Environmental Health Perspectives(EHP) 2016年9月号
内分泌かく乱科学の25年:
シーア・コルボーンさんをしのぶ

キャロル F. クイアトスキー、アシュリー L. ボールデン、リチャード A. リロフ、
ヨハンナ R. ロチェスター、ジョン G. バンデンバーグ


情報源:Environmental Health Perspectives, September 2016
Twenty-Five Years of Endocrine Disruption Science:
Remembering Theo Colborn
By Carol F. Kwiatkowski, Ashley L. Bolden, Richard A. Liroff,
Johanna R. Rochester, and John G. Vandenbergh
http://ehp.niehs.nih.gov/EHP746/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年9月 8日
更新日:2016年9月21日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/
16_09_ehp_Remembering_Theo_Colborn.html

内容


サマリー
 30年近くの間、シーア・コルボーン博士(1927-2014)は内分泌かく乱化学物質の野生生物、人間、そして環境への有害な影響を研究することに捧げた。もっと最近、彼女はこの取り組みを非在来型の石油とガスの開発に拡大して、その健康影響に目を向けた。コルボーンさんは、科学的発見を領域を渡って統合することに卓越した将来を見通すリーダーであった。独自の洞察力と強い倫理的信念をもって、彼女は毒性学的研究の顔を変え、化学物質規制政策に影響を与え、公衆を教育した。2003年にコルボーンさんは非営利組織 The Endocrine Disruption Exchange (TEDX) の運営を開始した。我々は内分泌かく乱化学の25周年記念にあたり、 TEDX は、膨大な環境健康研究の分析、及び公共政策と公衆の教育を支援するための独自の教育資源を開発するという、彼女の遺産を継続している。差し迫った関心事である研究課題に答えるために TEDX は、いくつかあるツールの中でとりわけ、国立環境健康科学研究所(NIEHS)の国家毒性計画(NTP)により開発された体系的なレビューの枠組を現在使用している。
 この記事では、我々はこの粘り強い女性に対し、そして彼女がなした環境健康の分野への模範的な貢献に対して敬意を払うものである。この分野の将来のために勧告は彼女の博識からもたらされたものである。


序論
 内分泌かく乱の分野は、ウィスコンシン州ラシーンにあるウィングスプレッド会議センターでの歴史的な会議をもって1991年に公式に始まったと広く認識されている(訳注1)。本年、国立環境健康科学研究所(NIEHS)は内分泌かく乱科学の25周年を記念して、過去の教訓と将来の方向を探るための公開会議を開催した(25 Years of Endocrine Disruption Research: Past Lessons and Future Directions)。この25周年記念は、多くの人々が”内分泌かく乱の母”として引用した女性、シーア・コルボーンの役割をよく考えるための機会を提供している。1988年、彼女は、薄い卵殻、不十分な育雛、子孫繁栄の減退という形で野生生物の惨状を見て、彼女は人間の健康について恐れた。原因について、先見の明、粘り強さ、そして情熱をもって彼女は科学をかき集め、それをワシントンDCに持って行った。それが十分でない時には、彼女は大いに評判を博した科学推理小説 (訳注:著書『失われし未来』の原著 Our Stolen Future の副題に A Scientific Detective Story と示されている。) をもって大衆を結集した(Colborn et al. 1996)。内分泌かく乱運動の展開は多くの人々の貢献によってもたらされたが(Schug et al. 2016)、シーア・コルボーンは、この分野における影響力あるリーダーであった(Grossman et al. 2015)(訳注2)。この記事で我々は、彼女の独自の貢献、将来を見通した指導力、そして将来の世代の健康のための容赦ない声を簡単に記録にとどめる。


初期の発見と規制的対応
 内分泌かく乱の物語は、数十年の間に産業汚染物質を蓄積していたアメリカの五大湖及びその周辺の野生生物の健康に関する研究から始まった(Canada-United States Collaboration for Great Lakes Water Quality 2012)。この五大湖は世界の著名な科学者らにより徹底的に研究されていたが、全体としてはその研究の重要性をほとんどの人が理解していなかった。この状況は1987年にコルボーンが二国間の”五大湖の状況”環境プロジェクト(Colborn et al. 1990; Musil 2014)に参加した時に変わった。

