ChemSec 2019年8月12日
ナノは実際に小さいが、その影響は小さくない
アンナ・レンクイスト博士、上席毒性学者
情報源:ChemSec, August 12, 2019
Nano might be really small, but the consequences might not be
Dr. Anna Lennquist, Senior Toxicologist
https://chemsec.org/nano-might-be-really-small-but-the-consequences-might-not-be/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2019年9月27日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/190812_ChemSec_
Nano_might_be_really_small_but_the_consequences_might_not_be.html

 もしあなたが古風な方で、この記事を紙に印刷して読むなら、その紙の厚さは典型的には約100,000 ナノメートルである。しかし、この値はナノとして定義するには大きすぎる。その記述に合うには、ある物質の粒子のほとんどが どの次元も 1から100ナノメートルの間にある必要がある(訳注1:欧州委員会のナノ定義に関する勧告)。言い換えればそれは非常に小さい。

 ナノは興味深く、将来有望であるが、同時に心配なことは、ナノサイズ粒子は、粒子サイズがより大きい同じ物質とは非常に異なる特性をもつことがあり得るという事実である(訳注2:ナノテクノロジー概要)。

 その物質は同じ化学物質で同じ分子量であっても、粒子サイズが小さいと、その表面積が増大し、そのことにより特別な特性をもたらすことができる。その特性はまた、形状に非常に大きく依存する。あるものは不規則な形であり、他のものはチューブやボールのような特定の形をしている。

 ナノ粒子は、人工的(工学的)、又は自然又は偶然により形成される。例えば、煙はナノ粒子を含んでおり、またナノ汚染の例はスタッドタイヤからのタングステン・ナノ粒子の放出がある。

”我々は、化学物質のバルク形状のデータを使用して
ナノ物質の安全性に関する結論を引き出すことはできない”

 議論の余地はあるかもしれないが、一般的にナノの安全性について何かを言うことは非常に難しい。ある物質はおそらく安全であり、我々が知っている少数のものは非常に有害であるが、一般的に知識とデータには大きな溝がある。

 そしてこれは正にナノの主要問題である。これらの物質はますます数多くの応用分野で使用されており、膨大な資源が技術革新に投入されているが、安全性と規制にはほとんど投入されていない。

 それでは我々は何を知っているのか? もしそれが有害化学物質なら。それはナノ形状であっても有害であろう。毒性のレベルは、作用機序とともに変化し得る。銀はそのような例のひとつであり、それはナノ形状ではもっと毒性が高くなり殺生物剤となる。

 ある物質はナノ形状の場合にのみ問題となる。すでに述べたように、ひとつの理由は、サイズの違いが異なる特性をもたらすということである。

ナノはどのくらい小さいか?

 もう一つの理由は、小さな粒子とある形状は、より容易にヒトの体に取り込まれるということである。ナノ形状の二酸化チタンは吸入され、一旦肺に入り込むとそれは肺がんの引き金となり得る。カーボンナノチューブはアスベストの様な特性を持つことができ、吸い込むと肺の組織を損傷する。

 これが、我々が化学物質のバルク形状のデータを使用してナノ物質の安全性に関する結論を引き出すことができない理由である。

 知識の欠如の背後にあるひとつの要素は、従来のテスト手法は、ナノには適用できないかもしれないということであり、それはここでもまた、ナノ粒子は非常に異なる作用をするからである。

 例えば、ナノ粒子は表面にくっつき、したがって正確に計量することは難しいので、[厳密な量を]溶かすことが非常に難しい。また、もしそれらをテスト生物や有機物を含む水槽に入れると、タンパク質のような分子は粒子の表面を直ちに覆う。表面を被覆された粒子はここでもまた、被覆されていない粒子とは異なる特性をもつ。

 しかし、新たなそしてもっと高精度なナノのテスト手法が最近、開発されている(訳注3)。

 法的にはナノは REACH の管理下にあるが、 REACH がどのようにこれらの物質に対応すべきかについては多くの議論がある。ナノ形状はバルク形状とは異なる特性を持つかもしれないと積極的に考えるナノ形状化学物質の登録者から追加的なデータを得る試みに、現在までの所、 ECHA も加盟国も成功していない。抗告審は常に、定義が不十分な根拠に基づくそのような要求を却下する。定義と特性化は、そのように問題をさらに複雑にする。

 ナノの定義とナノ形状の物質の登録要求は、 ECHA 及びその他の機関により長年、徹底的に議論されている。しかし 2018年 11月、特性化、登録要求、及びテスト手法の様な側面を明確にする REACH 付属書が合意され、2020年に発効する(訳注4)。

 ケムセック(ChemSec)は、不確実性が非常にしばしば化学物質の規制を減速するために使用されるという事実にいら立っている。常に不確実性を見つけ出し、決定を遅らせる。

 ナノ物質についていえば、間違いなく不確実性には事欠かない。しかし、我々が知らないことにより無力化されるのではなく、我々が確かに知っていることに対して働きかけるべきであり、我々は予防的アプローチ()訳注5) をとらなくてはならない。私は、次の 3つのことが緊急に必要であると信じる。
  • ナノに関して透明性が必要である。製造、プロセス、量、及び製品が登録されるべきである。
  • 人間の健康と環境のための有害特性の現実的なテストを伴うナノ形状物質のための具体的な安全データが求められるベきである。
  • 少数のナノ物質であっても長い間、周囲に存在し、高い懸念を示すデータがある場合には、それらは可及的速やかに規制されるべきである。

訳注1
訳注2
訳注3
訳注4
訳注5
訳注:ナノ一般情報


化学物質問題市民研究会
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