白峰三山縦走 2ページ目 2002年8月9日 - 11日 テント縦走

8月11日 晴れ

富士山と甲府の夜明け
富士山と甲府の夜明け
2時起床。外は相変わらず猛烈な風だ。しかもガスで、近くのテントも見えないくらい真っ白だ。困った。これでは撤収も難しいし、もし撤収中に雨が降ってきたらと考えると空恐ろしい。もうちょっと様子を見て、最悪の場合一日停滞しようという結論に達した。すると疲れが出てすぐに爆睡してしまった。
3:50、相棒Kに起こされた。なにやら様子がおかしい・・・風が止んでいる! 外を見ると、空は晴れ渡っていた。まわりのテントもみんな活動を始めたようだ。そこで出発決定。今から撤収して6時に出発すれば、夕方の身延行きバスには間に合うだろう。

5:49 農鳥小屋発(高度計:2800m, 温度計:18.2℃)

西農鳥岳を見上げる
西農鳥岳を見上げる
しかし風は止んでいたのではなくて、再び方向を西に変えただけだった。寒いのでカッパを着込んで出発。稜線に出ると台風を思わせる暴風にさらされた。道はきつい段差もなく歩きやすいのだが、この風は昨日以上に激しい。あおられて転ばないように、何度も耐風姿勢をとりながらじりじりと登っていく。
後ろを見ると間ノ岳のどでかい二重山稜がはっきりとした影をつけている。高度をあげると間ノ岳の脇から北岳、八ヶ岳の頭も見えてきた。左には変わらず富士山がいる。
登りつめ、左写真の、尖っていて一番高く見えるピークを右(つまり西)に巻く。すると左斜め上にようやく山頂の標識が見えた。南方には塩見岳が姿を見せた。

6:40 西農鳥岳登頂(3055m, 8.7℃)

西農鳥から間ノ岳・北岳・八ヶ岳
西農鳥から間ノ岳・北岳・八ヶ岳
山頂が見えてから約10分で到着。しかしこの10分の間に雲が増えてきてしまった。はるか遠く、赤石岳には滝雲がかかっていた。
冷たい風は絶え間なく吹き続き、猛烈に寒い。温度計は8.7℃にまで下がった。

昨日の登りでは見えなかった間ノ岳の姿をまじまじと見た。それにしてもでかい。富士山がまだ小さかった氷河期、間ノ岳は今より数十m高く、日本列島第一の高峰だったという説もある。

6:55 西農鳥岳発(3055m, 10.7℃)

東農鳥越しの富士山
東農鳥越しの富士山
東農鳥の山頂部は南北に長細い。その上に富士山がどすんと乗っているように見える。
西農鳥を出るとすぐ東隣の小さなピークに向かうのだが、この道は幅がひとりぶんくらいの稜線で、両側は切れ落ちている。吹き続いている強風でよろめきそうになり、滑落の恐怖と戦いながら慎重に歩く。ここが一番怖かったが、幸いすぐに山腹に入った。風さえなければなんということもない所なのだが。
アップダウンの連続する道だと思っていたが、そうでもなかった。大雑把に言えば、最初ゆるく、次にズドンと急降下し、それからだらだら登るというイメージ。西側の山腹を行くので風は強いままだった。

7:40 東農鳥岳登頂(3025m, 11.2℃)

東農鳥より間ノ岳・北岳
東農鳥より間ノ岳・北岳
これで三山縦走を完遂した。東農鳥の方が西より若干標高が低いが、農鳥岳といえばこの東農鳥が代表だ。到着したころには幸い雲は晴れて、360度の展望が得られた(ぐるぐる写真)。
山頂の東側に入って風を避け、昨日から歩いてきた三山の縦走路を眺めながらミニケーキなどを食す。今日は出発で出遅れており、奈良田で温泉に入るためには先を急ぎたいところだが、この山旅最後のピークがこんな素晴らしい展望をプレゼントしてくれたというのに、すぐに下りちゃうなんて罰があたるというものだ。

