スリランカ・和平への足跡
スリランカ国会議員選挙前の動き2010

No.144
2010-Apr-07

投票前夜。マヒンダの国土復興経済戦略を解く


 明日はスリランカ国会議員選挙の日だ。
 マヒンダ(ラージャパクシャ大統領)は国会定数の三分の二以上を獲得する勢いだ。コロンボを行くダブルデッカーの二階からマヒンダの選挙向け写真が人々を見下ろして笑いかける。街角でも、政府の直轄新聞デイリーニュースも、ルーパワーヒニもマヒンダ一色だ。
 軍と警察は徹底して政敵となったサラット側の軍人とジャーナリストを逮捕監禁し、コロンボの最高裁が保釈を決定すれば、また更に政敵が捕らえられる。英国のチャンネル4にサラット(フォンセーカ元陸軍参謀長)が劣悪な拘置の様子を彼自身による手書きのイラストで暴露し、スリランカ軍の内戦時の不法を暴いて見せたが、スリランカ国内に変化は起こらなかった。
 国内の報道はすべてマヒンダに擦り寄った。反旗を翻しかけたヌゲゴダのシーラサTV局は、いつものように何度も暴漢に襲撃され、局員も逮捕の憂き目をこうむった。

 こうした選挙前の出来事は、今回はサラットの一件があって取り分けて騒がしかったものの、いつもの選挙投票前の様子と変わったところはない。ただ、強烈に印象深いことがある。マヒンダの政治力が格段の強さを持っていることだ。格段の強さを持ちえたのは彼のスリランカ経済復興の大胆な筋書きと東の新興経済大国・中国のアジア戦略が見事に噛み合ったことによる。

 先月26日、ガーミニ・ピーリス国際貿易相が記者会見でスリランカの投資状況を報告した。世界各国がスリランカの戦後経済復興にいかに力を貸し、それがマヒンダ・チンタナ(マヒンダ構想)にどれほど有益であるかという発表だ。
 ガーミニ相はまず世界銀行が20年間無利子で1800万ドルの融資をスリランカの観光業振興に用立てたと発表した。次に韓国輸出入銀行が4000万ドルを10年据え置きで40年返還の利子1%の融資をしたと述べ、この金はハットンとヌワラエリヤ間の道路整備に使われるとした。この後に中国2億4000万ドル、日本3億1千100万ドル、世銀2億200万ドルの融資があったと述べた。
 この各国・機関の投資額発表の順位は額の多さにあるのではない。各国・機関の投資がどれだけスリランカの人々にインパクトを与えるか、が基準だ。日本は投資額が多い。が、スリランカ政府の扱いとしては十把一絡げでしかない。
 世界銀行の観光業への融資は額が小さいが無利子だ。スリランカの観光業はすでに昨年の終戦後から動き始めて、終戦1年を迎えるこの6月ごろからはコミュニテイ・ツーリズムの動きも活発になる。民間の個人投資家が参入できる仕組みが観光業に用意され、かつての1970年代のように再び草の根の力がスリランカを潤すのだ。ここに注目した世銀の投資に狂いはない。

 そうした民間の草の根の産業復興とともにマヒンダ・チンタナは大規模なプロジェクトをもくろんでいる。彼は選挙地盤のハンバントータに中国資本の海港と空港とを一挙に作り出そうとすでに始動を始めているのだ。
 タミル過激派との内戦で少数民族の虐待を世界中から非難されたマヒンダは、彼を支持する中国と急接近した。武器供給の支援を受け、彼がサラットとともに進めたタミルの圧殺にも支持を得た。中国輸出入銀行は、10億ドルに上るハンバントータ新海港建設のその90%近くを持ち、工事は中国海港エンジニアリングが請け負っている。そして、同地に開設される国際空港建設も中国が進めている。
 国際会議センター、政府庁舎、クリケット会場まで設置されるハンバントータ。スリ・ジャヤワルデネプーラ同様、ここハンバントータがスリ・マヒンダプーラと名を変える日は近く、貧しさの象徴だった彼のクラッカンの赤いロング・マフラーは今、中国共産党の色、富裕の証に変わった。
 サンデー・タイムズ紙は先日、中国が関与しているプロジェクトは60億ドルに上るだろうと試算したが、スリランカにとって第一の寄付国であり投資国であったインドや日本はその下に押しやられる形になった。

 明日、マヒンダ与党が圧倒的な勝利を得る。マヒンダが勝利すれば中国もそのアジア進出戦略においてスリランカで勝利する。
 マヒンダの視界の全体を占めるのは中国とロシア。国連もEUもアメリカもない。おそらく、中国に先を越された今だにスリランカへの巨大な資金供与国であり続ける日本も眼中にはないだろう。

 4月10日、立ち上がれ日本という政党が古希を迎える人々によって結成される。日本は変わらなければならない。葉山の海狼の浜からヨットを出した弟たちに出遅れた兄は浜辺でヨットを見送った。あの時の青年が古希を迎える日本人となり、立ち上がれと唱えるが、マヒンダの戦略がそこにはない。やがて崩れるにしても、マヒンダには戦略がある。
 かつてスリランカにおいて、日本の対抗国は韓国だった。
 だが、今は中国だ。
 瀋陽で事なかれ主義を貫いて主権を侵害された日本人高官は今、スリランカに居る。中国での借りを返せ。コロンボで立ち上がれ、日本人。