Ban Toxics! 2009年6月4日
なぜ日本は水銀輸出禁止を確立する必要があるのか
(日本の NGOs に向けた Ban Toxics!のメッセージ)
日本語pdf版

情報源:Ban Toxics!, 4 June 2009E
Why Japan Needs to Establish a Mercury Export Ban
by Richard Gutierrez
Ban Toxics!/Zero Mercury Working Group
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/Ban_Toxics/Japanese_mercury_export_ban_rationale_en.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年6月6日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/Ban_Toxics/Japanese_mercury_export_ban_rationale.html


1.欧州連合と米国が水銀輸出を禁止したので世界の水銀貿易の50%はすでに効果的に禁止されたことになる。論理的に日本はこれに従うべき次の水銀輸出国である。

 2008年は水銀輸出禁止の当たり年であった。最初に欧州連合(EU)の発表があり(訳注1)、次にその年の後半に米国が続いた(訳注2)。両国は水銀禁止法を制定することにより水銀供給に対応するという彼らの意図を明確に表明した。
 これらの二つの大国は世界の年間水銀貿易の推定40〜50%を占めるとみなされている[1]。これにより少なくとも10,000トンの元素水銀が世界の市場からなくなるであろう。

 EUの禁止は元素水銀を含んで2011年に発効する[2]。この禁止はまた、余剰水銀は、世界の市場に出回らないようにするために、同年をもって安全に保管される必要がある。
 米国の禁止もまた元素水銀を対象とし、2013年に発効する[3]。とりわけ米国は、国内で生成される水銀のための最終保管施設を確立することによってEUのたどる道に従っており、特に米国エネルギー省に対して2010年までに保管施設を選定するよう求めている。
 EUと米国に輸出禁止させた理論的論拠は、多くの開発途上国と移行経済国ではEUと米国から輸入される水銀の大部分が持続可能ではない方法で用いられていることを示す証拠があるからである。輸入された水銀は水銀汚染をする産業、特に世界的水銀汚染の主要な発生源のひとつである小規模金採鉱業(ASGM/ artisanal-small scale gold mining)分野に行く。

 日本もその一国である経済協力開発機構(OECD)加盟国は、世界的に水銀貿易における主要な輸出国であると考えられている[4]。

 例えばOECD加盟国は、サハラ以南アフリカへの主要な水銀輸出国であるが、そこでは水銀輸入は2000年の34トンから2002年の57トンに増加している[5]。他の地域でも同じことが言える。2000年には、東南アジア地域のインドネシアはスペインから24トン、オランダから17トン、オーストラリアから3トン、そして日本からも3トン輸入している[6]。

 小規模金採鉱業(ASGM)での用途 に転用される水銀の量に関する見積もりが、輸入統計及び合法的用途のための予測消費量をもとになされている。国連工業開発機関(UNIDO)による世界水銀プロジェクトはこれについて調べ、その調査は、たとえば2005年にケニアはドイツから14トンの水銀を輸入し、グルジア(9.5トン)、日本(4.1トン)が続く。

 なぜ、他のOECD諸国の中で日本だけが選ばれるのか? なぜオーストラリアやメキシコではないのか? なぜそれが日本なのかについて以下に詳しく述べる。

2.日本の水銀に関する悲劇の歴史

 水俣の悲劇は悲しく、そして規制のない水銀汚染が何をもたらすかについて日本政府に否応なしに思い出させる出来事である。開発途上国や移行経済国に輸出される水銀に何が起きているのかについての証拠があるのに、日本はなぜ公然と水銀貿易を行うのか?

 水銀輸出をしている他のOECD諸国は日本のような水銀の被害を受けたことがない。

3.水銀規制に向けて 前向きな日本政府の政策

 水銀問題に関する国際的及び地域的レベルでの会議における日本の代表者との接触で、日本が水銀に関して進歩的な立場をとるのを見ると元気づけられる。たとえば、米国が水銀に関する法的拘束力のある協定を支持する前に、日本は既にこの問題に関して先を行っていた。

 最近では、日本政府はアジアにおける水銀保管に関する地域会合を立ち上げるために資金を提供した。

 明らかに、日本が取ろうとしているように見える政策方針は水銀抑制の方向である。輸出禁止は水銀規制を支えるであろうし、日本が現在取ろうとしている政策方針と一致する。

4.水銀輸出の必要性を主張すれば、強い反対が起きるであろう

 製品中又はプロセス中の水銀を容認するという従来の見解について、世界的な変化が生じている。かつては主要な水銀の用途であり発生源であった塩素−アルカリ産業は現在では水銀の使用を廃止することに自主的に合意している。有害物質の制限に関する法(RoHS)と呼ばれるEU指令は、EUで販売される製品中の水銀使用を強く規制している。RoHSは製品中に含まれる水銀の許容値を低く設定した。水銀を使用しない液晶ディスプレー(LED)の導入は着実に増加している。スウェーデンやその他の先進諸国における水銀含有の歯科用アマルガムはこの数年間で廃止されている。

