The Conversation 2021年7月2日
グリホサートベースの除草剤についての
議論が激化する一方で、
農民は世界中でそれらを散布している

マリオン・ワーナー、アニー・シャツック、ライアン・ガルト他
情報源:The Conversation, July 2, 2021
While debate rages over glyphosate-based herbicides,
farmers are spraying them all over the world
By Marion Werner, Annie Shattuck and Ryan Galt
https://theconversation.com/while-debate-rages-over-glyphosate-based-herbicides-
farmers-are-spraying-them-all-over-the-world-161156


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年7月月14日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_21/210702_Conversation_While_debate_
rages_over_glyphosate-based_herbicides_farmers_are_spraying_them_all_over_the_world.html

 北米は植物の夏の成長が最大となる季節に入り、庭師は植栽と除草を行い、グラウンド整備員は公園や運動場を刈っている。多くの人が、ホーム・ディーポターゲットなどの店舗で広く入手できる人気の除草剤ラウンドアップを使用している。

 過去2年間で、米国の 3つの裁判が、ラウンドアップの有効成分であるグリホサートが免疫系のがんである非ホジキンリンパ腫を引き起こしたと主張した原告に数百万ドル(数億円)の判決を下した。ドイツの化学会社であるバイエルは、2018年にラウンドアップの発明会社であるモンサントを買収し、約125,000件の係争中の訴訟を引き継ぎ、そのうち約30,000件を除くすべてを和解した。同社は現在、法的請求の主な原因となっている住宅居住者からのさらなる訴訟のリスクを軽減するために、ラウンドアップの米国小売販売を終了することを検討している。

 世界貿易食料システム、及びそれらの環境への影響を研究する学者として、私たちはより大きな物語を目にする。ジェネリック農薬であるグリホサートは世界中いたるところで見いだされる。農民は世界中のほとんどの農場でそれを使用している。人間は、世界中の農地の全てを毎年1エーカー当たり 0.5ポンドのグリホサートで覆うのに十分な量を散布している。

 グリホサートは現在人間の前に現れているが、科学者たちはまだその健康への影響について議論してる。ただし、明確なことがひとつある。それは非常に安価な除草剤であるために効果的で普及しているということである。

グリホサートはどのようにグローバル化したか

 1974年にグリホサートがラウンドアップのブランド名で商品化されたとき、それは安全であると広く見なされていた。モンサントの科学者たちは、それが人や他の非標的生物に害を及ぼすことはなく、土壌や水に残留しないと主張した。科学的レビューは、それが動物組織に蓄積しないと結論付けた

 グリホサートは後にも先にも他のどの除草剤よりも多くの標的雑草種を枯らせた。農民は次の作付けに備えるために畑にそれを散布し始めた。

 1990年代に、モンサントは、トウモロコシ、大豆、綿花、カノーラ(セイヨウアブラナ)など、グリホサートに耐性を持つように遺伝子組み換えされた作物をグリホサートと抱き合わせで販売し始めた。これらのラウンドアップレディ種子を使用した農民は、単一の除草剤を適用して、成長期の雑草を管理し、時間を節約し、生産の決定を簡素化することができる。ラウンドアップは、世界市場に登場する史上最も売れ行きが良く、最も収益性の高い除草剤になった。

 1990年代後半、グリホサートの最後の特許が失効したため、ジェネリック農薬業界は低価格の同等品を提供し始めた。たとえばアルゼンチンでは、価格は 1980年代の1リットルあたり40ドルから2000年には3ドルに下がった。

 1990年代半ば、中国は農薬の製造を開始した。環境、安全、健康に対する弱い規制と精力的な促進策により、当初は中国のグリホサートは非常に安価になった。

 中国は依然として農薬産業を支配しており、2018年には全世界の除草剤の 46%を輸出したが、現在、マレーシアやインドなど、他の国々もこの事業に参入している。農薬はかつてヨーロッパや北アメリカから発展途上国に流れていたが、今では発展途上国は多くの農薬を裕福な国に輸出している。多くの場所に多くの農薬工場ができたために供給過剰になり、さらに低価格になり、その結果人間の健康と環境に重大な影響を及ぼしている。