 コルボーンはこの仕事に強い好奇心と多様な分野を学びたいという意欲をもって臨んだ。ほんの数年前、58歳で劇的な転職をし、専攻を動物学、副専攻を疫学、毒性学、及び水化学として博士号を取得した。この転職の前、彼女は1950年代にニュージャージで薬剤師をし、その後、コロラド西部で羊の牧場主となり、そこで4人の子どもを育てた。新たな学位への熱意と彼女の人生の博識が、彼女が五大湖プロジェクトで数千の研究をレビューしたときに、独自の展望を彼女にもたらした。彼女は貪欲に科学的文献を読み漁ったのみならず、彼女が読んでいた研究の著者である多くの科学者らと交流を持ったが、彼らのうちの一握りの人々は、これはもっと大きな話であると感じ始めた。この分野を横断する豊富な会話は、今まで科学者の誰もがしていなかった健康影響のパターンとの関連付けに役立った。

 その結果は、後に彼女が”世界を変える小さなグリッド(格子)”と呼ぶこととなったものである(http://endocrinedisruption.org/about-tedx/theo-colborn)。そのグリッドは各生物種毎に報告された影響を表示するマトリクスであり、11列の健康影響と15行の野生生物種からなっていた。ハクトウワシからシロイルカ、ミンク、そしてミサゴまで、彼女は、生殖、代謝、そして(ホルモンなどの作用を受ける)標的器官への様々な影響を示した。それらは全てが古典的な毒性学的影響とは限らず、しばしば若い生物にだけ現れた。化学物質は食物連鎖中に入り込み、五大湖の野生生物の健康だけでなく、汚染された魚を摂取する人々にも脅威を及ぼしていたことが明らかになった(Mehlman 1992)。

研究をさらに深めるためにコルボーンは小さな、注意深く選ばれた科学者のグループを招いて、彼らの発見についてお互いに向き合いながら話をした。野生生物学者に加えて彼女は実験室科学者、人間健康科学者に加えて、内分泌学、毒性学、生態学、薬理学、人類学を含む 16の異なる領域からの人々を招待した。会議は1991年7月にウィスコンシン州ラシーンのウィングスプレッド会議センターで開かれた。数日間、彼らの発見を発表した後、参加者全員は次のことに合意した。”人間の活動により環境中に持ち込まれた多くの化合物は、魚類、野生生物、及び人間を含んで、動物の内分泌系をかく乱することができる。そのようなかく乱の結果は、ホルモンが発達の制御に果たす重要な役割のために、重大なことになりうる(Mehlman 1992)”。 ”内分泌かく乱”という用語が造られたのはこの会議でのことであった。領域を横断する合意がそのように迅速に行われたこと以上に、恐らくもっと驚くべきことは、現在は”ウィングスプレッド声明”として知られているものが発表されてから5年の内に、法律が内分泌かく乱化学物質を特定するために起草されつつあったということであった(U.S. EPA 1998)。そのようなことは、1990年代の初期に会議場のホールを駆け巡る”テニスシューズをはいた小さな老女”と呼ばれたその女性の力によるものであった。

 彼女の要求のひとつは、政府の化学物質リスク評価における力点を、がんだけに関連する評価項目から内分泌系に関連する機能的評価項目に転換することであった(Colborn 1995)。このことは、内分泌かく乱物質への暴露の結果がもたらす健康影響に目を向ける新たな化学物質リスク評価プロセスを作り出すことに関して米・環境保護庁(U.S. EPA)に諮問することを任務とする多様な利害関係者からなる内分泌かく乱物質スクリーニング及びテスティング諮問委員会の設立を1996年にもたらした。

 残念ながら、委員会の結果である内分泌かく乱物質スクリーニング・プログラムの作業範囲は、割り当てられた資金が乏しく、時間枠が短いために、実行することが不可能であることが分かった。2014年までコルボーンは、内分泌かく乱化学物質への暴露に関連する数多くの障害を科学が発見したことについて、政府が適切に対応しなかったことを嘆き悲しんだ。


