- an A to Z of music and other entertainments -








music
C Chieftains, The
(ザ・チーフタンズ) 
Clannad
(クラナド) 
K Kennedy, Brian
(ブライアン・ケネディ) 
N Nunes, Carlos
(カルロス・ヌニェス) 
O O Maonlei, Liam
(リアム・オ・メンリィ) 

books
B Brother Cadfael Chronicles
(修道士カドフェル・シリーズ) 





今回はわたしのお薦めの本の紹介です。

修道士カドフェル・シリーズ(Brother Cadfael Cronicles by Ellis Peters)

英国の作家エリス・ピーターズ作のこのシリーズの舞台は12世紀のイングランド・シュロップシャー州、ベネディクト派修道院のあるシュルーズベリ(Shrewsbury)の街。ウェールズとの境に程近く今も実在するこの街は古くからさまざまな形で国境の向こうとの交流があり、多くの面でその影響が見られます。 シリーズの探偵役であるカドフェル(正確には「カドファエル」のほうが近いようです)は彼自身もウェ−ルズ人で、この修道院で薬草係を勤める修道士。とはいっても彼はほかの大多数の同胞と比べると異色の経歴の持ち主で、若い頃には第一回十字軍に参加して戦士として聖地エルサレムに入ったこともあり、多岐に渡る経験を経てきたつわもの。その豊富な経験と各地で得た薬草や毒などの専門的知識、そして持ち前の飽くなき好奇心と鋭い推理力を生かして、修道院内外で起こるさまざまな事件、さらには政治的いざこざや隣国ウェ−ルズの族長たちとの交渉などにも関わっていきます。

このシリーズの魅力は何と言ってもその登場人物にあるでしょう。さまざまな人生の挫折と成功を経験した末に中年になってから神に仕える道を選んだカドフェルを中心に、州の執行副長官として赴任してくる若く有能なヒュー・ベリンガー、修道院院長ラドルファス、虎視眈々と出世のチャンスを狙う副院長ロバートと書記のジェロームなど、実に人間味溢れるキャラクターが揃っています。修道院というとまったく俗世と隔絶された日常を送っているように考えがちですが、ここの修道士たちを見るとなーんだ、普通の人とそう変わらないじゃないか、と妙に安心してしまいます。神に仕える道を選ぶ理由も人それぞれ、ねたみもすれば喧嘩もするし、若い見習修道士は恋をして自分の選択は早まっていたかと悩んだりもします。中年から壮年に入るカドフェルに対して、毎回若いカップルたちが活躍するのも見どころです。とはいえカドフェルも常に傍観者というわけではなく、シリーズを通してしばしば彼自身予想していなかった「人生の喜び」を経験することになります。ピータースはそれぞれの登場人物を非常にていねいに描いてキャラクターに深みを持たせていますが、主要人物だけでなく名もない市井の人々や罪人にさえ静かな暖かい眼を注いでいるのも印象的です。

人物たちとドラマもさることながら、このフィクションの背景となっている時代もまた物語の大きな魅力になっています。イングランド王ヘンリー1世が死亡した後、女帝モードと従兄妹のスティーヴンとの間でその王権を争ってイングランドは二分され、各地の領主たちもその情勢如何でモード側についたりスティーヴン側についたりという不安定な情況になります。19年間続いたこの内戦は当然シュルーズベリの街や修道院にもしばしば暗い陰を落とし、基本的には中立であるカドフェルたち修道院の人々も一度ならず微妙な立場に立たされます。実際の史実に巧みに織り込まれた謎と人間ドラマは最後まで読者を飽きさせず、本格推理ファンにも、また歴史ものが好きなかたにもおすすめです。シリーズは全20巻と短編集一冊(カドフェルが修道院に入る以前の若い頃を描いたもの)、翻訳版は社会思想社から「現代教養文庫ミステリボックス」シリーズで出版されています。またカドフェルの若い頃を描いたいくつかの短編をおさめたものも一冊出ています。大きな書店なら、ペーパーバックも手に入ります(Warner Futura,Headlineなどより出版)。原書はケルティック/中世風アートに彩られた美しい表紙。

蛇足ですが、このシリーズはすでに英国でテレビドラマ化されていて、日本でもNHKのBSで放映されています。本国でもまだ単発的に放映され続けているので、新作が届き次第こちらでも見られると思います。カドフェル役は名優"サー"・デレク・ジャコビ(Derek Jacobi、「ハムレット(ケネス・ブラナー版)」のクローディアスなど) 。 こちらも機会があったらぜひごらんになってみてください。






フロントページに戻る