 これらの国際的な取り組みは、世界的な水銀使用の"落日"とでも呼ばれるべき衰退の方向を指し示している。

 世界的に起きている同じ現象は日本にも同様にあてはまるはずである。もしそうでないなら、我々は日本の産業に対し正しい道に向かうよう圧力をかける必要がある。どちらの場合でも、水銀貿易を復興又は強化させるような産業側の努力は水銀廃絶の推進から外れるものとしてみなされるであろう。

5.日本の水銀輸出禁止は、他の有害物質/廃棄物についての同様な政府の政策の先例を確立することになるであろう

 たとえば東南アジアでは、日本が推進する様々な経済連携協定によってもたらされる有害廃棄物輸出に対する深い懸念がある。

 もし、日本が水銀のような有害物質の輸出を禁止する用意があるなら、市民社会組織が日本のさらなる有害化学物質/廃棄物の輸出禁止を要求するために、これを使用する道が開けるであろう。

 日本の水銀輸出禁止は有害物質貿易というもっと大きな問題への対応の先例となる。

6.米国とEU における前向きな環境は、日本の水銀輸出禁止を支える

 現時点で国際的水銀キャンペーンが進歩的な米政権を歓迎しているということは疑いない。米国大統領バラク・オバマは、後に連邦法となったアメリカの元素水銀の輸出禁止を要求する上院での法案の共同提案者であった。同様にEUの水銀輸出禁止は日本にとって賜物である。

 これらの好都合な要素が存在する一方で、我々は日本政府に同じような政策を採用し実施するよう働きかける必要がある。自由貿易推進の旗頭である米国が水銀貿易政策を180度転換し水銀輸出を禁止できたのだから(訳注3)、日本が同じことをできない理由は全くない。

 米国とEUがすでに道を開き何も問題は起きていないのだから、日本はWTOや貿易関連の課題に抵触するリスクはない。

7.水銀への世界の取り組みに勢いをつける必要がある

 我々は世界の全ての地域で水銀に関する良い結果を得るために勢いをつける必要がある。
 アジアには、例えばインド、中国、インドネシアのような、いくつかの主要な水銀使用国があるので、このような動きがアジアから起きることが非常に必要なことである。

 昨年、ヨーロッパと北アメリカでこの道が開かれた。日本が水銀輸出禁止を制定してアジアでの取り組みをきっぱりと先導することが理想的である。

 日本ではなく、例えばカンボジアが輸出禁止を制定するということとは違いがある。カンボジアの禁止なら簡単に払い除けられてしまうであろう。しかし輸出禁止を日本が行うなら同じことにはならないであろう。
 アジアの市民社会が彼等の政府を先例に従うよう納得させる時に、世界の主役である日本を引き合いに出すことで、アジアの主要な貿易大国である日本を利用することができる。

8.日本の優れた市民組織はこの取り組みに関与すべき

 ある特定の国に関する行動をとるための主要な考慮すべきことのひとつは、この課題を動かし扱うことができる組織された市民社会組織の存在である。我々は日本の市民社会組織がこの課題を前進させる力があると信じている。

以上
連絡先
リチャード・グティエレス (バン・トクシックス、フィリピン)
RICHARD GUTIERREZ, BAN TOXICS! 26 MATALINO ST., SUITE 329 EAGLE COURT, DILIMAN, QUEZON CITY, 1101 PHILIPPINES.
TELEFAX: + 63 2 929 1635; E-MAIL: RGUTIERREZ@BANTOXICS.ORG; WWW.BANTOXICS.ORG

原注:
[1]Peter Maxson, MERCURY FLOWS AND SAFE STORAGE OF SURPLUS MERCURY, August 2006.
[2]EU Regulation (EC) No 1102/2008
[3]The Mercury Export Ban Act of 2008
[4]UNIDO, Global Mercury Project Report, 2006.
[5]Id.
[6]Id.


訳注1:EU水銀輸出禁止関連情報 訳注2:アメリカ水銀輸出禁止関連情報 訳注3:アメリカの方針転換
  • AP/ENN February 16, 2009 US calls for treaty on mercury reduction
    レイフシュナイダー米国務副次官補がナイロビで、法的拘束力のある世界水銀条約に向けて準備ができていると述べたとし、前ブッシュ政権下で自主的取組を主張してきたアメリカが、オバマ政権になって180度の政策転換をしたと米NGOは評価。
訳注:関連記事


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