出版されている。また、IMSLP で手に入れることもできる。

2. 演奏について

オーケストラ版

ミシェル・プラッソン指揮、トゥールーズ・カピトール国立管弦楽団 フォーレ 管弦楽全集 EMI TOCE9371-72(2枚組)

フルートが活躍するが、オーケストラとのアンサンブルに少し乱れがあるのが残念。

合唱版

ベルナール・テトゥ指揮、ジャン=クロード・ペヌティエ(p)、リヨン合唱団( Solistes de Lyon )

全体にオーケストラより速めである。合唱はあっけないほどすっきりしている。

ピアノ独奏・その他

ピエール=アラン・ヴォロンダ(p) Naxos 8.553741

ヴォロンダはフォーレの他の曲を弾くと極端な解釈をするのだが、 このパヴァーヌに関してはロマン的な弾き方が曲の性質と合致していて、安心して聴ける。

それから、日本のピアニスト、岡田博美のリサイタルで、アンコールに弾かれたパヴァーヌは絶品であった。 おそらく、CDの録音にもあるはずだ。(以上、2009-12-27 )

フォーレ自身の演奏もある(ピアノロール)が、未聴である。

3. 楽譜について

アルソ出版:クラリネット名曲 100 選 vol.2-20選

この楽譜は、有名な曲をクラリネットとピアノのために編曲したものである (編曲者は不明)。 フォーレの作品からは次の4曲が選ばれている(順不同)。

このうち、パヴァーヌの楽譜は下記の誤りがあるので注意すること。

カワイ出版:フォーレ合唱曲集 混声合唱篇

萩原英彦の校訂・監修になる。覚えやすいように、萩原英彦独自の草案になる 「音訳」がフランス語の原詞にふられている。

カワイ出版:フォーレ合唱曲集 女性合唱篇

萩原英彦の校訂・監修であること、「音訳」があることは混声合唱篇と同様。 ただし、原曲の4声が萩原によって3声に減らされている。

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MARUYAMA Satosi