8:23 東農鳥岳発(3015m, 29.8℃)

南ア南部の名峰を眺めながら歩く
南ア南部の名峰を眺めながら歩く
前日の間ノ岳で、山頂を去るのがこれほど名残惜しいのは初めてだと思ったばかりだが、このときはもっともっと名残惜しかった。
大門沢下降点へは山稜の東側を行く。とたんに風がなくなって暑くなった。カッパを脱いで身軽になり楽しく歩く。正面にはすっきりと晴れた赤石など南アの名峰、左手に富士山を眺めながらゆるゆると下る。途中の地形も、崩壊した岩塊斜面があったりしてちょっと異様な光景、おもしろい。

9:08 大門沢下降点着(2790m, 21.7℃)

下降点標識と農鳥岳
下降点標識と農鳥岳
下降点は農鳥岳と広河内岳の鞍部にあり、広場のようになっている。広いのはいいが、再び風がよく通るようになった。大きなケルンがあり、陰に身を隠して休憩した。
到着して見上げると、悪沢・塩見は広河内岳の後ろに入って見えなくなってしまった。下降点のちょっと上が、最後に見える地点だったようだ。

9:22 大下りの始まり

富士山を眺めながら下る
富士山を眺めながら下る
地図で各チェックポイントの標高を確認してから大下りにとりかかった。
最初の30分くらいは富士山を眺めながら日当りのよい斜面をゆったりと気持ちよく下る。しかし暑い。温度計を見たら34.1℃を指していた。3時間前は街の真冬並みの気温で凍えていたのに。
やがてハイマツが林になると、急激に歩きにくくなってきた。小石が転がっていて滑りやすい急坂木の根が複雑に張り出して段差の激しいところ砂ザレザレで滑りやすい急坂が続くのだ。しばらく歩くと注意力が散漫になって転びそうになるので、意識して小刻みに立ち休憩をはさむ。拇指球も悲鳴をあげている。ガイドブックには「うんざりするほど下る」と書いてあったが、確かにそう形容するしかない。本当にうんざりした。木陰で、風通しがよいのが唯一の救いといえようか。また、泥嫌いの我々としてはぬかるみがまったくなかったのはよかった。

11:03 大門沢(2090m, 31.7℃)

沢の音が聞こえてくると、山腹の斜面についていた道は小さな尾根を行くようになり、左手に沢が見えてくる。するとすぐに大門沢との出合に着く。ここからは、ガイドブックによれば富士山が正面に見えるらしいが、いつのまにか雲の中に隠れてしまったようだ。道はまた沢を離れてしまうので、水を補給するならここで済ませねばならない。
ここから道は、ほんの気持ちだけ、緩やかになった。

11:53 大門沢小屋(1765m, 27.2℃)

大門沢小屋でそうめんをいただく
大門沢小屋でそうめんをいただく
沢を出発してすぐ「大門沢小屋まであと40分」の標識を見つけ、40分以内に着かないといけないような強迫観念にとらわれながら歩く。小石は多くてもそれほどの急坂でないので転ぶ心配があまりない。などと思いながら進むと、なっなんだこの下りは! 聞いてねーよ! と突然急坂が現れたところが大門沢小屋のすぐ手前で、もう小屋の建物も見えるところだった。標識から36分で着いた。
大門沢小屋にはなんと、期待していなかった軽食メニューがあった。我々はそうめんに飛び付いた。ああ〜きくぅ〜・・・他にはカレーや冷やしうどんなどがあったが、どれも1,000円というのがおもしろい。

12:17 大門沢小屋発(1780m, 31.3℃)

ようやく歩きやすい道に
ようやく歩きやすい道に
小屋を出ると道はいったん左岸に渡り、沢沿いの岩がごろごろした歩きにくい道をしばらく行ったあと右岸にもどる。右岸に入ってからはまた格段に道が良くなる。しかし、今度はだら〜っとした登りが出現するようになった。高度計は1500m付近をずっとうろうろするだけだ。

