W・H・ハンディ
William Christopher Handy（1873〜1958）作曲家
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ブルースの父と息子たち—黒人たちが生み出したアメリカの伝統
タトワイラーの駅で、汽車は9時間も遅れていた。不気味な音楽に、ハンディがはっとして目をさますと、ぼろ靴の黒人がギターを弾きながら歌っている。それがブルースだった。
黒人の作曲家、W・H・ハンディが後に作曲した「セントルイス・ブルース」は、世界的なヒットとなる。人々は彼を「ブルースの父」と呼んだが、それは名もない黒人たちの、日常の苦しみから生まれたものだ。今、ブルースはジャズやロックにも取り込まれながら、世界中にその「息子たち」を生みだしている。
掲載：NHKラジオ英会話2000年８月/NHKラジオ英会話入門2000年10月
参考資料
"Father of the Blues: An Autobiography"
W.C.Handy, Da Capo, originally published in 1941
ハンディの自伝。牧師の家に生まれ、教会で音楽を学んだ青年は、周囲の反対を押し切ってミュージシャンになります。楽旅の途中で偶然耳にした音楽、それを記譜したことが彼の人生を帰ることになりました。同じ形式の曲を作ってそれが当たり、「ブルースの父」と呼ばれるようになります。さらに彼は、音楽ビジネスの世界でも成功しました。19世紀から20世紀にかけて、一人の黒人が音楽の世界で成功していく物語です。
『ブルースの歴史』
ポール・オリヴァー著、米口胡訳（晶文社、1978）
音楽用語としてブルースは、音楽の形式を指す場合と、音楽のジャンルを示す場合があります。この本は、アメリカの黒人たちの音楽がブルースという形式にまとまり、それがひとつの音楽ジャンルに育っていく過程が書かれています。ハンディに関する記述は多くはありませんが、黒人の間で受け継がれてきたブルースを、彼が「発見」するくだりはいまや伝説になっています。
"Nothing But the Blues: The Music and the Musicians", Lawrence Cohn, （Abbeville Press, 1993）
『ザ・ブルース・ブック』ローレンス・コーン著、中江昌彦訳（ブルース・インターアクションズ、1997）
著者のコーンは有名なブルース・ライター。
"Encyclopedia of the blues"
Ge'rard Herzhaft（著）、 Brigitte Debord（訳）、University of Arkansas Press、1992, 512p.
ブルースに関する人物・事項がABCに並べられた事典。巻末の付録には、ビブリオグラフィー、ディスコグラフィー、索引のほか、ブルースのスタンダード・ナンバーの曲解説、ミュージシャンを楽器別に分類したページが付いています。ハンディに関しては、長い間ブルースの創始者と考えられていたが、実際はブルースの歌を記録し出版した人、という位置づけになっています。
CD
"Louis Armstrong Plays W.C. Handy"
ハンディの作品が聴ける音源として、ルイ・アームストロングのアルバムをあげておきます。多分、これが一番有名なハンディ集でしょう。ルイの隣りで満足そうに微笑むハンディの顔をごらんください。ダブルのスーツにチェックの蝶ネクタイ。成功した名士の顔です。
演奏は1954年当時のルイのセクステットに女性ボーカルが加わります。ルイがまだジャズ・ミュージシャンとして活動していた頃ですから、あの粘っこいトランペットも鳴っています。あの音で一音吹けば、もうそれは黒人音楽以外の何物でもありません。ハンディもこの演奏に大変満足したと伝えられていますが、それも当然でしょう。
ちなみに、ハンディ自身もコルネット奏者でした。彼のバンドの録音も残っていますが、普通のダンスバンドという感じで、資料的価値以上のものを見いだせません。とにかくぜんぜんブルージーではないのです。そういったところも、現在のハンディの評価に影響しているのではないでしょうか。