Nano Technology 2011年12月5日
ナノ:予防原則が必要である
情報源:Nano Technology, December 5th, 2011
Nano: the precautionary principle advocated
Author: admin
http://www.neno-tech-views.com/?p=4149

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年2月3日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/NanoTech/NT_111205_precautionary_principle.html


 銀ナノ粒子抗菌ソックス、二酸化チタン自浄セメント、二酸化チタン日焼け止め、シリカ固化防止食卓砂糖・・・。これらは、2011年3月24日に、長らく待ち望まれていた”公衆と環境へのナノ物質に関連するリスク”についての意見を発表したフランス健康・安全・環境・労働機関(Afsset)によって指摘された4つの製品である。Afsset の意見:現在の知識の状態においては、”リスクは評価できず、それを除外することはできない”。

 このAfsset の記述は、渇望する人々−危険の閾値を示した特定のリスクが特定されることを望んでいた消費者、製造者、組合−に対して、ほとんどなにも示していない。しかし、現状においては入手可能なデータが欠如していることに言及しつつ、予防原則の適用を明確に求めている。2008年に Afsset は、ナノ粒子への曝露を”回避する又は最小にする”よう勧告し、産業や研究に従事する人々のために予防原則を適用することを唱道していた。今回、Afsset は全ての人々及び自然環境にまで、この原則の適用範囲を広げている。

 ”ナノ物質については、一般化して対処することはできない。個別に、製品毎に、用途毎に検討しなくてはならない”と Afsset の CEO、マーチン・ゲスペレアウは述べた。ナノ物質が組み込まれる配合(フォーミュレーション)と基盤(マトリクス)次第で、それぞれのナノ物質の反応と挙動は異なる。”4つの製品が選ばれた理由は、広く使用されており、皮膚、吸入、及び摂取という異なる曝露経路を持つからである”。

■抗菌ソックスのケース
 あるソックスについては、臭いを除去するために線維に銀ナノ粒子が組み込まれている。専門家らは、”人間については、たとえ健康影響は見積もることができなくても、皮膚曝露が著しい”と述べている。
 皮膚が損傷している場合には、より容易に皮膚のバリアーを通過するかも知れない。これらの粒子はまた、”酸化ストレス”を誘引し、細胞にダメージを与える可能性がある。
 環境影響については、10人に1人のフランス人がこの防臭ソックスに切り替え、1年間に10足を購入するという前提に基づけば、彼等はそれらの洗濯で合わせて年間18トンのナノ銀を水環境に放出すると Afsset は計算はした。
 ”特に注意を払わなくてならないことは、環境中での拡散であり、ある種の生物種にとって危険であると認められている殺生物性というこれらの粒子の特性である”。

■自浄セメントのケース
 二酸化チタンのナノ粒子添加により、セメントは有機堆積物が分解されて自浄・衛生特性を獲得する。ヒト曝露経路は吸入である。専門家らは、”呼吸器系の疾病を持つ人々は、感受性の高い集団である”と言及している。
 非常に高い用量ではラットに肺の炎症と腫瘍を引き起こすということは事実である。建物の劣化が二酸化チタンの環境への拡散を招くが、生態系への影響についてはわかっていない。魚の鰓弁(さいべん/エラ)の水腫が観察されている。

■日焼け止めのケース
 ナノスケールの二酸化チタンは、紫外線カット成分として従来から日焼け止めに使用されている。製造者等は常に、これらのナノ粒子は皮膚バリアを通過しないと主張する。しかし、”最近の研究は、表皮の深い層にこれらを見つけている”と Afsset は述べている。
 損傷を受けている皮膚(怪我、アレルギー反応、日焼け)又は子どもたちは、特に脆弱である。マウスでは、これらの粒子は、脾臓、心臓、及び肝臓に到達することができ、病理学的な病変を引き起こすことが示されている。フランスにおける環境中への放出は年間230トンと推定されているが、身体手入れ用品中のこれらの物質の環境への影響は調査されてなくてはならない。

■砂糖のケース
 砂糖については、消費者は食卓塩と同様に粒が塊になるのを防ぐナノ・シリカを含んでいることについて無関心である。
 この添加剤の潜在的な健康への有害性はわかっていない。ラットでは、高用量の経口投与は肝臓に有害影響を持つかもしれないことが示されている。生態系への影響についてのデータはない。

リスク−ベネフィット分析

 このように多くの不確実性に直面しているので、Afsset は、”ナノ物質の特性化、曝露、及び潜在的な有害性に関する知識を向上させる”ことの必要性を強調している。一方、Afsset は、製品中に毒性と曝露を伴うナノ物質が存在することを知らせるために、”理解しやすい表示”を適切にするよう勧告している。

 製造者により提供されるファクトシートと編集されるデータベースは、”追跡可能性(traceability)”を確実にするであろう。そのことは、ヨーロッパで先ずなされなければならないことである。

 ”消費者と環境の曝露を制限する”ために、専門家はまた、ナノ粒子を使用していないが性能とコストは同等である製品を選択し、”価値の低い”ナノ製品の使用を制限するよう消費者に求めている。自分自身で”社会−経済的リスク−ベネフィット分析”を行なう必要がある。

 大量の殺生物物質を環境中にばら撒く脱臭ソックスに、本当に価値があるかどうかは社会が決める。



化学物質問題市民研究会
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