ドイツ連邦リスク評価研究所 2006年11月18日
消費者会議:ナノ技術

情報源:Federal Institute for Risk Assessment 18.11.2006
Consumer Conference Nanotechnology
Background information for journalists
http://www.bfr.bund.de/cms5w/sixcms/detail.php/8567

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年12月27日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/bfr/061118_bfr_consumer_conference_nano.html


 ”食品、化粧品、及び織物の分野におけるナノ技術の理解に関する消費者会議”がドイツ連邦リスク評価研究所(bfr)によりパイロット・プロジェクトとして立ち上げられた。それは環境問題独立研究所(UfU)及び生態経済学研究所(IOW)との共同企画である。消費者会議は拡張したリスク・コミュニケーションの可能性あるひとつのツールとしてテストされつつある。政府の研究所又は機関がこのリスク・コミュニケーション ツールを使用するのはドイツでは初めてのことである。

 リスク・コミュニケーションはBfRの法的役割のひとつである。その目的は食品、飼料、消費者製品、製品、及び化学物質の分野におけるBfRの所掌範囲の健康リスクに関する最新の科学的研究と成果に関する情報を提供することにある。BfR のリスクコミュニケーション活動はリスク評価に関与する科学者間の連絡をまず確立し、同時に専門家レベルでの情報交換を行うことである。さらに彼らはどのようにして大きな又は影響を受けるグループが健康リスクを理解するかを決定しようとを試みる。得られた結果はリスク評価戦略に取り込まれる。BfRのリスクコミュニケーション活動はリスク評価者、管理者、及び利害関係者間の参加的対話である。それらには消費者代表、科学者、協会、政治家、産業、その他社会的グループが含まれる。消費者会議の企画は消費者をナノ技術の機会とリスクについての議論に巻き込むことによりその役割が果たされる。

消費者会議:
消費者に懸念を与える議論あるテーマについての議論に消費者を直接巻き込むツール


 消費者会議はコンセンサス会議(訳注1)をモデルとするものである。このツールはデンマークで開発され用いられた。この消費者参加手続きの主題と目標は、情報を与えられた非専門家(市民又は消費者)の見地から新規の技術と科学的開発を評価することにある。このモデルに基づき、地域を越えた又は全国的会議がすでに遺伝子治療、幹細胞」研究( stem cell research)、脳研究に関してドイツで公開された。これらの会議の特徴は専門家と非専門家(素人)の構造的な公開対話である。非専門家が招聘された専門家と議題について深く討議する。構造的な科学駆動の意見形成プロセスが可能となる環境下において、公平で開かれた討議と建設的な議論が推進される。数週間に及ぶ意見形成及び評価プロセスの目標は異なる立場、見解、及び消費者グループの期待を特定し、最終的に合意又は異なる立場、独立した投票結果を文書化することである。

 消費者会議の効果は政治的又は社会的プロセスが統合されているかどうかに依存する。したがってその影響は非常に大きいものになりえる。特に北欧諸国の経験は、消費者会議は専門性(科学者及び弁護士の知識の支配)に対するカウンターウェイトとなり、社会の非専門家の人々の役割を強化することを示している。消費者は、包括的な言語で表現される関連性ある事実と科学的発見について目をむけ話す機会を与えられれば、複雑な科学的及び技術的問題に関する勧告を通じて常に健全で良い考えを見つけ出すことを経験は示している。さらに、消費者会議は全体とし従来は専門家の閉ざされた社会でのみ議論されていたことをより広い公開の場で議論を行うことによって社会にとって重要な課題に広げる可能性を提供する。

