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ここはわたしの生活の必需品、音楽のセクションです。今のところたまたまアイルランド/ケルト系のミュージシャンの紹介に偏ってしまっていますが、実際はとにかくクラシックからロックまでジャンルにこだわらず聴くので、この先どうなるかわたしにも分かりません。A to Z、といってもそのときの気分で、思いつくまま順不同に紹介していきます。おもしろい本、映画などについてもお話したいと思っています。あなたのおすすめの音楽や本もぜひ教えて下さいな。





music
C Chieftains, The
(ザ・チーフタンズ) 
Clannad
(クラナド) 
K Kennedy, Brian
(ブライアン・ケネディ) 
N Nunes, Carlos
(カルロス・ヌニェス) 
O O Maonlei, Liam
(リアム・オ・メンリィ) 

books
B Brother Cadfael Chronicles
(修道士カドフェル・シリーズ) 







ブライアン・ケネディ ( Kennedy, Brian )

今回は北アイルランドのベルファスト出身のシンガー/ソングライター、 ブライアン・ケネディをご紹介します。6人兄弟の一人として育った彼は早くからその音楽的才能を見せていたようで、その稀有な声質にいち早く目をつけたアイルランドの大御所ヴァン・モリソン( Van Morrison )の多くの楽曲のレコーディングやワールド・ツアーに参加、また他にもザ・コーズ( The Corrs )やティナ・ターナー( Tina Turner )などのツアーにも参加して更に実力に磨きをかけたようです。現在はソロ活動を中心にしてレコーディングとツアーを続けているようですが、デビュー作を除いて一連のソロ作品には伝統的アイルランド音楽の影響は表面的にはほとんど見られない一方、伝統音楽を取り上げたオムニバス・アルバムなどにも積極的に参加し、ゲール語( Gaelic、古代アイルランド語 )の曲を歌ったりしています。また彼は早い時期から慈善活動にも積極的に関わっているようです。彼の曲を聴いてまず強く印象に残るのは、英国の音楽雑誌にも「天使を魅了する声」と讃えられたその独特の伸びやかで美しい歌声ですが、作詞作曲の実力も既に高く評価されています。哀調を帯びた声質に似合う切ない曲が多く、アイドルとしてデビューしてもおかしくない容貌から女性ファンが多いのも頷けますが、言葉の美しさと心の機微を細やかに描写した歌詞は聴くほどに心を捕らえます。

1990年に発売された初のソロ・アルバム The Great War of Words は聴衆から好意的に迎えられ、ほとんど全曲が自作の繊細で美しい歌詞と旋律、独特の滑らかな声でシンガー・ソングライターとしての地位を早くも確かなものにしました。1996年の A Better Man はそのアコースティックな路線を受け継ぎつつ、曲作りや演奏にも積極的に他の音楽家を起用し、さらに広がりのある音作りを目指した好盤となっています。
3年後に発表された Now That I Know What I Want は一曲目の" These Days "でのロウナン・キーティング( Ronan Keating、アイルランドの人気アイドル・グループ、ボーイゾーン( Boyzone )のリード・シンガー )とのデュエットに象徴されるようにアイドル・ポップ路線に転向したかと思わせるような曲作りで、タイトル曲などはどう聴いてもベイビーフェイス( Babyface、米国のブラック・コンテンポラリーの人気ソングメイカー )が作ったとしか思えないような曲だったりしますが、このアルバムからより意欲的に他の様々なソングライターの曲を取り入れたり共作するようになったようです。曲調の割には、これもそれまでになく自己主張を前面に出したり相手を批判したりするような歌詞も多く、このアルバム発売直前からマネージメントを変えているらしいことからも、何かトラブルがあってフラストレーションが溜まっていたのか?と詮索したくなりますが、" Mother In Me "と" One, I Love "の二曲は彼の本領発揮という感じで秀逸。
2001年秋に発売された最新作 Get On With Your Short Life は、全世界でロング・ランを続けているアイリッシュ・ダンスを基盤としたショウ、リヴァーダンス( Riverdance )のゲストメンバーとしてチームと共に公演中1ヶ月滞在したニュー・ヨークでの経験が色濃く現れており、地元の音楽家との共演も果たしていますが、曲作り的にはポップ・アイドル指向(?)は影をひそめ、本来の彼らしい音に戻ったと言えるようです。これまでは常に訴えるようにこちらを見つめる、レコード会社の戦略かと思わせるような彼のアップ写真のアルバム・カヴァーだったのに対して、今作ではカヴァーでも歌詞カードでも自分の顔をほとんど見せず、ユーモアを感じさせるタイトルと共に音楽家として人間として成長したブライアンの自身と余裕が感じられます。

