地球の友 2008年4月 報告書
食品と農業におけるナノテクノロジー 研究室から食卓へ ジョージア・ミラー、ライ・センジェン博士(地球の友オーストラリア) 情報源:Friends of the Earth, April 2008 OUT OF THE LABORATORY AND ON TO OUR PLATES Nanotechnology in Food & Agriculture Written by Georgia Miller and Dr. Rye Senjen, Friends of the Earth Australia Nanotechnology Project. http://www.foeeurope.org/activities/nanotechnology/Documents/Nano_food_report.pdf 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2008年9月14日(本文全訳) 更新日:2009年4月 8日(一部修正) このページへのリンク http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/FoE_au/FoE_au_nanofood.html このレポートは、2008年3月に、地球の友オーストラリア、地球の友ヨーロッパ、及び地球の友アメリカによって作成され、地球の友ドイツの支援を受けました。この改訂テキスト版は2008年4月に作成されました。この報告書のデザイン版、又は地球の友の簡潔な論文については、我々 FoE Australia のウェブにアクセスしてください。
協力:パトリシア・キャメロン、ジョーン・ヘップバーン、ヘレン・ホールダー、グィレルモ・フォランドリ、ジョージ・キンブレル、 アレキサンドリア・コルデッカ、 クリステン・リオンズ、イアン・イルミナト、アリウス・トルストシェフ、ギオルギ・スクリニス、カトジャ・バンペル、ジュレック・ベンゲルス、及びその他の多くの方々から協力をいただいた。 デザイン、レイアウト:ナタリー・ローレイ(デザイン版は上記ウェブサイトから入手可能) これはFoEオーストラリア、FoEヨーロッパ、及びFoEアメリカによる報告書である。この報告書の中の”FoE”という記述はこれらのグループのことであり、FoEインターナショナルではない。 この報告書は、地球の友アメリカ、地球の友ヨーロッパ、地球の友オーストラリア、地球の友ドイツ(BUND)により資金が出された。地球の友ヨーロッパは、欧州委員会環境総局及び地球の友ヨーロッパに参加する31か国メンバーグループから財政支援を受けた。この報告書は必ずしもこれらの資金提供者の意見を反映するものではない。欧州委員会及び他の資金提供者は、ここに含まれる情報によって作成されるかもしれない、どのような使用についても責任を持つことはできない。 内容 エグゼクティブ・サマリー 1. ナノテクノロジーの簡単な紹介 2. ナノテクノロジーが食物連鎖に入り込む 3. ナノテクノロジーと食品加工 4. 食品容器包装と食品接触材に使用されるナノテクノロジー 5. 農業に利用されるナノテクノロジー 6. ナノ食品とナノ農薬は新たな健康リスクを及ぼす 7. ナノ食品とナノ農業は新たな環境リスクを及ぼす 8. 持続可能な食品と農業を選択すべき時 9. 食品の安全を確保するためにナノに特化した法規が求められる 10. ナノ食品はいらないと言う権利 11. 持続可能な食品と農業 ・用語集 ・付属書 A:工業的ナノ物質を含むことを FoE によって特定された農業製品及び食料製品のリスト ・付属書 B:食品分野においてナノテクノロジーの使用に適用可能なEU規則の概要 ・参照文献 エグゼクティブ・サマリー 義務的な製品表示、公衆の議論、又は安全性を確保するための法律が存在しないので、ナノテクノロジーを利用して作り出される製品は食物連鎖に入り込んでいる。工業ナノ粒子、ナノエマルジョン、及びナノカプセルは現在、農薬、加工食品、食品容器包装、及び食品保存容器、刃物類、まな板を含む食品接触材の中で見出される。地球の友はこれらの製品104種を特定したが、それらは現在国際的に販売されている。しかし、多くの食品製造者らは彼らの製品にナノ物質が含まれていることを宣伝したくないかも知れず、これらの数は現在世界中で入手可能な全製品数のほんのわずかな一部であろうと我々は信じている。 ナノテクノロジーは、100ナノメートル(nm)以下のスケールで存在するあるいは操作される物質、システム、及びプロセスとして暫定的に定義されている。それは、原子と分子のスケール、すなわちナノスケールでの物質の操作と構造及びシステムの創造を必要とする。ナノスケール粒子・物質の特性と効果は、同じ化学物質成分でもより大きな粒子と著しく異なる。 ナノ粒子は大きな粒子に比べ化学的に反応性が高く、生物活性が高い。非常にサイズが小さいので、ナノ粒子は我々の体に入りやすく、大きな粒子に比べて細胞、組織、器官に入りやすいように見える。これらの新たな特性は、食品産業での応用に対して多くの新たな機会、例えば強力な栄養添加物、より強い風味や色、又は食品容器包装のための抗菌成分などを提供する。しかし、これらの同じ特性が、人の健康と環境に大きな毒性リスクをもたらすかもしれない。 食品や農業製品中で現在使用されているナノ物質のあるものが人の健康と環境に新たなリスクをもたらすということを示す科学的研究が急速に増大している。例えば、銀、二酸化チタン、亜鉛及び酸化亜鉛のナノ粒子等の、栄養補助剤、食品容器包装、及び食品接触材で現在使用されている物質は試験管での研究で細胞に毒性が高いことが示されている。予備的な環境研究もまた、これらの物質が生態学的に重要な生物種であるミジンコに有毒であるかも知れないことを示唆している。しかしまだ、ナノテクノロジーに特化した規制や工業的ナノ物質が食品、食品容器包装、又は農業製品中で使用される前に求められる安全性テストは存在しない。 初期の世論調査では、現在、食品添加物、成分及び容器包装中の工業的ナノ物質の安全性について科学的不確実性があるので、人々はナノ食品を食べることを望まない。しかし、食品中及び容器包装中の工業的ナノ成分と添加物の表示を求める法律はないので、誰もナノを含まないものを食べるための選択ができない。 ナノテクノロジーはまた、持続可能な食品と農業システムの開発に対する広範な課題をもたらす。有機食品と有機農業の世界的な販売が持続した成長を遂げているこの時に、ナノテクノロジーは化学物質とエネルギー集約的な農業技術に我々を依存させようとしているように見える。危険な気候変動を背景にして、生産者と消費者の間の食品移動距離を短縮することに公衆の関心が増しているのに、ナノテクノロジーは、新鮮な食品についても加工食品についても、もっと長距離の輸送を推進しているように見える。世界の農業と食料システムの企業支配をさらに強化し、食料生産の地域農民の支配をさらに侵食するナノテクノロジーの潜在能力もまた、懸念のひとつである。
ナノ物質は新たな物質として規制されなくてはならない
1. ナノテクノロジーの簡単な紹介 ナノテクノロジーとは何か? ”ナノテクノロジー”という言葉は、ひとつのテクノロジーを述べているのではなく、むしろ、生物学的及び製造された(工業的な)物質の構成要素のスケール、すなわち”ナノスケール”で操作する多くのテクノロジーを包含するものである。 ナノテクノロジーは、100ナノメートル(nm)以下のスケールで操作する物質、システム、及びプロセスに関連するものとして暫定的に定義されている。ナノ物質は、1次元又はそれ以上の次元が100nm以下のもの、又は少なくとも1次元がその物質のふるまいと特性に影響を与えるスケールを持つものとして定義されている。しかし、ナノ物質のこの定義は、健康と環境の安全性を評価する目的のためには狭すぎるよう見える(下記参照)。 1ナノメートル(nm)は、1マイクロメートル(μm)の1,000分の1、1ミリメートル(mm)の100万分の1、1メートル(m)の10億分の1である。ナノスケールを具体的に言えば、DNAの鎖は2.5nm幅、たんぱく質分子は5nm、赤血球は7,000 nm、人の髪の毛は80,000nm幅である。もし、1ナノメートルを人の大きさとみなせば、赤血球は7キロメートルの大きさということになる。 ナノテクノロジーは基盤技術である ナノ物質の新たな特性は、食品産業や農業経営に対して多くの新たな機会、例えばもっと強力な食品の着色、フレーバー、栄養添加物、食品容器包装の抗菌成分、もっと効果の高い農薬と肥料、を提供する。多くの例で、農業と食品サプライチェーンの全体を通じて、同じ技術が適用可能である。例えば、ナノクレイ血小板が加えられているプラスチックであるナノクレイ合成物は、食品と飲料の容器包装、除草剤の制御された放出を可能とする農業用パイプ及びプラスチックで現在、広く使用されており、制御された肥料の放出のためのコーティングでの使用が研究されている。複数の分野にわたりナノテクノロジーを適用する可能性は研究投資からの大きな収益をもたらすだけでなく、会社が商業的活動を全く新たな市場と産業に広げることを可能とする。この理由で、ナノテクノロジーはしばしば”基盤技術”と呼ばれる。 今後の数年、数十年で、”次世代技術”が、単純な粒子やカプセル化された成分の使用を超えて、もっと複雑なナノディバイス、ナノシステム、及びナノマシンに移ることが予測される(Roco 2001)。ナノテクノロジーのバイオテクノロジーへの適用(”ナノバイオテクノロジー”)は、人、動物、植物の遺伝的物質を操作することだけでなく、合成物質を生物学的構造へ組み込むこと、及びその逆が予測される(Roco and Bainbridge 2002)。ナノスケール技術への集中により、食品加工、農業、農業燃料、及びその他の応用での使用のための全く新規な人工有機体の生成を可能とすることが予測される(ETC Group 2007)。この分野は合成生物学(Synthetic biology)として知られる。 ナノ物質は新たな特性を持ち、新たなリスクを及ぼす 簡単に言えば、小さな粒子サイズは新たな粒子特性を持ち、それはまた新たなリスクをもたらすことがある。ナノ粒子は同じ化学的組成でも、よりおきな粒子に比べて質量当たりの表面積が非常に大きく、より大きな化学的反応性、生物学的活性、及び触媒的ふるまいをもたらす(Garnett and Kallinteri 2006; Limbach et al. 2007;Nel et al. 2006)。ナノ物質はまた、大きな粒子に比べて、我々の体に非常に入り込みやすくやすく(生物学的利用能と呼ばれる)、その結果、個々の細胞、組織及び器官に摂取されやすくなる。 300nm以下の物質は個々の細胞に入ることができ(Garnett and Kallinteri 2006)、一方、70nm以下のナノ粒子は我々の細胞核に入ることができ、そこで大きなダメージを与えることができる(Chen and Mikecz 2005; Geiser et al. 2005; Li et al. 2003)。残念ながら、ナノ物質のより大きな化学的反応性と生物学的利用能はまた、同じ化学的組成のより大きな粒子の同じ質量当たりに比べて、ナノ粒子のより大きな毒性をもたらすかもしれない(Hoet et al. 2004; Oberdrster etal. 2005a; Oberdorster et al. 2005b)。 毒性に影響を与えるナノ粒子の他の特性には次のようなものが含まれる:化学的組成、形状、表面構造、表面荷電、触媒的ふるまい、凝集(かたまり具合)又は分離の程度、及びナノ物質に付着する他の化学物質グループの存否(Brunner et al. 2006; Magrez et al. 2006; Sayes et al. 2004; Sayes et al. 2006). ナノ粒子のあるものは、インビトロ(試験管)研究でヒトの組織と細胞培養に毒性があり、酸化ストレス、炎症反応を引き起こすたんぱく質の生成(Oberdorster et al. 2005b)、DNA変異(Geiser et al. 2005)、細胞核への構造的損傷及び細胞の活動と成長の阻害(Chen and vonMikecz 2005)、ミトコンドリアへの構造的損傷と細胞死(Li et al. 2003)をもたらすことが証明されている。 ナノ二酸化チタン、銀、亜鉛、酸化亜鉛のような食品産業によって商業的に現在使用されているナノ物質は、インビトロ(試験管)実験で、また実験動物のインビボ(生体)研究で、細胞と組織に毒性があることが示されている。 ナノ物質には多様な特性とふるまいがあり、それらの健康と環境へのリスクの一般的な評価を行うことは不可能である(Maynard 2006)。異なる粒子の形状、帯電、及びサイズは、運動学的(吸収、分布、代謝、及び排泄)及び毒性学的特性に影響を与えることができる(Hagens et al. 2007)。この理由で、同一の化学的組成でも異なるサイズ又は形状のナノ物質は非常に異なる毒性を持つことがある(Sayes et al. 2006)。 我々が、ナノ物質の生物学的なふるまいについて、もっと包括的な理解を得るまで、ある物質に関する毒性リスクを予測することは不可能であり、個々の新たなナノ物質は、商業的な使用に先立ち、新たな健康と安全評価を受けなくてはならない。メイナード(2006)は、”発表されている毒性研究から、粒子サイズだけでは、有害性がもっと高い又はもっと低い物質と技術を区別するのによい基準ではない”と指摘している。しかし、粒子サイズは、少し大まかではあるが、ナノ物質が商業的食品や農業製品で許可される前に、もっと包括的なテストと粒子の特性化の実施のきっかけとなる明白な基準である。 健康と環境の安全評価のためには、暫定的な 100nm 定義を拡張する必要がある 国際標準化機構(ISO) と米国材料試験協会(ASTM)インターナショナルは、ナノ物質についてのサイズベース又はその他の定義に合意していない。しかし多くの政府機関及び研究機関は、同一物質のより大きな粒子には見られない新規でサイズに依存した特性を持つものとして、ナノ物質の暫定的な定義を用い始めている。 典型的には、これは少なくとも1次元が 0.2〜100nm(すなわち原子レベル以上で100nmまで)のサイズを持つ粒子として定義されている。この定義はいささか恣意的であるが、このサイズ範囲では、その相対的表面積と量子効果の支配が増大するので、100nm以下のサイズの物質は、新規でナノに特化した特性を最もよく示すように見える(U.K. RS/RAE 2004)。 変更された特性には、より大きな化学的特性、色の変化、強度、溶解性、電気的導電性などが含まれる。