米国立環境健康科学研究所ジャーナル
EHP 2009年3月号 サイエンス・セレクション
厳しい要求
携帯電話使用のがん影響の評価に対する課題


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 117, Number 3, March 2009
Science Selections
Tough Call - Challenges to Assessing Cancer Effects of Mobile Phone Use
http://www.ehponline.org/docs/2009/117-3/ss.html#toug

関連論文: Environmental Health Perspectives Volume 117, Number 3, March 2009
Review: The Controversy about a Possible Relationship between Mobile Phone Use and Cancer
Michael Kundi
Institute of Environmental Health, Medical University of Vienna, Vienna, Austria
http://www.ehponline.org/docs/2008/11902/abstract.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年3月18日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/09_03_ehp_assessing_cancer_mobile_phone.html


 世界の携帯電話の使用は過去10年間で爆発的に増大し、多くの国では100%の使用率に近づいている。携帯電話の使用が対数関数的に増大している中で、携帯電話使用に関連する電磁界(EMFs)への頻繁な暴露の健康影響に関する懸念がある。ピアレビューされた33件の疫学研究のレビューが行われた結果、多くの研究設計は携帯電話使用者における脳腫瘍の相対的リスクの過小評価という結果をもたらしているかもしれないということを示唆している [EHP 117:316-324; Kundi]。

 想起バイアス(recall bias)(訳注1)は、同側暴露(すなわち、携帯電話が通常当てられるのと同じ頭側に起こる腫瘍)のケース−コントロール調査において、リスクにバイアスがかかった結果をもたらす可能性があると広く言われている懸念である。レビューした著者は、がん患者はその病気が携帯電話の使用のせいであるとするか又は両者の関連を払いのけるかのどちらかの傾向があると述べている。しかし、2008年のある研究が脳中にたまる電磁エネルギーのほとんど99%が通話中に携帯電話が当てられる頭側で吸収されるということを示したので、同側リスクはまた、生物学的に大いにありそうなことである。著者の分析によれば、症例中の携帯電話使用者の半分以上が観察されるリスク増大をなくすためにどちらの耳に電話機を通常当てるかを正確に確認できなかったが、コントロールでは正確に確認できない人はいなかった。

 潜在的なもうひとつのバイアス源は使用された比較グループについての懸念である。広く引用されている、13カ国にわたるケース・コントロール研究である国際共同疫学研究 INTERPHONE study(訳注2)で、非暴露グループがコードレス電話を使用していた人々を含んでいた。しかし、著者によればコードレス電話と携帯電話の使用者は同程度の電磁界(EMF)暴露を受けており、コードレス電話は一般的に携帯電話より長時間使用される。このことは、INTERPHONE studyが一貫して電磁界の影響がない又は携帯電話使用は影響がないと報告していることの説明に役立つかもしれない。

 最後に、INTERPHONE studyとその他の研究の間で著しく異なっていたデータ収集の方法もまたバイアスをもたらしていたかもしれない。いくつかの研究で携帯電話の使用と関連していたとされる悪性脳腫瘍である神経膠腫(glioma)の患者において、記憶能力が変更されていたかも知れない。著者はまた、暴露評価は(INTERPHONE studyのように)電話インタビューで実施されると郵送による調査票方式に比べてバイアスが生じるかもしれないことを示唆している。

 レビューした著者によれば、今日までの研究の結果は、受動喫煙と肺がんとの関係にに示された程度の範囲に携帯電話の使用と神経膠腫(glioma)リスクとの関連が入ると示唆している。因果関係の信頼性は二つの主要な発見によって支持される。より長い潜伏期間はより高い推定リスクに関連しており、携帯電話が典型的に高密度で放射する田舎での生活もまたリスクを高めることに関連する。あまり大きくないがんリスクであっても、多くの携帯電話使用者がいるのだから、大きな公衆健康影響をもたらす可能性がある。一方、このレビューが指摘しているように、個々のリスクの見通しは特にひどいものではない。工業国では生涯の脳腫瘍リスクは1,000人あたりに4〜8人であり、もし携帯電話使用がリスクを50%増大して1,000人当たり6〜12人になったとしても、そのリスクはまだ低い。
M. ナザニエル・ミード(M. Nathaniel Mead)


訳注1
想起バイアス(recall bias)
保険医療領域におけるデータ解析支援システム/東京都立保健科学大学 保健科学部 看護学科 猫田泰敏 によれば、想起バイアスとは過去の出来事や経験の記憶を想起するとき、その正確さと完全さが異なるために生ずるバイアス。例:白血病で死亡した子供を持つ母は、健康な子供を持つ母親よりも、その子供が胎内で曝露したエックス線診断の内容をよく記憶している。


訳注2:INTERPHONE studyに関する参考情報

訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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