公衆の教育
 一方1996年に、コルボーンらは、科学誌や学究的な論文の読者を超えて、もっと広い民衆に内分泌かく乱という言葉を広げるために活動した。コルボーンは、W. オールトン・ジョーンズ財団の代表のジョン・ピータソン・マイヤーズ及び受賞科学ジャーナリストのダイアン・ダマノスキと共に、『奪われし未来:我々は、我々の繁殖、知能、生存を脅かしているのか? 科学推理小説』(Colborn et al. 1996)を著した。元副大統領アル・ゴアによる序文の中で、彼はそれを、世界中の注目を浴び、少なくとも14か国語に翻訳されたレイチェル・カーソンの『沈黙の春』(Carson 1962)を継ぐものと評した。

 『奪われし未来』の出版後、コルボーンは彼女の残りの人生を公衆に内分泌かく乱について教育することに捧げた。2003年、彼女は健康上の理由でワシントン D.C. での活動から引退せざるを得なくなり、コロラド西部に戻った。この転居は引退というということとは程遠かった。76歳でコルボーンは非営利団体を Endocrine Disruption Exchange (TEDX) と名付けて、立ち上げた(訳注3)。頭文字 TEDX の最初の3つの文字は彼女の出生名のイニシャルに因んだように見えた。

 その頃、化学物質ビスフェノールA(BPA)が、そのエストロゲン特性のために懸念ある化学物質として急速に浮上してきた。コルボーンは直ちに数千の研究のレビューに取り掛かった。彼女はスタッフらとともに、実験動物中の低濃度 BPA への暴露の有害健康影響に関するデータを編集した(http://endocrinedisruption.org/endocrine-disruption/bisphenol-a/overview)。彼らは、発見を分類し、読者が必要に応じてデータを検証し利用できるようにするために、ほとんど説明なしの要約統計データをスプレッドシート(表)にまとめて、公的に利用できるようにした。

 もう一つのコルボーンの想像力のある概念は、科学者、研究者、そして学生の間で評判となった”発達のクリティカル・ウインドウズ”と呼ばれているものである(http://endocrinedisruption.org/prenatal-origins-of-endocrine-disruption/critical-windows-of-development/overview)。この相互作用ウェブページは、人の胎児の発達を 38周間の時間軸で示している。時間軸上には実験動物における化学物質のかく乱影響を示す研究が重ねられている。従って例えば外性器の発達のような人の正常な発達の出来事のタイミングが、変更された精巣の発達のようなかく乱をもたらす実験動物における化学物質暴露のタイミングに合わせて時系列に配置されている。 BPA に加えて、クロルピリホス、ダイオキシン、フタル酸エステル類、そして過フッ素化合物の影響が、時間軸上に表示されている。 TEDX によって開発された必携の学習ツールもまた、大学の講義における演習と討議のために利用することができる。

 コルボーンの二番目の主要な調査領域は、急速に広がっているフラッキングと呼ばれる水圧破砕法による化石燃料採掘プロセスからのコロラド西部市民の健康への脅威という形で到達した(訳注4)。ここでもまた彼女の最初の対応は文献を調査し、その産業で使用されている化学物質の潜在的な健康影響に関するデータを編集することであった。当時そのプロセスやそのよう住宅の近くでの化学物質の使用について、ほとんど懸念がなされなかった。コルボーンの公衆の教育に対する責任感が、近隣で行われている天然ガス製造プロセスとそこから生じる潜在的な危害について地域の住民に説明するために、米環境保護庁(EPA)の環境正義助成金を利用して、彼女をしてコロラド州を巡らせた(その時80歳であった)。この問題は、内分泌かく乱物質の時と同様に、すぐに国家レベルの問題となった。