ナノ粒子が同一の物質でサイズのより大きな粒子より我々の体の細胞、組織、器官に入りやすくなるということは重要である。2004年の報告書で、英国王立協会・王立工学アカデミーは、100nm以下のサイズであり固定されていない粒子は、人の健康により大きなリスクをもたらすと特定した(U.K. RS/RAE 2004)。しかし、100nm 定義の適切性には、特に健康と環境の安全評価に関連して、最近疑念が提起されている。 100nmより大きな粒子のあるものは、ナノ物質に似た解剖学的及び生理学的ふるまいを示すことが国際的に認められるようになってきている。数百ナノメートルの粒子に見られる新規でサイズ依存のふるまいには、非常に高い反応性、生物活性及び生物学的利用能、粒子表面効果の増大、強い粒子表面粘着性などがある(Garnett and Kallinteri 2006)。明らかに、予備的研究はまた、数百ナノメートルの粒子のあるもの、又は1,000nmのものでさえ、現在”ナノ”であると考えられている粒子と同等な健康リスクを及ぼすことができる(Wang et al. 2006; Ashwood et al. 2007)。 政府と科学者はナノ物質を定義する最良のサイズについてまだ不確実 ”ナノ”として物質を定義し、それらをナノに特化した健康と環境安全評価を受けさせることが道理にかなうサイズは、標準機関、政府、科学論文でもまだ議論されている。 なぜナノ物質の特性がより大きな粒子と異なるのか、どのようにサイズ、形状、表面帯電などの要素が相互作用して毒性と粒子の生物学的ふるまいに影響を与えるのかについて、我々は、まだほとんど知っていない。したがって、100nm は少なくともある場合には不十分であるように見えるという合意が増えているが、我々は物質がナノに特化した健康と安全評価を受けるべき適切なサイズ限界を決定するためにまだ十分ではない。 どのサイズがナノ物質として見なすために最も適切かについてのかなりの不確実性を反映して、様々な政府機関、研究機関、科学者らはそれらを定義するために異なるサイズを使用してきた。2006年、工業的ナノスケール物質の自主的報告計画(VRS)で[訳注1-1]で、イギリス政府はナノ物質を200nmまでの2次元又はそれ以上の次元を持つものとして定義した(U.K. DEFRA 2006)。2006年の報告書の中で、米食品医薬品局(FDA)の化学物質選択作業部会は、ミクロン又はそれ以上のサイズの粒子では認められなかったユニークな特性を示すマイクロメートル・スケール、すなわち1,000nm以下の次元を持った粒子をナノ物質として定義した(U.S. FDA 2006)。オーストラリア連邦科学産業研究機関(CSIRO)の食品科学者らはナノ物質を1,000nmまでとして定義した(Sanguansri and Augustin 2006)。2007年のナノ物質に関する報告書で、FDAはサイズベースの定義は全く選択しなかった(U.S. FDA 2007)。 なぜ、地球の友は、健康と環境安全評価の目的のためにナノ物質を300mm以下として定義することを推奨するのか 地球の友は、形状、表面特性、帯電、コーティングン等を含む他の要素の役割の理解が不十分なら、粒子サイズと粒子の生物学的ふるまいとの間には明確な関係がないことを認める。しかし、我々はまた、新規の毒性学的リスクを及ぼすかもしれない粒子が商業的な食品と農業製品中に存在することを許される前に、適切な新たなテストと規制を受けることを確実にするために、サイズベースの引き金が必要であることの重大性を認識している。 もし、サイズが数百ナノメートルの粒子が、個々の細胞に取り込まれ得ることを含んでナノ物質の生理学的及び解剖学的ふるまいの多くと共通するなら、また予備的な研究がこのサイズ範囲の粒子がサイズに依存する毒性リスクを及ぼすかもしれないなら、予防的アプローチが正当化される。我々はサイズが300nmまでの粒子サイズが健康と安全評価の目的のためにナノ物質として扱われることを推奨する。 この報告書で引用される議論と研究を他の文献と比較することを可能にするために、我々はナノ粒子という言葉の使用を少なくとも1次元が100nm以下の粒子に制限する。しかし、サイズが数百ナノメートルの粒子に関連してナノに特化した生物学的ふるまい及び毒性リスクの証拠があるなら、ナノ粒子の健康と環境のリスクの評価と管理に責任ある規制当局は、食品と農業製品中での使用が許される前に、300nmまでの粒子にナノに特化した安全テストと規制を求めるよう、地球の友は強く要請する。 製造された(工業的)ナノ粒子と非意図的ナノ粒子 ”工業的”ナノ粒子は意図的に生成されたものである。それらはナノ粒子(例えば、酸化亜鉛や二酸化チタンのような金属酸化物)やナノチューブ、ナノワイヤー、クオンタムドット、デンドリマー、カーボンフラーレン(バッキーボール)やその他(用語を参照)のようなナノテクノロジーを通じて作られる構造を含む。 それに対して、”非意図的”ナノ粒子は、意図的に製造されたものではなく、自然又は産業プロセスの副産物として生じるものである。大気汚染の研究で超微粒子とも呼ばれる非意図的ナノ粒子の源として、森林火災や噴火、燃焼、溶接、研磨、及び車、トラック、オートバイの排ガスなどがある(U.K. HSE 2004)。 人は歴史的にこれらの非意図的ナノ粒子の少数に暴露してきたが、産業革命まではこの暴露はきわめて限られたものであった。ナノテクノロジーの新興分野(工業的ナノ物質に関連したリスクの研究)は、非意図的に生成されるナノ粒子に関連したリスクについて我々が理解したことから情報を得ている。例えば、我々は、都市の大気汚染中の非意図的ナノ粒子への高いレベルでの暴露は疾病の発症を増加させ、脆弱な集団には死さえをもたらすことを知っている (Yamawaki and Iwai 2006)。 この報告書で地球の友は、食品と農業で使用される工業的ナノ物質に焦点をあてる。しかし我々は、例えば食品加工装置の磨耗のような食品中の非意図的ナノ物質の存在もまた、規制当局による検討を正当化する新たな健康リスクとなり得ることを認める。 他の微粒子の健康と環境への影響を調査する必要性 予備的証拠は、これらの粒子はナノ粒子より数千倍大きいかもしれないが、サイズが1〜20μm(1,000〜20,000nm)の微粒子もまた健康リスクを及ぼすかも知れないことを示唆している。マイクロ粒子はナノ粒子と同じような生物学的利用能を持っておらず、個々の細胞に取り込まれることはない。それらはナノ粒子より化学的反応性と生物活性が比較的小さい。しかしマイクロ粒子の反応性と生物学的利用能は、それらより大きな粒子に比べると、はるかに大きい(Sanguansri and Augustin 2006)。 ラットを使用した研究は、サイズが20μmまでの粒子が主に小腸中のパイエル板(Peyer's Patches)を通じて腸管に取り込まれることを示した(Hagens et al. 2007)。病理学的研究はまた、サイズが20μmまでのマイクロ粒子はヒトの胃腸管を通じて取り込まれ、体内で移動し、第二の器官に蓄積し、そこで例えば 肉芽腫や病変のような長期的な病理学的損傷を起こすかもしれない(Ballestri et al. 2001; Gatti and Rivassi 2002)。 肉芽腫や病変は深刻な長期的健康影響を与え、慢性的炎症やがんさえ引き起こすかもしれない。 食品と食品接触材中のナノ物質のためのナノテクノロジーに特化した規制の必要性だけでなく、地球の友はまた、規制当局が小さなマイクロ粒子の適切な新たな安全性評価の必要性を調査するよう強く要請する。 2. ナノテクノロジーが食物連鎖に入り込む 人類の将来世代は、金持ちかどうか関係なく、どのような食品も食べることができるであろう。砂糖、塩、脂肪、コレストロール・・・。我々は大好きであるが現在は適度に消費しなくてはならない全てのものも将来はそれらに制限はなくなる。全ての食品は栄養があり、唯一の食品選択基準は味ということになる。宇宙家族ジェットソンのような食品錠剤には決してならず、その代わり将来は贅沢な食物を毎日、罪悪感なく楽しむことが出る(Sawyer 1990)。 ナノテクノロジーは実験室レベルからから、あらゆる食品産業のレベルに移った。工業的ナノ物質は、既にいくつかの食品、栄養補助剤、多くの容器包装と食品保存、及び農業への適用、(例えば肥料と農薬等。この報告書で我々は農薬という言葉を動物害又は植物害を管理する化学物質−すなわち殺虫剤及び除草剤を含む−を意味する)として使用している。食物連鎖にもかかわるナノテクノロジーの使用についての地球の友の調査は、工業的ナノ物質成分と添加物を含む食品は空想化学のことではなく、既にスーパーマーケットの棚で見つけることができるということを明らかにした。
食品産業によるナノテクノロジーとナノ物質の商業的利用は秘密に包まれている。食品製造者らはナノテクノロジーとナノ物質の利用を議論することを嫌がり、このことが製造者にナノ食品を特定することを求める表示法がないことによって状況をさらに悪くしている。このことは、ある製品がナノ成分を含むのかどうかをきちんと知ることを不可能にしている。商業的に入手可能なナノ食品の推定には非常に大きい変動幅がある。ナノテクノロジー分析者らは、150〜600 のナノ食品と 400〜500 のナノ食品容器包装への適用が既に市場にあると推定している(Cientifica 2006; Daniells 2007; Helmut Kaiser Consultancy Group 2007a; Helmut Kaiser Consultancy Group 2007b; Reynolds 2007)。 付属書A は、104種の商業的に入手可能な食品、栄養補助剤、保存容器やまな板のような食品接触材、工業的ナノ物質を含む農薬、植物成長調整剤、化学肥料のような農業化学物質のリストである(表1 は、いくつかの例を示す)。食品製造者らはナノテクノロジーの使用について議論することを嫌がるので(Shelke 2006)、我々のリストはナノ物質を含む商業的に入手可能な製品のわずかな部分だけしか表していないように見える。 もっと多くのナノ食品が開発中である。2010年までに、ナノ食品の販売は、ほとんど60億ドル(約6,000億円)になると推定されている(Cientifica 2006)。ネッスル、ユニリーバー、クラフトなど世界の最大手食品会社の多くは食品加工と食品包装にナノテクノロジーを利用することを研究している。世界の大手農薬会社と大手種苗会社もまた、積極的にナノテクノロジーの研究開発プログラムを推進している(表2)。
ナノテクノロジーは農業、食品加工、食品容器包装の全ての分野、そして農場及び食品の監視分野にすら、適用の可能性を持っている。
注:表示目的のために会社はアルファベット順、二列 3. ナノテクノロジーと食品加工 地球の友の調査は、ナノスケール成分と添加物は既にスーパーマーケットの棚に置かれていることを明らかにした。ナノ物質の毒性リスクを示す科学的証拠が数多く出現しているので、地球の友は、事実上規制されていないナノ食品の販売は深刻な懸念であると信じている。 ナノ食品は最早、単なる将来像ではない。 ナノ食品技術者らによって述べられたナノ食品の将来像は、電子レンジのボタンを押すと色、味覚、歯ごたえを変えることができる液体、そして個人の健康と栄養の要求に対応してカスタマイズされる製品などを含んでいる。そのような応用は”次世代”ナノ食品と呼ばれるのが最も相応しいのかも知れないが、もっと単調な製品は商業化が近づいている。ネッスルとユニリーバーは、脂肪質の舌触りと風味は維持した低脂肪のナノエマルジョンのアイスクリームを開発していると報告されている(Renton 2006)。もっと直近では、ある加工食品のビタミンとミネラル含有を増強するために、そして加工肉の製造のスピードを上げるために、ナノ栄養添加物は既に使用されている。
ナノ粒子と300nmサイズまでの粒子が加工助剤として多くの食品に加えられている。 ビタミンや脂肪酸などのナノカプセル化された活性成分は、現在、飲料、肉、チーズ、その他の食品の加工と保存に使用するために商業的に販売されている(Aquanova undated)。ナノ粒子と数百ナノメートルの粒子は、加工段階における流動特性(注ぎ易さ)や色と安定性を改善するために、又は貯蔵寿命を長くするために、多くの食品に意図的に加えられる。 例えば、アルミノ・シリケート(アルミノ・ケイ酸)は、粒状又は粉状加工食品で固化防止剤として一般的に使われており、一方、二酸化チタンを成分とする鋭錐石 (Anatase) は一般的な食品漂白及び光沢添加剤で、菓子類、一部のチーズ、ソースなどに用いられている(Ashwood et al. 2007; Powell et al. 2000)。バルク状(従来の、大きな粒子サイズ)では、これらの食品添加物は通常、生物学的に不活性で、欧州連合やその他どこでも規制当局により人が摂取しても安全であると見なされている(EFSA 2004)。しかし、これらの規制当局は、多くのナノスケール添加物が毒性リスクを高めことを示す証拠が増えているにもかかわらず、食品添加物の安全性を評価するときに粒子サイズの区別をしていない。例えば、二酸化チタンの200nm粒子は、免疫学的に活性であり、炎症を促進することがあることが発見されている(Ashwood et al. 2007)。 科学者らは、食品添加物として使用される数百ナノメートルのサイズの粒子は、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome)やクローン病(Crohn's Disease)のような自己免疫疾患の発症を高める要素かもしれないと示唆している(Ashwood et al. 2007; Schneider 2007; see discussion in Chapter 6)。 ナノ粒子と300nmサイズまでの粒子はまた、栄養添加物として使用されている。 栄養添加物は食品におけるナノ粒子のもうひとつの成長分野である。米国科学アカデミーの医学研究所は、栄養薬品(nutraceuticals/(栄養 nutrition と医薬品 pharmaceutical の結合造語)としても知られている”機能食品”を、”従来の栄養食品よりも健康利益を提供するもの”と定義している。世界の機能食品市場は急速に成長しており、2005年には735億ドル(約7兆3,500億円)に達しているJ(Just-Food.com undated)。
