スリランカ・和平への足跡
スリランカ軍勝利後の動き2010

No.138
2010-Jan-25

WHO is the WINNER
袂を分かって戦う二人の'勝者’


 最高裁から公正で自由な報道を求められたマスコミだが、国営放送とITNはマヒンダゲン大統領を支持し、シーラサなど独立系のTVはサラット前陸軍参謀長を支持して選挙運動期間を終えようとしている。独立系のTVがスリランカからの報道を諦めてYaTVなどに番組内容を移している。それがYOUTUBEに流れるものだから、世界のどこにいてもスリランカの現状をより「公正で自由」に捉えることができるようになった。トゥイッターへの書き込みはMIAだけじゃない、スリランカの選挙戦はここにも飛び火している。BBCは職員の安全を期してスリランカ報道から撤退したが、報道の形と質そのものが大きく変化していて、BBCサンデーシャの「消滅(現地撤退)」の損失を埋めて余りある。

 共同通信がこの選挙を「救世主」対「英雄」の戦いであるとマスコミ各社に流した。毎日新聞は「英雄」2人の戦い、と報じた。かぎカッコつきの「英雄」2人という表現はスリランカ国内のマスコミを除いて多数の報道機関に使われている。マヒンダ自身が「LTTE打倒の成果は軍と政府が分かち合うもの」と演説しているのだから「英雄」2人が正しい。また、そう見なければ今回の大統領選挙の意味が見えてこない。
 マヒンダとサラットは昨年の大勝利後すぐに決別した。サラットはシンハラ人の圧倒的な支持を受けてコロンボに凱旋したものの、マヒンダは彼を要職から退けた。
 その後の2人の有様は醜悪だった。サラットがサンデー・リーダー紙に「政府はLTTE捕虜を殺せと命じた」とスキャンダルを暴いたら、その腹いせに米国在住のサラットの義理の息子が戦争汚職でコロンボ警察に呼び出された。銃弾一つ2セント、火器は20ドルのマージンを取ってスリランカ軍に納入していたという容疑だ。これが事実かどうか分からないが、出頭した彼にコロンボ警察の担当は多忙を理由に会わなかった。嫌がらせか。
 マヒンダ一族にもこの類の噂は事欠かない。中国からパキスタンを通じて輸入しようとした戦車に汚職の疑惑がかけられて議会にストップさせられたことがある。

 サンデー・リーダーといえば昨年1月、編集者ラサンタ・ウィクラマシンハが何者かに殺された。シンハラのマスコミはこの事件を一面トップで扱ったが、殺害者は特定されなかった。巷間LTTEが犯人と言う噂が上がったが、マヒンダではないか、という憶測も風に流れていた。

 アルジャジーラは1月17日の放送でスリランカ大統領選挙を特集した。特集ルポは正月元旦にマヒンダ大統領の謹賀新年メールが届けられるシーンから始まる。スリランカのケータイ所有者全員にマヒンダ大統領から「おめでとう」とグリーティング・メールが届けられたのだ。ほほえましいことか、選挙買収か、いや、スリランカ・テレコムの組織犯罪か。
 同番組では殺害されたラサンタの遺書を画面に出して「私が殺されたとして、マヒンダはこれまでのように、関係ない、と言うだろう」という文面を読み上げた。
 アルジャジーラはアルカイダに偏る危険な衛星TVというイメージがあるかも知れない。だが、そう考える方はアルジャジーラの「八ッ場ダム」報道を見るべきかもしれない。3分ほどの「八ッ場ダム」ルポは日本のどの放送局が流したニュースよりも美しい。八ッ場の美しさを伝え、住む人の苦悩を伝えた。もちろんこのダム建設が不況にあえぐ日本の経済対策であることも伝えている。

 日本の政府筋はスリランカ大統領選挙に関するスリランカでの報道を細部にわたり収集している。だが、BBCやYaTVやアルジャジーラ衛星放送を見ないようで、型に納まる品の良い情報収集をされている。ただ、アイランド紙を反政府系として扱うなど旧担当者のマニュアルのままに情報を処理している。アイランド(ディワイナ)は読売のように民族的ではあっても、決して反政府ではないのに。

明日、誕生するスリランカ新政権はシンハラの政権だ。タミル過激派との戦争は終わったのに、シンハラ同士の戦いが私憤を込めて始まっている。
 このスリランカの現状が日本の政治状況と大差ないように感じるのは私だけだろうか。