ナノ技術−21世紀の基本的な技術

 基本的な技術の特徴は、消費者に関連する広いの分野で使用されていることを意味する。当該ナノ技術は、化粧品、衣料品、家庭用品、そして将来は食品や食品サプリメントのような消費者製品にナノ技術がを用いた物質がますます使用されるようになっているので、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)にとって、特に消費者の健康保護という文脈において重要である。ナノ技術の分野で、このことは特にナノ粒子とナノスケールのコーティングに当てはまる。重要なことは、どのような潜在的な機会とリスクがこれらの技術の消費者製品への適用に関連するのか、そしてもし潜在的な利益があるなら、消費者がどの程度までのリスクなら甘受するのか、を見つけ出すことである。これらの技術に対する消費者の理解についての研究はまだ緒についたばかりである。消費者会議において、消費者によるナノ技術のリスクに対する投票(選択)が初めて検証され、もし可能ならこれはリスク評価に反映される。主に強調されることは:
  • 情報不足に打ち勝ち、消費者の中にナノ技術に関する様々な意見形成プロセスを推進すること
  • 食品、化粧品及び織物製品の分野におけるナノ技術の適用に関する消費者による投票の準備をすること
  • 消費者の投票を消費者保護に関する意思決定者へ公開通告すること
 事実に基づく消費者の意見の形成の背後にある目的は、彼らが期待する”持続可能なナノ技術の要件を確立することである。”このことは、将来我々はナノ技術をどのように扱うべきかについての問いを我々に提起する。消費者による投票は、製造者及び政策と公衆消費者保護に関わる意思決定者らにナノ技術をどのように扱うべきかのある指針を与える。さらに、一般公衆がナノ技術の機会とリスクに対する広範な現実的な洞察を得ることは非常に重要なことである。

消費者会議の構造

 ナノ技術に関する消費者会議は3段階に分けられる。2回の週末予備会議(2006年9月9/10日、及び2006年10月14/15日)の間に、消費者グループは議題について説明を受けた。それはナノ技術に関する質問を設定し、最後の週末の間に公開で質問する専門家を選択する。このプロセスは消費者自身によって形成されるところが大きかった。彼らは必要かつ十分であるとみなされる幅と深さで情報を探し出した。
 第3段階はベルリンでの3日間の最終会議である。2006年11月18/19日、カソリック・アカデミーにおける公聴会において、招聘された専門からは消費者グループからの質問に答える。消費者グループはそれからナノ技術に関する消費者投票を準備するために個人的な討議を引き出す。一般公衆は2006年11月20日に連邦政府報道局で投票結果を知らされ、その後、公共機関の代表、政治家、及び産業界に伝えられる。

参加者の選定

 参加消費者は任意選出手法により選ばれた。以前の消費者会議と同様にベルリン/ブランデンブルクの住民の中から、任意に選択された6,000人に個人的な招待状が送られた。ブランデンブルグ州の8つの住民登録事務所はそれぞれ250の宛先を提供した。さらに、くじ引きで選択したブランデンブルクの8つの地区に250の宛先を提供するよう要請した。ベルリンでは8つの地区でそれぞれ250の宛先が選定された。この選定の背景は消費者会議の参加者に多様性を持たせるために地域と都市の住民のバランスを考慮したことである。

 合計41人の人々が消費者会議に参加することに関心を示した。これらの回答の中から16人が2006年6月29日に”消費者会議:ナノ技術”の参加者として選ばれた。この消費者グループは、20歳から72歳までの7人の女性と9人の男性からなっている。

 ”消費者会議:ナノ技術”は科学協議会によって伴われている。協議会は独立しておりプロジェクト組織者に対し、関連する及び方法論的質問への回答についてアドバイスをする。

 ナノ技術について広い知識を持ち、またリスク管理とリスクコミュニケーションの分野でもよく知られた協議会内の下記4人の科学者が参加することに同意した。
  • Prof. Dr. Arnim von Gleich, Technology Design and Development Department, Bremen University,
  • Prof. Dr. Armin Grunwald, Director of the Institute for Technology Impact Assessment and System Analysis (ITAS), Karlsruhe,
  • Prof. Dr. Harald Heinrichs, Junior Professor at the Institute for Environmental Communication, Luneburg University,
  • Dr. Hans Kastenholz, Technology and Society Department, EMPA, St. Gallen (Switzerland).

訳注1:
日本におけるコンセンサス会議の例


 重要なことは主催団体がコンセンサス会議をこれらの技術の推進を意図して行っていないかどうかをよく見極めることです。


化学物質問題市民研究会
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