 アメリカの東部諸州におけるマーセラス・シェールガス(訳注5)の探査は、ニューヨーク州水供給の安全性についての懸念をもたらした。 TEDX は、恐らく使用されているであろう化学物質とそれらの潜在的な健康影響に関する科学的な情報を提供するよう求められた。”潜在的に壊滅的な結果”を引用してニューヨーク州水道局の影響評価は同州内中に広まり、ニューヨーク州における水圧破砕法に関して一次的禁止をもたらした(New York Department of Environmental Protection and Hazen and Sawyer Environmental Engineers and Scientists 2009)。コルボーンはまた、二つのピアレビューされた論文を発表した。『公衆の健康への影響のレビュー(Colborn et al. 2011)』、及び『石油及びガス開発によりひどく影響を受けたコロラド西部地域における大気質の主要調査研究(Colborn et al. 2014)』である。これらの努力は現場にとてつもない影響をもたらし、連邦政府及び州政府にこの問題に注意を向けさせるために地域の取り組みを動員することに役立った。


コルボーンさんの遺産を継承する
 2014年12月14日、シーア・コルボーンは87歳で彼女の家で静かに亡くなった。彼女は死ぬまで、しっかりと熱心に働いた。Environmental Health Perspectives(EHP)での彼女の追悼文中で、この分野における彼女の重要性が国立環境健康科学研究所(NIEHS)ディレクターのリンダ・バーンバウムら共著者によって称賛された(Grossman et al. 2015)(訳注2)。TEDX は、彼女の多くの友人と仲間が彼らの人生に及ぼした彼女の影響に関するコメントを投稿するためのオンライン・フォーラムを設けた。世界中から 80以上の追悼文が寄せられている(http://endocrinedisruption.org/about-tedx/theo-colborn)。

 研究の統合が TEDX の取り組みを推進するために続けられ、科学者、規制機関及び公衆を関与させている。2013年、データの編集と記述レビューを超えて TEDX は、NIEHS の国家毒性計画(NTP)によって開発された枠組みに由来するシステマティックレビュー手法である健康評価・翻訳オフィス(Office of Health Assessment and Translation: OHAT)(訳注6)を利用し始めている。OHAT のアプローチは、ある化学物質が人間の健康に危険を及ぼすかどうかを調べるために、文献を特定し、研究調査のバイアスのリスクを評価し(内的妥当性)、並びに疫学研究、生体内動物モデル研究、及び生体外研究からのデータを統合するための徹底した透明な枠組みを提供する(NTP 2015)。加えて TEDX は、関連文献のもっと迅速で包括的な評価を可能とするために、コルボーンが自由に使っていた簡単なツールを超えて、機械学習、テキストマイニング、及びデータ抽出ツールを含む特注のシステマティックレビューソフトウェアを開発した。TEDX はまた、影響の定量的推計をするためにメタアナリシスを実施している。

 システマティックレビューの諸相は、 BPA 暴露と人間の健康状態との関連についての TEDX レビューに統合された(Rochester 2013)。90 以上のピアレビューされた研究が含まれ、生殖障害、出生異常、子どもの行動変化、ぜんそく、代謝障害へのBPA の寄与を証明した。そのレビューはまた、そのような発見が人間においても生物学上ありそうなことを支持する様々な機械論的な経路を検討した。2015年に TEDX は、二つの BPA 類似物、ビスフェノールF(BPF)とビスフェノールS(BPS)の生理学的影響のシステマティックレビューを発表した。これらの化学物質は、ある製品から内分泌かく乱の証拠のために廃止されつつある BPA の代替としてよく使われている。BPS と BPF 研究の TEDX の統合は、これらの類似物質もまた、 BPA に類似したメカニズムを通じて内分泌系に作用する内分泌かく乱物質であることを示した(Rochester and Bolden 2015)。

 システマティックレビュー手法はまた、国際化学物質事務局(International Chemical Secretaria : ChemSec)の SIN List (Substitute It Now (SIN) List)のための潜在的な内分泌かく乱物質を評価するために使用されたが、このリストは産業界に彼らの製品中の欧州 REACH 規則の下に規制されることになるであろう化学物質を代替するよう促すものである(http://chemsec.org/business-tool/sin-list/)(訳注7)。欧州連合は、内分泌かく乱物質として化学物質を特定し規制するための法的に拘束力のある基準を採択する方向に動いている(訳注8)。 TEDX は、欧州委員会の共同研究センター(JRC)(訳注9)及び国立環境健康科学研究所(NIEHS)を含んで、多くの組織により用いられている公的に利用可能な潜在的な内分泌かく乱物質のリスト(http://endocrinedisruption.org/endocrine-disruption/tedx-list-of-potential-endocrine-disruptors/overview)を維持することにより、そのような取り組みに寄与してきた。

