和平復興関連 No109


2006‐Jan-08 / 2007-Mar-17
イルメナイト戦争
鉱物資源がもたらす次の戦争


 東京会議以前の出来事である。
 LTTEがパナマ船籍で香港人を乗組員とする鉱石運搬船をスリランカ東海岸で攻撃した。運搬船はスリランカ政府が借り上げたもので、トリンコマリ近くのプルモッダイで産出するイルメナイトを運んでいた。輸送先は日本である。
 イルメナイトはチタンの原材料でスリランカ東海岸に広がる砂浜はこの鉱物を多量に含んでいる。スリランカには天然のままに産するチタンが豊富だ。
 プルモッダイのイルメナイトは高純度を誇る。プルモッダイはTTEがイーラム(わが国)と主張するタミル地区にある。トリンコマリの南だ。プルモッダイに産するものは古代からタミルのものであるとLTTEは主張する。だが、スリランカ政府はそれを政府の財貨であると主張する。
 
 その時、イルメナイトを積んだ貨物船はスリランカ陸軍と海軍の砲艦が護衛に当たっていた。貨物船にも政府軍兵士が乗り込み護衛に当たった。しかし、LTTEの急襲で3隻のスリランカ海軍船が沈没させられた。輸送船の政府軍15人が戦闘で死亡、そのほか戦闘に巻き込まれた乗組員(LTTEによれば3名)が死傷。行方不明者も出た。

 その事件が起きたのは1997年8月のことだった。ここに記した概要はシヴァラムTaraki Sivaram氏の1997年9月の記事から引いている。
 シヴァラム。タラキ(星)というペンネームで親しまれたタミル・ネットの編集者。シンハラ-タミルが憎しみをぶつけ合うスリランカ内戦抗争の中で、その自由な立場からの報道がうらみを買いテロルの標的となった。
 友人との会食を終えてマラダーナのレストランを出た夜、車で拉致され、(おそらく、とスリランカのマスコミは書くが)テロリストによって銃で撃たれ、翌朝、運河のほとりでその遺体が発見された。
 理性を持ったタミル人ジャーナリストだった。彼の洞察はスリランカ政府とLTTEを等距離で読みこむ。彼がテロルの銃撃で倒れる直前まで、編集者として関わったタミル・ネットはスリランカ内戦に関する情報の質が高かった。彼がいなくなると、激情に流されがちなシンハラ新聞のタッチがタミル・ネットに飛び火して、しばらくタミル・ネットは読むに耐えない紙面のありさまとなった。
 その事件は日本外務省がタラキを日本に招致して、東京会議以降、日本として積極的に関わるスリランカ内戦問題への助言を得ようと動き出した矢先に起こった。タラキの穏健な思慮は日本の新ODAにおいても充分な貢献がなされると期待されていた。だが、テロルの銃弾が日本が見出したかすかな希望さえ吹き消した。
 タラキはテロルで殺された。その犯人は未だに特定されない。

 プルモッダイのイルメナイト

 スリランカ東部北部の海岸はモナザイト砂で覆われイルメナイトとルチルを含む。イルメナイトとルチルは二酸化チタンを生む。チタンは現代が渇望する最先端の金属だ。何が最先端か。ゴルフのクラブか。いや、医療にも、宇宙開発にも、戦争で使う爆弾にも、それは欠かせない。スリランカに、しかもタミル地区のスリランカ東部海岸に集中してそのイルメナイトが砂浜の砂として無尽蔵に地表に露出している。
 それらの含有が最も高いのはプルモッダイ地区だ。この海岸では波に洗われる砂そのものが貴重な鉱物資源となっている。含有率54%、500万トンのイルメナイトが眠っているのだ。
 プルモッダイの海岸に眠る高純度イルメナイトは世界に例がない。年間15万トンの産出が見こまれている。同様にルチルは1万トン、ジルコンは6千トンの産出が見こまれる。
 プルモッダイはトリンコマリとムッライティウの間に位置する。LTTEにも政府軍にも戦略上の重要地点だ。スリランカ政府はこの地区に居住していたタミル人を追い払い軍事基地を設けた。そして、プルモッダイをめぐって政府とLTTEの戦闘は拡大した。1997年のイルメナイト運搬船攻撃はその中で起きた。
 
