スリランカ・和平への足跡
スリランカ国会議員選挙前の動き2010

No.142
2010-Feb-23

Kavda Punnakku kaave3
マヒンダの大衆路線と仏教大集会


 カンディでのスリランカ仏教界3派大結集(18日)を呼びかけたマハーナーヤカ僧たちだったが、16日、大結集はあっけなく中止させられた。噂では現政府の大臣らから仏教界長老に抗議やら脅しやらが殺到したと言う。
 マヒンダ政権はLTTEからマヒンダ側に寝返ったカルナやピッラヤンなどの軍人を大臣に登用している。カルナもピッラヤンもシンハラ名。元LTTE戦士の彼らの本名はムラリッタラン、チャンドラカタン。正真正銘のタミル人テロリストだ。いや、彼らがシンハラ・マヒンダ政権の重鎮として働くようになった今では「だった」と過去形で言わなければならないか。
 彼らは今、マヒンダ政府の大臣だが、彼らが元タミル・テロリストとしてシンハラ仏教の僧侶を殺し、仏歯寺の八角堂を爆破し、シンハラ市民を殺害してきた事実は消えない。若い僧侶たちが彼らを重用するマヒンダに異議申し立てをするのも、LTTEを封じ込めたサラットの開放を求めるのもそこに道理がある。
 「カンディ大結集は中止されたのではない、先送りだ」とBBCサンデーシャのインタビューに応えて暗に苦渋の抗議を唱えたのは大結集を呼びかけたアッタンガナ・ラタナパーラ・ナーヤカ僧だ。日本・中国・ロシアを除く国際社会がマヒンダ政権の不当性に異議を唱えてから、マヒンダの政治手法は柔軟な面も見せるようになった。

マヒンダのUPFAはシドニー・オリンピックで銀メダルを取ったスサンティカ・ジャヤシンハをケーガッラ地区から、クリケットの人気選手サナット・ジャヤスーリヤをマータラ地区から立候補させる。
 スサンティカはコロンボ近郊の貧しい家に生まれた。その類まれなアスリートとしての能力から短距離走のスターとなったが、その半生は波乱万丈だ。彼女がスポーツ界のスターとなるには政治の後押しが欠かせなかったからだ。スポーツは健全な精神と肉体に宿るだけではない。彼女の天賦の運動能力はスポーツ担当大臣によって踏みにじられたことがある。ドーピング疑惑のスキャンダルでは試合出場停止の憂き目にあっている。
 今回、彼女が立候補した背景には第1回アジア大会の金メダリスト・ナーガリンガム・エティルウェーラシンガムのトレーニングを米国で受け、2007年、ヨルダンで開かれたアジア大会の100メートル、200メートル走で金メダルを取ったというやや複雑なストーリーが隠れている。彼女のトレーナーとなったナーガリンガム氏はその名から分かるだろうが、ジャフナ生まれのタミル人だ。彼女が金メダルの獲得でスリランカ人の喝采を浴びるまでにはマヒンダの庇護が必要だったし、ジャフナのタミル人の協力も必要だった。そうして生み出された彼女のサクセス・ストーリーは今回の選挙戦にマヒンダの下から出るための条件そのものだったと言える。

もう1人のアスリート候補者サナット・ジャヤスーリヤの選挙立候補はスサンティカよりも際立って戦略的だ。
 彼は1万3000得点という並外れた記録を持つクリケットの英雄。スリランカ人全般に、特に若年層に圧倒的なファンを持つ。クリケットを丸1日、あるいはテスト・マッチの5日間、仕事を休んでもTVに釘付けで観戦というという熱狂的なファンは多い。
 サナットはタミル人だろう、色が黒すぎる。いや、クリケットで陽を浴びているから黒いんだ。シンハラ人の若い連中は「サナットはドラビダ系」というジョークを嫌味なく取り交わす。サナット自身、今回の選挙戦を北部のタミルのために戦う、とタミル語版のBBCインタビューに答えている。もちろん彼は出身地の南部マータラから、つまり強固なシンハラ民族主義が根を生やす土地から立候補するのだが。
 彼はシンハラとタミルに愛されるヒーローだ。 クリケット選手が国会議員になるのは、日本のプロレスラーやスケート選手が国会議員になるのと同じで、スリランカではごく普通のこと。もっとも、彼がマヒンダ側から立候補しても、いつまでそのスリランカ自由党にとどまるか、分からない。途中でラニルの統一国民党に移籍することなど、彼らプロ・アスリートには当たり前の軽業で、既にそうした元クリケット選手の国会議員がいる。

一方で軍と警察を使って政敵のサラットを幽閉し、また、国内”騒乱”を企てるジャーナリストを拉致、逮捕、脅迫する。一方で波乱万丈な半生を生きる天才女性アスリートやタミル人にも支持されるクリケット選手を担いで大衆迎合路線を組む。極右の恐怖政治とスポーツを政治に持ち込む大衆路線。それは、いつか日本がたどる道かも知れない。
 今回、マヒンダに反旗を翻した若い仏教僧たち。彼らはマヒンダの政略の多様さを越えて尚、自由で民主的なスリランカを作る力となり得るだろうか。選挙は4月8日。僧侶たちよ、それは社会の変革を目指した釈迦の生まれた日である。

疑問がある。自由と平等と貧困からの開放を総ての人々に約束するアリヤラトネのサルボダヤ運動さえシンハラ・ネオ仏教を核にして生まれたがために、敬虔なヒンドゥ教徒のタミル人を内包出来ない。日本の京都一区の民主党議員はサルボダヤ運動推進に力を入れスリランカ復興に力を貸すが、ピリットを唱えるサルボダヤはタミル人には中々受け容れがたい。日本のスリランカ政策は自民党時代の明石代表がそうであったように、少数派のタミル人をシンハラ文明に巻き込むようにして進められる。そこに危うさがある。

月曜日(22日)、軍に拘束されたサラットの夫人アノーマが夫の意志を継いで国会議員選挙に打って出るとBBCに語った。腐敗と不正を正すのが夫の政治への執念だった。私は夫の意志を継ぐ、と決心を述べている。アノーマは新たな政治勢力を白鳥でも象でもない新たなシンボルの下に作るのだという。マヒンダは軍事中心の政治戦略に大衆文化路線を加えた。依然として軍国の硝煙が臭う。