健康影響についての論争

 安価なグローバル化された製造のおかげで、グリホサートは世界中の農地、そして人体に遍在するようになった。研究者たちは、ラオスの人里離れた村の子どもたちとニューヨークとシアトルの赤ちゃんの尿からそれを検出した。

 グリホサートが人間にがんを引き起こすかどうかという問題は、熱く議論されている。 2015年、世界保健機関の国際がん研究機関(IARC)は、実際の暴露によるヒトのがんの「限られた」証拠と実験動物におけるがんの「十分な」証拠に基づいて、発がん性がおそらくある(Probably carcinogenic to humans)と分類した。

 研究によると、グリホサートはラットの肝臓と腎臓に損傷を与え、ミツバチの腸内微生物叢(そう)を変化させることがわかっている。それにさらされたマウスは、暴露後の3世代に、病気、肥満、出生異常の増加を示した。グリホサートは、環境中で比較的急速に分解するが、フロリダのマナティー(大型の水生哺乳類)の血液サンプルで検出されるのに十分な量で水系に存在する。

 ただし、米国環境保護庁(USEPA)と欧州食品安全機関(EFSA)は、グリホサートが人間にがんを引き起こす可能性は低く、製造元の指示に従って使用すれば人間の健康を脅かすことはないと主張している。

規制当局にとっての課題

 1990年代から2000年代初頭にかけて、世界のコミュニティは、有害農薬の販売と使用を制限及び監視するために、いくつかの画期的な協定を採択した。これらの協定(ストックホルム条約ロッテルダム条約)は、急性毒性があるか、環境中に存続し、人間を含む動物に蓄積する化合物を対象としている。グリホサートはこれらの基準を満たしていないようにみえるが、土壌や水食品に遍在しているため、人間はグリホサートにさらされる可能性が高いであろう。

 今日、ルクセンブルグメキシコを含む少数の国々は、健康上の懸念を理由に、グリホサートの使用を禁止または制限した。ただし、ほとんどの国では、わずかな制限しかなく合法のままである。

 科学者は、グリホサートの健康と環境への影響についてすぐに合意に達しそうには見えない。しかし、それは他の農薬にも当てはまる。



1946年、ポリオが昆虫によって蔓延したと誤って信じた保健当局は、農薬の健康と環境への影響が理解される数十年前に、テキサス州サンアントニオで DDTによる広範囲の散布を命た。

 たとえば、マラリアやその他の病気を蔓延させる蚊を駆除するために開発途上国で現在も使用されている DDT は、野生生物への影響と人間への潜在的な危害のために1972年に米国で禁止された。しかし、科学者が1960年代に、母親が妊娠中に DDT に暴露したために胎内暴露した女性のデータを分析し、2015年これらの女性が母親が暴露していなかった他の女性よりも 4倍以上乳がんを発症する可能性がある(訳注1)ことを発見するまで、人間にがんを引き起こすとは考えられていなかった。この研究は、DDTの人間の健康への影響に関する最初の議会の証言から 65年後に発表された。

 1946年、ポリオが昆虫によって蔓延したと誤って信じていた保健当局は、農薬の健康と環境への影響が理解される数十年前に、テキサス州サンアントニオで DDT による広範囲の散布を命じた。

 科学は決定的な結果に達するまでに長い時間がかかる場合がある。現在グリホサートがどれほど広く使用されているかを考えると、グリホサートが人の健康に害を及ぼすことが明確に判明した場合、その影響は広範囲に及び、隔絶が難しく、規制が非常に困難になると予想される。

 そして、安全に代替するための安価な特効薬(銀の弾丸)を見つけるのは難しいかもしれない。今日市場に出回っている多くの代替品は、より急性毒性がある。それでも、雑草はグリホサートに対する耐性を発達させているので、より良い選択肢が必要である。

 私たちの見解では、グリホサートの有効性と健康への影響の可能性についての懸念の高まりは、必ずや化学物質による雑草管理の代替解決策の研究を加速させるはずである。これらの取り組みに対するより多くの公的支援がなければ、農民はより有毒な除草剤に目を向けるであろう。グリホサートは今は安く見えるが、実際のコストははるかに高くなる可能性がある。

訳注1
訳注:当会が紹介したグリホサート関連記事の一部 (更なる情報:モンサント関連情報



化学物質問題市民研究会
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