 TEDX は、水圧破砕法に関連する化学物質暴露に目を向け続けている。例えば TEDX は、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン(BTEX)のレビューを発表したが、これらは石油及びガス開発の産物である。暴露はまた乗り物の排気と消費者製品のオフガスにも由来する。そのレビューは、 BTEX は、精子の異常、低胎児成長、心血管系障害、呼吸器系不全、ぜんそく、一般抗原感作を含む様々な健康症状に寄与するかもしれないと結論付けた(Bolden et al. 2015)。可能性ある内分泌メカニズムがそのレビューの中で探索された。とりわけ、BTEX 暴露の健康影響は、米・環境保護庁によって設定された参照濃度(すなわち、安全レベル)より十分低い濃度で発見された(Bolden et al. 2015)。TEDX はまた、石油及びガス開発現場の近くの住民に内分泌、生殖、出生、及び長期の健康影響をもたらしているかもしれない化学物質を優先付けるのに役立てるプロジェクトを実施している。このトピックは、コロラド西部とユタ東部のマンコスシェールは、米国東部にあるマーセラス・シェールに次いで二番目に大きな技術的に回収可能なガス埋蔵量であることが確認されたばかりなので、引き続き国家的懸念をもたらすものである(Hawkins et al. 2016)。

 ピアレビュー文献中の発表に加えて TEDX はまた、一般市民を教育するために活動している。例えば、TEDX は、科学者らが彼らの発見を発表し、聴衆からの質問に答える電話会議を組織し開催している。これらの電話会議は録音されており、いつでも聴くことができる(http://endocrinedisruption.org/endocrine-disruption/videos-and-webinars)。その電話会議は、内分泌かく乱と非在来型石油ガス開発に関連する健康影響に目を向けている。


未来を抱きしめる
 25年間にこの分野がどれだけのことを成し遂げてきたかのひとつの証として、今日いくつかの名声ある専門家団体が内分泌かく乱化学物質への暴露を避けるための予防措置を求めているということに言及することは注目すべきことである。それらの団体には、内分泌学会(Gore et al. 2015; Zoeller et al. 2012)、米国産婦人科学会、及び米国生殖医学会議(American College of Obstetricians and Gynecologists Committee on Health Care for Underserved Women et al. 2013)、並びに国際産婦人科連合(Di Renzo et al. 2015)が含まれる。彼らの勧告を用いて、TEDX は、内分泌かく乱化学物質への暴露を避けるために採ることができる手段を一般市民に現実的な助言を提供するプロジェクトを展開している。

 TEDX は最近、その発祥の地であるコロラド州西部の小さな町パオーニアを超えて展開しており、現在、環境健康研究のハブであり、国立環境健康科学研究所(NIEHS)の拠点であり、米・環境保護庁(EPA)の主要な研究キャンパスがあるノースカロライナ州のリサーチ・トライアングル・パーク(RTP)に支部を開設中である。RTP は学界、政府、産業の独特の複合の様相を呈している。三つの主要な研究大学、ノースカロライナ州立大学、ノースカロライナ大学、そしてデューク大学に囲まれて、RTP は、その多くが毒性学及び生物医学に関連する約100の会社、並びにいくつかの政府系及び非政府系の研究所の本拠地である。

 これらの大学は、この地域の研究機関を支えるよく訓練された学生を絶え間なく送り出している。2016年4月29日に、 NIEHS と EPA は、第19回年次 NIEHS 生物医学専門シンポジウムを共催したが、 TEDX はそのシンポジウムの生物科学分野における非営利組織の講師団に参加した。TEDX はこの RTP 地域に新たな根を張ろうとしているので、そこでの人的、科学的、及び技術的リソースの活用を計画している。