ナノカプセル化は、活性成分をナノスケールカプセルに封入する(Shelke 2005)。活性成分には、ビタミン、保存剤、酵素などがある。これらは最近まで、マイクロスケールのカプセルで食品に加えられていたが、現在ではその能力を高めるために数千倍も小さなカプセルが製造されている。例えば、一般的に使用されているオメガ3食品添加物は、オーストラリアの最高級のパンを強化するためにNu-Mega Driphorm 社によって使用されている140〜180μmマイクロカプセルに収められたマグロ脂のように、マイクロメートルのサイズである(Nu-Mega 2007)。しかし、Aquanova や Zymes のような、オメガ3を30〜40nmというNu-Mega社のものより4,000倍も小さいナノカプセルで提供する会社が増えている(Halliday 2007a)。 Aquanova 社のナノカプセル化した生物的活性成分の製品 Novasol もまた、ビタミン、コエンザイム Q10、イソフラボン、フラボノイド、カロテノイド、フィト・エクストラクト、エッセンシャルオイル、保存剤、食品色素、その他生物活性物質を含む。その製品は、BASF が市場に出している SoluTM E 200 BG−それはスポーツ飲料、味つき強化水のような透明な飲料のために特に調合されたビタミンE ナノ溶液−のような広範な食品添加物及び飲料添加物に見出される(BASF 2005)。 栄養薬品成分の効果はその生物学的利用能の保存と強化に依存する。ナノサイズ化又はナノカプセル化した活性成分は、より大きなサイズ又はマイクロカプセル形状のものに比べて、より大きな生物学的利用能、改善された溶解性、及び強化された能力を生み出す(Mozafari et al. 2006)。このことは消費者の利益を生み出すものとしてうるさく宣伝されている。ナノ粒子添加物のより大きな能力は、求められる添加物の量を減らし、食品加工者に利益をもたらすかも知れない。しかし、細胞のナノ物質摂取の能力が大きくなれば、より大きな化学的反応性を伴い、新たな健康リスクをもたらすことがありえる。 現代の食品加工手法はナノ粒子を生成する。 食品中のナノ物質に関連する潜在的な健康リスクについて新たに起きている議論は主に工業的ナノ物質食品又は食品容器包装添加物に集中しており、加工中に生成されるナノ粒子については無視されてきた。しかし、ナノテクノロジーは食品添加物や成分のためよりむしろ食品を加工するために用いられるので、ナノ粒子はまた多くの食品中に存在する。ナノ粒子を生成する食品加工技術は新しいものではないが、高度に加工された食品の急速に拡大する消費は、食品中のナノ粒子への我々の暴露を確実に増加させている。 ナノ粒子、数百ナノメートルの粒子、及びナノスケールのエマルジョンを生成する加工技術は、サラダ・ドレッシング、チョコレート・シロップ、人工甘味料、フレーバー・オイル、その他多くの加工食品で使用されている(Sanguansri and Augustin 2006)。ナノ粒子及びナノスケールのエマルジョンの調合は、高圧バルブ均質、ドライ粉砕、ドライジェット粉砕、超音波エマルジョン化等の食品加工技術によってもたらすことができる。多くの食品製造者らは彼らの食品がナノ粒子を含んでいることを全く知らないかもしれないにもかかわらず、これらの加工技術が生み出す肌触りの変化や流動特性は製造者にとって魅力があるので、これらの加工技術はまさに用いられている。 最近の研究はまた、食品中に汚染物質と呼ぶのが最も相応しいナノ粒子を発見した。ナノ病理学研究者アントニエッタ・ガッチ博士は、多くの食品が栄養的価値はなく、非意図的に食品を汚染しているように見える、例えば食品加工機械の擦り切れや環境汚染を通じた不溶解性の無機ナノ粒子とマイクロ粒子を発見した(Gatti undated; Personal communication with Dr A.Gatti 19 September 2007)。ガッチと同僚らはパンとビスケットをテストし、約40%が無機ナノ粒子とマイクロ粒子汚染を含んでいることを見つけた(Gatti et al. submitted for publication)。 この報告書は食品、食品容器包装、及び農業製品へのナノ物質の意図的な添加に関連する問題に目を向けているが、我々は、ナノ粒子とナノスケールエマルジョンを生成する食品加工技術の健康影響についても食品規制当局が注意を向けるべき根拠があることを認識している。そのような食品が新たな健康リスクを及ぼす潜在性について、関連する新たな食品安全基準が必要かどうかを決定するために調査されなくてはならない。 ナノ粒子の付帯的な大気汚染の健康リスクをより良く理解することが大気汚染を減らす取り組みの結果として得られるように、食品中の付帯的なナノ粒子汚染に関連する健康リスクをよく理解すれば、加工食品の付帯的なナノ粒子汚染を減らす取り組みに根拠を与えるかもしれない。 4. 食品容器包装と食品接触材に使用されるナノテクノロジー 包装食品の貯蔵寿命延長 食品分野でのナノテクノロジーの最も早くからの商業的適用のひとつは容器包装である(Roach 2006)。現在、400〜500種のナノ容器包装製品が商業的に使用されていると推定されるが、一方ナノテクノロジーは今後十年以内に全ての食品容器包装の25%の製造に使用されると予測されている(Helmut Kaiser Consultancy Group 2007a; Reynolds 2007)。 ナノ容器包装の主要な目的は、ガスと湿気の出入り及び紫外線ライト暴露を低減するために、食品容器包装の遮蔽機能を改善することにより貯蔵寿命を長くすることである(AzoNano 2007; Bayer undated; Lagarn et al. 2005; Sorrentino et al. 2007)。例えば、デュポンはナノ二酸化チタン・プラスチック添加物’DuPnt Light Stabilizer 210’の製品発表を行ったが、それは透明容器包装中の紫外線による損傷を低減することができる(ElAmin 2007a)。2003年、ナノ容器包装の90%以上がナノ合成(nanocomposites)であり、その中でナノ粒子は、食品のプラスチック・ラップやビール、ソフトドリンク、ジュースのプラスチック・ボトルの遮蔽機能を改善するために用いられている(PIRA International cited in Louvier 2006; see Appendix A for products)。ナノ容器包装はまた、貯蔵寿命を延ばすために、抗菌剤、抗酸化剤、酵素、風味、及び栄養薬品を放出するように設計することもできる(Cha and Chinnan 2004; LaCoste et al. 2005)。
化学的放出ナノ包装容器 ナノ包装容器からの化学的放出は、食品包装容器とそれが収納する食品との相互反応を可能とする。双方向の流れが可能である。包装容器は貯蔵寿命を延ばし、味や香りを改善するために、ナノスケールの抗菌剤、抗酸化剤、風味、香り、栄養薬品を食品や飲料に放出する(del Nobile et al. 2004; LaCoste et al. 2005; Lopez-Rubio et al. 2006; Nachay 2007)。多くの場合、化学的放出ナノ包装容器はまた、監視要素を導入する。すなわち、ナノ化学物質の放出はある特定の引き金に対応して起きる(Gander 2007)。逆に、食品や飲料を劣化させる酸素や二酸化炭素を汲みだす能力をもったカーボンナノチューブを使用したナノ包装容器も開発中である (FoodQualitynews.com 2005)。好ましくない風味を吸収することができるナノ包装容器もまた、開発中である。
ナノ・ベースの抗菌容器包装と食品接触物質 微生物の数の増大、湿度、その他の条件の変化に対応して、殺生物剤を放出するよう設計されているトリガー依存の化学的放出包装容器とは異なり、抗菌剤を放出するよう設計されているのではなく、容器包装自身が抗菌剤として働くようにするために、抗菌ナノ物質を導入している包装容器や食品接触物質がある。これらの製品は、酸化亜鉛又は二酸化塩素のナノ粒子を使用しているものもあるが、一般的に銀ナノ粒子を使用している(AzoNano 2007; LeGood and Clarke 2006; Table 4)。酸化マグネシウム 、酸化銅、二酸化チタンのナノ粒子やカーボンナノチューブもまた、将来、抗菌食品容器包装での使用が予測されている(ElAmin 2007c; Nanologue 2006)。
ナノセンサーと追跡探知包装容器 ナノセンサーを装備した容器包装は、サプライチェーンを通じて食品、パレット、容器の内部又は外部の条件を追跡するよう設計されている。例えば、そのような容器包装は全期間を通じて温度又は湿度を監視し、これらの条件に関する関連情報を、例えば、色を変えることにより、提供することができる (Food Production Daily Out of the laboratory and on to our plates: Nanotechnology in food and agriculture 18 2006a; Gander 2007; El Amin 2006a, Table 5)。ネッスル、英国航空、モノプリックス・スパーマーケット、3M、その他の多くの会社は、化学的センサーを装備した包装容器を使用しており、ナノテクノロジーはこれらのノ力を拡大しコストを低減する新たなもっと複雑なツールを提供しつつある(LeGood and Clarke 2006)。 ナノテクノロジーはまた、安価な無線ID(RFID)タグを導入することを可能にしている(Nachay 2007; Pehanich 2006)。初期のRFIDタグとは違い、ナノ化RFIDタグはもっと小さく、柔軟性があり、薄いラベル上に印刷される。このことはタグの能力を増大し(例えば、事実上、目に見えないラベルの使用を可能とすることにより)、もっと安い製造を可能とする。 その他の様々なナノ・ベースの追跡探知包装容器技術が開発中である。例えば、アメリカの会社Oxonica Inc は、個々の商品又はパレットに使用されるナノバーコードを開発したが、これは専用の顕微鏡で読み取らなくてはならない。これらは、主に不正商品対策を目的に開発された(Roberts 2007)。摂取可能なナノ・ベースの追跡探知技術は、ナノバイオテクノロジー会社 pSivida を飛び出した pSiNutria によって約束されている。潜在的な pSiNutria 製品には、食品中の病原菌検出、食品追跡、食品貯蔵、そして食品貯蔵中の温度測定のための製品がある(pSivida 2006)。
ナノ生物分解性容器包装 バイオプラスチック(植物性プラスチック)を強化するためのナノ物質の使用は、食品容器包装及びレジ袋のための化石燃料ベースのプラスチックに代わって使用されるバイオプラスチックを可能とするかもしれない(see Table 6; ElAmin 2007e; Nanowerk 2007; Sorrentino et al. 2007; Technical University of Denmark 2007)。生物分解性容器包装の潜在的な環境的便益とリスクは、後で議論される。
マヨネーズやトマトソースのこびり付き防止ボトルのためのライニング マヨネーズやケチャップのボトル中の最後の残りを取り出すために、叩いたり振ったりしなくてもよいように、ドイツのいくつかの研究機関、産業パートナー及びミュンヘン工科大学は、こびりつき防止ナノ食品容器包装を共同で開発している(Scenta 2007)。研究者らは20nm以下の薄いフィルムを食品容器包装の内部表面に貼り付けた。彼らは既に最初の試作品を開発しており、今後2〜3年以内に新たな容器包装を商業的に発表することを希望している。研究者らは、ボトル中の内容物の残りを減らすことが環境的に優しい解決であるとして、彼らの製品を推進している。しかし、工業的ナノ物質が廃棄処理の過程から又はリサイクル中に環境中に放出される懸念がある。このことは新たな深刻な生態系リスクをもたらすかもしれない。したがって、そのような容器包装はそれが解決するよりもっと大きな汚染をもたらすかもしれない。 5. 農業で利用されるナノテクノロジー ナノ技術は、もっと持続可能な食料システムへの支援を増やすべきこの時に、現在使用されているものより、潜在的にもっと有毒な農薬、植物成長調整剤、及び化学的肥料等の一連の新たなものを導入している。遺伝子操作のための新たなツールを提供することにより、ナノテクノロジーはまた、作物の遺伝子工学を広げるように見える。ナノ・ベースの相互反応農場監視管理システムの商業化はまだ先のことである。もしそれらが実現されれば、農産物はもっと高効率で生産されるかもしれない。しかし、農場管理の更なる自動化において、そのようなシステムはまた、今よりもっと少ない農業作業者しか雇用しない大規模農業ビジネスをもたらすかもしれない。 ナノ農薬は既に商業的に利用されている 最初に開発されたナノ農薬(grochemicals)は、既存の農薬、防カビ剤、植物、土壌、種子処理のナノ化である(ETC Group 2004, Green and Beestman 2007, Joseph and Morrison 2006)。農薬会社は既存の化学的エマルジョンの粒子サイズをナノスケールにまで下げている。あるいはある条件、例えば、太陽光、熱、又は害虫の胃の中のアルカリ条件に反応して、破れるよう設計されたナノカプセル中に活性成分を封入している。食品と容器包装分野で開発されているナノカプセルやナノエマルジョンと同様に、農薬で使用されるより小さいサイズのナノ粒子やナノエマルジョンは、それらの能力をもっと高めることが意図されている。 ジョセフとモリソン(Joseph and Morrison (2006))は、”多くの会社が既存のものよりもっと効果的に水に解けることができる(したがってその活性が増す)100〜250nmサイズの範囲のナノ粒子を含む調合を作っている。他の会社はナノ粒子の混濁液(ナノエマルジョン)を採用しているが、それらは水又はオイルベースであり、200〜400nmの殺虫又は除草ナノ粒子の均質な混濁液を含んでいる”。 米EPAは、ナノスケール農薬を市場に出すことに関心を持ついくつかの製造者からコンタクトがあることを認めている(U.S. EPA 2007)。しかし主要な農薬会社で100nm以下の粒子径を持つ製品を製造していることを認める会社はほとんどない。例外は世界最大の農薬会社であるシンジェンタで、同社はナノ調合された”Primo MAXX”植物成長調整剤を数年間、販売している。Primo MAXX は、”マイクロ−エマルジョン”濃縮液と表示されている(Syngenta undated)。地球の友がコンタクトした時、シンジェンタ・オーストラリアの広報担当は当初、シンジェンタの”マイクロエマルジョン”濃縮液製品の範囲にある他の防カビ剤と種子処理剤もまた100nmサイズの粒子を含んでいることを確認した。同報道担当はその後、この表明を撤回して、シンジェンタの他の製品でナノ粒子を含んでいるものはないと我々に告げた。そのような混乱は、ナノ成分と調合の表示義務があれば避けることができたはずである。表7は、開発中のナノ農薬に関する情報を提供するものである。
