Our Stolen Future (OSF)による解説 2006年11月13日
著名な疫学者が利害抵触を隠していた
American Journal of Epidemiology 164:742?749. の掲載論文を
Our Stolen Future (OSF) が解説したものです

情報源:Our Stolen Future New Science, 13 November 2006
Undisclosed conflicts of interest by major epidemiologist
http://www.ourstolenfuture.org/Industry/2006/2006-1103hardelletal.html

オリジナル論文American Journal of Industrial Medicine, in press.
Secret ties to industry and conflicting interests in cancer research
http://www3.interscience.wiley.com/cgi-bin/abstract/113451325/ABSTRACT?CRETRY=1&SRETRY=0
Lennart Hardell et al. 1
1Department of Oncology, University Hospital, Orebro and Department of Natural Sciences, Orebro University, Orebro, Sweden

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年11月15日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/osf/06_11_osf_Sir_Richard_Doll.html


 ピアレビューされた論文及びその他の証拠により、論文を発表するときに産業側から資金援助を受けていることをいつも公表しない科学者は、タバコ産業から金を支払われた科学者らだけではないことが明らかにされた。最も当てはまるケースはがん疫学において最も影響力のある論文のひとつ、すなわち環境暴露によって引き起こされるがんの割合は非常に小さいという論文の(リチャード・ペト)との共著者、リチャー・ドール卿(訳注:オックスフォード大学名誉教授)のケースである。
 ハーデルらの研究によれば、ドールは1970年から1990年の間、モンサント社と金銭的な関係を長期間持っていた。ハーデルらは、ドールがウェルカム・インスティテュート・ライブラリーに託していたモンサントとの1日当たり1,000ポンド(約22万円)のドールの契約を見直していたモンサントの疫学者からの手紙について述べている。ドールとピートの論文は、1981年に発表された。ハーデルらによれば、ドールと1人の産業医学顧問は、ドールによって書かれたどのような論文もピートと二つの化学会社の医学顧問らによってレビューを受けることに同意したということを追加的文書が明らかにした。ドールがモンサント社から請けた仕事には、塩化ビニル、ダイオキシン及びフェノキシ系除草剤(2,4-D and 2,4,5-T)のがんリスクのレビューが含まれていた。塩化ビニルの研究は1998年にピアレビューされた論文としてスカンジナビア・ジャーナルに発表されたが、それは塩化ビニルは肝臓以外には有意な発がん性が認められないと報告した。

 ハーデルらによれば、ドールの分析は塩ビの毒性に関する黄金律(Gold Standard)となり、アメリカ化学工業協議会(ACC)も塩ビと脳腫瘍に関連がないことを示すのにこれを引用した((2001)。

 ハーデルらは、ドールのウェルカム・トラスト・ライブラリーでの企業や産業団体との関係を示した追加的な文書を報告した。例えば、1988年の論文についてドールは化学品製造者協会及び化学会社 ICI 社及びダウケミカル社(塩ビ製造の二大会社)から、15,000ポンド(約330万円)プラス経費を受け取っていたことを公表しなかったが、これらはハーデルらによって検証された論文に示されていた。彼らはまた、ドールは同時に、モンサント社及び塩ビの他の大きな製造会社から追加の支払いを受けていたことを示した。

 ハーデルらはまた、頼まれもせずにオーストラリア王室委員会の議長にダイオキシンとフェノキシ除草剤の安全性に関する個人的な手紙を送り、”それらが実験動物に発がん性があると考える理由はない”と書いた。彼の手紙はさらにハーデルらによるピアレビューを受けて発表した研究の真実性を非難することに及び、”私の意見では、ハーデルの研究は最早、科学的な証拠としては引用されるべきではない”と書いた。ハーデルらによれば、王室委員会の最終報告は、”この問題に関するモンサント社の陳述と一言一句同じである”というものであった。

 ハーデルらは、ピアレビューされた研究の結果に既得権益を持つ産業側との金銭的関係の公表を隠した研究者の他の事例を述べている。例えば:

  • フィリップ・モリスのコンサルタントであったスウェーデンの教授ラグナール・リランデルは彼の雇用主との関係を隠したまま数十年間働き、同時に、”大学での彼のタバコに関連する研究をフィリップ・モリスや同社の弁護士らと討議していた。”2002年に始めてコンサルタントの件が露見した時に、彼は当初、否定したが、リランデルの契約はフィリップ・モリス・アーカイブの中で公にされた。

  • 科学者らは、製品防衛会社エクスポーネント社からダイオキシンはヒトへの発がん性とは関連しないということを主張するために雇われた。彼らは公聴会でこの化学物質の影響へ疑いを投げかけ、彼らの産業界とのつながりは隠したままピアレビューされた論文に同じ結果を書いた。ハーデルらによれば、エクスポーネント社の副社長デニス・パウステンバッハは当時EPAの科学諮問委員会にいたが、同時にダウ・ケミカル社のミッドランド、ミシガンの化学工場周辺の土壌中のダイオキシンに関する同社の調査を指導していた。パウステンバッハはそれ以後もウォール・ストリート・ジャーナルの記事等で科学を捻じ曲げる活動を、特に六価クロムについて、行っている。
 ハーデルらは、彼らのレビューの結論として利害抵触の公表方針の厳格な展開と適用を要求した。彼らが観察するように、”産業界、研究者及び研究機関の間の金銭的関係はますます一般的になってきている。ハーデルらによれば、”産業からの資金援助は良いことに違いないが、我々の示したいくつかの事例は、それが秘密にされ、隠され、偽装され、又は公表されない時には濫用を招くとし、他の研究者らは、これらの事例はまれなことではないと示唆している。”世界の指導的な疫学者が巻き込まれているので特にやっかいである。”


訳注:関連記事


化学物質問題市民研究会
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