 チタンは現代社会が最も必要とする重要鉱物資源の一つだ。人体組織との馴染みがいいから体内に組みこむ医療具となる。大腿骨骨折ではチタンが骨の隋に入れられ、術後の経過もよく、治療を大いに進化させた。
 人間が精製するこの鉱物は宇宙開発のためのサテライト、宇宙船の開発にも欠かせない。
 そして、軍需物資としてさらにその有用性が高まる。戦車の分厚い鋼板を貫通して焼き尽くす劣化ウラン弾製造にチタンが欠かせないのだ。大国は劣化ウラン弾が与える人体への甚大で悲劇的な結果を承知の上で劣化ウラン弾を安価に量産し兵士にそれを使わせる。劣化ウランダンを浴びせられる側も、それを打つ側の兵士も放射能を体内に蓄積して戦争病を引き起こす。
 チタンは現代を作り、現代を破壊する。
 たとえば光触媒塗料としてチタンは高機能であり環境汚染を食い止める救世主のように宣伝される。その部分はそのとおりなのかも知れない。だが、それはイルメナイトが主要な役割を果たした後の民生用の副産物に過ぎない。

イルメナイトをめぐるクレーム

 LTTEはプルモッダイのイルメナイトをスリランカ政府が略奪し、その売却資金で政府軍の武器調達を工面していると抗議する。一方、政府はイルメナイトがLTTEのテロルの財源になると主張する。言い分は同じだ。同じなので一つの事実が明らかになる。イルメナイトは劣化ウラン弾になる以前、スリランカではすでに軍事費に利用されている。政府借り上げ運搬船のイルメナイトは1500万米ドル相当だった。
 タラカの記事にはイルメナイトをめぐる日本(企業)のかかわりが指摘されている。彼はこう指摘する-プルモッダイのイルメナイトはその中心となる買い手が日本の1企業である、と。その企業(石原産業)は日本でフェロシルト処理の問題を抱えている。

 スリランカ自由党の議員が輸出されるイルメナイトにクレームをつけた。チタン鉱石は国際価格トン当たり120ドル。だがスリランカのイルメナイトは50ドルで取引される。結果、毎年250万ドルが仲介者の手に落ちてしまう。チタン鉱石を二酸化チタンに加工して輸出すればその減収がなくなるというので、1900年代終わり、スリランカ政府はデュポン社などの多国籍企業にイルメナイト処理プラントを建ててもらった。しかし、LTTEがプラントへ供給する真水供給施設を破壊したため二酸化チタン製造は滞った。

(※NHK2005-04-05放送の「クローズアップ現代」で石原産業のフェロシルトに触れている。スリランカの海岸から持ち出された砂が日本で加工され発がん性を持つ産業廃棄物を生み、それがリサイクルされて園芸用の土として売られた。ただし、この土で植物は育たない) 2006-Apr-05追記

 問題はイルメナイトからチタンを精製する際に副産物として派生するフェロシルトの処理だった。チタン精製で六価クロムが生み出され、自然放射能も放置される。この「悪性腫瘍」は地球環境のバランスを破壊し、人々を地獄へ落とす。1980年、海の公害Gメン田尻宗昭氏が摘発した四日市の硫酸水垂れ流し事件はいま、六価クロムと放射能の放置へと悪化している。一点から見れば、日本のODAの多額な援助の見返りがスリランカの高純度イルメナイトであり、イルメナイトが精製工場でチタンに変えられその価値が高まると同時に、関西地域では六価クロムと放射能の放置が始まるのだ。

 シンハラ語では、この因果をカルメと言う。カルメとはシンハラ語化したカルマのことである。業karmanはサンスクリットの知恵の言葉だが日常のシンハラ語では逃れることの出来ない宿命を意味する。 シンハラ人がこの言葉をつぶやくとき、カルメの怨念から人は抜け出せない。日本人もまた、この負の因果から抜け出すことが出来ない。

 イルメナイトはだれのものか。
  シンハラ人の間にまことしやかな噂が流れている。
  ノルウエーがLTTEを支援して和平交渉に乗り出したのはこの鉱物資源に目が眩んだからだ。和平交渉に口を出すとき、このスリランカの浜辺に無造作に置かれた宝のことを思い浮かべない調停者などいるものか。

  シンハラ人社会にはまことしやかな危惧が流布している。
  石油が欲しくて戦争を始める人がこの世界にいる。彼らが石油を手にした今、次に手中に収めようとするのはわが国のイルメナイトではないのか。
 安価で破壊力のすぐれた劣化ウラン弾を作るために。彼らが必ず起こす次の戦争のために。彼らの高度に文化的な生活レベルを維持するために。
 豊かな国は戦争を起こし、貧しい人々はテロルを起こす。