農業作物と家畜のナノ遺伝子操作 数十年間、分子生物学者らは、微生物、植物及び動物の遺伝子操作を探求しているが、多くの技術的限界や障害に遭遇している (Zhang et al. 2006)。ナノバイオテクノロジーは現在、外来DNA及び化学物質を細胞に運ぶために、ウイルス・ベクター(訳注)を使用するより、ナノ粒子、ナノファイバー、ナノカプセルを使用することにより植物又は動物の遺伝子を操作する新たなツールを提供しているように見える(Bharali et al. 2005; He et al. 2003; Radu et al. 2004; Roy et al. 2005; Torney et al. 2007; Vassaux et al. 2006)。これらのナノ物質は、遺伝子発現の引き金となる遺伝子や化学物質をもっと数多く運ぶことができる。理論的には、ナノテクノロジーの使用はまた目標場所において、DNAの放出全体の優れた制御を提供する。 訳注:ウイルス・ベクター http://www.qole-acct.co.jp/genetiss/vector.html ナノバイオテクノロジーは、すでに、科学者らが農業生産物のDNAを再配置することを可能としている。2004年、ETCグループは、タイのチェンマイ大学の研究者らがコメの色を紫から緑に変えることができたと報告している。ETCグループは、タイの研究者らは最終的には彼らの技術を、一年中栽培でき、もっと茎が短く、色を改良したジャスミン・ライス品種を開発したいと望んでいると報告した(ETC Group 2004)。外来DNAをカーボンナノファイバーでコーティングした細胞”注射”が、遺伝子組み換えの”黄金”の米(Golden Rice)のために用いられているという報告がある(AzoNano 2003)。 合成生物学は全く新たな生物を作り出す 合成生物学(Synthetic biology)は、遺伝子工学をナノテクノロジー、情報科学、及び工学と統合する新たな分野に付けられた名前である。英国の王立協会は合成生物学を、”新しい人工的な生物学的な細道、生物、又はディバイスの設計と建設、又は既存の天然生物学的システムの再設計”と記述している (U.K. RS 2007)。王立協会は、”複雑な生物学的システムの設計と建設への工学的原則の適用は、遺伝子工学と通常呼ばれている既存のゲノムのちょっとした調節から段階的変化に移行するように見える”と説明している。 合成生命の開発を求める重要な大きな進歩が達成されつつあるが、人工生物の自己複製能力が開発されるまでには、まだ時間がかかるように見える。人工生物の生成における第一段階のひとつの出来事が最近起きたが、それは合成生物学研究者が全体の遺伝子構成のひとつのバクテリアを空にし、それを他のバクテリアで置き換えることに成功したということで、これは文字通り、 ひとつの種を他の種に初めて変換したということである(Lartigue et al. 2007)。 合成生物学は農業と食品製造システムを通じて潜在的な応用がある。ETCグループは、アミリス・バイオテクノロジー社が食品加工用の栄養薬品、ビタミン、及びフレーバーを製造するために合成微生物を開発していると報告している(Amyris Biotechnologies 2006; ETC Group 2007)。コドン・ディバイス社もまた、植物の遺伝子技術の効率と制御を改善する取り組みを含んで、農業用に合成生物学的応用を開発している。合成生物学の分野の詳細な紹介は、ETC Group (2007) を参照のこと。 農場直接監視のためのナノセンサー ナノテクノロジーとナノバイオテクノロジーを用いたセンサー(検出器)は農業での広範な応用のために設計されつつある。オーストラリアのある研究施設は、作物の成長、家畜の飼育、病気の診断における応用できる”ナノアレイ”を開発した。その開発者らは、牛乳をサンプリングし、牛の乳房炎を引き起こすバクテリアが存在するかどうかを、一時間以内に示すことができる携帯装置の製造を可能にするであろうと信じている(Clifford 2007)。もうひとつのオーストラリアのグループは、羊毛刈り取り機の刃の上に羊シラミを検出できる新たな携帯監視装置を開発した。この装置は、金ナノ粒子クラスターに基づく色彩検知器を使用している (Nanotechnology Victoriaundated)。ナノセンサーの他の潜在的な応用には作物又は家畜の遺伝子の改良等がある。 遠隔農場監視と、最終的には自動農場管理を可能とするワイヤレス・ナノ監視システムを開発するための探求は、まだ、その開発段階の初期に留まっている。長い間、ナノの推進者らは、ナノテクノロジーとナノバイオテクノロジーによる監視システムが、農場中に張り巡らされ、効果的に農場の現在の状況、例えば、土壌の湿度、温度、pH、窒素利用可能性、雑草の状況、作物や家畜の病気や健康状態、を監視することができる小さな携帯監視システムの開発を可能とすることを望んでいる(Joseph and Morrison 2006; Opara 2004; U.S.DoA 2003)。 バスとターバフィールド(Bath and Turberfield (2007) )は、彼らが DNA ナノマシンと呼ぶ、”個々の分子は単独で作用するが全体では調和の取れて、外部の刺激に反応できる特別のマシン”の開発を最近、レビューした。彼らは、温度とpHに反応するDNAセンサーは既に開発されていると述べている。相互作用のナノテクノロジー監視システムはまた、例えば、窒素不足を感知してナノ肥料を放出する等、観察された状況に反応できる。しかし、ナノ・ベースの自動監視と農場管理システムへの強い関心にもかかわらず、そのようなしステムが技術的にそして現実的に実現できるまでにはまだ時間がかかるように見える。 6. ナノ食品とナノ農薬は新たな健康リスクを及ぼす 工業的ナノ物質の食品、飲料、栄養補助食品、食品容器包装、可食性食品容器、肥料、農薬、及び包括的種子処理への導入は、公衆、食品産業労働者、及び農民に対する全く新たなリスクをもたらす。
工業的ナノ物質は深刻な健康影響を及ぼすかもしれない 我々の体の防御メカニズムは、肺、胃腸管、及び臓器からナノ粒子を除去するのに、もっと大きな粒子に比べて、効果的ではない(Oberdorster et al. 2005a)。ナノ粒子はまた、もっと大きな粒子に比べて我々の体の表面への粘着性が高い(Chen et al. 2006a)。これらの要素及びその非常に小さいサイズの結果、ナノ粒子は、より大きな粒子に比べて我々の細胞や組織の中に取り込まれやすいように見える。 ラットとマウスを使用した多くの生体(in vivo)実験がナノ物質(Chen et al. 2006b; Desai et al. 1996; Hillyer and Albrecht 2001; Wang et al. 2007a; Wang et al. 2007b)及び小さなマイクロ粒子(Hazzard et al. 1996; McMinn et al. 1996; Wang et al. 2006)の胃腸の摂取を示している。ヒト組織の病理学的実験もまた20μmまでのマイクロ粒子の摂取と移動を示唆している(Ballestri et al. 2001; Gatti and Rivassi 2002)。 工業的ナノ物質のあるものは、同じ化学成分で粒子サイズがより大きなものに比べて、質量あたりの毒性が強いことを示す証拠が増大している(Brunner et al. 2006; Chen et al. 2006b; Long et al. 2006; Magrez et al. 2006)。例えば、二酸化チタンは通常の大きな形状(バルク状)では生物学的に不活性であると考えられており、食品添加物として広く使用されている。しかし、試験管(in vitro)実験は、ナノ粒子又は数百ナノメートルまでの粒子では二酸化チタンはDNAを損傷し、細胞の機能をかく乱し、免疫細胞の防御作用を邪魔し、バクテリアの一部を吸着して胃腸管全体に”密輸”することにより、炎症を引き起こすことができる。 (Ashwood et al 2007; Donaldson et al. 1996; Dunford et al. 1997; Long et al. 2006; Lucarelli et al. 2004; Wang et al. 2007b)。二酸化チタンナノ粒子の単回高用量経口投与はメスのマウスの腎臓と肝臓に顕著な病変を引き起こした(Wang et al. 2007b)。表8は現在、食品産業によって使用されているナノ粒子ほんの一部について、毒性に関する既存の科学的証拠をまとめたものである。 非生物分解性ナノ粒子が、短期的な毒性に加えて、長期的な病理学的影響を引き起こす可能性は大きな懸念である。少数の臨床研究は、急性毒性反応を起こさない非生分解性ナノ粒子及び小さなマイクロ粒子は我々の体内に蓄積することができ、時間の経過と共に”ナノ病変”を引き起こす結果となることを示唆している。例えば、 肉芽腫、病変(損傷を受けた細胞又は組織の領域)、がん又は凝血等である(Ballestri et al. 2001; Gatti 2004; Gatti and Rivassi 2002; Gatti et al. 2004)。 我々が知る限りでは、工業的ナノ物質が慢性毒性を示す可能性を調べるために長期的な実験調査が実施されたことはない。しかし、たとえ長期的(2年)な動物実験を行っても、ナノ物質がヒトの生涯の期間に長期的健康問題を引き起こす可能性を適切に特定することはできない。アスベストへの吸入暴露が中皮腫をもたらすことがあることには科学的合意があるが、アスベスト誘引疾病の発症が実験動物の寿命より長くかかるために、この関連性を調べる動物実験は適格ではないということに気付いて唖然とする。(Magrez et al. 2006)。工業的ナノ物質に長期的に暴露して健康を損ねる結果となることがないことを確実にするために法規を開発するときに予防原則が適用されるべきことを強く示唆している。
緊急に職業的健康リスクに目が向けられなくてはならない 全てのナノ製品の製造において、工業的ナノ物質を含む食品と農業用資材を扱い、製造し、包装し、又は輸送する労働者は一般の人々よりナノ物質への高い暴露レベルに直面するように見える。科学者はいまだに、どのようなレベルのナノ物質暴露が労働者の健康を損ねるのか、そして、ナノ物質への職業的暴露が安全であるようなレベルが存在するのかどうかについてわかっていないのだから、これは大きな懸念である。さらに、職業暴露を防止する信頼性あるシステムや装置はまだ存在しないので、必ず起きるナノ物質暴露の測定と特性化のための一般的な基礎を特定しなくてはならない (Maynard and Kuempel 2005; U.K. HSE 2004)。 ナノ物質は吸入後に容易に血流に入り込むことができることを研究が示しており、それがナノ物質への職業的暴露の主要な経路かも知れない(Oberdorster et al. 2005b)。少なくともナノ物質のあるものは皮膚に浸透することができ(Ryman-Rasmussen et al. 2006)、特に皮膚が曲げられた時に(Rouse et al. 2007; Tinkle et al. 2003)、又は多くの職場で起きそうなことであるが、界面活性剤に暴露したときに(Monteiro-Riviere et al. 2006)、浸透する。ナノ粒子と小さなマイクロ粒子は損傷を受けた皮膚から取り込まれる(Oberdorster et al. 2005a)。
ナノ食品添加物の有害リスク ナノ粒子の栄養添加物の毒性を調査した研究は非常に少ない。マウスに与えられた鉄の300nmナノ粒子を観察したいくつかの予備的研究は、鉄の生物学的利用能が大きく増大したが、毒性問題は見出されなかった(Rohner et al. 2007; Wegmller et al. 2004)。しかし、他の予備的実験は亜鉛の高用量のナノ粒子及び小さなマイクロ粒子ですら深刻な臓器損傷と血液肥厚(blood thickening)を及ぼすことを示した(Wang et al. 2006)。 政府はナノ添加物の包括的な安全テストを要求しておらず、300nmの鉄と亜鉛粒子が食品と飲料の栄養強化としてすでに市場に出ていることには懸念がある(eg SunActive products marketed by Taiyo International)。他にも、ナノ酸化亜鉛、ナノシリカ、その他のナノカプセル化活性成分のような”一般的”なナノ添加物を販売する多くの会社がある(付属書Aを参照のこと)。 ビタミン又はミネラルの過剰な用量を運ぶ強力な生物学的利用能の潜在能力にもまた懸念がある。例えば、オンラインの産業誌 Food Processing.com は、アメリカのある会社は、ナノ調合のビタミンE の搬送物質を、”成人へ推奨されている1日許容量の10倍のビタミンEを、強化水や飲料の味や透明度に変化を与えずに消費者にお届けすることができる”として販売促進をしていると報告している(Shelke 2007)。科学者らは、物質自身に毒性がなくても過剰に摂取すれば有毒影響がありえることを認めている。例えば、ビタミンAの過剰な摂取は有害な骨への影響及び肋骨の骨折を引き起こすことがある(Downs 2003)。ビタミンB6の過剰な摂取は、手足の痛み、まひ、弱まりをもたらし、葉酸(ビタミン B 複合体の一つ)の過剰な摂取は神経系を損傷することがある (U.S. IOM 1998)。 もし、ナノ栄養添加物及び補助食品がビタミンや栄養素を過剰に供給するなら、これらはまた、他の栄養素の吸収を阻害するかもしれない。イギリスの中央科学研究所でナノテクノロジー研究チームを率いるカシム・チャウドゥリー博士は、ナノ粒子及びナノカプセル化食品成分は、”意図したよりもはるかに多く吸収したり、又は他の栄養素の摂取を変更するなど予測できない影響を及ぼすかもしれないが、これらについては現在ほとんど知られていない”と警告している(Parry 2006)。 また、食品規制当局が特定することが困難なナノスケール成分又は汚染物質それ自身が及ぼすかもしれない毒性問題の可能性がある。食品安全テストの分野で主導的な専門家であるイギリスのコンサルタント、ネビル・クラドックは、安全当局がナノスケール成分や汚染の安全性を検出し評価することは困難であることがわかるであろうと警告した。”