先に書いたように、彼の持ち味は何と言っても繊細で滑らかな歌声に紡がれる、心のひだを丁寧に描き出したような旋律と言葉。愛し合いながらも心の自由を求めた恋人をいつまでも待とう、と言いながら一方で彼女を行かせたのは正しかったのかと自問し、窓の外を歩き過ぎる人々を眺めては次に歩いてくるのは君かも知れないと考える、と歌う" So I Will Wait for You " ( A Better Man )、別れた恋人とよく訪れた場所をひとりドライヴしながら、思い出の中の彼女に次に僕がここへ来るときは「君のことを考えないよう思い出させてやってくれ」と矛盾したことを語りかけ、最後のフレーズで「君が恋しい」とほろりと本音を漏らす" Ballad of Killaloe " ( Get On With Your Short Life )など、傷心から立ち直ったと強がりながらも揺れ動く微妙な心情を描かせたら、彼の右に出るものはいないかも知れません。
また「僕らはストランラーからラーンに向かうフェリーに乗った...」と始まり幼少時代の母親との小旅行の一日を叙情的に綴る" Mother in Me " ( Now That I Know What I Want )、大都市ニュー・ヨークの街角の喧噪と一瞬の静けさに人生を重ね合わせる" Christopher Street " ( Get On With Your Short Life )のような、自伝的とも取れる小さなドラマを自然や街の情景描写の中に鮮やかに浮かび上がらせる手腕の見事さは、まさに現代の吟遊詩人と言っても差し支えないのではと思います。最新作のタイトルにもなっている" Get On With Your Short Life "では、外見ばかり気にして映画スターのようなスタイルと華やかな生活に憧れる女性に、歯切れのいい言葉遊び的な歌詞で目を覚まして短い人生、もっと価値のある生き方をしろよ、と諭すユーモラスな面も見せていますが、歌詞カードの構成などと合わせて深読みすれば、容姿で判断されがちな自らの経験を通して、見かけよりも中身を見て欲しい、という彼からの世間に対するちょっとひねったメッセージとも取れます。若くして成功をおさめながら決して奢ることなく、積極的に新しい挑戦を続け着実に成長を続ける彼、これからがますます楽しみです。




☆ お勧めアルバム ☆

The Great War of Words (1990) ソロ第一作。ギターやピアノ、フィドル(ヴァイオリン)などを使ったアコースティックな色合いの濃いアルバム。決して派手ではありませんが、ファンの間で現在でも人気が高いという一曲目の"Captured"から、その作詞作曲の才能と確かな歌唱力が感じられます。聴くほどに味わいが出てくるするめのようなアルバム。

A Better Man (1996) ソロ第二作。1曲目のタイトル曲から、滑らかで伸びやかな歌声を聞かせてくれます。一作目に比べて音的にも歌詞の内容的にも広がりが感じられ、他のミュージシャンとの音楽的交流を経て成長した様が伺えます。数曲のバックで、元ドリーム・アカデミー( Dream Academy、80年代にヒットを記録した英国のユニット )のケイト・セント・ジョン( Kate St.John )がオーボエなどの演奏で参加、彼女とはその後も共演しています。

Get On With Your Short Life (2001) リヴァーダンス参加の合間を縫ってロンドンやダブリンで録音した曲をNYで完成させるなど、彼としても今までになく広い活動範囲の中で製作されたソロ最新作。当初は60曲余りをスタジオに持ち込んだとか。得意の切ないラヴ・ソングと合わせてはつらつと生を謳歌するような曲やユーモアを感じさせる曲など、めりはりのきいた構成で音楽家としての成長と余裕を感じさせます。自身のソロ・アルバムもヒットさせたNYのソングライター/サキソフォン奏者のカーティス・スタイガース( Curtis Stigers )が" Don't Look At Me That Way "で競作/共演しているのも興味深いところ。クレジットにも曲名のカウントにも出ていない「ヒミツの曲」などちょっとしたお遊びも。


Goodbye to the Songtown (1991) - by Sweetmouth featuring Brian Kennedy - デビューから基本的にはソロ活動をしてきたというブライアンが、80年代に日本でも人気を博したフェアグラウンド・アトラクション( Fairground Attraction )の仕掛人マーク・ネヴィン( Mark E. Nevin )と組んで製作したアルバム。曲は全てマークの作ですが、協同プロデュースをしていることもあってブライアンの繊細な声質がノスタルジックな歌詞と曲調にしっくり調和しています。ある評では「ワイン・バーのBGM向き」などと書かれていましたが、一人で歌詞もじっくり味わって欲しい佳作、と個人的には思います。マークとはその後もソロアルバムで曲を競作しています。

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上記のアルバムは、A Better Manが一部大型店で輸入されている以外は国内では発売されていないようですが、ブライアンの公式サイトや関連サイトなどを通してオンラインで手に入れることができます。公式サイトはこちら:
Brian Kennedy Official Website

CD入手方法について不明な点があるときは、わたしまでメイル下さっても結構です。その他にもアイリッシュ/ケルティックミュージシャンのコンピレーション・アルバム、イシュト( eist )(ゲール語でlistenの意、これまで2枚発売されていていずれも国内盤が出ています)やゲール・フォース( Gael Force )を初めとして数多くのオムニバスもので、ゲール語のトラディショナル曲やスタンダード曲のカヴァーなどを歌って参加しています。日本ではソロ・アルバムよりもむしろこちらの方が見つかる可能性が高いかと思うので、探してみてください。



23/1/2002



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