『「気」の身心一元論』

読者の声

─ 読後感想文の紹介 ─

   

第二回 野口整体の可能性

─ 機械論的企業経営の閉塞感に思う

 二回目は、経営コンサルティングの仕事をされている四十代の男性から寄せられた感想文を紹介します。
 現代社会の抱える問題に対する「野口整体の可能性」ということを、ご自身の職業上の経験に基づく熱い言葉で語っておられます。

    

■ Y・Tさん(四十代男性)

野口整体の可能性 ─ 機械論的企業経営の閉塞感に思う

2011年11月24日寄稿

 私は『「気」の身心一元論』を一気に読んでしまいました。
 一気に読んでしまったのは、金井先生の持たれている問題認識に共感し、その問題に対する「野口整体の可能性」にワクワクしてしまったためです。

 というのは、私は企業に対するコンサルティングを職業としています。特に「組織開発」と呼ばれる分野です。
 これは、企業内のコミュニケーションを活発化させ、企業を不活性化させている「人と人との関係性」や仕事をする上での古い常識を変えていきながら、働いている人のやりがいと企業の業績向上を実現させていくための支援を行う分野(あまり一般的ではない独特の分野)です。

 現在多くの企業が閉塞感にぶちあたっています。「モノを作れば売れた」右肩上がりの時代が終わり、バブルがはじけ、それまで「ジャパンアズNo1」と言われるほど元気だった日本企業も自信を失い、その活路として欧米の経営手法の積極的導入を1990年代後半から行ってきました。当然、欧米の手法はこの本にあるように「科学的」なことが前提になっています。組織を機械と見立て、その構造をどう変えていったらいいかという手法がほとんどです。組織を機械と見立てた場合、当然そこで働く人たちは部品です。

 そのため、これまた欧米から来た「成果主義の人事制度」などを導入し、いい「部品」は評価し、悪い「部品」は評価しないという、人に対してその果たしている性能での処遇格差がつけられるようになりました。また2000年に入り、「派遣社員」の活用も積極化して、会社の業績が悪ければ雇用を解除するという人間の「使い捨て」現象も起きるほど、人間を単なる部品として扱う精神構造が強化されていきました。

 本にもあるように「近代科学」を根底とする組織運営ではやはり「理性」が重視されるので、他者とコミュニケーションをする際にも「論理性」が大切になります。それと同時に「目に見える」結果を重視するので、結果を数値で表すことができ、その結果に至る道筋が「論理的」に表現できない構想や企画は受けつけない風土が育っています。現場は数値や論理性で上から管理されるため、人間として現場で感じている生の感覚は説明できない限り抹殺されていきます。

 そのため、現場は上からの「抽象的で概念的な方針」と生の現場状況とのアンマッチで苦しんでいるところがたくさんあります。それに加え、「論理性」を重視するため、説明できないひらめきや結果の見えない挑戦的行動がとりづらいため、企業はどんどん活力のない負のスパイラルに陥って行っています。

 そのような企業を支援していくにあたって、欧米型の手法には限界を感じているのに加え、どうも「頭」を使ってばかりじゃこの状況を打破できないのではないかと思っておりました。そこで個人的には東洋医学や気功などに関心を持ち、自分自身もいろいろ習ったりしてみました。そして東洋の考えの中にそのヒントがあるような思いをしていました。

 そんな状況の中、『「気」の身心一元論』を読みました。私がモヤモヤと思っていた問題意識を「近代科学と東洋宗教」、あるいは「心身二元論と身心一元論」の対比で整理されており「身体性」などをキーワードにして、この状況を打破するための可能性を示唆していただいたように感じています。特に自分の無意識に信頼を置くこと、体を通じて無意識に取り組んでいくこと、このあたりの基本的な考え方がとても大切だと感じました。無意識を活用していくために「体」があるのだと、一種の驚きというか、「体」に対する新たなとらえ方をすることができました。

 私もコンサルタントになりたての頃は「論理思考」が強く、「なんで人間には体というものがあるんだろう」と思うくらい、体の意味をあまり感じず、「頭」が最も大切なものだと思っていた時期もあります。そんな時期は自然や絵画を見ても、「美しい」とか「きれい」だという感覚を感じることができず、この絵はどういう人が書いたものでどんな特徴があるという知識を通して、絵を見ていたにすぎませんでした。

 そういったところから段々と瞑想や気功の世界に興味を持ち、右脳や身体を通じて少しずつ変わっていくことにより、こちらの世界の方が人間にとっては幸せなのではと感じるようになってきました。

 まだまだ私も途上の段階ですが、多くの企業の人たちは「頭でっかちの論理性重視」、あるいは「人の感性や個性を重視しない」企業運営の中で苦しんでいます。その援(たす)けに野口整体はなるのではないかと感じています。瞑想やヨガ・気功もいいと思うのですが、個人的には日本の身体文化をベースにおくこの野口整体に大いなる可能性を感じます。まだまだ理解が浅薄な状況でありますが、今後も野口整体の体験を通じて、いろんなことに気づいていきたいと思っています。