食品中のナノ粒子サイズの分析は毎日のテスト業務ではないであろう”(Rowe 2006)。このことは、ナノ食品の安全性を確保するためのリスク管理スキームが潜在的に乗り越えられない現実的な障害に直面していることを示唆している。 ナノ強化食品に関連する公衆健康の問題 ナノ添加物の安全性を確実にすることの必要性だけでなく、ナノ栄養素で強化された食品が公衆健康の観点から実際に望ましいことなのかどうかの疑問を提起することはまた有用である。ナノ強化された飲料又は食品は個人の食事の必要性の大部分に、又は全体に合致すると主張する製造者が増えている。例えば、トドラー・ヘルス社(Toddler Health)の、300nmの粒子SunActive 鉄を含む強化チョコレートとバニラ栄養ドリンクは、”13ヶ月から5歳までの幼児のための全自然バランス栄養ドリンクとして市場に出されている。トドラー・ヘルスの1回分の摂取(一人前)は、小さな子どものビタミン、ミネラル、たんぱく質の一日の必要量を満たすのに役立つ”(Toddler Health undated)。ナノ食品がいかに強化されていようと、多様な新鮮で最小の加工食品に基づく食事の栄養的価値を置き変えることはできない。ナノ強化食品の販売促進は、果物や野菜を少ししか食べず、そのことで健康によくない結果となるひとつの要素になりかねないという現実的な可能性がある。 ナノ食品容器包装は新たなナノ暴露の経路となる 食品容器包装と可食性コーディング中での工業的ナノ物質の使用は公衆のナノ物質摂取の可能性を疑いなく高めることになる。将来の化学的放出容器包装技術は、風味、臭い、あるいは栄養添加物のナノカプセルを食品と飲料中に時間経過と共に放出するよう設計されつつある。そのような容器包装は加工コストの低減や 食品や飲料の貯蔵寿命を長くするというような便益を加工者に提供する。しかし、強化された味覚や風味のような消費者の便益の方がナノ物質の摂取に伴う潜在的な新たな健康リスクよりも重要視されているように見える。 お菓子やパン類、新鮮な果物や野菜用に開発中の可食性ナノ・コーティングはまた、ナノ物質の摂取が増大する結果となり、潜在的な新たな健康リスクをもたらす。容器包装、クリング・ラップ、貯蔵容器、まな板を含む食品接触材中でのナノ物質の使用もまた、ナノ物質摂取の可能性を潜在的に増大させる。 ナノ物質が様々な食品容器包装から食品に移動するということは可能であるように見える。従来の容器包装中のポリマーと化学的添加物は容器包装から食品に移動することが知られている(Franz 2005; Das et al. 2007)。逆に、食品中の風味と栄養素もまた、プラスチック包装容器に移動することが知られている。食品化学技術研究所は、工業的ナノ物質は、移動量、したがって暴露リスクがわからないままに、既に食品容器包装中で使用されつつあるとその懸念を述べている (IFST 2006)。 イギリスの中央科学研究所とオランダの国立食品研究所の科学者らは現在、食品包装容器から食品へのナノ物質の移動の可能性について調査している (U.K. FSA 2006; ElAmin 2007f)。イギリスで行われた調査の予備的結果は、テストされた二つのポリマーナノ合成物(ナノクレイ多層ペットボトル、及びナノ銀−ポリプロピレン混合物)からのナノ物質の移動は最小であるかもしれないということを示している(Chaudhry 2008)。しかし、これらの調査が完了するまでは、工業的ナノ物質の容器包装から食品への移動量を定量化したデータで公表されているものはない(Nanlogue.net 2005)。 抗菌剤とナノセンサーが直面する課題 抗菌ナノ食品容器包装とナノセンサーの技術は食品中のバクテリアと有毒汚染物質を検出又は除去することによって、より安全性の高い食品を提供するものとして推進されている。しかし、ナノ物質が抗菌食品容器包装から食品中に移動して新たなリスクをもたらすことは可能であろう。このことは、ナノ−フィルムやナノ容器包装は、バクテリア、菌類、カビ類の成長を検出すると、抗菌剤を食品表面に放出するように設計されているので、避けることはできないように見える。 ドゥジョンら(2005)は、将来を約束しているにもかかわらず、ナノセンサー容器包装中のナノテクノロジーベース毒素指示計はまた、重要な現実的困難に直面していると警告している。食品中の毒素は食品中で均質に分散していないので、100%効果的であるためには、センサーは非常に微量な毒素に対して極端に感度が高くなくてはならないのみならず、食品又は飲料の全体をサンプルすることができなくてはならない。カナダを拠点とする市民社会団体のETCグループ(2004)は、食品監視、ナノセンサー容器包装、ナノ追跡監視バーコードなどは有用であるが、食品の汚染をもたらす工業的農業や食品システムの根本的問題には目を向けていないということを示唆している。彼らは、"より速い食肉処理ライン、機械化の増大、低賃金労働者の労働力減少、少ない検査官、企業と政府の説明責任の欠如、そして、食料生産者、食品加工者、消費者の距離の拡大"が最終的には食品汚染事故の原因となると示唆している。 食品汚染によるどのような病気も受け入れることはできないが、食品汚染の結果として病気になる1人に対し、バランスの取れない不十分な食事や、果物や野菜の不適切な摂取の結果として病気になる人は50人いる (Lang and Rayner 2001)。もしナノ加工され、ナノ容器包装された食品が、新鮮でナノ容器包装されていない食品を食べるより安全であるとして市場に首尾よく出ることになれば、その結果は健康を損ねるということになる可能性がある。
ナノ農薬に関連する健康リスク 従来の農薬への暴露は、農業従事者やその家族のがんや深刻な生殖健康問題の発症と関連している(Davidson and Knapp 2007; Hanazato 2001; Relyea and Hoverman 2006)。既存農薬のナノ調合は、従来の農薬よりもっと反応性があり、もっと生物活性があるよう設計されている。より少ない量の化学物質が使用されるかも知れないが、ナノ農薬は、それが置き換える従来の農薬より、もっと深刻な環境及び健康リスクをもたらすかもしれないという現実の可能性がある。 7. ナノ食品とナノ農業は新たな環境リスクを及ぼす 工業的ナノ物質を含む食品、食品容器包装、及び農業生産物の製造、使用及び廃棄は、必然的にこれらのナノ物質を環境に放出する結果となる。これは、製造、製品使用中の磨耗、又はそれに続く使用済み製品の処分又はリサイクルンに関連する廃棄の流れの結果である。他のナノ物質は、例えば農薬又は植物成長処理のように、環境中に意図的に放出される。 農業と食品分野におけるナノ物質の商業的利用は増加しているが、ナノ物質に関連する生態学的リスクはほとんど理解されていないままである。水生生物のあるものは工業的ナノ物質を濃縮するように見えるが、植物への取り込みについては研究されておらず、ナノ物質が食物連鎖を通じて蓄積するかどうか不明である(Boxhall et al. 2007; Tran et al. 2005)。現在商業的に使用されているナノ物質が環境的に有害である可能性を早くから示している研究が、更なる研究の緊急の必要性を強調している(Moore 2006)。農業用に開発中のナノ物質と合成生物学的有機体を使用する遺伝子組み換え作物と関連する環境的リスクはもっと理解されていない。 現在、商業的に使用されているナノ物質は深刻な生態学的リスクを及ぼす ナノ物質の生態学的影響を検証した研究の数は限られているにもかかわらず、農業と食品産業で商業的に使用されているナノ物質は環境的危害を引き起こすかもしれないことを示唆する証拠が既にある。このことは特に、銀、酸化亜鉛、二酸化チタンのような抗菌ナノ物質に対して真実であり、これらナノ物質は、クリング・ラップ、まな板、食卓用器具、食品保管容器を含む食品容器包装や食品接触材にますます加えられるようになっている。最も広く使用されているナノ物質のひとつである二酸化チタンは、ニジマスに臓器病変、生物化学的障害、呼吸困難を引き起こした(Federici et al. 2007)。二酸化チタンはまた、藻類やミジンコに、特に紫外線光に暴露した後に、毒性がある(Hund-Rinke and Simon 2006; Lovern and Klaper 2006)。他の予備的研究はまた、ナノ亜鉛も藻類とミジンコに毒性があること(Luo 2007)、及び酸化亜鉛はバクテリア及びミジンコに有毒であること(Heinlaan et al. 2007)を見出している。これらの発見は、特にミジンコは生態系監視種として当局により使用されているので、懸念あることである。 自然界におけるバクテリア、微生物、菌類へのナノ物質の影響はほとんど知られていないままである。廃棄物の流れの中で、強力な抗菌ナノ物質の存在が増加して広い環境の中で有益なバクテリアの機能、例えば、淡水中及び海洋環境中での窒素化合及び脱窒素作用を阻害する可能性がある(Throback et al. 2007)。ナノ抗菌剤はまた、植物に関連する窒素固定バクテリアの機能を阻害するかもしれない(Oberdorster et al. 2005a)。窒素化合、脱窒素作用、又は窒素固定プロセスのどのようなかく乱も、生態系全体の機能に対して有害な影響を及ぼすであろう。また、広く使用される抗菌剤は、有害なバクテリア類に大きな抵抗力を与えるというリスクもある(Melhus 2007)。 現在、食品産業での商業的利用はないが、カーボン・ナノチューブは食品容器包装と食品製造(ElAmin 2007c)、及び食品の貯蔵寿命を延ばすよう設計された包装フィルム(FoodQualitynews.com 2005)における抗菌物質としての将来の使用が宣伝されている。カーボン・ナノチューブの環境的リスクはほとんど研究されていないが、予備的研究は、その製造に伴う副産物が河口域に生息する小さな無脊椎動物であるケンミジンコ類(Templeton et al. 2006) の死亡率と発達の遅れ、及びゼブラフィッシュ(Danio rerio)胎芽の孵化の遅れ(Cheng et al. 2007)の増大をもたらすことがあることを示している。 ナノ農薬は、それらが置き換える化学物質農薬より、もっと問題を起こすかもしれない 農薬、化学肥料、種子と植物成長処理に用いられた従来の農業化学物質は、土壌と水路の汚染に関係しており、これらの生態系に対して甚大なかく乱を引き起こし、生物多様性の喪失をもたらしてきた(Beane Freeman et al. 2005; Petrelli et al. 2000; van Balen et al. 2006)。ナノ推進者らは、ナノ調合農薬の強力な性能、及びそれらの散布の目標を定める又は特定の条件に対して放出する大きな能力は、散布量の低減と排水の低減を通じて環境保護をもたらすと主張する。しかし、従来の農薬よりもナノ農薬をもっと効果的にするというその同じ特性、すなわち、目標とする害虫に対するより大きな毒性とより高い生物学的利用能、及び畑でのより長い残留性もまた、人と環境に対する新たなリスクをもたらす。ナノ農薬は農薬の全体使用量を減らすという主張は、遺伝子組み換え作物に関連する同じ多くの会社によって同様になされたが果されていない約束と同じであると批判的に受け取るべきである。 ナノ農薬は性能を高めるために調合されているので、それらが置き換える化学物質よりもっと大きな生態学的問題を引き起こす可能性がある。ナノ調合農薬はもっと難分解で残留性があり、土壌と水路に新たな汚染をもたらす結果が生じるかもしれない。英国王立協会/王立工学アカデミーは、ナノ粒子の環境的放出を”可能な限り回避すべきこと”及び、その意図的な放出は”適切な研究が実施され、潜在的な便益が潜在的なリスクに勝ることを実証することができるまで禁止されるべきこと”を求めている(U.K. RS/RAE 2004, Section 5.7: paragraph 63)。この勧告は全てのナノ農薬について適用されるべきである。 ナノ・バイオテクノロジーと合成生物学は不確かな生態学的リスクをもっともたらす ナノ粒子を用いた遺伝子組み換え作物により及ぼされる生態学的リスクは、既存の遺伝子組み換え作物に関連するものと非常に類似している。ナノ粒子の使用の重要性は遺伝子組み換え技術者が以前に直面した技術的障害のいくつかに打ち勝ち(Zhang et al. 2006)、それによって、新たに作り出した遺伝子組み換え作物を商業的に市場に出すことを可能にしたことの中にある。もしこのことが起これば、既存の血統や種がとって代えられるので食料農産物の遺伝子的多様性が新たな波によって浸食されるという結果をもたらすであろう。それはまた、現代の遺伝子組み換え作物でわかった同じ生態学的リスクの新たな源であることを示す。これらには次のようなものがある。野生近縁種及び他の作物の遺伝子汚染が雑草性増加、又は除草剤/害虫/ウイルス抵抗の増進、食料の減少又は非目標種への毒性を通じての動物個体数への悪影響をもたらす。害虫又はウイルス耐性作物の使用がウイルス抑制をもっと難しくする。生態系レベルのかく乱が、これらの一部又はすべてによって引き起こされる(Ervin and Welsh 2003)。 合成生物学的生物が人工的に作られるなら、潜在的な環境及びバイオセーフティへのリスクは予測することが不可能になる。合成生物学的生物は、他の種をかく乱し、取って換え、感染させ、生態系の機能が危うくされる程に環境を変えてしまい、そして/又は、取り除くことは不可能であるような系を作り上げてしまう(ETC Group 2007; Tucker and Zilinskas 2006)。単純な人工遺伝子回路を研究している多くの合成生物学者らは、彼らの研究の主要な課題として、回路の急激な変異を防ぐことであると報告している。環境に放出された合成生物学的生物が予測できない方法で変異する可能性があるということは、大変な懸念である。 遺伝子組み換えのない作物や遺伝子組み換えのない食品加工に対する広範で世界的な遺伝子汚染は、自己複製する(生きた)生物と数百万人の人々を巻き込むひとつの産業での汚染の問題点を浮き彫りにしている(Friends of the Earth International2007)。自己複製する合成生物の生成に成功した人はまだいないが、もし、ますます多くの研究者らがこの分野で活動し、数百万ドルの金が研究に投資されるなら、それが現実となる前に、合成生物学の厳格な規則を確立する理由となることを認めざるをえない。 農業と食品製造に用いられるナノテクノロジーは広範な環境影響を持つ 化学物質に集中した農業から離れるためにもっと大きな努力が払われるべきこの時に、ナノテクノロジーは化学物質と化石燃料に集中した工業的農業に我々の信頼を確立しようとしている。