結論
 最後の公的発表のひとつとして、コルボーンはバラク・オバマ米大統領とミシェル・オバマ夫人宛てに直接、心のこもった、しかし強烈に胸をうつ手紙を送った(https://www.youtube.com/watch?v=2r2Rx8VRq48)。彼女自身が祖母であることを明らかにしつつ、彼女の世代は、明らかな出生障害以外、彼女らの子どもたちの発達についてほとんど懸念することはなかったと話した。彼女は、今日の親たちは彼らの子どもたちが注意欠陥多動症、自閉症、ぜんそく、糖尿病、あるいは肥満になる危険性を直ちに恐れなくてはならないということについて困惑の意を表した。

 彼女の特徴的な厳しさもって額に深いしわを寄せて、彼女は、外部宇宙の探査への国家の投資に匹敵する資金に支えられる新たなプログラム、”内部宇宙”研究、を要求した。彼女は、子宮の化学、そして内分泌かく乱化学物質はたとえ僅かな濃度でも胎盤を通過して害をもたらすことができるということを理解する内分泌学者を含む科学者の協議会を心に描いていた。彼女は生きている間にそのような協議会を見ることはないであろうことを知りつつ、彼女は、気候変動に対応する取り組みよりもっと迅速な、緊急の行動の必要性を表明した。公衆の健康の保護が正しくそれを求めている。家に帰ると彼女は自分が言ったことを考えた:それは今残されている我々次第である。

 コルボーンのオバマ大統領への手紙は、彼女が支持することごとくを体現している。それは最も高いレベルでの政策に目を向け、意思決定に科学者を含めることを求め、政府のより良い保護を求める公衆への個人的なアピールである。コルボーンは、全ての人々を鼓舞した。彼女は充実した人生を送り、よく知られているように公衆への奉仕と、環境健康研究を変えることに専念した。彼女の言葉に勇気を与えられ、TEDX は科学的探求を鼓舞し、実際的な情報を政府の意思決定者に伝え、内分泌かく乱について公衆の理解を広め、内分泌かく乱化学物質により及ぼされる人と野生生物へのリスクを削減するためのあらゆる努力続けるであろう。


訳注1
・第1回会議 ウイングスプレッド合意声明(1991年)
 Statement from the work session on chemically-induced alterations in sexual development: the wildlife/human connection. Wingspread Conference CenterRacine, Wisconsin July 1991.

・補足情報
 藤原書店 PR誌「機」2003年4月号 予防原則とは 雑誌「環境ホルモン」編集委員
 ・・・1991年7月の第一回ウィングスプレッド会議に集まった科学者たちが、1998年1月の第七回会議のテーマとして、予防原則を選んだのは、自然の成り行きだったことがわかる。この会議の成果は、Raffensperger,C.,and J.Tickner,eds.,Protecting Public Health and the Environment:Implementing the Precautionary Principle,Washington D.C.:Island Press,1999.として刊行され、予防原則論に関する基本文献のひとつとなっている。・・・

 第7回会議 ウイングスプレッド合意声明(1998年)
1998年1月26日 予防原則に関するウィングスプレッド会議/声明

訳注2
EHP Announcements 2015年3月 シアドーラ(シーア)・コルボーン博士:1927-2014 エリザベス・グロスマン、ローラ・バンデンバーグ、 クリスチーナ・サイヤー、リンダ・バーンバウム

訳注3:当会が紹介した TEDX 概要 記事
訳注4:フラッキングによる化学物質汚染関連情報
訳注5:マーセラス・シェールガス
訳注6:OHAT
HAT Systematic Review / NTP Website

訳注7:SIN List
ケムセック(ChemSec)REACH SIN List

訳注7:EU EDC 基準策定
EHP 2016年4月25日掲載論 欧州連合における内分泌かく乱物質を特定するための規制基準の設定に関連する科学的問題

訳注9:共同研究センター(JRC)の取り組み
Food Packaging Forum 2015年11月9日 欧州連合の内分泌かく乱物質 スクリーニングのための方法論



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