スリランカ・和平への足跡
スリランカ軍勝利後の動き
2010

2010-Jan-15

SPACE FOR OL DAT I SEE
くそったれ、ニューヨーク・タイムス


10日のニューヨークタイムスが「2010年に行ってみたい31の観光地」のトップにスリランカを挙げた。「ニラウェリ・ビーチは砂糖のように白くやわらかな浜が続く」と絶賛した。
 翌11日にMIAがトゥイッターでFUCK NEW YORK TIMES! DO YOU THINK YOU NEED TO GO HERE ON VACATION?と書き込んだ。
 トリンコマリのニラウェリ・ビーチはすばらしい。だが、そこではタミルの子供たちが殺された。長い戦争の中で犠牲になった子供たちだ。昨年5月にシンハラ政府のあの作戦勝利であっという間に戦争は終わったが、それまでの長い年月の戦争の傷跡は余りにむごい。余りに無神経ではないか。
 この夏にリリースされる彼女の新しいアルバム「スペース・オデッセィ」には10日の記事に抗議した「くそったれ、ニューヨークタイムス」が収められると言う。
 音楽サイトのFADERが事の真相をMIAの広報に尋ねると、その曲はYOUTUBEに投稿した、とのこと。

 「くそったれ、ニューヨークタイムス」だが、MIAのこの歌にその言葉はない。繰り返されるSPACE FOR OL DAT I SEEのフレーズと、その後に流される空襲警報の響き以外はヒップホップの、わたしにすれば単調なリズムの繰り返しばかりだ。
 シンハラの若い人たちが即座にMIAのこの歌に反応した。「くそったれはお前だ」という拒絶と逆襲の書き込みが大半だ。「スリランカの現状も知らないで、何を歌う」「平和と静寂が訪れたスリランカはパラダイスだ」と彼らは書き込んだ。

その3日前の7日、国連人権調査官のフィリップ・オルストンはチャンネル4のビデオは本物だと言う鑑定結果を公表した。昨年1月にケイタイのビデオで撮影された政府軍の兵によるタミル人捕虜殺害の現場を取った映像だ。BBCはその映像の一部を流しながら8日に国連の公表を紹介した。スリランカ政府は同日、ビデオを本物であるとした国連に怒りを込めて拒絶のコメントを出した。チャンネル4が報じた番組では道路に8人の遺体が転がっている姿が映し出され、その上、新たに男の頭が打ち抜かれる情景が流された。
 オルストンはこの事件を戦争犯罪として調査するようにとのコメントを述べたが、スリランカ政府人権省のマヒンダ・サマラシンハは「思い込みと偏見」であるとして犯罪説に反論した。

以上の一連の動きは26日に投票が行われるスリランカ大統領選の最中での出来事である。
 マヒンダ現政権の対抗馬となったフォンセーカはタイガー制圧に際して「敵を捕虜にするな、殺せ」と命じられた、と選挙キャンペーンの中で述べた。命じたのは防衛大臣だと言うことだが、そのスキャンダルがリークされたのは陸軍トップだった彼を政府に向かい入れ重用することもなく、あっけなく左遷したマヒンダ大統領への恨みだろうか。2006年にはフォンセーカ自身がテロに襲撃を受け負傷しシンガポールでの治療を余儀なくされた。彼はスリランカ内戦勝利の英雄だ。
 SLFPを追い落とそうとするUNPはサラトッ・フォンセーカを担いだが、シンハラに「勝利」をもたらしたマヒンダの優勢は揺るがないとされる。昨年5月、軍事力を総動員してタイガーを破り、ウェサックの祝祭と共にシンハラの勝利を勝ち取ったのは軍人サラットではなく政治家マヒンダだからだ。

 だが、大統領選挙戦の最中では様々なことが起こる。チャンネル4が暴いた戦争犯罪は、そのニュース・ビデオに更に編集を加えてクラスター爆弾の破裂する情景が映し出されている。
 昨年2月、スリランカ独立記念のその日、スリランカ政府軍は北部非戦闘区域にクラスター爆弾を投下した。狙った先はプトゥックディリルップにある病院だった。世界中から「恥ずべき行為」と抗議を受けたが、同日の独立記念の演説でマヒンダ大統領は「勝利は近い」と述べていた。
 その言葉の通り、スリランカ政府はウェサックの月に勝利を宣言した。テロリズムへの勝利だった。
 国連は後に病院爆撃はクラスター爆弾によるものではなく地上からの砲撃であるとしたが、病院を襲った事実は消すことが出来ない。しかし、テロリズム根絶のためにはその「犯罪」も容認された。

インド洋の津波災害以降、スリランカ国内の混乱に乗じてスリランカに上陸しアルカイダの探索に当たった米国の姿が見え隠れする。米軍のミッション名目はアルカイダの探索ということだったが、結果としてもたらされたのは、スリランカ軍の軍事力巨大化だった。ウオーカーズ・ワールド等の反戦グループはスリランカ政府の戦争犯罪を米国の介入とセットにして報じている。真偽は不明だ。軍事攻撃における米国の関与を露にする証左は何もない。スリランカ政府は捕虜殺害を否定し、クラスター爆弾やナパーム弾の使用を否定するかのように口を閉ざしている。

 大統領選挙戦は10日、バスに乗ったフォンセーカ支持者を爆弾で死傷させると言う政治テロをもたらした。事件の現場はタンガッレー。マヒンダ現大統領の地盤である。

 13日にはサラットが米国で豪奢なマンションを手に入れたという記事が流された。スリランカの2チャンネル、エラキリ・サイトではサラットはマヒンダ一族の富を手に入れられる訳がないと揶揄され、一族から追い払われて終わりと揶揄する書き込みであふれている。こうした書き込みにエラキリ2チャンネルの無力感と焦燥を感じる。
 26日の選挙がもたらす結果は、すでに見えているのだろうか。

これから先、最も大きな問題となるのは難民キャンプでの収容者虐殺の疑惑だろう。そこはニューヨークタイムスが「2010年に行ってみたい31の観光地」のトップに挙げた、あの美しい、白い、南国のビーチである。