農業におけるナノテクノロジーの利用は、広範な他の環境的利益をもたらすことを立証してきた有機農業のような農業的代替と競合しそれを蝕むであろう。長い期間の研究が、有機農業は水と化石燃料エネルギーの使用削減、高い土壌有機物と窒素、土壌浸食の低減、高い農業的及び生態的多様性をもたらすことを示してる(Hisano and Altoe 2002; Pimental et al. 2005) 。ナノテクノロジーはまた、大規模農場経営を目指す既存の傾向と、特定の作物に狭く絞った生産を強化しているように見える(ETC Group 2004; Scrinis and Lyons 2007)。このことは農業的及び生態学的多様性の更なる喪失へと導くことになる。 我々のプラスチック食品容器包装への依存を低減するために、ナノ強化バイオプラスチックの可能性が主要な環境的便益として宣伝されている。世界中で全プラスチック生産の約40%が容器包装のために使われており、概略この半分が食品容器包装のために使用されている(Technical University of Denmark 2007)。もし、安全で効果的なナノバイオプラスチックが開発されるなら、そのことはプラスチックの全体使用量を増やさず、環境的節減をもたらすであろう。しかし、バイオプラスチックが分解する時に、ナノの詰め物が新たな環境的リスクをもたらす可能性はほとんど理解されていない。残念ながら、ナノセンサーと化学物質放出ナノ容器包装もまた、果物や野菜を含んで食品産業による個々の食品のための容器包装の使用が増大することによって、我々の容器包装の全体的な使用が拡大するように見える。 今日まで、ナノ食品の製造、容器包装、及び輸送に必要とされるエネルギーについて従来の製造に比べたライフサイクル分析は行われていない。しかし、食品加工と容器包装におけるナノテクノロジーの拡大は、より高い全体エコロジカル・フットプリント(生態学的足跡)をもたらすように見える。パッケージ食品の貯蔵寿命を延ばすことを主要な目標とするナノ食品容器包装は、製造者が今までなく食品を長距離輸送することを推進し、食品輸送に関連する温室効果ガスの排出に寄与することになるように見える。もし、ナノテクノロジーが、人々が果物や野菜の費用でナノ強化加工食品を食べるという結果になるなら、これもまた、食品製造に関連したエネルギー要求を拡大することになる。 8. 持続可能な食品と農業を選択すべき時 全ての地球の市民の必要に合う十分に安全で健康な食品を製造し、生態学的に持続可能で社会的に正しいやり方でそれを行うことは、数十年先に向かってますます大きくなる課題である。ナノテクノロジーの支持者らは、ナノテクノロジーは、はるかに生産性が高く、従来の農業に関連する環境的悪化及び広範な飢餓の両方に対する解決となる環境に優しい農業システムをもたらすであろうと予言する。しかし”地球の友(Friends of the Earth)”は、ナノテクノロジーがある領域では効率をもたらす一方で、地球上の食料分配における既存の不公平の根源を正すために何もせず、ナノテクノロジーが解決するよりもっと大きな健康及び環境問題をもたらすかもしれないということを懸念する。 ナノテクノロジーは環境的に持続可能な食料システムをもたらすようには見えない 農業におけるナノテクノロジーは、環境的により持続可能な食料生産を支持する公衆の支援が増えているのに比べて、対照的である。気候変動を引き起こすことを背景にして、我々の食料の必要性のもっと多くの部分を地域ベースで満たすこと、食料生産及び輸送に関連する温室効果ガスの排出を削減すること、化石燃料使用の少ない農業にすること−という認識は増大している。それに対してナノテクノロジーは、農業と食料システムの各分野をグローバル化し、農薬、種子、農業投入、未加工農産物、及び加工食品を、製造チェーンの各段階で遠くまで輸送するための新たな圧力となっているように見える。 環境条件の変化に対応して自己放出を制御するよう設計されたナノ農薬とナノセンサー・ベースの農場管理システムは、より均一の農産物の大規模生産を可能にすることを目指している。このようなやり方で、ナノテクノロジーは、前世紀中に農業と生態学的な多様性の急速な喪失をもたらした単一栽培農業の工業的規模モデルを構築し、拡大する。 農業におけるナノテクノロジーは、化学物質使用を低減する有機農業への公衆の支持が増大しているこの時に、化学物質中心のシステムへの我々の依存を強化しようとしているように見える(Feder 2006)。ナノ農薬は雑草と害虫を殺す能力をもっと高めるよう設計されているので、それらは従来の農薬よりも非目標の野生生物に対してもっと毒性が高いことを証明するかも知れない。もし、これらのナノ農薬に生体蓄積性があるなら、それらは事実上、新たな有害汚染を土壌と水路にもたらすことになる。 世界の食料システムには問題がある 世界の食料生産は、66億の人口が必要とする食料需要を満たすに十分な量以上であるが、この食料の分配は極端に不公平である(FAO 2006)。3億人以上の人々が現在、臨床的に肥満であるが(WHO 2007)、一方、8億5,000万人以上の人々が極端な飢餓を経験している(FAO 2007a)。世界で25億人以上の人々が生計を立てるために農業に依存している(Oxfam Australia undated)。しかし、4兆ドル(約400兆円)に相当する世界の食料システムは少数の多国籍企業によって支配されている(U.S. DoA ERS 2005)。食料分配と販売は少数の巨大企業の手に集中しており、彼らは食料供給に大きな影響力を行使し、どの作物を、どこで、いくらで農民が栽培すべきかを決定する上で重要な役割を果たしている(Reardon et al. 2003; WHO Europe 2007)。 農産物を栽培する人とそれらから利益を得る人との間の不均衡が、増加する食料へのアクセスにおける不公平の重要な要素のひとつである。それはまた、極端な飢餓を経験する人々の多くが繁栄する農業に従事している人々であるという矛盾に陥ることになる。 ナノテクノロジーは既存の不公平をさらに悪化させる 世界の農業と食品産業の技術的転換の次の波を支えるために、ナノテクノロジーは主要な農薬会社、食品加工会社、及び食品販売会社の市場のシェアをさらに拡大しようとしているように見える(Scrinis and Lyons 2007)。 ナノ追跡探知技術は、世界の食品加工者、販売者、及び供給者に、小規模事業者に対する強力な競争力を与えつつ、もっと広い地理的地域でもっと効率よく事業運営することを可能にするであろう。ナノ食品包装容器は食品損傷の発生を低減し地球規模の供給者と販売者のコストを著しく下げる一方で、輸送距離をさらに延ばし、貯蔵寿命を長くするであろう。強力なナノ農薬は主要な農薬会社によって供給されており、既に市場を大きく占有しているが、さらにその占有を広げようとしているように見える(ETC Group2005)。さらに環境的トリガーに反応して活性成分を放出するよう設計されたナノカプセル農薬、肥料、及び植物成長処理は、もっと少人数でもっと広大な作物畑の農業経営を可能にするであろう。 遠隔農場監視と自動化農場管理システムを可能とするナノテクノロジーは、大規模高度技術農業生産の現在の傾向をさらに劇的に加速し、農場にはほとんど労働者を必要としない状況をもたらすであろう(ETC Group 2004; Scrinis and Lyons 2007)。ある観察者らは、自動化ナノ管理システムに関連する潜在的に高い効率を社会的な便益として見なしている(Opara 2004)。しかし、自動化は農民と農場労働者の必要性を劇的に下げるので、このことはまた、農村のコミュニティをさらに衰退させるであろう(Foladori and Invernizzi 2007; Scrinis and Lyons 2007)。 労働者の必要性は下がるが、投資コストが上昇するナノ農業はまた、小規模農家が経済的に生き残ることを難しくする。技術的投入を含む農業投入コストが最近数十年間で高騰しているのに、農産物価格は下落し、農民の収入は沈滞するか減少しており、世界中の小規模農民は生計を立てるのに苦闘している(Hisano and Altoe 2002; La Via Campesina and Federasi Serikat Petani Indonesia 2006; Philpott 2006)。 少数の大規模農業経営者により支配されるグローバル化した農業と食品産業という現在の傾向をさらに深めることにより、ナノテクノロジーは、食料主権として知られている権利である地域の人々が地域の食料生産を管理する能力をさらに損なうものである(Nyeleni - Forum for Food Sovereignty 2007)。 ナノテクノロジーは我々の食料と農業に関する文化的知識を侵食する ナノ食品は、消費者に便益を提供するとしてますます市場に出ているが、それらが持ち込む健康と環境のリスクに加えて、我々の数千年にわたり開発されてきた食と農業に関する理解を侵食することによってネガティブな社会的影響をもたらす可能性がある。 ナノ食品加工とナノ栄養添加物は、食品の栄養的価値についての我々の文化的理解を侵食するように見える。例えば、 我々の多くは風邪にかかったと感じたら、天然のビタミンCが高い柑橘類の果物又はイチゴ類を食べる。しかし、ナノ加工又はナノ栄養添加物は、ナノ強化菓子が新鮮な果物と同じ健康特性を持つものとして市場に出ることを可能にする。加工食品の栄養的特性を変更するために、ナノテクノロジーの利用が増大しており、我々は、彼らの宣伝文句以外の、食品の健康的価値を理解する能力をそのうちになくしてしまうことになる。 同様に、食品がまだ”新鮮”かどうか、又は食べられるかどうかを示すナノセンサーを導入したナノ容器包装は、どのようにして安全で新鮮な食品を見分けるかに関する世代を通じて伝えられた知識を取り除いてしまうことになる。従来、我々は、野菜はその色とつやで、魚は目を見て新鮮さを見分けてきた。しかし、ナノセンサー容器包装の拡大は、我々はこれらのパッケージ製品をナノセンサーによって表示される色に基づいて買うということを意味する。 もし、農場ナノ監視及び自動管理システムが予言通り開発されるなら、我々の農業経営能力は少数の会社によって売られる技術パッケージに依存するようになる。ナノ農業経営システムは、数千年にわたって培われてきた食品製造に関連する知識と技能を商品化し、それらは我々が完全に依存するようになる独占的ナノ技術に埋め込まれることになる(Scrinis and Lyons 2007)。 ナノテクノロジーは新たなプライバシーの懸念をもたらす ナノセンサーと追跡探知容器包装はまた、新たなプライバシーの懸念をもたらす。それらは、食品とその条件をサプライチェーン中のそれぞれのリンクを通じて監視する能力を強化するよう設計されている(LeGood and Clarke 2006)。この能力は多くの商業上、安全確保上、及び公衆衛生上の理由で有用である。しかし、販売時点以降の食品の潜在的追跡はまた、特にどのような種類の情報が収集されるのか、そしてその情報がどのように管理されるのかに関連して、プライバシーと倫理的懸念を提起する。顧客について収集された情報(例えば、購買習慣又は居住場所)は、目標とする市場戦略又は製品の販売促進を通じて商業的優位さを得ようと望む会社によって、又は他に転売するために利用される。また、ナノセンサーがもっと個人に関する微妙な情報、例えば、遺伝子構成、健康又は疾病の情報を収集するために用いられる可能性がある。 合成生物学は社会的及び倫理的課題を提起する 今日まで、合成生物学的研究についての研究は、人工的生命を作り出すことの広範な社会的及び倫理的影響を検討するために又はこれらの評価に公衆を関与させるために、意味ある努力をすることなく、行われてきた。遺伝子組み換え作物に関連する生物の技術的操作についての公衆の懸念があるなら、公衆はまた合成生物学を用いて操作又は作り出される生物についても懸念するであろう。したがって、人工的生命の生成に関する倫理的課題に対し、早い時期に目が向けられるということは、ガバナンスの問題と研究への資金投入についての意思決定に公衆を関与させることとともに重要である。このことは生物に対する知的所有権の拡大、及び食品製造の企業支配をさらに集中するための合成生物学の可能性に関連する懸念に目を向けなくてはならない。 真の食料と真の農業はナノ農業に対する真の代替を提案する 地球の友オーストラリア、ヨーロッパ、及びアメリカは、一般に広まっている貧しい食習慣と食事に関連する病気を克服するためにナノ食品を利用するという大きなリスクを負うべきではないと我々は提案する。そうではなくて、最小限の加工食品、有機食品(真の食料)を含んで、もっと新鮮な果物や野菜を食べることをベースにした、もっと健康的な食習慣を支えるべきである。同様に我々は、ナノ農薬、ナノ操作された種(たね)、そしてナノ監視システムは、世界の農業が直面する大きな環境的問題に対する解決にはならないということを我々は提案する。むしろ我々は、地域の共同体に積極的に社会的貢献をする、小規模で生態学的に持続可能な農業実践を支援すべきである。
