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(カルロス・ヌニェス) 
O O Maonlei, Liam
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カルロス・ヌニェス(Nunez, Carlos)

カルロス・ヌニェスはスペインのガリシア地方出身のバグパイプ/リコーダー奏者です。ガリシア地方はアイルランドをはじめヨーロッパの多くの地域に散らばったケルト民族の文化圏の一つで、アイルランドやスコットランドの音楽に共通して見られるような哀愁を帯びた旋律に、スペインや国境を接するポルトガルなど近隣の国の民族音楽が混ざり合った独特の音楽が息づいている土地です。彼が操るバグパイプはよく知られているスコットランドのものとはちょっと違った、ガイタ(guita)と呼ばれるガリシア独特のもの。今回は昨年12月の単独初来日公演の模様と合わせて、彼の音楽の魅力についてご紹介したいと思います。

1971年生まれの彼は8歳からガイタの演奏を始め、13歳にして既にフランスのケルト文化圏であるブルターニュの交響楽団の客演ソロ奏者として招かれるなど、非凡な才能を見せていたようです。18歳の時にアイルランドのベテラン・グループザ・チーフタンズとステージで共演したのをきっかけに頻繁に彼らと共に活動するようになり、30年以上同じ6人で活動してきたメンバーに「7人目のチーフタン」とも呼ばれました。彼らの世界ツアーにも同行していて、単独で来日する以前にすでに数回日本を訪れているようです。ケルト特有の哀愁を帯びた旋律やリズムにフラメンコやファド(fado、ポルトガルの民族音楽)の情熱的な要素が巧みに織り込まれている彼の音楽はときに繊細で切なく神秘的な音を奏で、ときにドラマティックで壮大、ときに気さくでにぎやかな面を見せて、故郷ガリシアの土や水、空気の匂いまで感じさせてくれるようです。

’99年12月、原宿ラフォーレ・ミュージアムが会場となったコンサートのメンバーはヌニェス本人と、特別ゲストで現代アイルランド音楽の第一人者でもあるブズーキ(ケルト特有のギター)奏者ドーナル・ラニーを含めフラメンコ・ギター、ブズーキ/ギター、フィドル(ヴァイオリン)、パーカッション/キーボードにフラメンコ・ダンサー(!)という総勢7人のなかなかにぎやかな構成。ヌニェスの吹くリコーダーはわたしたちが小学校で必ず習う「あれ」と変わりないもののようですが、あの楽器がこれほど伸びやかで美しい音を出せたのか!と驚くほど繊細で澄んだ、それでいて存在感のある音を奏でます。ガイタはまず空気袋(?)に息を吹き込んで空気を溜めてから、先にいくつもついている笛のようなものを操って音を出す仕組みのようですが、そこから溢れ出る音はまさに命を吹き込まれたかのように生き生きと力強く揺るぎなく拡がって、会場の空気を震わせます。「魂を揺さぶられるような音」というのはこういうものかと、その複雑な楽器を実に楽し気に操る彼をただただ呆然と見つめるばかり。

フラメンコ・ギターのルイ・ロビスコとブズーキ/ギターのパンチョ・アルバレスはそれぞれソロでも活動しているらしく、各々の曲も合間に演奏。スキンヘッドが素敵なおじさまアルバレスはいくつかの曲で渋い歌声も披露しました(休憩時間に思わず彼が参加しているガリシアのミュージシャンたちのコラボレーション・アルバムを買ってしまった)。「フラメンコ・ダンサーまでいるらしい」と期待していた彼女は踊るだけではなく、というか踊りつつ堂々とした歌声で熱唱するのに仰天。 しかも登場するたびに長いセクシーなドレス、ぴったりしたパンツにかかとの高いブーツと次々に衣装が変わる!ステップを踏みならしつつポーズを決める!!とこれまた呆然状態。親日家らしく単独/他のミュージシャンとの共演で頻繁に来日する(ときどきもしかして日本に住んでいるのでは、とも思う)アイルランド音楽界の重鎮ドーナル・ラニーも円熟した演奏でヌニェスとの絡みを見せ、最後には全員がステージ前面に出てきて楽器を演奏しつつ高々と脚を振り上げて踊る、まるでケルト式ラインダンス(?)のような怒涛のフィナーレ。リラックスした雰囲気は観客とステージ上の距離をとても近いものに感じさせてくれました。拍手が鳴り止まなかったアンコールまで若々しく躍動的な、それでいて初単独公演の粗さや気負がなく落ちついた、まさに大物の風格を感じるとても印象深いコンサートでした。今回三作目が発売されて、すでに次の来日は?と待ちかねているところです。


☆ お勧めアルバム ☆

Santiago サンティアーゴ (1996) アイルランド内外のミュージシャンとの共演に積極的なザ・チーフタンズが、ガリシア地方の伝統音楽をテーマに製作したアルバム。カルロス・ヌニェスの他にシニード・オコナー(Sinead O'Connor)やライ・クーダー(Ry Cooder)、ジプシー・キングス(Gypsy Kings)など 多彩な顔ぶれで楽しめます。

Brotherhood of Stars スパニッシュ・ケルトの調べ (1997) ザ・チーフタンズのパディ・モローニ(Paddy Moroni)が共同プロデュースした、カルロス・ヌニェス初のソロ・アルバム。チーフタンズのメンバーが全面的に参加しています。山々に響き渡るようなリコーダーの澄んだ音色から始まる、叙情的な作品。まだ20代半ばの彼の演奏は瑞々しさと共に既に堂々とした大物ぶりをも感じさせます。伝統的ケルト音楽からスパニッシュ・ギター、国境を接するポルトガルのファドなど近隣の土地からのさまざまな音楽的影響が無理なく溶け合っていて、聴きやすいアルバムになっています。最初の一枚ならこれ。

Os amores libres  アモーレス・リーブレス (1999) 録音に2年を費やしたというソロ第二作。前作に引き続き哀感漂うケルトの調べを軸にしながら、フラメンコやスペインの伝統音楽などをさらに積極的に取り入れ、力強い作品に仕上げています。やはり若くして天才アコーディオン奏者といわれるシャロン・シャノン(Sharon Shannon)、リアム・オ・メンリィ(Liam O'Maonlai)、元ウォーターボーイズのマイク・スコット(Mike Scott)などを始めとして総勢100名を越えるミュージシャンが参加。豪華な共演陣に全く臆することなく彼の比類ない才能がいかんなく発揮された好盤です。

Mayo Longo  (2000) 前回に引き続き多くのミュージシャンが参加する最新作。もとスーパートランプ(Supertrump)のロジャー・ホジソン(Rodger Hodgson)も一曲歌っています。エレクトリック・ギターやプログラミングも以前より積極的に取り入れているためか緊張感のある音作りになっている反面、前二作に比べてやや地元色が薄れてある意味「洗練された」感もあります。これまでになくヴォーカル曲が多くなっていますが、オリジナル、伝統曲ともやや感傷的な「歌謡曲」的選曲が多い印象。前二作でのファドの女性コーラスとの迫力ある掛け合いや土の匂いと民族性の感じられる力強い曲が好きなわたしとしては個人的にいささか物足りない感じもしますが、ガイタを中心にしたインストゥルメンタル曲はますますドラマ性を深めて、聴きごたえがあります。



3/10/2000



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