13:38 大コモリ沢出合(1340m, 30.1℃)

道がよいため、ザックも下ろさずについ1時間あまりも歩いてしまった。次に広いところに出たら休もう、と思っていたら、猛烈な下りに出くわした。八丁坂だ。砂でザレた、どうしようもなくよく滑る、短いターンのつづら折れを、数え切れないくらい曲がって急降下(実際途中まで数えたがわからなくなってしまった)。下りきってすぐのところに沢があり、そこが大コモリ沢である。大きな石もたくさんあるし日陰だし休憩には持ってこい。ここで顔を洗ったりして英気を養う。あと1時間半で発電所かあ。長いような、短いような。
しかしここからは吊り橋が3つある。途中にそういうチェックポイントがあると、歩きにもメリハリが出るというもの。この山旅も確実にフィナーレを迎えつつある。あともう少しだ、がんばろう。
・・・で、かつりんは、この時点では、自分が、マンションによくある鉄階段のような、足場のもろそうなところが苦手なのをすっかり忘れていたのだった。

14:47 登山口着(1140m, 31.2℃)

吊り橋パート1
吊り橋パート1
世にも恐ろしい苦難が待ち受けていた。吊橋である。そうか・・・こういうことだったのか・・・広河原のとぜんっぜん違うじゃん! 足踏み外したらサイゴ! でもこれ渡らないと帰れないし。どうしてもイヤなら戻って転付峠まで縦走するしかない。意を決して足を踏み出すと・・・まあ自分が大げさなだけだった。しかし真中あたりの揺れは結構「くる」ものがあった。こういうのが得意なはずの相棒Kもちょっと緊張気味だ。
続いて2番目の吊橋。注意書きがある。なになに「修理中なので、ひとりずつ・・・」っておい! 修理中かよ! うわ、橋げた木だよ! ・・・でも問題なく渡れ、3番目の吊橋では途中で下を撮影する余裕もでてきた。
で、3番目を過ぎるとすぐに舗装路にでた。登山口だ。やれやれ、オレって大げさだなあ。

15:16 発電所

舗装された道をゆるゆると下る。少し行くとベンチがあった。奈良田の民宿の送迎はこのベンチまでのようだ。ここより上流は「作業現場」ということらしい。ずーっと下って最後に登ると(と言ってもものすごく緩い)、発電所が見えてくる。バスは16:34発。時間を逆算すると、奈良田の温泉に入れるかどうか微妙なところだ。やはり風呂に入ってから帰りたいものだ。というわけで休憩もとらず、ふたりとも無言でカッ飛ばす。

15:37 奈良田着

灼熱のアスファルト地獄を20分くらい歩くと、民家らしき建物が見えてきた。すぐに奈良田の臨時バス停に着いた。よかったー、ずいぶん早く着いたようだ。風呂はどこだ。町営「奈良田の里」の標識の示す方向を見た我々は、愕然とした。・・・登りだ・・・

温泉

この山旅最後の登りを「生ビール」「食事処」の幟に導かれるように行くと、数分して「奈良田の里」はあった。観光地のこのテの幟は美観を損ねるだけの俗物だと思っていたが、これほどのパワーを持っているとは認識不足であった。今は素直に幟にありがとうと言いたい。
さて、奈良田の里のしきたりとしては、荷物は玄関の外に置いて、着替えだけ持って湯に向かう。貴重品は100円リターンのコインロッカーに預ける。食事は昼の間だけの営業のようだった。浴槽は熱めの透明の湯とぬる目の濁った湯があり、あわせてタタミ8〜10畳くらいの広さだったように思う。洗い場が3つしかなく、このときの男湯は順番待ちができるほどだった。あまりゆっくりできなかったがいい湯であった。
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