新鮮で最小加工の有機食品は真の栄養の恩恵をもたらす 先進工業国で広まる栄養不足に打ち勝つためにチョコレートバー、アイスクリーム、あるいはソフトドリンクのような食品の栄養的価値を高めるための工業的ナノ物質に目を向けるより、我々は人々が適切な果物や野菜を含む新鮮な食品の変化ある食事を摂るよう、あらゆる努力を払うべきである。 最小加工の有機食品を食べることの恩恵は直感的に肯定できる。また現在、有機最小加工食品の栄養的価値が高いことを示す経験的な証拠もある。ニューキャッスル大学に率いられヨーロッパの33の科学研究所を巻き込んで1,200万ポンド(約18億円)を投入して4年にわたり実施された研究は、従来の生産物に比べて有機生産物は高い栄養価を持っていることを確認した。同研究は、有機生産物は健康と病気に打ち勝つ力を高めると思われる物質をより多く含んでいたことを見出した。有機野菜は抗酸化物質を40%多く含んでおり、有機ミルクは通常のミルクに比べて最大90%まで多い抗酸化物質を含んでいた(Times Online U.K. 2007)。 最小加工の新鮮な食品は最も高い健康価値を持っているという認識が増大している。ある食品が損なわれていないあるいは完全であるということは、それらが含む栄養素および有益成分の利用可能性に影響を与えるかもしれず、また我々のインスリンと血糖反応に影響を与える重要な要素となり得る。例えば、豆腐や飲料のように比較的損なわれていない大豆製品の代謝とホルモン影響は、大豆タンパクから作られたものに比べると相異がある。 小規模有機農業の恩恵 最近数十年間で、工業的規模の化学物質集中農業に関連する高い環境コストが明らかにされたが、それらには生物多様性の喪失、土壌と水路の有毒汚染、塩害、土壌の侵食、土壌肥沃の衰退が含まれる。国連食糧農業機関(FAO)(2007b) は、現在、”化学的農薬や肥料の使用の急速な増加にもかかわらず、穀物の収穫減少のゆるぎない証拠があり、これらの高い技術の投入が今後の数十年間、家庭及び国家の公正な食料安全保障を提供するということに対する自信の低下をもたらしている”と観察している。地球の友は、ナノ対応農業は従来の農業の問題ある側面を動かしがたいものにしているように見えると示唆する。対照的に、食料と農業の新たな健康的なパラダイムの一部として、小規模で地域が管理する有機的生産がきわめて重要な役割を果たす。 有機で公正な取引の食品の販売の急速な拡大は、環境的に健全で社会的に公正な農業に対する公衆の関心の高まりが出現していることの証拠である。有機食品と飲料の世界の売り上げは2006年には400億ドル(約4兆円)に達し、最も成長が見られる食料分野である (Organic Monitor 2006)。商業的な有機生産は現在120か国で実施されている(FAO 2007b)。 有機農業は、化学物質中心の工業的農業に比べて同等又はそれ以上の生産高を世界的規模で支えており、著しい環境的及び社会経済的利益をもたらしている。 ある最近の研究が世界中の293の事例で有機農業と従来の農業の間の生産高を比較し、有機生産高は、地球の北(Global North)では従来の農業と同等であり、地球の南(Global South)では従来の農業よりも高いことを示した(Badgley et al. 2007)。アメリカにおける22年間の実施は、有機農業は同等の生産高であるが、化石燃料エネルギーと水の投入は従来の農業より30%少なくてすみ、また、より高い土壌有機物質と窒素レベル、より高い生物多様性、より大きな旱魃復元力、及び土壌浸食の低減という結果をもたらすことを示した(Pimental et al. 2005)。ブラジルにおける地域的な農業−環境イニシアティブが生産高を50%向上させ、農民の収入を改善し、地域の農業的多様性を取り戻し、地域の経済を復活させた(Hisano and Alto 2002)。ドイツでは従来の農業における農業従事者の数は減少しているが、有機農業は15万の職を新たに創出した(Bizzari 2007)。食料と栄養政策 2007-2012のための第二次WHO欧州行動計画案の中で、世界保健機関(WHO)欧州地域委員会は、果物と野菜をたくさん摂り、工業的に加工された食品が少ない食事は、重要な健康利益をもたらすということを認めた(WHO Europe 2007)。 9. 食品の安全を確保するためにナノに特化した法規が求められる 世界中のますます多くの市民社会組織がナノテクンロジーの予防的管理を求めている(第11章参照)。そのような要求文書のひとつに、『ナノ技術とナノ物質の監視のための原則』がある(ICTA 2007)。2007年7月の発表時点でこの文書は、地球の友オーストラリア、ヨーロッパ、アメリカを含む世界の市民組織40団体によって賛同署名された[訳注9-1]。ナノ食品科学者らもまた、全てのナノ食品、ナノ食品容器包装、及びナノ食品接触材は、商業用食品中で使用される前にナノテクノロジーに特化した安全テストを受けることを確実にするために新たな法規を要求している(IFST 2006; Lagaron et al. 2007; Sorrentino et al. 2007)。 2006年の報告書で、欧州連合の新規特定健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR)は、ナノ毒性に関連するリスクを管理するために既存の体系に多くの体系的な不具合を認めた(E.U. SCENIHR 2006)。しかし、最近、イギリス、アメリカ、オーストラリア、及び日本における規制措置を見直したが、これらの諸国ではどこも上市前にナノテクノロジーに特化したナノ食品の安全評価を実施することを製造者に求めていない(Bowman and Hodge 2006; Bowman and Hodge 2007)。 アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、及び日本と他の諸国における法規は全ての粒子を同じものとして扱っている。すなわち、彼らは熟知している[バルクの]物質のナノ粒子は新たな特性と新たなリスクを持つかも知れないということを認めない(Bowman and Hodge 2007)。我々は、現在、商業的に使用されている多くのナノ粒子が、同一の物質であるがもっと大きな粒子形状のものより大きな毒性リスクを及ぼすことを知っているが、もし食品成分がバルク形状で承認されていれば、同一物質のナノ形状のものを販売しても合法である。新たな安全テスト、消費者に知らせるための食品表示、労働者を保護するための、あるいは環境的安全を確実にするための新たな職業暴露基準又は軽減措置に対する要求はない。さらに信じられないことには、製造者が製品の製造においてナノ物質を使用しているということを関連当局に届けることを求める要求すらない。合成生物学研究に従事する人々が遺伝子組み換え(GE)規制によって適切に規制されていることをある筋は認めているが、この場合にはあてはまらない。 ナノ食品と農業におけるナノテクノロジーの使用に関連する多くの新たなリスクを管理することのできる法規が緊急に必要である。ナノ毒性リスクの管理と並んで、政府はまた、ナノテクノロジーの広範な社会的、経済的、市民的な自由、及び倫理的な課題に対応しなくてはならない。食品及び農業の重要な領域におけるこれらの新たな技術の民主的な管理を確実にするために、ナノテクノロジーの意思決定における公衆の関与は本質的に重要である。 上級科学者らはナノ毒性の予防的管理を求めている 2004年、世界で最も古い科学的機関である英国王立協会は王立工学アカデミーとともに、ナノ毒性リスクの予防的管理のために非常に明快な勧告を行った(U.K. RS/RAE 2004) [訳注:9-2]。
欧州の法規 欧州連合(EU)は食品と食品容器包装を欧州連合レベルで規制し、一旦制定されると、指令や規則は国家ベースで実施される(適用法規の概観については付属書Bを参照のこと)。EUの新たな化学物質規制 REACH (化学物質の登録、評価、認可)では、容器包装の製造に関わる化学物質でこの規則の対象となるものもあるが、基本的には食品とほとんどの食品容器包装は明示的に REACH から除外されている (ElAmin 2006b)。農薬は、植物防疫製品又は殺生物製品として[それぞれ別の指令によって]規制され、使用の前に評価され認可される必要がある[訳注:REACH による規制ではない]。多くの農薬は地表水及び地下水汚染の源なので、それらはまた水の法規の対象である。農業、食品、食品容器包装に適用可能なEUの法規の中で、現在ナノスケール製品又は物質を考慮したもの又は記述したものはない。 2007年7月、欧州議会の環境公衆健康食品安全委員会は、既存の食品安全基準はナノ食品に関連する新たなリスクを管理するためには不適切であることを認めた。同委員会は、ナノ物質の毒性は異なるので、それらは新たな化学物質として評価されるべきであると勧告した。”ナノ粒子形状の添加物のための許容値は、従来のバルク形状のものと同じであるべきではない”(Halliday 2007b)。このことは、新たなナノテクノロジーに特化した安全基準とテスト要求の制定を求めるものである。多分この目的で、欧州食品安全機関(EFSA)はEUにより、食品でのナノテクノロジーの使用から生じる潜在的なリスクに関する最初の科学的意見を提供するよう要請されている(EAS 2007)。この報告書の締め切りは2008年3月31日である。 現在のEU食品法規は、全ての食品は安全であるべきことを求める EUの食品法規則(EU Food Law Regulation 178/2002)の一般安全条項は、全ての食品に対し消費しても安全であるべきことを求めている。包括的安全条項として、このことはナノ物質を含む全ての食品と食品容器包装に適用されるべきである。しかし、上述の通り、欧州の法規はどれも粒子サイズの重要性を認めていないので、もしある物質が既にバルク形状で承認されていれば、それがナノ粒子形状で食品成分、添加物、又は容器包装中で使用される前に新たな安全評価を求める法的きっかけとはならない。このことは、実際に多くのナノ物質が、新たな法的評価を求められることなく、食品や食品容器包装中で添加物として使用できることを意味する。 EU新規食品規則はナノ食品を対象とする必要がある EU新規食品規則 258/ は、欧州食品安全機関(EFSA)により実施される製品安全評価を含んで、全ての新たな成分と製品(1997年5月以降に導入されたもの)は上市前承認を必須として求めている。この規則は、構成物、栄養価、代謝、意図する用途、微生物及び化学的汚染のレベルに関する評価を求めている。毒物学、アレルギー、製造プロセスの詳細に関する調査もまた考慮されるかもしれない。しかし、既に述べたようにこの規則は粒子サイズに関連して区別をしていないので、ナノ粒子は、もしバルク形状で既に承認されているなら、新たな安全評価を求められない。 EU新規食品規則 258/97 は、現在改正中であり、ナノ食品を適切にカバーするために法規をかえる機会を与えるかもしれない。この法規の見直しで、英国食品基準局(FSA)は、この規則はほとんどの製品に対して適切であるように見えると述べた。しかし 英国食品基準局(FSA) が認めているように、使用実績のある物質のナノ形状のものは義務を免除され、追加的な安全要求を逃れることになるであろう。 EU 食品添加物指令はナノサイズ添加物を含むよう拡張する必要がある EU 食品添加物指令は、全ての許可された食品添加物、最大使用量、及びそれらが使用され得る食品をリストしている(EU directive 89/107)。このリスト上の全ての添加物は、欧州食品安全機関(EFSA)を通じて欧州委員会に助言する科学委員会によって安全性を評価されている。現在、最小粒子サイズは、マイクロクリスタリン・セルロース[微結晶セルロース](E460)の場合、及びカラゲーニン(E407、紅藻から化学的に抽出され、商業的アイスクリームに乳化剤として加えられる)の場合には最小重量分布の中で規定されているだけである。上記のリスト上の許可された他のどのような添加物に関してもサイズは明記されておらず、ナノ物質は新たな物質として認められていない。2006年の見直しで英国食品基準局(FSA)はこの法規ギャップを修正するための即座の計画はないと報告した(U.K. FSA 2006)。 EU食品容器包装規則は見直し中であるが、ナノ成分を対象とするのか? EU食品容器包装規則(EC 1935/2004) は、包装、ボトル(プラスチック及びガラス)、刃物類、家庭用器具、そしてラベル印刷用のインクまで、食品に接触する全ての物質を対象とする。新規食品に関する規則と同様に、認可された食品接触材のポジティブリストと、それらの潜在的な毒性又は安全性の評価を確立することを求めている。しかし、その弱点は、これもまた、ナノ物質を新たな物質として特定しないことが、食品接触材中での用途としてバルク形状で既に認可されている物質のナノ物質は、新たな安全評価の対象にはならないということを意味することである。 この規則はまた、認可された食品接触材は追跡可能(トレーサブル)でなくてはならないことを求めている。食品科学と技術のためヨーロッパで一流の独立系専門認定機関である食品化学技術研究所(IFST)は、"追跡可能性は、ナノ粒子の存在に対する明確な言及を含むべきであり、最終的には、関連する安全性書類をもってこれらの物質の評価が可能となるようにすべきであると主張している(IFST 2006)。 興味深いことには、活性容器包装の特別のケースがこの枠組みの中である程度詳細にカバーされており、活性容器包装の成分は食品添加物指令である EU 89/107 に準拠すべきことを求めている。EU食品容器包装規則は現在、化学物質とその他の成分の食品容器包装及びその他の食品接触材から食品への移動に関して暴露の基準と規制を規定している。しかし、これもまた、ナノテクノロジーに特化した暴露基準、又はナノ容器包装の新たな安全テストのための要求、例えばナノ物質が容器包装から食品中に高い値で移動を示すかどうかを調べるということはない。 工業的ナノ物質に基づく可食性コーティングの例では、ナノ物質の摂取は避けることができず、それは健康リスクを呈するかもしれない(see health section)。可食性コーティング中で使用されるナノ物質は、たとえバルク物質が既に安全であるとして承認されていても、ナノに特化した厳格な安全テストが求められ新規食品として評価されるべきである。 EUの表示法は、ナノ物質とナノ成分をカバーすることが必要である EU食品表示法は、製品ラベル上に表示されるべきある成分の名前、またある特別の場合にはそれらがなされた物理的条件又は処理を表示することを求めている。消費者が選択できることを確実にするために、ラベルはナノ物質が食品又は食品容器包装で用いられているかどうかを表示すべきである。食品化学技術研究所(IFST)は、食品添加物の場合には E-number システムの添え字を 'n' に修正することで、このことは可能であると提案している(IFST 2006)。しかし、現在、食品接触材の成分を開示することを求める法的要求はない。地球の友は、ナノ粒子が食品容器包装又は食品接触材に加えられているかどうかを消費者が知ることができることを確実にするために、法規の改正を勧告する。 EUの農薬と殺生物剤規則はナノ調合をカバーする必要がある EU農薬及びEU殺生物剤指令 (Directive 91/414, Council Directive 79/117, Regulation 396/2005 and Directive 98/8/ EC and Directive 76/769/EEC) によってカバーされる製品は、使用前に評価され認可される必要がある。多くの農薬は地表水と地下水の汚染源なので、それらはまたEU水枠組み指令の対象である。しかし、現在、ナノスケール製品を考慮する、又は、ナノ物質が新規物質であると認める法規は存在しない。地球の友は全ての新たな農薬と殺生物剤、及び既存製品のどのようなナノ調合にも、それらの商業的利用のための認可がなされる前に追加的安全評価を求めるよう勧告する。 