U.S. Right to Know 2020年11月13日
新たな研究が、除草剤グリホサートは
ホルモンをかく乱するという証拠を加える

キャリー・ギラム
情報源:U.S. Right to Know, November 13, 2020
New research adds evidence that
weed killer glyphosate disrupts hormones

By Carey Gillam
https://usrtk.org/pesticides/new-research-adds-evidence-
that-weed-killer-glyphosate-disrupts-hormones/


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年12月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/Int/201113_USRTK_
New_research_adds_evidence_that_weed_killer_glyphosate_disrupts_hormones.html

 新しい研究は、広く使用されている除草剤グリホサートが人間のホルモンをかく乱する可能性があるという懸念に証拠を追加する。

 科学誌ケモスフェア(Chemosphere)に掲載された論文”グリホサートと内分泌かく乱物質の重要な特性:レビュー”で、3人の科学者は、グリホサートは内分泌かく乱化学物質に関連する10 の重要な特性のうち 8つを持っているようだと結論付けた。しかし、著者らは、グリホサートがヒトの内分泌系に及ぼす影響をより明確に理解するには、前向きコホート研究(訳注1)が依然として必要であると警告した。

 著者のジュアン・ムノス、タミイー・ブリーク、グローリア・カラフは、それぞれチリのタラパカ大学に所属しており、彼らの論文は、内分泌かく乱化学物質(EDC)としてのグリホサートに関する機械論的証拠を統合した最初のレビューであると述べた。

 研究者らによると、いくつかの証拠は、モンサントの有名なグリホサートを有効成分とする除草剤ラウンドアップが性ホルモンの生合成(biosynthesis)(訳注2)を変える可能性があることを示唆している。

 EDCは、体のホルモンを模倣またはかく乱する可能性があり、発達および生殖の問題、ならびに脳および免疫系の機能障害に関連している。

 新しい論文は、今年の 8月に発表された、グリホサートへの暴露が生殖器官に影響を与え、生殖能力を脅かすことを示した一連の動物研究に続くものである。

 グリホサートは世界で最も広く使用されている除草剤であり、140か国で販売されている。 1974年にモンサント社によって商業的に導入されたこの化学物質は、ラウンドアップや、世界中の消費者、地方自治体、公益事業、農家、ゴルフコース運営者などが使用する何百もの人気除草剤の有効成分である。

 エモリー大学のロリンズ公衆衛生大学院の教授であるダナ・バーは、証拠が”グリホサートは内分泌かく乱作用を持っていることを圧倒的に示している”と述べた。

 ”グリホサートは他の多くの内分泌かく性の乱農薬と構造的に類似しているため、必ずしも予想外ではないが、グリホサートの使用は他の農薬をはるかに上回っているため、より懸念される”と、国立衛生研究所が資金提供するエモリーにある人間暴露研究センター内のプログラムを指揮するバーは述べている。 ”グリホサートは非常に多くの作物や非常に多くの住宅用途で使用されているため、総暴露量と累積暴露量はかなりの量になるであろう”。

 汚染と健康に関する世界観測所の所長であり、ボストン大学の生物学の教授であるフィル・ランドリガンは、そのレビューはグリホサートが内分泌かく乱物質であるという”強力な証拠”をまとめたと述べた。

 ”このレポートは、グリホサートが健康にさまざまな悪影響を与えることを示す多くの文献と一致している。これは、人間の健康に悪影響を与えることのない良性の化学物質であるとするモンサントのグリホサートの長年の描写を覆すものである”とランドリガンは述べている。

 EDCs は、農薬、工業用溶剤、プラスチック、洗剤、及びその他の物質で一般的に使用されるいくつかの化学物質がホルモンとその受容体の間の接続をかく乱する能力を持つ可能性があることを一連の出版物が示唆した後、1990年代から懸念の対象となっている。

 科学者らは一般に、ホルモン作用を変化させる物質の 10の機能特性を認識しており、これらを内分泌かく乱物質の10の重要な特性(ten "key characteristics"of endocrine-disruptors)(訳注3)と呼んでいる。10の特性は次のとおりである。
  • ホルモンの循環レベルのホルモン分布を変える
  • ホルモン代謝またはクリアランス(訳注:器官の排泄能力の大きさ)の変化を誘発する
  • ホルモン産生細胞またはホルモン応答細胞の運命を変える
  • ホルモン受容体の発現を変える
  • ホルモン受容体に拮抗(antagonize)する
  • ホルモン受容体と相互作用または活性化する
  • ホルモン応答性細胞におけるシグナル伝達の変化
  • ホルモン産生細胞またはホルモン応答性細胞にエピジェネティックな修飾を誘導する
  • ホルモン合成を変える
  • 細胞膜を通過するホルモン輸送を変える
   新しい論文の著者らは、機械論的データのレビュー(a review of the mechanistic data)は、グリホサートが2つを除いて全ての”重要な特性”を満たしていることを示したと述べた。”グリホサートに関して、ホルモン受容体の拮抗能力に関連する証拠はない”と彼らは述べた。同様に、著者らによると、”ホルモン代謝またはクリアランスへの影響の証拠はない”。

 過去数十年にわたる研究は、主にグリホサートとがん、特に非ホジキンリンパ腫(NHL)の間に見られる関連性に焦点を当ててきた。2015年、世界保健機関の国際がん研究機関(IARC)は、グリホサートをヒトの発がん性物質として分類した(訳注:probably carcinogenic to humans (Group 2A))。

 米国では 10万人以上がモンサントを訴え、同社のグリホサートベースの除草剤への暴露が彼らまたは彼らの愛する人に NHLを発症させたと主張している。

 全国的な訴訟の原告はまた、モンサントがその除草剤のリスクを長い間隠してきたと主張している。モンサントは3回の裁判のうち3回敗訴し、ドイツの所有者であるバイエルAGは、訴訟を法廷外で解決するために昨年1年半を費やした。

 新しい論文の著者らは、グリホサートの遍在性に注目し、化学物質の”大量使用”は、食物を介した除草剤の人間の摂取に関連する暴露の増加を含め、”幅広い環境拡散をもたらした”と述べた。

 規制当局は食品に一般的に見られるグリホサート残留物のレベルは十分に低く安全である述べているが、研究者らは、化学物質、特に牛乳、肉、魚製品よりも高レベルであることが多い穀物や他の植物で汚染された食品を消費する人々に対する”潜在的なリスク”を”除外することはできない”と述べた。

 米国政府の文書によると、有機蜂蜜、グラノーラ、クラッカーなど、さまざまな食品からグリホサートの残留物が検出されている。

 カナダ政府の研究者らは、食品中のグリホサート残留物も報告している。アルバータ州農林省にあるカナダの農林研究所の科学者らが 2019年に発行したある報告書では、調査した蜂蜜の 200 サンプルのうち 197サンプルでグリホサートが検出さたことを発見した。

 食事を通じての暴露を含むグリホサートの人の健康への影響に関する懸念にもかかわらず、米国の規制当局はその化学物質は安全であると断固として擁護してきた。環境保護庁は、”グリホサートへの暴露による人の健康へのどのようなリスク”も発見されていないと主張している。


訳注1:前向きコホート研究
訳注2:生合成(biosynthesis)
訳注3:内分泌かく乱化学物質の 10 の重要な特性


化学物質問題市民研究会
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