アメリカの法規環境:データがなければ問題なし? アメリカでは、ナノ食品とほとんどの食品容器包装は米食品医薬品局(FDA)によって規制されているが、一方農薬は米環境保護庁(EPA)によって規制されている。EPA と FDA のどちらもナノ物質を新たな化学物質として認めておらず、これらに対してどのような新たな監視をも求めていない。 EU、オーストラリア、その他のどことも同じ様に、アメリカの法規は、同一化学的組成のより大きな粒子に比べて、ナノ粒子が新たなそしてしばしばより大きな毒性リスクを示すということを認めていない。より大きな粒子形状で以前に承認された物質のナノ粒子は、新たな安全テストの要求のきっかけとはならず、関連当局に届けなくても、合法的に商業的利用を行うことができる。 予防原則、透明性、及び消費者がナノでないものを選択する権利を奪い、FDAはまた、ナノ食品及びその他の製品の表示を拒否した (Randall Lutter, USFDA deputy commissioner for policy, cited in: Bridges 2007) アメリカの食品と農薬の規制は、化学物質又は製品が有害であるとする証拠がないということは、安全性についてほとんど調査がなされていなくても、その製品は安全であると見なすという原則に立っている。これは、”データがなければ問題なし(no safety data, no problem)”アプローチと呼ばれている。このアプローチは、規制当局が例えば製造者に新たな安全性テストの実施を求めることでその管理を製造者に課すより、むしろ、製品が有害であることを立証する負担を共同体に持たせるものである。この立証責任の逆転は予防原則を損なうだけでなく、会社が包括的な製品安全テストを保証することを妨げるよう働くことになる。 さらにそして非常に重大な弱点は、アメリカの規制当局は、食品、容器包装、農薬などの実際の内容物よりむしろ製品製造者の市場での主張[宣伝]にしばしば重みを置くということである。製品の内容を規制するという規制当局の権限があるにもかかわらず、もし製造者が製品にナノが含まれていることについて市場で主張しないことにすれば、その製品はナノを含まないものとして扱われることが現実の可能性としてある。 アメリカの食品と食品容器包装の法規は多くのナノ製品を規制していない 補助食品中の食品添加物及び新たな食品成分は、FDAからの”上市前認可”を必要とする。この認可を与えるために、FDAは会社に対し自身の安全テストデータを求め、それに基づきFDAはその用途の条件を明確にする。しかし、食品添加物の製造者は、もしその化学物質が既に商業的用途として承認されていれば、合法的に市場に出すことができる。 (US Food and Drug Administration 2007)。もしそれらが、より大きな粒子形状での使用が承認されているのであれば、多くのものが新たな毒性リスクをもたらすかも知れないのに、ナノ粒子は追加的な認可又は新たな安全テストを法的には求められない。さらに、”一般的に安全であるとみなされる (generally recognized as safe / GRAS)”ものとして分類された食品成分は、FDAから上市前認可を受けることを求められない。このGRASシステムはまた、物質が大きな粒子なのかナノ粒子形状なのかの区別をしていない。 もし、製造者が食品容器包装から食品へのナノ物質の移動がないと決定すれば、彼らの食品容器包装は食品添加物として規制されない。法的には微量の移動も”移動なし”なので、これは重大な法規ギャップである(Monsanto v. Kennedy 1979)。たとえ食品中のナノ物質汚染が微量であっても、重大な毒性リスクを及ぼすことがある。 EPAはその権限をナノ農薬を規制するために使いたくないように見える EPAは、ナノ農薬製造者に毒性データを提供させる法的権限を持っている。すなわち立証責任を製造者に置くということである(Davies 2007)。しかし、EPAはいまだにナノ農薬が新たな安全テストを正当化するかどうか決定しかねている。今日まで、ナノ調合を既存農薬に導入している製造者が、彼らの製品に関するナノテクノロジーに特化した安全テスト結果を提出することは求められていない。 2007年の初めにEPAは、食品容器包装とその他の食品接触材等で、ナノ銀を含んでおり、製造者が抗菌作用があると主張する全てのナノ物質を殺生物剤(すなわち、微生物を殺すために用いられる化学物質)として規制する意図を発表した(Acello 2007) [訳注9-3]。しかし、2007年9月にEPAは、洗濯機から排出される銀イオンだけを規制するものであり、その数が増大している銀ナノ粒子を含むその他の多くの消費者製品によって及ぼされるリスクを管理するための措置は取っていないと述べて、多くの観察者を失望させた(EPA 2007)。 オーストラリアの法規もまた多くのナノ製品を効果的に規制なしのままにしている オーストラリアではナノ食品添加物及び成分は、食品基準コードの下に、食品基準オーストラリア及びニュージランド(FSANZ)によって規制されているが、農薬と動物用医薬品はオーストラリア農薬・動物用医薬品局 (APVMA) の管轄である。EUやアメリカのシステムと同様に、オーストラリアの法規は、主に”新規”化学物質に焦点をあててきた。今日まで、オーストラリアの法規は、ナノ粒子は同一の化学的成分のより大きな粒子より、新たなそしてしばしばより大きな毒性リスクを示すことを認めていない(Bowman and Hodge 2006)。 ナノ製品に関しオーストラリアの規制の中に混乱していることを示すいくつかの証拠がある。シンジェンタはナノ調合の植物成長調整剤 Primo MAXX をオーストラリアで数年間、販売している。しかし、2007年10月になって、オーストラリア農薬・動物用医薬品局 (APVMA) は、ナノ農薬の申請を受けていないと述べ、”そのような申請は a fair way off ”と主張した(Salleh 2007)。農薬の新たな調合は、日常的に当局にり評価されているが、まだナノテクノロジーに特化した安全テストは行われていない。食品分野におけるナノテクノロジーの規制面に関する食品基準オーストラリア及びニュージランド(FSANZ)による公式声明は、米FDAと同様にFSANZはナノ食品に関連するリスクが規制的監視を正当化するということをまだ納得していない。”現在、どのような有害影響の証拠も入手可能ではないので、食品基準オーストラリア及びニュージランド(FSANZ)は、食品産業によるナノテクノロジーの使用に関し様子を見ている。食品におけるナノテクノロジーの実際の適用について、もっとわかってきたら、安全性に関する疑問が提起されるかもしれず、これらについてはそれぞれの事情によって検討されるであろう(Gruber and Belperio undated)。” オーストラリアの規制当局は、農業と食品システムへのナノテクノロジーの急速な拡大に遅れを取らぬよう奮闘しているように見える。しかし、アメリカが取っている”ノーデータ、ノープロブレム(データがなければ、問題はない)”アプローチに対する彼らの明らかな支持は、真に心配なことである。農業と食品産業により既に使用されているナノ物質に関連する重大な毒性リスクの増大する証拠があるので、ナノテクノロジーに特化した食品分野の規制が緊急に求められる。 10. ナノ食品はいらないと言う権利 産業界はナノ食品に関する早くからの公衆の懸念を無視している 公衆のナノテクノロジーについての知識は非常に低いままである。しかし、初期の調査は、ナノテクノロジーについての情報を一旦得ると、人々はナノ食品や工業的ナノ物質を含む容器包装に包まれた食品を望まなくなる。 公衆関与の取り組みと経験的調査は、公衆はナノテクノロジーについての情報を提供されると、遺伝子組み換え食品に関連して特定された多くの同じ問題について懸念する。すなわち、透明性の欠如、暴露についての選択の欠如、健康と環境へのリスク、リスクと便益の不公平な配分、社会的に有用な応用の欠如、意思決定における公衆参加の欠如である(Gavelin et al. 2007; Macoubrie 2006)。 ナノテクノロジーについての公衆の懸念は、ナノテクノロジーが食品に適用されるときに最大となる。ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)によって組織されドイツで開催された2006年消費者会議[訳注10-1]への参加者は、ナノテクノロジーが食品に適用されることに、最も深刻な懸念を表明した(German FIRA 2006)。1年後、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は1,000人の人々を調査し、大部分の人々は個人的にナノ食品を食べることを望まないだけでなく、ナノテクノロジーは食品応用に使用されるべきではないと考えていることを見出した。調査に答えた人々の60%が香辛料の風味維持のためにナノ添加物を使用することに反対し、84%が食品をより長期間見栄えよくするためにナノ粒子を使用するという考えを拒否した(Halliday 2007c)。スイスのドイツ語圏で実施された調査は、人々はナノ食品又はナノ容器包装で包まれた食品を食べることを望まなかった(Siegrist et al. 2007)。同様に、アメリカの1,014人の成人調査ではわずか7%の人だけがナノテクノロジーを使用して作られた食品を買う用意があると答えた。29%の人はナノテクノロジーを使用して作られた食品は買わないであろうと答え、62%の人はナノ食品の購入を検討する前に健康リスクと便益についての情報をもっと欲しいとの望んだ(Peter D. Hart Research Associates 2007)。 初期の調査では食品と農業におけるナノテクノロジーについて深刻な公衆の懸念と、人々が食品の選択を可能とする情報を求める基本的な願望を示しているにもかかわらず、食品産業はナノ食品の商業主義を前面に押し出し、どの食品とどの食品接触材が現在、ナノ物質を含んでいるのか明らかにすることを拒否している。例えば、BASFはナノ合成リコピン[赤色色素]を世界中の主要な食品及び飲料会社に売っているが、同社はリコピンの販売先の会社、又はそれが使用されている製品を明かすことを拒否している(Shelke 2006)。 ナノテクノロジーの使用に関し産業側の透明性がもっと必要 人々がナノ食品を食べることを望むかどうかについての選択を可能とする情報得ることを妨げることに加えて、ナノテクノロジーの使用について明らかにすることに対する食品産業及び農業産業の拒絶は、ナノ物質が既に市場に出ているのかどうかを調べる政府当局の能力を危うくしている。ナノテクノロジー産業のアナリストは600種ほどのナノ食品製品が現在、商業的に入手可能かも知れないと示唆しているが(Daniells 2007)、アメリカ、オーストラリア及びドイツの食品規制担当者の会話は、彼らは、食品、食品包装容器、及び農業製品が現在、工業的ナノ物質を含んでいるのかどうかについて、どのナノ物質がどの製品に使われているのかについてはもちろん、非常に限られた情報しか持っていないことを明らかにした。このことは、我々の食品の安全性を確保することに任務を課された人々が、既存の安全基準がナノ食品に関連した新たな課題に対応できるのかどうか知るための能力を明らかに損なうものである。 人々の情報に基づく食品選択の権利とナノ食品はいらないという権利 全てのナノ食品の表示義務は人々がそれらを食べるかどうかについて選択するために知らされることを可能とするために求められる。しかし、情報に基づく購買選択を可能とするための表示の必要性を超えて、公衆は食品及び農業分野におけるナノテクノロジーの使用についての意思決定に関与する機会を与えられなくてはならない。我々の食品と農業との関連において、また世界の食品製造コミュニティにとって、ナノテクノロジーの著しい影響があるなら、我々はナノ食品はいらないと言う権利を含めて意思決定の全ての局面への公衆の参加を求める。 11. 持続可能な食品と農業 食品ナノテクノロジーのモラトリアム 地球の友は、ナノ物質を含む食品、食品容器包装、食品接触剤、及び農薬の上市は、公衆、労働者及び環境をそれらのリスクから守るためにナノテクノロジーに特化した規制が導入され、また公衆が意思決定に参加するまで、一時的に止めることを提案する。 英国王立協会と王立工学アカデミーの2004年のナノテクノロジーに関する報告書の勧告と調和して、ナノ物質の国際的な環境への放出は、それが安全であることが証明されるまで禁止されるべきである。この禁止はナノ農薬の使用と全ての合成生物学的応用を含むべきである。 ■政府がなすべきこと 1. ナノテクノロジーに関連するリスクを管理するために包括的で予防的な法令を確立すること 我々は、食品、食品容器包装、食品接触材及び農業製品中に含まれる全ての工業的ナノ物質の包括的な評価を求める法制度の確立を求める。 ナノ物質は新たな物質として規制されるべき
さらに我々は、国家政府に対して下記に対する独立した調査を支援することを求める:
政府は:
食品製造者と販売者は安全な食品に対する人々の権利を尊重し、情報に基づく購買選択を可能にしなくてはならない。食品製造者と販売者は、ナノ食品、ナノ食品容器包装、ナノ食品接触材、及びナノ農薬を下記が実現するまで停止しなくてはならない。
1. 政府と産業にナノ食品全般に責任を持たせること
我々全てが、我々の健康によく、環境によく、そして農民のための公平な条件を支える食品を選択することができる多くの簡単なことがある。
[訳注] 訳注1-1:イギリス環境食糧地域省 2006年9月22日 イギリス 人工ナノスケール物質の自主的報告計画 訳注9-1:国際技術評価センター・国際NGO連合 2007年 ナノ技術とナノ物質の監視のための原則 (当研究会はこの基本原則に賛同し、2007年10月3日に賛同グループに加わりました。) 訳注9-2:英国王立協会・王立工学アカデミー報告 2004年7月29日 ナノ科学、ナノ技術:機会と不確実性−要約と勧告 訳注9-3:ES&T 2007年1月3日 殺菌ナノ物質 法的検査が強化される 米初のナノ技術規制 間近か 訳注10-1:ドイツ連邦リスク評価研究所 2006年11月18日 消費者会議:ナノ技術 訳注11-1:世界初 “食糧主権”宣言の国 マリ共和国で国際フォーラム 80か国以上500人が参加 /農民連記事 訳注11-2:英ソイル・アソシエーション 2008年1月17日 ソイル・アソシエーション ナノ粒子を禁止する世界初の組織に [関連記事]
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